本記事は、多久市役所 商工観光課 商工観光係長であり、内閣官房シェアリングエコノミー伝道師でもある石上涼子さんにご協力いただき、編集させていただきました。
シェアリングエコノミーを推進している多久市の取り組みについて詳しく解説して頂いてますので、シェアリングエコノミーを推進したい自治体の方は、ぜひご一読ください。

はじめに

佐賀県多久市は、人口2万人を切り、高齢化率33%を超える過疎地です。人口減少と少子高齢化により、町のにぎわいや活気が減ってきています。
市内唯一の観光資源は、1708年に創建された「多久聖廟(孔子廟)」です。創建当時から春と秋に、「釈菜(せきさい)」と呼ばれる孔子とその弟子たちを祀るお祭りを行い、地域の方に大変親しまれています。
その多久市で、総務省の地方創生加速化交付金事業として「ローカルシェアリング事業」に取り組んだことで、地域の課題解決にシェアリングエコノミーを導入している「シェアリングシティ」として認定をうけることになり、この多久市が注目を集めることになりました。
多久市が取り組んだことについて、少しでもお役立ていただければ幸いです。

地方創生加速化交付金

区画整理が進む多久駅前の市有地に、コンテナハウスを建て町のにぎわいを作りたいという当時の商工観光課長の意見があり、多久市単独予算で建築することは難しいため、なにかの補助金がないかと探しているときに、地方創生加速化交付金の活用を進める特定非営利活動法人価値創造プラットフォーム石崎方規氏との出会いがありました。彼の団体は、当時できたばかりのシェアリングエコノミー協会(以下シェアエコ協会)に属し、これから全国的に展開されるシェアリングエコノミー(共有経済)の活用を佐賀県で広めたいと考えていました。
この地方創生加速化交付金を受けるためには、ハード事業とソフト事業の両輪から地方創生事業に取り組む必要があり、ハード事業は、駅前のコンテナハウスを建築することとし、ソフト事業は、彼の団体が推薦するローカルシェアリング事業を展開することと多久市にはなかったチャレンジショップ事業で申請を行いました。当時、バタバタと庁内での協議を行い申請しましたが、実際、シェアリングエコノミーについてしっかりと理解しているのは、誰もいなかったかもしれません。

動き出したローカルシェアリング事業

平成28年度になり、ローカルシェアリング事業を行う事業者を公募し、特定非営利活動法人価値創造プラットフォームに決定し、多久市で行うローカルシェアリング事業が動き出しました。
まずは、ディレクターと呼ばれる在宅ワーカーを統括する役割を持つ人材の発掘が必要でした。これには、多久市観光協会に臨時職員として勤務していたやる気満々の山﨑雄太氏が適任でした。彼は、これから広がるシェアリング事業に関心があり、東京での研修を経て、メインのディレクターとして多久市のローカルシェアリング事業を展開していくことになりました(現在、彼は独立し、学びのシェアの会社manaviewを立ち上げています。)

ワーカー育成

仕事をしたくても長時間の勤務が難しい方、育児や介護で自宅を離れることができない方を対象にした無料の研修を開催することになりました。多久市内で開催されるイベントでビラ配りをしたり、知り合いに参加を依頼したりして募集しました。行政も連携していたことで安心感もあったようで、参加希望者が多かったので、面接を行い、20名での研修会がスタートしました。
研修は、託児も準備していたため、子育て中の方に口コミで広がりました。また、リタイヤされたばかりのシニア層の参加もあり、和気あいあいと楽しい雰囲気の研修となりました。多久市民だけに限定していなかったので、多久市外からの受講者もありました。
当初計画になかったのですが、好評だったため、2期生も募集することになり、合計37人が受講しました。このうち、ワーカー契約を行った方は、22名となりました。

涙の卒業式と私の転機

2月17日に、クラウドワークスと内閣官房シェアリングエコノミー推進室のセミナーと同時に2期生の卒業式が開催されました。私も参加し、どのような思いでこの研修を受けられたのか受講者に尋ねました。そこでは、自分のスキルを活かしてみたい、インターネットでの仕事に興味があったからなど、多くの意見を聞くことができましたが、なにより、今回習得したスキルを活かし、新たなステージにステップアップしていく期待感と、今回の出会いに感謝されていることが伝わってきて、担当職員として、グッとくるものがあり、また同席していた先輩1期生たちも一緒に涙・涙の卒業式となりました。
この卒業式に同席されていた内閣官房シェアエコ推進室の岩坪慶哲氏も、シェアエコが地方の課題解決につながる糸口として多久市の取り組みを広報していただくきっかけになりました。彼のおかげで、私の転機となる愛知県の地域問題研究所での講演に推薦いただいたり、内閣官房シェアリングエコノミー伝道師にも推薦していただいたりしました。今年度からは、地域情報化アドバイザーとしての活動にもつながっています。

シェアリングエコノミーセミナーの実施

研修と同時に、市民向けに、様々な分野のシェアリングエコノミーについて学ぶセミナーも実施されました。全国で実際に活躍されているシェアエコの取り組みについて学ぶことができました。
この中で、9月20日に開催されたセミナーでは、「ココナラ」と「アズママ」の代表取締役自らが多久市においでいただき、さらに市長への表敬訪問もしていただきました。その場で、シェアリングエコノミー協会の理事でもあるお二人から、「シェアリングシティ宣言」についての勧誘があり、IT関係に詳しく教育ICTにも熱心な横尾市長は、軽く「やりましょう~」の返事で、シェアリングシティ宣言を行う運びとなりました。