本業のほかに第二のキャリアも持つ「 パラレルキャリア 」。シェアリングサービスを活用して パラレルキャリア をする方も増え、注目が集まる新しい働き方です。パラレルキャリア研究所代表の高村エリナさんが、複数回にわたり パラレルキャリア について解説します。
今注目の「 パラレルキャリア 」とは
-複数の軸足を持つ「パラレルキャリア」
「パラレルキャリア」とは、複数の軸足を持って働く新しいライフスタイルです。複数の仕事に携わる、本業以外の社会的活動に参画するなど、一つの組織の中にとどまらない働き方であるパラレルキャリアを実践する方も増えています。
-ドラッカーが提唱した概念
「パラレルキャリア」という概念をを最初に提唱したのは、経営学者のピーター・ドラッカーです。ドラッカーは著作『明日を支配するもの』で、人間の寿命が組織の寿命より長くなった現代においては、個人が一つの組織に時間・労力などのリソースを集中させるのではなく、組織の外で「第二のキャリア」を構築する必要があると説きました。
パラレルキャリア 普及の背景とは
-企業の寿命は縮み、人の寿命は伸びている
ドラッカーが『明日を支配するもの』でパラレルキャリアを提唱した1999年の日本では、パラレルキャリアがムーブメントになる兆しはありませんでした。日本においてはまだまだ終身雇用制度への信頼感が根強かったこともあり、当事者意識を持ちにくい人が多かったと考えられます。
しかし、この20年で「自分より組織の方が短命である」という事態は決して他人事ではなくなりつつあります。東京商工リサーチの調査によると、2019年の倒産企業の平均寿命は23.7年であり、新卒から定年までの約40年間より10数年も短くなっています。厚生年金の制度発足当時の受給開始年齢は55歳、1999年時点では60歳だったことを考えると、65歳まで延長された現在は「働く現役世代」でいなければいけない年数は伸びています。
-厚生労働省も副業解禁を主導
パラレルキャリアへの注目度が高まる一方、多くの企業では副業が禁止されているのが実情でした。しかし、2018年に厚生労働省が「モデル就業規則」の中から「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。」という文言を削除し、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を作成したことを契機に、副業を解禁する企業が増えつつあります。
いわゆる「 副業 」だけにとどまらない、パラレルキャリア の種類
-会社員の副業・兼業が、日本でも徐々にメジャーに
会社に所属しながら社外でも「副業・兼業」をしてお金を稼ぐパラレルキャリアワーカーが、日本でも増え始めています。数年前までは表立って副業をしにくい環境にいる会社員が多く、名前を隠して副業・兼業をするケースが目立っていた印象ですが、モデル就業規則の変更を機に、氏名や会社名を公表して副業・兼業に取り組む会社員は増えつつあります。会社員が副業・兼業をするモチベーションは、「収入」「スキルアップ」「自己実現」など人によってさまざまです。
-報酬のない「プロボノ」も人気
「プロボノ」とは、社会人が職能を活かして行うボランティア活動のことです。通常のボランティアに比べて、自身が培ってきたスキルや得意分野を活かす点に特徴があります。基本的に報酬が発生しないので、副業・兼業が禁止されている企業の会社員でも参加できます。さらに、報酬目的の活動だと、営業活動やプロモーションが必要だったり、スキルや実績の豊富さを問われるところ、プロボノは報酬がないために未経験者でも飛び込みやすいと言えます。
– 副業・兼業、プロボノ以外のパラレルキャリアもある
パラレルキャリアの文脈では「副業・兼業」と「プロボノ」が注目されがちですが、ほかにもさまざまなパターンがあります。例えば、社内やグループ会社内で複数の部署に所属する社内複業・グループ内複業や、自社に籍は残しながら社内で子会社を立ち上げるといったパラレルキャリアも存在します。また、複数の軸足を持つ経営者やフリーランスの中にも、自身の働き方をパラレルキャリアと捉えている方もいます。
