今、世界中で増えつつあるシェアリングシティ。シェアリングシティとは、人口が密集し、インフラが整っている都市部において、シェアを通じて暮らしを豊かにしていこうという考え方です。空間やモノに限りがある都市部だからこそ、場所や、乗り物、モノや人、お金などをみんなでシェアすることは、より便利でより豊かな暮らしに繋がると考えられています。では、実際にシェアリングシティに暮らす人たちはどんなことを感じているのでしょうか?

今回は、代表的なシェアリングシティである、ソウル・サンフランシスコ・アムステルダムに暮らす人たちに取材を行い、そこで聞こえきてたリアルな声をご紹介していきます。

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世界のシェアリングシティ事情は? 現地からリアルな声を掲載

−ソウル在住者の声

政府主導型のシェアリングシティであり、政府が積極的にインフラ整備や、スタートアップ企業への出資を行っている韓国・ソウル。モノ、空間、スキル、など様々な分野のシェアリングエコノミーが年々拡大傾向にあるが、在住者にはどの程度浸透しているのでしょうか?

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「シェアリングシティという言葉自体はあまり聞き慣れてないですが、実際にカーシェアは日本より発達しています。車借りたいとなったらアプリでポチッとするだけで、すぐ近くで車借りられます。カカオトークでカカオタクシーも主流ですね。ゲストハウスやシェアオフィスも多いです。あとはベンチャー系の企業が、観光や街づくり、文化を伝える為にサービスを提供する企業へ政府が投資するようなところも日本より発達しているように感じます。」

にしおんにさん/女性/34歳/会社員/在住4年

「シェアリングシティ最先端という認識はないし、そこまでサービスが充実してるとは思えないかな・・・。カーシェアよりも、レンタカーを使う。けど、レンタサイクルはよく見かけるし、ゲストハウスも多くある。ソウルはいつ行っても人で溢れかえっているから、そういったシェアサービスが浸透してもっと住みやすい街になればいいと思う。あと、韓国人は食事をシェアするのが普通で、母親が大量に作って友達みんなにご馳走したり、お菓子を買ったらシェアしたり、分け合うことへの抵抗がないから、浸透しやすいのかも。」

Dasoleさん/女性/22歳/大学生/ソウル在住・韓国人

「ソウル市や区、マンションなどが運営している『おもちゃ図書館』というものをよく利用しています。おもちゃの値段にもよりますが、市で運営しているものは無料で、マンションは100〜300円くらいで、1週間から3週間ほど借りられます。日本では衛生面の点であまり受け入れられないかもしれませんね。またソウルの繁華街ではレンタサイクルも普及していて、観光客と在住者の利用割合は大体6:4くらいだと思います。ソウルはすごく観光に力を入れていて、観光客も多いですしね。以前住んでいたソウル市のローカルエリアでは、区民だけが使えるレンタサイクルもありました。身分証を出せば9〜17時まで使えて、主婦が借りて買い物もいけますし、土日は親子で借りて川沿いで遊んだりしています。日本でも自転車は普及していると思うので、会社などにレンタサイクルがあれば仕事で外出する時に利用できて便利だと思いますよ。」

ソウルいるかさん/女性/主婦/ソウル在住10年
ブログ『ソウルなう☆韓国生活ブログNew

−アムステルダム在住者の声

非政府機関が中心となってシェアリングシティの街づくりに取り組んでいる都市・アムステルダム。世界初Airbnbに適用する規制を作った都市でもあり、シェアリングエコノミーに対して非常に高い理解を示している都市といえます。

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「日本に比べて、シェアリングサービスがかなり浸透していると思います。留学やインターンシップで自分の家を長期間空ける時は、Facebookで募集をかけて見知らぬ人に家を貸したりしているのも見受けられます。 Uberは1人で使うのではなく、軽い移動の時にいつも友人と乗っていました。バーに行って深夜帰りが遅くなった時があったんですが、女の子たちはUberを使って帰宅していましたね。アムステルダムでは、タクシーを使ったらぼったくられてしまったという話を聞くこともあります。そういった面で、Uberはいくらからいくらまで、と金額設定が決まっているし、清算は後日クレジットカードで行われるから安心なんです。 ただ、運転手登録するのに手続きが必要とはいえ、その手続きは簡易的なものなので、100%の安全を求める用心なひとが多い日本では浸透しないと思います。個人的な意見ですが、シェアリングサービスは国を選ぶサービスだと思うので、治安のいい先進国なら、それなりに広まっていくんじゃないかなあ。」

さとけんさん/男性/24歳/会社員/アムステルダム在住2年

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「アムステルダムは何よりも自転車の利用者がとても多くて、道路と別に自転車専用レーンがあって、自動車よりも自転車が優先されています。そういう安全性もあってか、レンタサイクルは街中でよく見かけますね。ローカルの人たちは自分の自転車を使っているので、観光客が主に使っているイメージです。ロッテルダムやユトレヒトとかから訪れたオランダ人とかもよく利用してるようです。」

Rinaさん/女性/29歳/会社員/アムステルダム在住3ヶ月

—サンフランシスコ在住者の声

サンフランシスコでは、通勤バスをシェアするライドシェアやUberやLyftのようなオンデマンド配車サービスが特に広く受け入れられている都市。公共の交通機関だけでの移動では不便と感じられる土地柄、現地ではどのように影響しているのでしょうか?

