NPO法人Earthcube Japanの代表理事を務める中村さんは、街全体を宿とみなしたゲストハウスを全国に広めた、ゲストハウスやツーリズムのコンセプトメーカー。これまで小さな空家を使った古民家活用の経済普及効果は5億円を超える。現在は、ゲストハウスのホストを向けセミナー「ゲストハウス開業合宿」の運営や、災害時におけるゲストハウスの活用団体「日本ゲストハウス協力隊」などの活動を行っている。そんな中村さんが考える日本のゲストハウスの未来について話を伺った。

__中村さんがゲストハウスづくりをはじめたきっかけとは?

前職は携帯関連の会社を経営していました。働きっぱなしで稼ぎもわりとあったんですが、子どもや家族との時間も全然とれず、これでいいのかなと。2011年の東日本大震災をきっかけに「このままじゃダメだ!」と奮起して、元々旅が好きだったこともあり、“人と人が交流できる地域まるごと宿”があったらいいなと思って、ゲストハウスの仕事をするようになりました。ゲストハウスを通して、素敵な暮らしをしている人を垣間見たり、出会えるのが僕にとっての魅力なんだと思いますね。

__具体的にどんな仕事をしているんですか?

最初は、使われていなかった空き家を活用して、3年間で52ヵ国、120000人が訪れる拠点をつくったりしました。今はそうした経験を生かして、「ゲストハウス開業合宿」を行って、ゲストハウスを開きたい人に向けたセミナーを行っています。これまでセミナーの参加者は250名、うち100名はゲストハウスを開業しています。

__ゲストハウス開業合宿にはどんな方が参加されますか?

行政や街づくりに関わる仕事の方もいますが、純粋に脱サラして「こんな宿を作ってみたい!」という未経験の人も多いです。そういった熱い思いのある未経験の人の方が、開業率が高かったりするんですよ。

__ゲストハウスを手掛ける上で心掛けていることは?

一番大事にしているのは、“人の愛情と魅力が詰まった宿”。僕が合宿で参加者によく言うのが、「子どもたちが楽しく遊べて、家族みんなで温かいかい食卓を囲めるような宿」。それを体感できるゲストハウスを目指す事により、ゲストハウスと街が一体になった“街全体を宿とみなしたおもてなし”ができるんだと思うんです。どこかにあるようなビジネス重視の宿では10年はもちません。
そのためには、好きなことを仕事にすればいい。ニーズは後からついてくるんです。だから、僕の合宿ではそのゲストハウスは「10,000時間考えてワクワクする仕事かどうか」を考えてもらっています。
ある参加者で筋トレが趣味な方がいて、「筋トレができるゲストハウス」を思いついたところ、長野県の小諸市(標高が高いのでトレーニングに最適だった)が一緒になって市の政策として取り入れてくれるようになったという例もありました。今は開業に向けて動いているそうで楽しみです。

__一番のやりがいは何ですか?

開業した宿のお子さんに僕はよく話を聞くのですが、先日も5才の男の子に将来の夢を聞いたら「お父さんの仕事をしたい」って言ったんです。5才の子に「お父さんの仕事が楽しそう。やってみたい」って伝わることってすごく素敵じゃないですか。親は自分の仕事を「素敵でしょ、働くって楽しいよ」って子どもに見せることはこれからの親がすべき責任もひとつであると思っています。こうした“ていねいな暮らし”を感じるゲストハウスが増えることで、幸せな家庭の食卓の質が上がり、会話が豊かになり、将来働くことに意欲的な子どもたちが増えたら嬉しいですよね。

__日本のゲストハウスの未来をどうみていますか?

僕の記憶によると、ゲストハウスをやろうと決意した2011年は、インターネットで検索しても全国にゲストハウスは10件もなかった。それが、2017年に800件、2018年には1200件くらいに増えていて。ニーズがあるのはいいことなんだけど、ブームになりすぎると廃れるのも早いから心配しています。本来、ゲストハウスは“迎賓館”や“集会所”という意味があるそう。業界全体が長続きするためには、この本来の意味に立ちかえって、昔から続いているペンションのような、質の高い地域に根差した宿が増えていくことが理想ですね。世間には民泊とかゲストルームと言う言葉があふれかえっているので、たとえばワンランク上の「ダイアログ ハウス」(人や自然と対話する宿)という言葉を作って、宿文化のネクストステージとして広めていきたいですね。

__中村さんが思う「ダイアログ ハウス」とは?

私が提案したいダイアログハウスとは、“家族範囲のしあわせな食卓を体感できる宿”。地域の住民とも交流ができ、自分の暮らしに取り入れたくなるような暮らしが魅力になると思っています。このダイアログハウスは、量が増えることよりも、交流など住民の満足度を重視した質の高いクオリティが大切だと思っています。
例えば、私が知っている宿でいうなら、山形県の西置賜郡にある「くらしnoie蔟(mabushi)」https://www.facebook.com/kurasinoiemabushi/、秋田県の横手市にあるゲストハウス&発酵バル「CAMOSHIBA」http://camosiba.com/stay/index.html、などがそう。どれも、高いクオリティはもちろんですが、地域の住民が一体となっておもしろがっているダイアログハウスな宿です。

__今後挑戦してみたいことは?

7月に起きた西日本大水害で、私たちは志を同じくするゲストハウスの仲間同士を呼びかけ合って、二日目には支援団体「日本ゲストハウス協力隊」を作って、ボランティアの方が安心して滞在できる宿を無料で提供しました。今後は、災害で宿が壊れたときにも仲間どうしで助け合って直していけたらいいなと思いますし、そのためにも47都道府県に同じ思いを持ったゲストハウスができたらいいですね。災害時にゲストハウスができる可能性は、まだまだたくさん秘めていると思います。未来をよりよくする力がゲストハウスにはあると信じています。

__これからゲストハウスをはじめて見ようという人にアドバイスを!

自分なりの“ていねいな暮らし”を考えて、そこから自分がワクワクする宿をぜひ実現させてください。その宿によって幸せになる人が増えていったら、日本はもっとよくなるはずです。ゲストハウスの成功のカギは女性にあります。女性が泊まりたいと思う宿、身近な女性が働きたいと思う宿をイメージするといいと思いますよ。