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2016年1月29日に「特区民泊」の申請受付を開始し、日本における民泊の先進地域として注目を集めている大田区。16年には区の全面協力のもと制作されたTVドラマ『拝啓、民泊様。』も放送されるなど、行政によってシェアリングエコノミーが導入されているこの地域は、日本におけるシェアリング・シティの先進モデルのひとつと言えるのではないでしょうか。

今回は「特区民泊」導入から約1年となる節目に、松原忠義区長にインタビューを行ない、1年を振り返ってのお話はもちろんのこと、大田区ならではのまちづくりについて区長が考える理念や、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた都市計画、その中でシェアサービスが果たす役割や可能性についてお話しいただきました。

「特区民泊」導入1年を迎えて。大田区長・松原忠義さんインタビュー

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――大田区が2016年1月29日に「特区民泊」の申請受付を開始して、ちょうど約1年が経過しています。区長は現在の利用状況についてどのように感じておられますか?

大田区の「特区民泊」は、31施設111居室、定員が398名(2017年2月20日現在)にまで広がってきています。私どもとしては順調にきたと感じているところですね。

――そもそも、大田区が「特区民泊」に乗り出したのは何故だったのでしょうか。

「特区民泊」の導入前、大田区では訪日外国人の増加などにより、ホテルや旅館の稼働率が90%を超えていました。これはほぼパンク状態です。また、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けてはさらに訪日外国人の方が増えるはずですから、「これは何とかしなければいけない」ということでこちらから名乗りを上げたという形です。とはいえ、日本で初めての試みでしたから、やはり最初は大変でした。当時は国の見解もまとまりきっていない部分もあったのです。ただ、大田区としては「ぶれずに着実に行こう」ということを考えていました。そこで最優先したのが、「安全・安心」ですね。泊まりに来る方には「日本の民泊は安全だ」と思っていただくことが大切ですし、迎え入れる方にとっても「安全・安心である」ということに重点を置きました。

――なるほど。昨今は違法な民泊サービスも一部では問題になっていますよね。

ですから、「今ならまだそういったものを整理できるだろう」と思い踏み切った部分もありました。そして結果的には、やってよかったと思っていますね。まずは、当初ルールづくりを始めたのですが、大田区としては条例として3つの骨組みを作りました。ひとつは「6泊7日以上の利用に限る」ということ。訪日する外国の方々の42%が一週間以上滞在をしていることに加えて、既存・新規の事業者も含めた大田区全体の宿泊環境の充実という、総合的な観点を踏まえ決定したものでした。もうひとつは、「問題が起こったときに立ち入りができる仕組み」をつくること。そして最後は、「住民の方々への説明」ですね。大田区の特区民泊は、従来のホテルや旅館が営業できる範囲で行なっています。「安全・安心」を徹底したことによって、1年経ってみて大きなトラブルは発生していないので、まずはその部分がよかったですね。海外の方にとっても、その安全性はひとつの売りになると思うのです。事業者の方へ丁寧に説明することや連絡体制等の協定に関しても時間をかけ、ご理解いただきました。

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▲認定第1号物件「SJヴィラ蒲田 A」
築65年の空家がフルリノベーションされ、日本らしい造りが魅力の人気物件。
(画像提供:とまれる株式会社)

――スタート以降、新たに気付いた特区民泊の「利点」や「課題」もあるのではないでしょうか?

そうですね。まず、我々の想定とは異なる利用法が生まれたという驚きがありました。我々が特区民泊をはじめたときに想定していたのはあくまで「訪日外国人」の方々でしたが、実際に利用状況を見てみると、海外の方と日本の方がちょうど半々ぐらいだったのです。つまり、想定以上に様々な方が利用していたということです。訪日外国人の方はファミリーを大事にするので、近所のスーパーに行って宿泊施設で料理を作るという民泊ならではのスタイルが非常に喜ばれています。しかし、その他にも日本のビジネスマンの方の利用や、在外邦人の方の利用もあります。海外に移住して、一時日本に帰ってきたときの滞在の場として利用しているわけです。それから、面白かったのは、就職活動に利用されていたということです。地方の学生の方が就職活動で東京を訪れて、特区民泊を使って長期滞在をしています。

――興味深いですね。

他にも、たとえば受験シーズンに活用することもできます。このように、実際にスタートさせてみて、思わぬ可能性が広がってきているという形です。一方で、課題というのは、実は今のところそう無いのですよ。慎重に推し進めてきたのがよかったのだと思います。また実際の現場では、カギの受け渡しや本人確認等の業務を近隣のホテル・旅館業者の方々にやっていただくことで、既存・新規事業者の双方がウィンウィンの関係になっているところもあります。

