「このボードは一枚板で出来ていて、この写真は僕が撮ったゴメラ島って言ってね…」インタビューを始めようとするやいなや、自身が持ってきたスケートボードについての説明を始めた。インタビュー相手は、写真家のMick Parkさん。Parkさんは写真家として活躍する一方で、ストリートアカデミーというウェブサービスでカメラを教えている。

ストリートアカデミーとは、スキルを持った人がそのスキルに興味のある人へ講座を開いて教えることができる、スキルやナレッジのシェアサービスである。ビジネスやITスキルだけでなく、やってみたいものの初心者がどう学んでいいか分からないような趣味まで、幅広いジャンルの講座が揃っている。

だが、大手カメラ会社もスポンサーに付いているというParkさんが、どうしてこのサービスでカメラを教えているのだろうか。

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ただただカメラが好き。だから、初心者こそマニュアルで教える。

――ストリートアカデミーではどのような人にカメラを教えているんですか?

Park:ストリートアカデミーでは、カメラを持っていない人向けに写真を教えています。フィルム時代から「NATURA」っていうカメラを持ってるんだけど、実はそれの開発からずっと関わっていたんだよ。色みを変えたり、カメラの形を考えたり。

僕はただただカメラが好きなんだ。もちろんカメラは全部持ってるから、ストリートアカデミーでカメラを教えるときは自分が持っているカメラを生徒さんに貸してる。1番のポイントは、カメラを持っていなくて触ったこともない生徒さんでも最初からマニュアルで教えること。

そうすると、どうしてこの写真はこうなるのかというカメラの仕組みが原理的に分かってくる。オートで教えてしまうと分からない部分が多すぎて、とにかくいっぱい撮ってみてその中からいい1枚を選びましょう、という1番良くない状態になってしまうんだよね。僕の場合は、できるだけ少ない枚数のなかでいい写真を撮るのが正解だという教え方をしている。

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例えばモデル撮影の場合、僕が狂ったように何十枚も写真を撮っていたら時間がかかるのでモデルさんの集中力を削いでしまうことにもなりかねないじゃない。でも本当にいい写真は数少ない枚数の撮影で、モデルさんが「え、もう撮らないの?」と思うくらいの瞬間に撮れるものだから、モデルさんを焦らした結果いい写真が撮れるなんてこともあるくらい。

――写真を取る際、どのようなこだわりがありますか?

Park:僕の撮り方は、モデルさんに対してポーズを指定したりすることはしない。できるだけ自然にしてもらうことを心がけているかな。その代わり、撮影前に今日の撮影のコンセプトやカットなど趣旨や概要を細かく伝えるようにしているよ。その上でモデルさんをできるだけ自由にさせてあげると、彼らの個性を最大限に活かしたものが撮れるんだ。

もし僕が最初から「そこで笑って」と伝えてしまったら、モデル自身が持っていたアイディアをブロックしてしまうことになるからね。自分の力量を把握しつつ相手の状態を細かく観察して、カメラを向けた瞬間に起こる化学変化を逃さずに撮るのが写真家なんだよ。押し付けはダメ。

カメラっていまは綺麗に映るのが当たり前の時代だから、多くの人はカメラに写真を撮るということだけに満足してしまっている気がする。でも本来は、人間の感情や心情など人の深い部分が映し出されなきゃいけないと思っている。だから僕は撮影の前日には「明日はどんな風に撮ろうかな」と具体的に想像しながら寝るから、寝付きが良くなくて寝不足で現場に行ってるんだよ(笑)。

現場でどうこうしようとするんじゃなくて、当日どんなことが起こっても柔軟に対応できるように前日までに徹底した準備をすることこそが、良い撮影に必要なコト。その方が自分が表現したいものが撮れるし、少しだけ安心できるんだ。

初心者に教えることを通じて変化した自己の内面

――そもそも、ストリートアカデミーを知ったきっかけはなんだったのでしょうか?