本人が、自律的なキャリアの構築を目指し複数の軸足を持っていれば、雇用形態や報酬の有無を問わず「パラレルキャリア」の範疇に入ると考えてよいでしょう。
パラレルキャリアのメリット は、個人にも会社にもある
-個人が自律的にキャリア形成できるチャンスが増える
パラレルキャリアのメリットとしてまず挙げられるのが、自律的なキャリア形成です。特に会社員の場合、異動の希望を出しても通らないケースも多く、社内だけで希望するスキルや経験のをすべて得られる方のほうが稀でしょう。パラレルキャリアをすることで、一社では獲得しきれないスキルや経験、人脈などの無形資産を手に入れながら、主体的にキャリアを選ぶことを目指せます。さらに、有償の仕事をする場合は、所得増加という有形資産の獲得も可能です。
-副業解禁によって、会社側にもメリットがある
企業の視点でも、自社の社員が社外で活動をすることにより、社内では得られない知識・スキルを獲得して成長するというメリットがあります。通常、費用をかけた研修で人材育成をするところを、投資をせずに社員のスキルアップを目指せます。さらに、パラレルキャリアが徐々に一般的になる中で、副業・兼業を禁止すると社外でのスキルアップや収入アップを希望する優秀な人材が離職するリスクもあります。企業が社員に対してパラレルキャリアを推奨することで、優秀な人材の獲得・流出の防止ができ、競争力が向上するメリットもあります。
パラレルキャリア は発展途上の概念
-パラレルキャリアの定義に悩んだら?
パラレルキャリアの定義に悩む方は多く、私にも「自分の活動はパラレルキャリアに当てはまるのか」という質問が頻繁に寄せられます。その質問に回答するとしたら「複数のキャリアを持っていて、自身がパラレルキャリアだと感じるならパラレルキャリアと呼んでいい」と考えています。
パラレルキャリア自体がいま急速に普及しはじめ実態も変化しやすい概念なので、それぞれの立場によって捉え方に違いが生まれるのは自然なことです。例えば、厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」は会社員が社外で営利活動をすることを中心に想定していますし、非営利団体ならプロボノを中心にパラレルキャリアが語られがちです。ご自身がキャリアをパラレルキャリアだと捉えていても、馴染みがない方に説明をするときは「副業」の方が伝わりやすいかもしれません。
-「パラレルキャリア」「複業」「副業」の違い
パラレルキャリア、複業、副業など似た言葉がたくさんあり、混乱している方もいるでしょう。
「パラレルキャリア」と「複業」は、「複数のキャリア・仕事を持つ」という意味でほぼ同義だと捉えていますが、「業」という言葉は反復継続的に行う営利事業を連想しやすいため、プロボノなど非営利の活動を含めたい時は「複業」より「パラレルキャリア」の方が適しているかもしれません。また、「複業」と同音異義語の「副業」は「本業に対するサブ」というニュアンスが出るため、複数のキャリアをフラットに捉えている人ほど「副業」より「パラレルキャリア」「複業」と呼称する傾向にあります。
まとめ
パラレルキャリアは、実践する個人・導入する企業が急速に増えつつある、これからの時代のスタンダードになり得る働き方です。
不確定な時代だからこそ、複数の強みや収入源を持つパラレルキャリアが個人の生存戦略として有効だと考えられます。
さらに、コロナウイルスによる経済の混乱で「会社任せのキャリアだけでは怖い」「キャリアを主体的に形成したい」と考える個人が増えさらにパラレルキャリア市場が盛り上がると予想できます。これまでテレワークが不可能だと考えられていた職種・業種でも急速にテレワークが普及して、オンラインをベースにビジネスをするハードルが下がったと感じる個人も増加していると考えられます。
ドラッカーが提唱してから20年の時を経て、 パラレルキャリア は見通しの立たないこれからの時代を生き抜くための有効な手段の一つとして、目が離せないライフスタイルです。