Crowd Realty 代表取締役 Founder&CEO 鬼頭 武嗣氏
これまでにないまったく新たなコンセプトを持った金融サービスを提供するクラウドリアルティに注目が集まっています。P2P型金融という画期的なシステムを構築している張本人である同社代表取締役である鬼頭武嗣氏にロングインタビューを敢行。今回の前編記事では、サービスの特徴や仕組みについて、わかりやすく解説していただきました。
――まずはクラウドリアルティの仕組みをわかりやすく教えてください。
一言でいえば、誰もが自由に資金調達ができる、もしくはそういった資金調達プロジェクトに対して投資ができる、非中央集権型の直接金融のプラットフォームです。直接金融とは、お金を調達したい人と投資したい人同士が、直接結びついて行う金融取引のことを指します。弊社のサービスでは、誰もが資金の出し手にも受け手にもなれるため、この関係性を“Peer”=同等な者同士の取引という意味でP2P、Peer to Peer(ピア・トゥ・ピア)と呼んでいます。
例えば、古いビルをリノベーションしてコワーキングスペースを作りたいと考えたときに、資金はどうしますか?普通だったら、自分でお金を貯めるか、銀行から融資を受けたりするしかありませんが、そう簡単にはいかないですよね。それ以外の選択肢として、不動産の証券化と、クラウドファンディングのような、出資として個人や企業からオンラインで直接お金を集める手法を組み合わせたのが、私たちクラウドリアルティが用意した“仕組み”です。
――正しく理解するために、従来型の不動産投資との違いについてご説明いただけますか?
比較対象となるのは、既存の不動産の証券化手法でしょう。例えば“J-REIT”という不動産投資信託は、投資法人という箱を作ってそこに不動産を持たせ、必要な資金を資本市場から集めてくる仕組みなのですが、そういった従来型の証券化スキームはけっこう重たいのです。設立にもお金がかかりますし、個人でできるようなものではない。私たちはそれをもっと簡素化し、数十万円のレベルで証券化できるような金融商品を用意しました。さらにそこに、オンラインで個人から広く資金を集めるクラウドファンディングの仕組みを組み合わせることで、誰もが低コストで簡単にJ-REITのようなパブリックな証券化手法を利用できるようになり、なおかつそれに対して投資ができるようにしたのです。
人口減少の影響もあってか世の中を見渡すと、空き家や空きビル、空き店舗が増えているのは明らかですよね。再生しようと思ってもお金がなかなかつきにくい、そんな状態が続いていました。J-REITは作るにも資金を集めるにもコストがかかるので、どうしても大きな不動産や都心のSクラスビルばかりに集中してしまいます。結局、ああいった仕組みを使っても、日本全国隅々までお金は行きわたらないのです。そこに課題意識があったので、それを補完できる、あるいは代替できるような新たな金融インフラを作りたいと思っています。
――投資家サイドからすると、どのような魅力が?
J-REITも不動産以外の投資信託もサイズが大きくポートフォリオで運用しているので、どの物件、誰のプロジェクトに投資しているのかが見えづらくなっていて、情報開示はされているものの、どこかリアリティがない。ですから私たちは物件単位であったり、起案者単位で細かくお金が集められるようにして、“手触り感”を実感していただこうと思っているのです。
もちろん、投資である以上、リスクに見合ったリターンに意識が行くのは当然のことですが、この“手触り感”があると、より共感を得たり、“自分事化”しやすくなったりしますよね。例えば、先ほどのコワーキングスペースの例でいえば、投資した後も応援するために自分で使ってみようとか、友達に紹介しようというかたちで、その事業の中身にも自分で関与していこうという意識が強まると思います。このようにプロジェクトに共感して投資した人がどんどん参加して、コミュニティというシステムに飛び込んでくるという世界感を作りたいのです。
――そうなると、投資に対する社会的通念みたいなものが根本から変わってきますね。
これまでは、ものごとを効率化するために、まとめられるものはまとめてスケールメリットを効かせて、コストを下げて利益を出すという考え方が一般的でした。ところが現在では人々の消費行動の多様化が進み、また、テクノロジーの進化によってすぐに誰もが誰かと繋がりやすくなり、個人間での財や労働力の取引も容易になり、そして分散型の仮想通貨も登場するなど、P2Pのやりとりが実体経済の中でどんどん広がっています。
言い換えると、個人を中心に据えた小規模な経済圏が多数生まれてきているのですが、そういった分散型の経済圏では金融機関もスケールメリットを効かせることが難しい時代になっており、非常に大きなパラダイムシフトが起きているのではないかと感じています。
――どのような方々が実際に投資をされているのでしょうか。
従来の不動産投資に比べて若い世代の方からの関心が高いのが特徴です。とはいえ、運用するための資金が必要ですし、さらに時代や世の中の変化を捉える感覚を持ちつつ、多少のITリテラシーも必要ということで、現在は30代~50代の方々がボリュームゾーンになっています。
――運用する資産というのは、かなり大きいのですよね?