Park:友人に教えてもらって知ったんだけど、ストリートレベルで誰でも先生になれたり誰でも生徒として学べたりっていう一連の仕組みが素晴らしいと思った。

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変な話、正直自分はいままでかっこつけてたのよ。イメージ的に少し格好いいポジションに置かれている事が多くて、実際そんなことないのに、いつの間にか自分は格好いいんだという錯覚に陥っていた。だから最初にストリートアカデミーを見つけた時「こんな安価で…?」って思ってしまったし、最初はこんなことして意味があるのかなって正直少し思ってた。

でも実際に教えていると、生徒に教えているつもりが、実は生徒から僕が教わっていることのほうが多いことに気付いたんだよね。

――というと?

Park:今まで自分が信じていたことが、初心者の生徒さんを通じて根本的に間違っていたことだと気付いたり、自分は広い世界を知っているつもりがすごく狭い世界しか見ていなかったことに気付いたり。

当時写真家としては自信があったから、生意気だけど世界を見下ろしている気分だった。でも、教えるという行為を通じで今まで見ることのできなかった世界を見て、心の幅がぐんと広がったし知識も増えてきて楽しくなってきたんだよ。ストリートアカデミーで感じた楽しさは、本業の仕事にもいい影響があると思うね。

良い写真に、カメラの良し悪しは関係ない。

――ストリートアカデミーを知って、実際に教える側として使ってみようと思ったのはどうしてですか?

Park:ストリートアカデミーのコンセプトに共感したから。他の講座は屋内でするものがほとんどだけど、僕は寒くても全部屋外。何故かと言うと、僕は写真を撮るときは暑い時でも寒い時でも外だから。それにちゃんと耐えうる人を募集しているね。

できればカメラを持っていないようなカメラ超初心者に教えたいんだ。一番重要なのはファーストインプレッションだから、良いカメラを渡して良い考え方を伝えることで、生徒のその後のカメラ人生がうまくいくと思っているよ。

――生徒さんからはどんな感想がありましたか?

Park:初心者コースの人には、マニュアルのカメラを使って最初は人間の構造から教えている。実査に自分たちの目を使って被写体深度を体験してもらって、それを通じてピントの調節方法を教えたり、人間は夜になると光を多く取り入れようとまばたきの回数が減って瞳が大きくなるけど、それはシャッタスピードを調節する時と同じ原理で…って説明したりとかね。

そうすると「被写体深度」や「シャッタスピード」というカメラの専門用語・ロジックとしてしか頭に入らなかった言葉が、人間の身体で理解できるから身につくのが早くなる。だから生徒からは「すごく分かりやすかったです」という感想を多くもらっているよ。嬉しいね。

――マニュアルで構造からきちんと教えていくことによって、本来のカメラを初心者にしっかり理解してもらう。それが、しいてはカメラ文化の向上に繋がると。

Park:そうだね。最初からオーセンティックなカメラや技術に触れている人が増えれば増えるほど、カメラ文化・写真文化の向上に繋がると思っている。

写真に対する価値観のレベルが低いと、写真家が撮った写真すら良いか悪いか分からない。本当に細かいレベルでいうと、良い写真とは色味でも影でも何でもいいから「なんかいいね」と心に響くものじゃなければだめ。見ている人の心に何らかの衝撃を与えられるものを、僕は写真だと思っているからね。

別にiphoneで撮った写真でもいいんだよ。撮る人の気持ちが撮れていることが大事だからね。その人の気持ちが撮られる側とシンクロしていれば、iphoneでも写真家が使う高級なカメラでも同じ写真が撮れる。でも、スマートフォンのカメラは気軽に撮れるから枚数を多く撮りがちだよね。そうなると気持ちが分散されてしまって、良い写真が撮りづらくなってしまうのはあまり良くないと思うかな。

昔はフィルムが高かったから写真1枚の重さがあったけど、いまは軽くなってしまっている。だから良い写真は、カメラの問題じゃないんだ。見る人にもそれはしっかり伝わるから、何枚も撮った写真の中の最高の1枚でも軽く見られてしまうことが多いんだよ。僕にとって写真と人の気持ちは一緒だから、そういうことを初心者にもしっかり伝えようという想いで、ストリートアカデミーで教えているんだ。

この記事の登場人物
  • Mick Park
    写真家。カルフォルニアでデザインと彫刻を学んで帰国後、モリハナエのもとでファッションカメラマンとして活躍。
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