ライドシェアについて語る内閣官房シェアリングエコノミー伝道師 佐別当 隆志(右)
ヨーロッパを中心に普及が進む ライドシェア 。海外旅行の際、現地でサービスを体験した人は口々に、その利便性を評価していますが、なぜか日本においてはいまひとつ認知も普及も進んでいません。また、いわゆる“交通過疎地”と呼ばれ、高齢者の“足”がないという問題を抱えている地域において、ライドシェア がその解決の糸口になるといわれながらも、まだまだ慎重論が蔓延しています。一体、どのような問題があるのでしょうか。前回に引き続き、一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長である佐別当隆志氏に、日本における ライドシェア の現状や課題、そして可能性について語っていただきました。
[ ライドシェア 編 ] シェアリングエコノミー伝道師 佐別当隆志インタビュー
――ライドシェア とはどういうものなのか?基礎的な話から教えてください。
ライドシェア は、個人所有の自家用車を活用して乗客運送業務を行うことを指す言葉ですが、国内では一般的に乗客が呼んで行きたいところに行くというオンデマンドで有償運送する「 Uber 」型とドライバーの目的地に相乗りでコストシェアする「notteco」型に分類されています。この2つの ライドシェア は、同種のサービスと混同されがちですが、実は大きくスタイルが異なっています。「Uber」は登録ドライバーが、あくまで運送業務を行うことを目的として自分の乗用車を活用するのに対し、「notteco」は元々、ドライバー自身に目的地があり、“もしも同じ場所に行きたいという人がいれば、よろしかったら同乗しませんか?”というスタンスのものです。両者とも、空いている自家用車のシートをシェアして活用するという点においては共通していますが、ドライバーの意思が大きく違っています。この ライドシェア の利点は言うまでもなく、圧倒的なコストメリットにあります。基本的にはコストシェアをしているだけなので、利用価格が圧倒的に安い。例えば、東京~大阪間であれば、4~5人同乗で一人2500円程度。一人でタクシーに乗ったら、こんな値段で行けるわけがありませんからね。「Uber」は相乗り型のオンデマンド・ライドシェアとして世界各国に普及していますし、「notteco」型の ライドシェア も、フランス・パリに拠点を置く「BlaBlaCar」という企業が提供するサービスが、今やヨーロッパのインフラになりつつあります。ヨーロッパは陸続きですが、鉄道網が充分とはいえないため、「BlaBlaCar」を積極活用しようと、政府の後押しがあるのですね。「Uber」は、どうしてもタクシーとの軋轢(あつれき)を生みやすいので、正直、嫌がっている国もたくさんありますが、「BlaBlaCar」はむしろ問題解決として支援されているのでしょう。
――日本においては、どちらのタイプの ライドシェア の普及が進んでいるのですか?
日本では、残念ながら「Uber」型も「notteco」型も普及しているとは言い難い状況にあります。それぞれに普及しない理由がありますが、まずこの2種はまったく違うサービスなので、安易に“ ライドシェア ”と一言でくくってはいけないという大前提があります。「Uber」は事業的要素が色濃いのですが、「notteco」は相乗りやヒッチハイクのように、交流を楽しみながら目的地へ同乗するという、互助の精神が根底にあるということを理解してほしいと思っています。「Uber」が普及しない理由はズバリ、法規制によるものです。法律で許可されていないので、サービスそのものが解禁されていない。現在は、京都府の京丹後市と北海道の中頓別町にて交通過疎地対策としての実証実験が行われているくらいなものです。「notteco」型は少しずつ広がってはいますが、ライドシェア 全体のイメージが良くないため足踏みせざるをえない状況です。グレーゾーン扱いされ、保険会社には自賠責以外の保険に加入できないという問題もありますし、もちろん、利用者側の不安もあるのだと思います。やはり、事故が発生したら命に関わりますし、密室で見知らぬ人と二人きりになるのは怖いとかいう心理も働くのでしょう。日本人のマインドとして、知り合いには優しいが知らない人は怖いみたいな(笑)。もちろん、ポジティブな意見もたくさんあります。海外旅行で「Uber」を体験した人などは口々に「なんで日本ではできない?」と不満の声をあげています。料金は安いですし、タクシーが捕まらない場所でも電話やアプリから簡単に呼ぶことはできる。さらにカード登録していれば事前に決済されるから金銭の授受もないなど便利でスマートですしね。またドライバーも利用者のレビューでシビアに評価されるので、ものすごくホスピタリティが高い。安全運転をしないと、もう次に仕事がなくなりますからね、かなり安全に対する意識は高いのですよ。ただし、ライドシェア の場合は日本だけではなく、海外でも難しい問題になっています。世界のどこに行ってもタクシードライバーは多いですから、「Uber」の進出に対する抵抗勢力は多いですね。命を預かる仕事ですから規制する法律も厳しいですし、爆発的に普及していかない大きな障壁があるのは確かです。
――ライドシェア に対するスタンスは?
