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2020年の東京オリンピック/パラリンピックに向けて渋谷駅周辺で複数の大規模な開発が進み、今まさに大きく姿を変える渋谷エリア。日本屈指の情報・カルチャーの発信地として知られるこの街は、過去にも全国に広がりゆく政策やライフスタイル、都市デザインを発明するなど、都市の未来を決定付けるアイデアを多数生み出してきました。

そんな渋谷区において、広告会社での勤務を経て区議会議員に当選し、2015年から区長に就任した長谷部渋谷区長は、いわゆる「同性パートナーシップ条例」に基づく「パートナーシップ証明書」を日本で初めて交付するなど、“Diversity(多様性)”をテーマに新たな渋谷の都市計画を進める中心人物。今回は長谷部区長に、渋谷の都市づくりにおけるシェアサービスの現状や可能性、そして区長が考える渋谷の未来図を聞きました。

渋谷は“最先端の田舎暮らし”ができる街!? 渋谷区長・長谷部健さんにインタビュー

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――長谷部区長は渋谷区のご出身で、現在は区長を務めるなど様々な角度から「渋谷」という街を見てきたと思います。その中で感じた渋谷の特徴とはどんなものなのでしょうか。

一言で言うのは難しいですが、多様な価値観が集まっている街だと思います。渋谷区というと渋谷駅周辺を中心に考えがちですが、山手線で言うと恵比寿から新宿の『バスタ新宿』(新宿高速バスターミナル)の辺りまでは渋谷区なので、実は新宿の高島屋も渋谷区ですし、笹塚が西の端で、広尾や恵比寿が南の端、中心に代々木公園と明治神宮があります。情報や流行の発信地でもあって、自分自身生まれ育ってきた中で、ずっと周りから「いいな」と言われてきました。これはとても嬉しいことで、自分が持っているシティプライドの根幹かもしれません。渋谷には、この街で生まれた人だけでなく、この街で働いている人や引っ越してくる人、起業する人も含めて、僕のような人が多いと思うんですよ。つまり、シティプライドを持っている人が多い街なのだと思います。

――渋谷区観光協会の金山淳吾さんにお話をうかがった際には、「この街の人々や、人々が作り出す文化こそが渋谷の観光資源だと気付いた」と話されていました。

つまり、渋谷はずっと変化しているのだと思います。たとえば表参道のけやき並木は、もともと参道であるからこそ周りの建物が変化しても成り立って、人が集まってくる側面もありますが、同時に変化することを恐れていないですよね。渋谷駅周辺の再開発もひとつとして同じ建物はなく、建築家がそれぞれ違っていたりする。そうやっていろんな価値観が交わって成り立つというのは、渋谷という場所の特性のひとつだと思います。

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――そうした渋谷の街において、シェアリングエコノミーが果たしている役割については、どのように感じていらっしゃいますか?

渋谷では様々なサービスが利用されている実感がありますし、根付いている印象ですね。都会的なエコとして、「シェア」という考え方は非常に大きいですし、渋谷にはそういうものが必要とされる土壌があると思います。シェアオフィスはまさにそうですね。その昔、DCブランドの人々は「マンションメーカー(マンションアパレル)」と言われていて、マンションの一室でパターンを作って、それが当たればオフィスが大きくなるという状況でした。当時はIT系やベンチャー企業も沢山誕生していましたね。ただ、その結果、家賃も上がって、いつしか成功した人たちが集まる街になった。シェアリングエコノミーは、そうした問題を解決する方法になると思います。またこの街から成り上がろうという土壌を作ることができるし、文化はストリートから生まれるものですから、それを民間が作っているのもいいと思います。行政としては、そのための場所を提供したり、土台を作ったり、規制を緩和したりして、何か障壁になっているものがあれば、それを取り除いていこうと思っています。

――つまり、環境を整えていくということですね。

この街には住人だけではなく、働いている人も、好きで遊びに来る人も多くいます。地方出身の方で、渋谷の学校を卒業して、ここを第二の故郷のように感じてくれている人もいます。ですから、そうすることで渋谷にあるリソースを、いろんな人とシェアしていきたいんです。この街の文化はストリート・カルチャーが中心ですが、私自身まさにそこにどっぷりの世代で、小学校の頃に竹の子族やロカビリーが生まれ、中学時代にはDCブランドが人気でしたし、高校時代には渋カジ/アメカジ、大学時代にはギャルやコギャル、渋谷系の流行を経験しました。だから今、渋谷にホコテン(歩行者天国)を復活させようと準備もしていますよ。そこにこの街が好きな人が集まって、新しいカルチャーを作ってくれたら嬉しいです。これもひとつのシェアの形です。合意形成に時間はかかりますが、警察や消防と連携してテロ対策や防犯のことも考えながら、そこを乗り越えていけたらいいと思っています。

――2020年のオリンピック/パラリンピックに際して東京を訪れる方にとっては、代表的なシェアサービスのひとつ、民泊も非常に重要なサービスになると思います。

そうですね。民泊についても、ちょうど今非常に悩んでいるところで、様々なルールを詰めてから、区としてもどこかのタイミングで発表するつもりでいます。現状、ある程度のルールづくりをしなければ問題が起こる可能性がありますし、365日自由に貸し出せる状態だと、儲けるために渋谷に人が住まなくなる可能性もあります。それは非常に困りますよね。ですから、年間の日数に上限をつけるとか、「普段は住んでいてくださいね」ということであるとか、そういったルールの整備は必要です。街の安心/安全を考えるとき、「人が住んでいる」ことで生まれる街の体温や人の温もりは非常に大切ですから。そういうことを踏まえたうえで、渋谷の課題を解決する方法として、きちんと環境を整えようと思っています。

