タクシーよりも安くて便利な ライドシェア って?

アメリカで始まった、UberLyft 等を代表とする「ライドシェアサービス」。”車を持っていて運転ができる人”と”車に乗せてほしい人”とをマッチングする、まさにライドを「シェア」するサービスです。

車を持っていて運転ができる人は、自分の車・空き時間というリソースを活用して収入を得ることができます。車に乗せてほしい人は、他の交通手段が存在しない・あるいは不便な地域や時間帯でも、便利に移動することができます。または、首都圏等であれば、タクシー等の既存の交通手段よりも安い値段で移動できる場合もあります。

こうした両者のニーズに応えたライドシェアは、アメリカをはじめ世界で絶大な人気を誇り、Uberの時価総額は$60B(約7.2兆円)超とも噂されています。

ライドシェア UBER のWebサイト

https://www.uber.com/ja/

Uber 日本上陸も真骨頂である「Uber X」が始まらない日本法律の壁とは。

タクシー配車がメインの日本 Uber

Uberは、2014年8月より日本に上陸し、東京都で本格的にサービスを開始しています。日本を含めて世界58カ国以上の国で展開されており、さらに200万人以上のユーザーに使われています。日本の公道でも目にする機会が増えていますが、本来のUberらしさが発揮されているとは言えません。なぜなら、Uberの真髄である「Uber X」が日本ではまだ始まっていないからです。

現在日本の公道で走っているUberは、Uber専用のタクシー配車をアプリから依頼できる「UberBlack」、一般のタクシー配車をアプリから依頼できる「UberTAXI」、UberTAXIの高級車版である「UberTAXILUX」の3種類です。この3種類に関しては、Uberは適法に許可を保有しているタクシー業者と提携し、提携事業者とユーザーを結ぶ仲介業者として配車アプリを提供しているため、違法性はなく日本国内で事業を展開しています。

「白タク」認定され、始まらない「 Uber X」

Uberの真髄である「Uber X」とは、一般のドライバーがUberに登録してUberドライバーとして承認されることで、自家用車を使って人を運ぶことができるサービスです。アメリカでは登録をするだけでドライバーになれます(審査などは必要)が、日本ではまだ認められていません。

実際に、福岡では同じようなサービス(ドライバーの自家用車を配車)を「みんなのUber」として、2015年2月から試験的に運用していましたが、国土交通省からいわゆる「白タク」に該当する可能性が高いと指導を受け、同年3月にはサービスを中止しています。なぜ「みんなのUber」は、いわゆる「白タク」と認定されてしまったのでしょうか。

そもそも、「白タク」とは?

道路運送法上、「旅客自動車運送事業」を営むには許可の取得が必要とされています。
「旅客自動車運送事業」とは、①他人の需要に応じ、②有償で、③自動車を使用して旅客を運送する事業をいうとされています。典型的な事例がタクシーです。また、許可を取得したタクシー事業者の車(タクシー)以外の自家用自動車は、有償で運送のために使ってはならないとされています。

上記の許可を得ずに、自家用自動車で有償で運送を行う行為が、いわゆる「白タク」として道路運送法上違法とされます。

許可を保有していない一方で、サービスは無償で提供。なぜ違法なのか?

東京でのサービスは許可を保有している提携タクシー事業者の車を配車していたのに対し、「みんなのUber」でのドライバーは許可を保有していなかったことから、問題とされたものです。もっとも、報道によれば、「みんなのUber」を利用するユーザーは無料であり、Uberからドライバーに対して、「データ提供料」として走行時間に応じた対価を支払っていたとのことです。ユーザーは無料でも「有償」(上記②参照)として、「旅客自動車運送事業」の許可が必要なのでしょうか。

