副業が解禁になった都市部の大手企業で働く社員たちは、「どんな副業をすればいいのか分からない」という問題に直面しているという。そこに目をつけたのが、㈱groovesが2017年に立ち上げたサービス「SkillShift(https://www.skill-shift.com/)」だ。これは地方の中小企業と都市部で働きながら高いスキルを持つ人材をつなげるオープンプラットホームだという。SkillShift事業部の鈴木さんに詳しく話を伺った。
__なぜ、SkillShiftを作ろうと思ったのですか?
私たちは人材紹介のビジネスをしている会社なのですが、人口流出が続く地方では、特に中小企業において人材確保がいよいよ厳しくなってきたと実感していました。それに加え、昨今都市部で解禁となってきた副業。これをつなげることで、地方の中小企業の悩みを解決していけるのではないかと。さらに、例えば自分の地元や趣味で訪れる地域で、自分の持つスキルを使って社会貢献できたら面白いよね、というコンセプトでSkillShiftを立ち上げました。
__具体的にどのようなサービスか教えてください。
地方の中小企業で一番困っているのが企画職です。でも新たに人を雇うお金はない。そこで例えば、「自社で新たな商品企画を考えてくれる人を募集します。月額5万円。交通費は別途支給」という募集をSkillShiftで出すと、我こそはという副業者が応募し、その中から条件に合う人を1名企業が自身で選んでいくというものです。働き方としては、1~2か月に1度面会して、週に1~2度のオンラインミーティングというのが多いですね。
僕は転職(就職)って結婚に似ていると思っていて。一般的には結婚に至るまでにお付き合いして、相手を知って、家族を知って、一緒に住んだりして決断するわけですよね。転職だって双方のお試し期間がないと安心できないと思うんです。だから、入り口は副業という形でふわっとしていて、お互いじっくり時間をかけて内容を詰めていけばいいと思っています。
__SkillShiftを作る上で特にこだわったポイントは何ですか?
「募集内容を細かく打ち出さないこと」「意識高い系のサービスにしないこと」ですかね。
例えば「会計をやってほしい」とか「HPを作ってほしい」とか専門的な分野の仕事を固定予算で探したいなら、外注サービスでできますよね。さらに、利用者の目的が「SkillShiftを使って人生がこんなに大きく変わりました!」というキラキラしたのも違う。僕らが目指したのは、たとえば「今自分たちの会社に何が足りないかわからないけど、それが何か一緒に提案してくれる人が欲しい」というふわっとした募集に対して「地元で困ってる企業がある!帰省がてら仕事がちょっと手伝えたらいいかも」というような“緩い”きっかけです。長く続けるためには、双方の日常を崩さないレべルで知的好奇心を満たしてくれる身近なサービスにしたいと思っているんです。
__サービスを立ち上げてみて何か気づいたことはありますか?
これは開始するまでは想像していなかった面白い現象なんですが、価格が3~5万円程度のものは応募が殺到するのに対し、15万など高額の仕事にはあまり人が来ないんです。皆さん副業なので15万と言われると「ちょっとコミットできるか難しい案件かも」と不安になったり、「そんなにもらうのは申し訳ない」と躊躇してしまうようなんです。日本人特有かもしれませんけどね。僕が思うに、副業がこれまでのお金目的から、社会に貢献したいというボランティア精神だったり、先ほど申し上げたような知的好奇心を満たしたいという欲求に変わってきているのではないでしょうか。
__実際にどんな企業が利用していますか?
北は北海道、南は九州まで現在130社さんほど。掲載すると数日間で決まってしまうことが多いので、案外掲載期間は短いんです。農業、製造業、サービス業、IT系と職種は本当にさまざまです。募集内容として多いのは、IT戦略、新商品開発、販売促進、ブランディングなど0から1を生み出す企画職ですね。いろんな可能性があるので、募集案件を見ているだけでワクワクしてきますよ。
__SkillShiftを利用した企業の感想を教えてください。
「あっという間に売り上げが倍増した」とか目に見える効果を示しにくい部分がありますが、皆さん言ってくださるのが「現場の課題が高速に改善されていくのを感じる」ということ。高いお金を出して、外部のコンサルタントに依頼していた中小企業さんがおっしゃっていたのが「これまでお願いしていたところは他社の事例ばかりで具体的にどう動けばいいかのアドバイスがなかった。でもSkillShiftで来てくれた方は、すごく具体的なアドバイスをくれるので今日から実践できることばかりなんです」と。利用者も自分のスキルをどう生かすかを含め、その企業を外から見るのではなく自分ごととして考えられるのがこのサービスの強みかなと思います。
ただ、地方ではまだ副業という概念が浸透していないので、都市部から働きたいという副業ユーザーはかなり多いのに対し、中小企業の掲載数が足りていないのが現状なんです。今は掲載料もいただいていないので、僕たちは地方の企業さんに「とにかくまずは使ってみてください」というところから説明しないといけなくて。そこが課題ではありますね。
__スキルを提供する個人はどんな方が多いですか?
多くの利用者は30~40代の都市部企業で働くキャリア層。彼らの目的は大きく2つあって、1つは「自身のキャリアアップ」、2つ目は「日々の仕事や生活にちょっとした刺激が欲しい」というもの。どちらも今の仕事を辞めたり移住してまで…とするとハードルが上がってしまいますが、副業としてであれば軽い気持ちでできますからね。実際に超一流の副業OKなIT系企業で働く管理職の方も多いんですよ。
鹿児島にある㈱オキスさん。鹿児島の食材を海外に展開する仕事をサポートしてくれる方大募集という5万円の案件に募集が殺到し、現在7名の方が都市部と鹿児島を往復しスキルを提供しているという。
__今後の目標などありましたら教えてください。
地方の自治体や行政とももっと関わりを深めながら、企業数を増やして仕事を分配していくこと。まずは全国すべての市町村求人を掲載したいですね。この“地方企業×都市部人材のオープンプラットホーム”という世界観を大切にしながら、都市から発信できる副業以外の新たなビジネスにつなげられたらと思っています。
1月31日に発表された銚子市「市内企業の副業人材活用」プロジェクトもその一つ。全国の自治体関係者・地域金融から注目を集めつつある。