不動産投資と聞くと数千万、数億円というイメージを持たれるかと思いますが、私たちは一口あたり5万円~10万円という、誰もが手を出しやすい単位から出資が可能な仕組みにしています。金額の問題もさることながら、結局、不動産投資って、わからないものに投資するからハードルが高くなってしまうのです。従来の中央集権型の投資って、その中央にいる誰かが良し悪しを判断し、投資するかしないかを決める。言うなれば硬直した価値観の中で行われていた投資だったわけですよね。ところが私たちが用意するのは、投資する本人が中身を理解して、リスクがとれるものに対して少しずつお金を出せる仕組みなので、金銭的にも心理的にも、ぐっとハードルが下がると思っています。
――どこから、この発想が生まれたのですか?
元々、米系投資銀行の不動産チームで仕事をしていて、従来型の大型の証券化スキームに対して限界を感じていました。固定費が大きいため大型物件しか扱えませんし、どうしても東京が中心になるから地方の不動産にまで手が届きません。基本的には既存の投資主がいて安定的に収益を分配しなくてはならないというミッションを背負っています。物件の開発やリノベーションからはじめるとなると、分配の原資を生まない空白期間が空いてしまうので、それも許されません。こういった既存の金融スキームでは対応できなかった課題を解決できるような仕事をしたいと思いが発想の原点です。また、私自身、学生時代に建築の勉強をしていて、不動産や金融だけでなく、建築や”まちづくり”の世界の理想も追いかけていましたので、この事業を通してこれらの領域の知見と理想をうまく融合できないだろうかと考えていました。
――新しい仕組みを生み出すと、既存の抵抗勢力みたいなものが現れませんか?
不動産業界、金融業界いずれに対してもうまく共存できると思っていますよ。そもそも、直接金融で不動産の証券化を小ロットで扱っている金融機関は皆無ですから、既存市場の利益を奪っているわけでもありませんし。大手の金融機関が手を出せない空白地帯を私たちが埋めていく感覚でしょうか。既存プレーヤーと補完・協調しながら進めていくことができるビジネスだと思っています。
――海外プロジェクト第一弾として「エストニア不動産担保ローン」を手掛けられましたが、商品の概要を教えてください。
個人や中小企業が資金調達に苦労している状況は日本に限ったことではありません。リーマンショック後に各国の金融機関が自己資本規制を受けている中、エストニアにおいても、資金が調達できずに困っている不動産デベロッパーが数多く存在しています。彼らが手掛ける不動産の開発資金に充てるために、日本でお金を集めて出資するというプロジェクトです。
――なぜエストニアだったのですか?
様々な理由があります。まずエストニアは個人が個人に貸し付けるP2Pレンディングや投資型クラウドファンディングが行いやすい法規制となっている点があげられます。さらに、IT先進国でインフラが整っているため、日本からオンラインで会社を設立したり、納税がしやすい国でもあります。また法人税率が低く、再投資に関しては0%。しかも長期の信用格付けは日本よりも上位にありますし、通貨がユーロだったりと、欧州の拠点として考えるには、十分な条件が揃っていると感じました。
――状況はいかがですか?
2016年の12月に募集をスタートし、年明けから運用を開始しました。非常に順調に運用が進んでいて、現時点では目標とする利回りも実現できる見込みです。この低金利時代にあって、これだけの利回りが見込めるということで、投資家の期待が集まっていますよね。海外のプロジェクトに関しては為替リスクはあるものの、先ほどご説明したように、米系投資銀行に在籍していたので、グローバルスタンダードに即して作成したルールに従い、投資案件はかなり厳選して取り組んでいますし、しかも不動産担保がついているわけですから、比較的リスクも限定されたプロジェクトになっているかと思います。
――投資家の方々から期待を集めている要因は利回りだけではなさそうですね。
現物不動産を扱うプロジェクトに関しては中身がしっかりと見えている、透明性が評価されていますね。最近は、日本でも投信やFX、ソーシャルレンディングなど様々な金融商品が登場していますが、トラブルや事件が少なからず起こっているため、中身が見えないものに対する恐怖感があるのでしょう。私たちは、比較的開示が充実していて信頼性の高い公募REITの世界観をベースに、中身をガラス張りで見えるようにした商品を提供しようとしているので、そこを評価してくれる投資家が集まっているイメージです。
――投資家のプロファイルは?
これはエストニアの案件に限ったことではないのですが、現時点ではバリバリの不動産投資家や機関投資家ではありませんね。基本的には個人投資家中心で、投機的なイメージではなく、投資したビジネスの中身に対して楽しみながら、理解しながら育てていくというスタンスを持つ方も多いように感じています。これって株式投資と一緒ですよね。株式での資金調達というのは、基本的には会社が成長するためのお金を得る事を目的としていますから、ちゃんと資金調達の原点に立ち戻ったような感覚です。ゼロサムのマネーゲームじゃないんですよね、本来は。市場の活性化や流動性の供給という意味では、投機マネーを否定するつもりはありませんが、原点を忘れてはいけないとは思いますね。お金を投資して株価チャート見ながら上がったら売るという投機的な関わり方とは違った、中身を見て育てて、応援して成長をみんなで”シェア”するという体験価値を求める方をどんどん増やしていきたいですね。
(インタビュー後編へと続く)
Photo by Niko Lanzuisi