「みんなの Uber 」は「有償」?「有償」の解釈と国土交通省の見解

通達によれば、以下のいずれかの場合には「有償」にあたらず、許可は不要とされています。

a.「好意に対する任意の謝礼」と認められる場合
予め運賃表等を定めてそれに基づき支払われる場合には、少額であってもこれにはあたらないとされています。
b.金銭的価値の換算が困難・又は流通性が乏しい物が支払われる場合
具体例は自宅でとれた野菜(地方農家の場合)等とされており、現金はもちろん、商品券・貴金属等の換金性・流通性の高いものはこれにあたらないとされています。
c.(i)当該運送行為が行われる場合にのみ発生する費用であって、(ii)客観的、一義的に金銭的な水準を特定できるものを負担する場合
通常はガソリン代、道路通行料、駐車場料金のみがこれに該当するとされています。人件費、車両償却費、保険料等は、(i)又は(ii)を満たさないため、これにあたらないとされています。

例えばライドシェアサービスの「notteco(のってこ!)」は、ドライバーと相乗り希望者のマッチングプラットホームを提供していますが、上記通達に従い、「有償」にあたらず許可不要とされる範囲内でサービスを行っています。具体的には、ドライバーが相乗り希望者に請求できるのは、実費(ガソリン代、道路通行料、駐車場代)のみとされており、ドライバーが利益を得る目的でライド・シェアを行うことは禁止とされています。

報道によれば、国土交通省の見解として、以下のような点から実質的には「有償」であり、いわゆる「白タク」にあたる可能性が高いと判断したとのことです。

  1. 顧客からドライバーへの報酬支払いはなくても、Uberからドライバーには報酬が支払われている。Uberからであれ、顧客からであれ、実態として何らかの形でドライバーに報酬が支払われる場合にはその運送は「有償」に分類される。
  2. 「無償」といえるためには、実費としてガソリン代など最小限に留められるべき(上記c.参照)。しかし、実際に支払われた金額については週当たり数万円に上る場合もあるとのことだった。月額にするとこれはもはや「職業ドライバー」の水準と変わりない。

かかる国土交通省の行政指導を受け、Uberは「みんなのUber」を2015年3月で中止しています。

上記国土交通省の見解には、違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。利用者の立場からすると、完全無料のサービスであり、友人や家族の車に乗せてもらい送ってもらう感覚で、このサービスを利用してみたいというニーズもあったのではないでしょうか。

ライドシェア サービスのnottecoイメージ画像

http://notteco.jp/

シェアサービスが明らかにした法規制の限界と、安全性を確保しながらの規制緩和への動き。

法規制の限界

現在の日本の法規制の下では、既存の許可を有するタクシー事業者の配車サービス(東京都でのUberのサービス)という形になってしまいますが、これでは冒頭に述べた、本来のライドシェアの発想を実現することはできません。まず、プロのタクシー運転手ではないけれども、自分の車・空き時間というリソースを有効活用したい人のニーズを叶えることはできません。また、車に乗せてほしい人にとっても、タクシー事業者との提携が前提であるため、タクシーがつかまらない地域・時間帯で利用したいというニーズや、タクシーよりも安く利用したいというニーズに答えることは難しいと考えられます。

「利用者の安全確保」という要請

国土交通省の見解や、現在の法規制の趣旨は、規制を及ぼしてユーザーの安全性を確保するという点にあります。その重要性は争いがないところです。もっとも、許可の取得(行政による監視)という既存の方法以外にも、安全確保が可能な方法は存在するように思われます。例えばアメリカの Uber では、Uber による審査や厳しいレーティングシステム等により安全確保を図っています。これが現実に機能しユーザーの信頼を勝ち得ているからこそ、Uberの急成長が実現できたと考えられます。

タクシー運転手の雇用確保等の要請も存在しますが、複数のライドシェア事業者に登録してより効率よく働く等、現在の法規制以外の枠組みでこの要請を実現することもできると考えられます。

規制緩和の動きと将来への期待

かかる現状のライドシェアに関する法規制ですが、規制緩和の動きも始まっています。2015年10月20日の国家戦略特別区域諮問会議で、安倍首相は、「日本を訪れる外国の方々の滞在経験を、より便利で快適なものとしていくため、過疎地等での観 光客の交通手段として、自家用自動車の活用を拡大する。」として、過疎地等における ライドシェア に対する規制緩和についての意欲を見せています。

ユーザーの安全性確保という課題に応えながらも、規制を柔軟化しライドシェア解禁を実現できるか、今後の動きに期待したいところです。