部分的な解禁が必要だと考えています。日本各地に公共交通機関がほとんどなく、高齢者が買い物をするにも困っているような地域がたくさんありますから、そのような地域では行政の首長が「notteco」の意義を認めてくださって、北海道の天塩町で実証実験がスタートしまします。2017年1月には政府の規制改革会議の場に「notteco」が呼ばれ、サービス内容や安全対策、「Uber」との違いなどを説明しました。その会議の場には、日本の法人ハイヤー・タクシー事業者で構成された業界団体の会長も出席していて、「notteco」に対してはある程度の理解を示してくれてはいるのです。ただ、彼らとしても既存の法律が古いため、タクシーの営業に関する規制緩和を求めているのですね。例えば、タクシー料金を算出するメーターがありますが、あれがかなり高価だったりします。海外ではiPhoneやiPadが活用されている例があるというのに…まったくコストが変わってきますからね。また日本ではタクシーの相乗りも許されていません。業界としても相乗りを解禁することで利用者も増えると見込んでいるので、私たちとしては、そういった既存業界の方々の規制緩和の動きを応援しつつ、「notteco」モデルの解禁を求めています。
――なるほど。対立する両社に対して公平な立場で後押しをしたいというお考えなのですね
ただ対立しているだけでなく、協調や共存をすることが重要だと思っています。シェアリングエコノミー協会では、“イコールフィッティング”といった考えのもとで、両者が同じように競争できる環境を作りたいと考えているのです。一方だけに有利にするのではなく、両者にとって有利な状態を作ろうというスタンスですね。実は、こういった図式は、前回お話しした“民泊”についても同様で、ホテル・旅館業界は家主滞在型の民泊については完全否定していないのです。そもそも提供する価値が違いますからね。民泊をしている家主も365日毎日働きたいわけでないので、ホテル業を営んでいる感覚はないし、そもそも営みたいとも思わない。ですから、例えば鍵の受け渡しであったり清掃であったり、ホテル業が持っているノウハウを提供してもらったり、委託するケースだってありうる話なのです。そうなれば連携もできるし協調もできる。またホテルや旅館も台帳記入義務など、旧態依然とした業法を緩和して、オンライン予約台帳で代替できるなど、時代に合ったかたちで、低コストで管理できるようになっていけばよい。IT化を推進することで、これまで手動で行っていた管理業務の軽減化を進めるとか、それは私たちがお手伝いできる部分でもあるし、ノウハウをシェアして共に成長していけるはずなのですから。
――「notteco」が浸透する未来には、どのような世界が待っているとお考えですか?
「notteco」が浸透していく可能性について、ようやく光が見えてきましたが、この流れが止まらず進んでいけば、先に説明した交通過疎地帯の問題が解決の糸口が見えるのはもちろん、それ以外にもたくさんのメリットが生じるのは間違いありません。例えば、夏季に開催される音楽フェスやイベントの際に発生する交通渋滞の解消にもつながります。一斉に同じ場所に移動しますが、すべての車の空席が埋まっているわけではありません。「notteco」を活用して、同じ目的を持ち、同じ趣味の人たちが集まって、同じ車で移動すれば絶対的な車の数は減りますし、車の中でライブの話で盛り上がったり、友達もできたりして楽しいですよね。しかも、同乗者でコストシェアができるので安価で移動ができます。ライブ・フェスだけではありません。花火大会やスキーシーズンに混雑が予想される行楽地でも同様の渋滞が発生します。実際に、昨年のフジロックフェスティバルや群馬県のみなかみ町の観光協会がスキー場への移動用にと利用促進をするなど、すでに実績がでてきています。昨年の熊本震災では、ボランティアへ行く人たちの渋滞を懸念して交通規制がありましたが、ボランティア同士の相乗りをnottecoが促進するキャンペーンとして、nottecoが車移動時の高速代、ガソリン代を負担し特設サイトを設置しました。東北の震災でお世話になった人が熊本までnottecoで行く事例など生まれています。認知が広がりさえすれば、間違いなく利用者も拡大していくと考えていますが、一方でマッチングを行う「notteco」自体がどのように利益を生み出していくのか、ドライバーがいかにして運転という労力の対価を得ていくのかが課題になっています。現在、「notteco」はマッチング手数料0円で運営していますが、利益を得ると移動サービスを斡旋しているとみなされ、現行の業法による規制対象となってしまいます。またドライバーに対して少し有利なコストシェアを行おうとすると、「 Uber 」モデルとみなされてしまう可能性があります。やはり、既存の法規に当てはめようとすると無理が生じてしまいます。私たちは、これからも規制改革会議の場で主張を続けていくつもりですが、そもそも個人間のシェアは企業をベースにした業法とは違うのだと、ルールを特別に作っていくべきだと方針を示し、主張を続けていきたいですね。
Photo by Niko Lanzuisi