7月2日から5日の4日間、一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長の佐別当隆志氏をはじめとする関係者一行が、中国を訪問。同国のシェアサービス最前線を視察しました。今や“シェアリングエコノミー大国”と認識される中国におけるサービスの浸透度はどのようになっているのか。佐別当氏にたっぷり語っていただきました。

――まずは、今回の視察の目的や経緯からお聞かせください。

中国は、市場規模、サービスの種類、国民浸透度、政府の理解やサポートの手厚さなど、あらゆる要素において最先端を走る、“シェアリングエコノミー大国”として認識されています。

今回シェアリングエコノミー協会として訪問できたということで、様々な恩恵を受けることになりました。ひとつは、現地のコーディネートをシェアサイクルの最大手であるOFO社にお願いできたこと。同じくtujia(途家)という民泊の最大手企業にも案内していただけたので、そもそも普通にドアノックしてもアプローチできないような企業や関係者を訪問ができたのは大きかったですね。

また、シェアリングエコノミー協会のグローバルネットワークを活用して、中国政府関係者経由でアポイントをとることができたり、一般人ではなかなか接点を持てないような要人とお会いすることができるなど貴重な体験が多く、非常に有意義な視察となりました。

――印象は?

まずひとつ、シェアリングエコノミーの位置づけが日本とはまったく違うというのを、改めて目の当たりにしたということ。日本では、いまだに「安心・安全はどうなのか?」「法律との整合性は?」といった議論で止まっていて、“シェアエコは危ないもの”“トラブルを起こすもの”といったネガティブなイメージが国民の間に染みついています。

ところが中国では、どこに行っても、「シェアリングサービスは安全だ」「質が高い」「シェアエコの普及によって社会全体が良くなっている」という話しか聞かず、完全にポジティブインパクトでしかないのですね。それは経営者や政府関係者だけでなく、一般の方々の印象も同じでした。

――なぜ、そこまでポジティブに受け入れられているのでしょう?

これは日本の良いところでもあり、課題でもあり、はたまた中国の課題でもあったりするかと思うのですが、そもそも中国の企業が提供するサービスの質が低かったという前提があると思うのですね。

例えばタクシーも、“どこに連れて行かれるかわからない”とか、“メーターを動かしてくれないなど”の問題があり、飲食店もお皿が汚かったり、どんな油を使われてるか不安など衛生面に問題がありました。中国を訪れる外国人観光客だけでなく、国民自体がそれらの企業が提供するサービスに不信感を抱いていました。

それがITテクノロジーによって、まず現金を使用しない決済が登場し、あっという間に普及。その背景には偽札の蔓延や、銀行口座やクレジットカードが持てないという問題がありました。そこで改ざんできない信頼できるモバイル決済が登場し、続いてレビューや決済に紐付く信用スコアなどで相互監視されているシェアサービスが拡充。“嘘がつけない仕組み”をテクノロジーが担保してくれるようになったのです。そして「シェアサービスの方が安全・安心だよね」というイメージがあっという間に国民の間に広がって根付いていきました。

――このシェアサービスの普及のトリガーとして、政策が先だったのか、それとも市民からのボトムアップが先だったのか、どちらでしょう?

これも、実際に訪問して衝撃を受けました。中国の法律の作り方が、日本とは大きく違っているのですね。日本はあらゆるリスクをチェックし、様々な立場の利害調整をして法律を作らないと新しいことは始められないですが、向こうはまず、やらせてみるんです。ちょっとアメリカ型に近いですかね。例えば、中国には現状、民泊に関する法律がないのですね。だから、自由にできるので当然のことながら、ものすごく浸透している。ミールシェアも年間450万食と既存の旅館業や食品衛生法に当てはめずに新たなサービスはまず広がって問題がおきないか、規制する必要があるのかないのか様子をみます。

日本はどうしても黒か白かを決めたがり、既存の業法に当てはめようと考えます。中国では、全然考え方が違っていて、ライドシェアも民泊もミールシェアも、まったく新しい第三のモノであって、従来のタクシーや宿泊施設、飲食店とは別物だととらえるのです。

白でも黒でもない。むしろ既存の業種に当てはめるのに無理があるので、まずはやらせてみて、広がっていく過程で問題が浮き彫りになってはじめて法律をつくるという順番になっています。

――そうなると、プラットフォーマー(サービスを提供する事業者)もやりやすいですよね。新しいサービスが登場しやすい環境にありますね。

そうですね。現在、もっとも市場が大きくなっているのはお金のシェアです。日本のようなクラウドファンディングではなく、個人間のお金の貸し借りなんですね。当然、あれだけ人口が大きい国ですから、それに伴ってマーケットも大きく、急成長しています。広がった背景は元々、銀行の融資は高金利で、中小には貸し出さないし、そのため闇金融が暗躍していました。闇金や銀行の問題解決として、個人が個人や企業に貸し出すかたちでどんどんお金のシェアサービスの方に借り手が移っている状況になっています。これによって、自分で事業を興す人が増えるという好循環も生まれています。

――シェアリングエコノミーが中国の経済をクリーンにしていったイメージですね。

そうですね。私は10年ぶりに北京を訪れたのですが、ものすごく街は綺麗になっていましたし、人々のマナーも飛躍的に向上していました。対応してくれる方々のホスピタリティも高く、もしかした日本の方が他者に冷たく、ホスピタリティが低いのでは?と思えるような場面も多々ありました。

あとはスピードとスケールが圧倒的に違う。中国のシェアリングエコノミー企業などは創業して、わずか1~2年で数十億、数百億を調達するような状態にあります。そんな会社がシェアリングエコノミーだけで何十社もあるのですから驚きですよね。とにかく成長が早い。

ベンチャーキャピタルも成長産業だとわかると、その企業を応援することで社会が変わっていくという意識が働くみたいですね。それは政府も同じです。ライドシェアの成長過程においてタクシー会社とのトラブルも生じたようですが、そこですぐにライドシェア新法を作って合法化。ライドシェア業者には一定の規制のもとでタクシーと競争できる整備をすることで解決を図りました。それもたった半年で法律を作ったというのだから驚きです。それでも遅いと政府関係者は話してました。

(後編へ続く)