佐別当 隆志

シェアリングエコノミー伝道師/シェアリングエコノミー協会 事務局長 佐別当隆志

2017年3月10日に住宅宿泊事業法案、いわゆる“民泊新法”が閣議決定され、国会に提出される運びとなりました。“民泊新法”には、ホスト規制、およびairbnbなど仲介サイトに対する規制が盛り込まれ、民泊運営を開始する際の届出等の規定、営業可能な地域、年間営業日数、民泊運営者に課される義務、民泊仲介業者への義務などが具体的に示されています。それを受け、シェアリングエコノミー協会は意見書を提出。一体、“民泊新法”の何が問題で、どのような意見を述べたのか。先日、内閣官房IT総合戦略室からシェアリングエコノミー伝道師に任命された佐別当隆志に、これまでの民泊を取り巻く社会環境の変化などを織り交ぜながら、“民泊の現在”をわかりやすく解説していただきました。

シェアリングエコノミー伝道師 佐別当隆志インタビュー [民泊編]

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――まずは民泊の正しい定義と国内外における普及状況や歴史についてご説明ください。

“民泊”とは、海外では一般的に“ホームシェアリング”や”バケーションレンタル”と呼ばれているもので、個人所有、あるいは個人が借りている部屋を個人に貸し出す行為の総称です。日本では、家族が住んでいる住居の一部を開放する“家主居住型”の民泊と、現在、自分は住んでいないマンションや一軒家をまるまる貸し出しする“家主不在型”に大別されています。長期間貸し出すタイプのものも短期のものも総じて“民泊”と呼んでいますが、日本での民泊は主に短期宿泊に注目されており、長期と短期では法律のうえでは明確に区分されています。滞在期間が一ヶ月以上になると、いわゆる賃貸や間貸しと同じく不動産「賃貸」に区分され、ホテルや旅館など、一泊からの「宿泊」とは違った扱いになります。賃貸は業法で規制されていないため、日本でも非常に広がっており、運営するうえでも自由度が高くなっているのですね。民泊の歴史については、色々な文脈はありますが、広がりの初期段階はシェアハウスに慣れ親しんでいる若者と親和性が高いです。まず都心では「テラスハウス」というドラマから火がつきました。ソーシャルアパートメントなど共有スペースがラグジュアリーで、若者に人気のお洒落なシェアハウスがブームになり、シェアハウス専門企業が増え、都市圏ではシェアハウスが広がっています。これらシェアすることに抵抗感が低く、むしろシェアの良さを積極的に楽しむ若者が民泊の初期フェーズを牽引しています。またその一方で、airbnbのような海外の仲介サイトサービスが世界中に拡大し、海外旅行で民泊を利用したことのある人が日本国内で貸主として登録をはじめ、広がっていったという流れがあると捉えています。そこに近年は、グレーゾーンを良いことにオーナーに許可なくマンションの一室を民泊にしたり、収益性重視の民泊が広がり、個人で何件も運用する層が増えて来ました。そこでは、ゲストがパーティを開いて騒音やゴミ捨てのルールがわからずに近隣住民に迷惑をかけるケースが多発しています。

――利用者にとっては利便性が高く、貸主側にもメリットがあるように思える民泊というシステムですが、我が国においては一体、どのような問題が持ち上がっているのでしょうか。

日本には“旅館業法”という法規制があり、その中で民泊をどのように位置づけるのかが焦点になっていました。海外には、同じような業法が先進国でも存在していない国もあり、誰もが自由にホテルや旅館を運営することができています。airbnbのようにITを活用したイノベーションを起こしたり、様々な先進的な取り組みによって世界的なホテルチェーンが登場したり、そもそもの土壌が違います。日本では、当初、民泊は“グレーゾーン”と言われてきたのですが、業法が存在しない海外では、そもそも“黒”が定義されていないのですから。基本的には“自由にやってください”というのが海外では一般的です。日本ではそもそも消費者保護の観点から業法が存在し、規制があり、規制に対して業界団体がルールを守ったり自主的ルールで運営し、何か問題が生じてしまったら規制を強化するという流れがあります。この規制国家のベースを誰が作ったのかといったら、戦後に日本を統治していたGHQだったわけですよね。当時、日本には不衛生な旅館やホテルが多かったため、来日するアメリカ人にとっては何かと不都合だったということで、GHQ主導で旅館業法が制定されたとわれています。そんなに古く、しかも日本人のために制定されたものではない法律を日本企業や国民が順守し、現在イノベーションの足かせになっていることに私は違和感を覚えます。民泊をやりたいと考える一般の人が旅館と同じようにわざわざ届け出をしたり、旅館と同等の管理義務を課すのは法令遵守という名の下の既存の枠に押し込めた思考停止です。過去にはシェアハウスが広がったタイミングにおいて、それを規制する法律が制定されそうになったのですが、そのときには業界団体が立ち上がって阻止をしたという経緯があります。どのような規制かというと、ルームシェアをするためには消防法に則って避難経路を造りなさいとか、マンションのように隣の家から何メートルスペースを開けて建てなさいとか。そのような規制を後出しで制定されることでシェアハアウスが全滅する恐れが生じたのです。その背景には当時、一部屋に6人がぎっしり寝泊まりするような、随分おかしな運営をしているシェアハウスビジネスが横行するという事態があったのは確かです。確かにそれは衛生的にも安全性にも疑問はありますが、結局、そういった問題ある業者が参入することで、楽しいシェアハウスの住民たちや健全な事業者が犠牲者になってしまうのです。結局、業界団体が立ち上がって政府と対話することで、首都圏の詰め込み型のシェアハウスだけ規制しようと言う話で収まったのですが、まず何か起こると規制を上から強化するという流れは、現在の民泊問題においても同じ。完全に性悪説で法律が作られている点に、性善説で法律を作っている海外と大きな違いがあるのです。