「東京の縮図」大田区ならではの魅力と地域力で実現する多文化共生

――特区民泊ではすでにある建物を利用することも多いと思いますが、そうすると区内の様々な施設や地域自体の特徴を見つめ直す機会にもなるかもしれません。

たとえば、大田区は銭湯が非常に多いので、特区民泊で宿泊された方には銭湯手ぶらセットを渡して、地域のお風呂屋さんに行っていただければと考えてサービスを始めています。大田区は、地域に愛着のある方が多いので、みなさんで協力できることを積極的にやっていきたいですね。大田区では「地域力」と言っているのですが、地域のみなさんを横に繋げていくことを大切にしています。たとえば、保護司さんの協力を得て、犯罪を犯した方の立ち直りを促し、その結果犯罪をなくしていこうという「社会を明るくする運動」など地域力を活用し、地域の方々と連携しながら安全・安心なまちづくりを進めています。大田区の人口は71万人で、島根県や鳥取県よりも多いのですが、そこで18特別出張所のエリアに分かれて、「18色のまちづくり」を進めています。大田区の場合、例えば羽田と田園調布とでは、地域の魅力もいろいろ異なってくるわけです。

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――大田区は「東京の縮図」と言えそうなほどエリアによって特色が大きく違いますね。

まさにそうですね。臨海部や羽田空港があり、お風呂屋さんも多いですし、町工場や商店街は23区の中で一番多い。それに加えて田園調布のような高級住宅街も、蒲田のような飲食街もあります。ですから、そのすべてを同じルールにあてはめることはできないのです。地域ごとに合う方法を選ばなければいけません。ですから、大田区では逆に「各地域のみなさんのいいところを出してもらおう」と各地域で楽しめるようなイベントも行っています。

――羽田空港の存在は大田区を語るうえで欠かせませんが、実際の地域・住民視点では、どのようなことが起こっているのでしょうか?

大田区は平成22年に羽田空港が32年ぶりに国際化したのと同時に「国際都市おおた」をさらに推進しています。大田区の外国人居住者の方の割合は3%程度ですが、もともと人口が多いので、外国人数としては国内でも有数です。そこで「多文化共生推進センター」を設置して、外国の方が相談したり、日本人と交流できる場も作っています。また、大田区在住等の海外の方にお願いをして「国際都市おおた大使(来~る大田区大使)」というものを設けていて、累計で70人ほどが大使になられています。そうした方々が地域のイベントにも出ていって、みなさんで交流しているのです。これは、普段から交流を進めていないと、なかなかできないことですよね。このように色々な壁を払拭していくことができればと思い進めていることです。

――「多文化共生」を大事にされている地域だからこそ伺いたいのですが、民泊以外のシェアサービスについても様々な可能性を感じられる部分はありますでしょうか?

大田区はものづくりの街ですから、ワイワイと事業者の方々が交流できるようなスペースも設けています。これもひとつのシェアですね。公の施設や空間を利用して、みなさんがふれあえる場所を作るということです。また、民間でシェアサービスをされている方ともうまく調整して、官と民とが連携していきたいという気持ちも、すごくあるのです。もともと、大田区では日本工学院専門学校の生徒さんに区のポスターを書いてもらったり、下町ボブスレーの模型を作ってもらったりと、地域の方々に様々な協力をしてもらっています。もちろん、シェアサービス導入の際にはルールづくりも必要ですが、あまり枠にはめてしまうとそれに縛られてしまうので、柔軟な運営ができるものを考えたいとは思っています。さらに大田区には「地域力応援基金助成事業」という制度があり、地域団体の公益的な活動をサポートする助成金制度も用意しています。助成事業の原資としているこの基金自体も、区民や事業者の方からの寄付を積み立てているものなので、つまり官と民とで共に新しい芽を育てていくということですね。

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2020年に向けた羽田空港跡地開発。大田区が目指す官民連携の新しいまちづくりとは?

――2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されますが、羽田空港を擁する大田区は今後どんなヴィジョンをお持ちですか?