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「サンフランシスコで生まれたサービスということもあり、移動にはUberとLyftを使うのが普通。最近は経路沿いで同じ方向へ行こうとしてる人同士をマッチングしてくれて、2〜3人で車をシェアできるUberPOOLをよく利用します。あと、Chariotという14人乗りの通勤バンのシェアリングサービスもあります。朝は郊外から都心へ、夜は都心から郊外へと、ビジネスマンの通勤の流れに沿って動いていて、ルートはクラウドファンディングで決まるんです。また、レンタサイクルは、ステーション間を乗り降りできるものがあって、年間88ドルで利用できます。この街は停めておくだけで自転車が盗まれることが多いので、所有するよりレンタサイクルを利用した方がいいと思います。サンフランシスコの人たちは、新しいものを積極的に受け入れる独特の雰囲気があって、住んでいる人たちがシェアリングサービスを楽しんでいる空気がありますね。シェアリングは他人とするものなので、その距離感は日本の国民性的になかなか難しいと思いますが、日本でももっと新しいものを取り入れて、気軽に利用できるようになればいいなと思います。」

三浦茜さん/女性/ベンチャーキャピタル勤務/サンフランシスコ在住2年
ブログ『Be Magnetic!

「やはり、UberやLyftはよく利用しますね。ベイエリアでは公共の交通機関もあるのですが、電車やバスが頻繁にこなかったり、タクシーがつかまりにくいことが多々あります。そういう時に、長すぎない距離であればUberやLyftを使っています。良い点は、なかなかバスや電車、タクシーがつかまらない時でも、場所を指定して自分のいるところから目的地まですぐに行けるところです。もはや一番利用している移動手段の一つと言っても過言ではないと思います。ただ、最近は利用者が増えサーチャージ料がとられ以前よりも料金が高くなり、朝や夜などよく利用される時間帯には料金が1.5倍や2倍になることも。また、渋滞がひどいときは、UberやLyftの待ち時間が長くなってしまうこともありますね。日本では公共の交通機関やタクシーが十分に普及しているので、ここほど利用されるかはわかりませんが、タクシーを探さなくてもすぐにアプリで呼べるUberやLyftがあると便利だと思います。」

3kkiさん/女性/IT企業勤務/サンフランシスコ在住3年
ブログ『My Life In The Bay Area

(Share! Share! Share! 編集部調べ)

日本にシェアリングシティは生まれるのか? 各都市の現状から見る日本の可能性。

世界の都市に目を向けてきましたが、どの都市でも「移動」に関するシェアリングエコノミーは広く受け入れられているようです。確かに、移動手段、交通費といった問題は多くの人にとって生活に密着している問題。解決するためのシェアリングエコノミーが受け入れられるのはとても頷けます。また、ソウルやアムステルダムでは、シェアリングエコノミーのサービスが観光にも生かされているという声も。ローカルな人たちだけでなく、観光客にとっても便利なサービスとして定着しているようですね。

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日本でも、シェアリングエコノミーを受け入れるための規制緩和やルール整備を進める動きが活発化してきています。とはいえ、日本ではシェアリングエコノミーの普及は難しいのではないかという声が聞かれるのも事実。というのも、世界中の国々の人々に比べると、日本人は「シャイ」といわれることが多く、良くも悪くも人と人の間に距離を置きがちなのが特徴です。そのため、見知らぬ人と何かを分かち合うことに対して抵抗を持つ傾向にあるという指摘もあり、シェアリングエコノミーに関しても日本での普及は難しいとの声も上がっているのです。

2020年のオリンピック開催に向け、東京都の大田区では「民泊」を認める条例を全国で初めて施行されましたが、この行政の判断にも、賛成している人ばかりではないのが日本の現実です。実際に、「隣の家を知らない人が使うと思うと少し心配」という声などを聞くと、日本人にとって、「民泊」の制度を受け入れるのは困難なことでもあるのかもしれないと感じてしまうこともあります。とはいえ、民泊の形が日本で広まれば、空き家などのシェアも可能になり、宿泊施設の不足を補い、地域活性化を促す効果も期待できるのも事実。世界中の例を見てみてもデメリットばかりではないはずです。

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住宅問題だけでなく、シェアリングシティの取り組みを進めることで、現状の日本が抱えている多くの問題を解決できる可能性は広まります。例えば、奈良県の生駒市は自治体初として、子育てシェアサービス「AsMama」と連携し、子どもの送迎や託児の共助環境作りなどの取り組みを開始。地域全体が助け合える先進的事例として注目が集まっています。待機児童の問題など、子育て・教育に関しては今日本で早急に解決が望まれる課題。教育にまつわる暗いニュースも多く、気が滅入っているママやパパも少なくはないはずです。そんな人たちにとって、子育てシェアが広まることで、物質的・金銭的にはもちろん、精神的にも手助けしていくことが可能になるのではないかと考えられます。

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正直なところ、文化的な背景や習慣の影響もあり、世界の国々と比較すると、シェアリングシティの取り組みを進めるには、まだまだ困難も多いであろう日本。そんな日本でシェアリングシティの取り組みを進めるためには、何よりも法の規定や、ルール整備など、様々な点をクリアにしていく必要があり、現状の日本では世界の国々と比較しても、ルール整備の面ではまだまだケア不足と感じる点も多々あります。

“シェア”という概念は世界中で広まっているものであり、もはや、私たち日本人も無視はできない考え方になりつつあります。実際に、日本の社会問題を解決する一つの手段にもなり得る“シェア”。ネガティブな面ばかりを強調するのではなく、前向きに取り入れていく姿勢が求められているのではないでしょうか?結果的にその姿勢が私たちの暮らしをより良いものにしてくれるはず。私たちも手と手を取り合い、意識を変えていくことが求められているのかもしれません。