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――渋谷は日本を代表する都市のひとつとあって、この街から始めることで、全国に広がっていくこともあると思います。長谷部区長自身も日本の自治体で初となる「パートナーシップ証明書」をはじめとして、様々な試みを進められていますね。

私としては、目の前にある課題を手の届く範囲で解決しているという感覚です。とはいえ、LGBTの方を差別しちゃいけないというのは、みんな頭では分かっているけれども、知識がないために偏見を抱いている人がいるかもしれません。障がい者の方についても同じで、この問題にはマジョリティの方の意識の変化が求められている。ですから、マイノリティとされる人々との風景を、渋谷においては普段の街の景色にすることで、日本や世界に発信することにはトライしていきたいと考えています。この秋には『2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展』が開催されますが、福祉は手を差しのべるというよりも、交じり合うことで起こることが沢山あるんですよ。私が設立にかかわり、渋谷区表参道から始めたNPO法人『green bird』でも、知的障がいのある子供と一緒に掃除をすると、本当によくゴミを拾ってくれる子もいれば、そうでない子もいます。これは自分たちとまったく同じですよね。それに私たちは一緒にゴミを拾っただけで、特別なことをしたわけではありません。ところが、3年目にあるお母さんが「知的障がい児の息子を15年間育ててきたけれど、初めて社会の役に立っている場面を見た」と涙ながらに喜んでくれたことがありました。

――なるほど。

この感覚は大切だと思います。これを私は「超福祉」と言っていて、それを渋谷から仕掛けていきたい。ロンドン・パラリンピックでは“スーパーヒューマンに会おう”というスローガンがありましたが、今だと幅跳びを見ていても、義足の人の方が遠くまで飛んだりするわけですから、機能の補助ではなく拡張になっていると考えることも出来ます。そうしてポジティヴな意味でのアピールをすることで、意識が大きく変わる空気作りをしたい。2020年には東京でオリンピック/パラリンピックが開催されますが、渋谷区は特にパラリンピックを応援しようと思っています。渋谷区はその会場にもなっていますし、何よりパラリンピックが成功してこそ成熟した都市だと思うので。特に車イスラグビーは練習場所に困っているので、リオオリンピックの前から練習場所に使ってもらっています。そして、そこに子供たちや地域の人たちが沢山見に来ています。また、2020年は明治神宮が100年を迎えますが、この明治神宮の森に対して私は、八百万の神を感じるものがあり、=“Diversity”を象徴する場所とも思えるんです。あの森はもともと人工で作られた森が100年計画で自然の森になるというプロジェクトですから、そのタイミングでエコのことを発信することも出来るかもしれません。

――最後に、長谷部区長が思う渋谷の理想図、未来図とはどんなものなのか教えていただけますか?

現在計画が進んでいる渋谷駅の再開発にしても、街の風景自体は大きく変わらないと思うんですよ。私の子供の頃から比べてもちろん変わってはいるけれども、ドラえもんに描かれているような21世紀はまだ来ていないし、ブレードランナーのようにもなっていません。ですから、これは渋谷のコミュニティFM『渋谷のラジオ』のテーマにもしていますが、住む人にとっては「最先端の田舎暮らし」ができる場所ですね。都会でありながらいろんなコミュニティが繋がって、それぞれの顔が見えて、そこにシェアサービスのようなものも絡んでくる。テクノロジーもそうです。今後はいろんなことがロボット化していくと思いますし、この間発表しましたが、LINEと提携してサービスを開始する予定です。将来は、AIで問い合わせを受け付けることも出来るようになるといいと思います。それが渋谷らしいと思うし、その上で、最初に言ったようなシティプライド――。つまり渋谷区を好きでいてくれる人が増えてくれたら理想です。それはきっと、渋谷の価値をシェアしていくことにもなるはずですから。

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具体的なサービスの話だけに留まらず、日本有数の都市・渋谷の様々な事例とともに「シェア」について語ってくれた長谷部区長。そのお話からは、多様性を尊重する社会、都市に対する思いや、その中でのシェアの可能性が伝わってきました。

シェアリング・エコノミ―の特性とは、既存のライフスタイルとも融合しながら、都市の問題を解決するきっかけを生み出せること。長谷部区長が語る通り、「ストリート・カルチャーの発信地」として知られる渋谷では、若者文化の街ならではの新たなユース・カルチャーやファッション、音楽などの誕生をサポートする役割を担うのかもしれません。また、2020年の東京オリンピック/パラリンピックに際しては、海外や地方からの滞在を助ける手段のひとつとして、シェアリング・サービスはますます重要な役目を担っていくはず。土地ごとに様々なシェアの形が生まれるのだとしたら、渋谷のシェアリング・エコノミーは、この地のシティプライドを感じさせるものになっていくのではないでしょうか。

Photo by YosukeKAMIYAMA

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