羽田空港は日本の玄関口で、乗降客数は世界で5番目、サービスのよさは世界で1番の空港です。そこで、この人の流れを大田区の各地域に持ってこようと考えています。「空港」と「蒲田」と「大森」と「臨海部」を結びつけていくということですね。その4点を結ぶとちょうど四角くなりますから「スクエアなまちづくり」でしょうか。陸・海・空の交通結節拠点を強化するとともに、JR線・東急線が乗り入れる蒲田駅と京急蒲田を結ぶ新空港線の取り組みを進めるなど、東京オリンピック・パラリンピックを契機にまちづくりを加速化させていきます。
区の内陸部で世田谷区との境目近くに位置する洗足池には、日本初となる「(仮称)勝海舟記念館」を作ろうと準備しています。また天空橋駅のまわりは、空港の沖合展開・再拡張事業の結果として「羽田空港跡地第1ゾーン」という場所ですが、その中の5.9ヘクタールについては、現在、整備・運営事業者を募集しているところです。ここは例えるなら、「平成の長崎の出島」のような空間にしようと思っています。日本の地方は人口減少が著しいと言われますが、日本の優れた技術や商品など日本の魅力を各地から持って来て、海外の方と直接取り引きしていただければ、地方創生のひとつにもなると思ったのです。

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――なるほど。大田区だけの話ではないということですね。空の玄関口を持つ大田区だからこそ、海外の観光客と日本各地の方々のハブになれると言いますか。

そうですね。とはいえ、大田区に住んでいる人々が元気に、楽しそうに毎日を送っていなければ、海外の方も地方の方も、大田区に集まりたいとは思わないでしょう。ですから、活気のある、住民の方々が楽しく毎日を送れるようなまちづくりをしたいですね。街はまさに我々(大田区に住んでいるすべての人々)が作るものですから。そのためには健康も大事ですから、東京オリンピック・パラリンピックに向けて「新スポーツ健康ゾーン」の整備を進め、現在は常設のビーチバレーボール場やサッカー場を作っているところです。また、これは震災対策でもあるのですが、羽田空港から連なる4つの水門をなくして、徒歩や自転車で通行できるようにする予定です。大田区はコミュニティサイクルも実施するので、そうすると様々なことが繋がってくると思います。また、大田区のお土産100選を作ろうということで、これも東京オリンピックに向けて進めています。空港の待ち時間を利用してもらうために、3時間程度で回ることができる観光・飲食店のガイドも用意しています。コスプレの発祥の地が大田区だという話もあって、駅前や大田区の区民イベントでコスプレ大会も開催するなど、様々な形でこの地域の魅力を掘り下げているところですね。

――これから大田区をどんな都市にしていきたいと考えておられますか?

平たく言うと、「住んでよかった」という街です。大田区は現在区民の定住意向が83.7%ということで、多くの人に満足していただいているようです。ですから、今後もそれをさらに上げていく、ということなのだと思います。また、日本人だけでなく、外国人の方にとってもそういう場所になってほしいですね。今は特に世界情勢が不安定ですから、そういうときこそ「民間外交」「民間レベルで海外の人たちと仲よくなる」ということが大切だと思うのです。

――それを実現するツールのひとつとして、民泊やその他シェアサービスの活用もあるということなのですね。

そうです。シェアサービスは、これからの時代にとても有効なものだと思います。大田区には空き家が6万戸以上あり、区は空家を活用するための事業を実施しているのですが、高齢者のシェアハウスなど、公益性があるものはこの事業の対象になります。また、今の時代はひとり暮らしが増えていますね。これは東京の他の区でも変わらない傾向ですが、大田区でも区民の51%がひとり暮らしです。様々なことが細分化されている時代であり、高齢の方だけでなく、若い独身の方も非常に増えています。ですから、新しく引っ越してきた人や、高齢の方が、地域の活動に入れないような状況が生まれやすい。そこで「地域力」が大切だと思うのです。大田区では妊娠が分かってからの相談窓口なども充実させています。また、引っ越してきたばかりの人も活用しやすい育児相談窓口も設けています。そういったことも、すべてシェアだと思うのです。ただ部屋を分けるというだけではなくて、様々な形の「シェア」があるということですね。

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過疎化が進む地方都市だけでなく、今後少子高齢化が進むと、都心部でも社会生活を機能させる様々な繋がりがより見えにくくなっていくかもしれません。その際、社会のネットワークの代わりとして様々な人々を繋げるハブになるということも、シェアリングエコノミーが持つ可能性のひとつと言えるはず。官と民の連携を大切に地域の繋がりを創出していく大田区のシェアリングエコノミーの活用法は、その理想的な形のひとつかもしれません。

Photo by Kayo Sekiguchi

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