――先日、閣議決定された民泊新法は結局、どの立場の方にとって都合の良い内容となったのですか。登場人物は、旅館やホテル業界の方々と民泊推進派という認識で正しかったですか?

そうですね。実は、もう少し複雑な対立構造になっていまして…。この一年ぐらいの間に色々な動きがありました。旅館やホテル業界からすれば、戦後すぐにできた法律をこれまでしっかり守ってやってきて、安全対策や受付設置、台帳管理にかなりの投資を行ってきたにも関わらず、そういった一切の面倒や投資をしない一般人が“民泊”と言い出して、しかも365日間営業することに反発したのですね。そこが最初の争点だったのです。ところが、外国人観光客が急増する中、民泊によって収益があがるということに不動産業界が注目。空室になっているマンションの一室を一気に民泊化していったのです。社会問題になっている空き家対策としても有効だとメリットを強調し、問題になりやすい近隣住民とのトラブルにもしっかり資格のある管理者が介入するから不動産業界に任せてほしいとロビー活動を行った結果、不動産業界よりに、今回の民泊新法が閣議決定されました。これはもう旅館・ホテル業界は驚きですよね。想定外の敵が急に現れて負けてしまったというイメージなのですよね。民泊業者からすると痛し痒しで、民泊が合法化されることにはポジティブ。家主不在型を推進する民泊業者にとっては非常に良い内容です。一方、家主居住型も推進する側は、家主不在型と分けて規制を弱くしてくれたことはポジティブ。とはいえその中でも一定の規制が強かったり、詳細は政省令で決められることに対しては今後もロビー活動が必要です。また民泊は地域によって柔軟性を持たすべきだという考えのもと、条例に日数の決定権を委ねたことは画期的だという意見もあれば、任せ過ぎという意見もあります。一方、シェアリングエコノミー協会としては、そもそもプラットフォーム企業は法律で管理・規制すべきでないというスタンスから、プラットフォーム企業の登録制には反対しています。これを登録させることは、ヤフーオークションやメルカリ、楽天のようなサービスも登録制にするようなものです。協会が最も懸念しているのは、今後他の業界にまでプラットフォーム企業を登録制にする流れができることです。今回提出した意見書は、急いで取りまとめたこともあり関係する民泊企業としっかりと意見交換できたものではないため、今後協会内でワーキンググループを立ち上げ、アップデートしていく予定です。

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――なるほど。海外では同様に立場の違いによって利害がぶつかるような図式といいますか、対立はないのですか?

例えばヨーロッパでは移民の問題により、どうやって雇用を創出するかという社会的問題の解決が何よりもプライオリティが高くなっていますよね。結局、民泊に代表されるシェアリングエコノミーは、個人で事業を興すことができるので、雇用問題の解決につながると認識され、EU政府が積極的に推進しています。もちろん、民泊が拡大したためにホテルの業績が落ちている地域もありますが、トータルで見たときに、ホテル業界よりも民泊絡みで雇用が発生し、経済的自立が果たせる人数のほうが明らかに多いのですよね。また海外では地方分権化が進んでいますから、国が法で規制するのではなく、各地域の特性に合わせた形で、それぞれに州法や条例を制定して対応するケースが多い。例えばフランスのパリは観光地なので、家主居住型の民泊に関して推進派で、それが観光客のリピーターづくりにつながるという考えです。一方、ニースなどの別荘地では、別荘の持ち主にとって民泊のゲストは迷惑な存在になりえますから、120日の上限を設けた上でAirbnbと市当局が協力し、関連する許可の申請方法に関する情報と併せて、年間の泊数上限についてホストに通知する仕組みを設けています。

――日本でも、何の利害もなく、民泊のメリットを誰もが享受できそうな地域もありそうですが。

もちろん日本においても海外事例はしっかり調査しているので、180日を上限にしながら、実際に何日間までに設定するかは地域条例に任されていて、それ自体は悪いことではないのですが、それなら180日の上限を設けなくてもよかったかもしれません。地方においてはホテルや旅館が一軒もないところもあるので、それは民間が農家民泊のように気軽にできるように地域が選択できるようにするのも1つです。結局、自治体に任せる範囲が限定的なので少し歪なカタチになっているように思えます。また“民泊特区”が設けられ、東京なら大田区が、他にも沖縄や大阪が名乗り出てスタート。特区では上限日数の制限なく自由に設定できるようになってはいますが、逆に言えば、“特区しかできない”というカタチになり、“特区で認めた中身にあったモノしか認めない”となって、自由度を失ってしまってるように見えます。例えば大田区では特区になったものの、最低7泊以上なら民泊として自由に無制限にやってもいいという内容にしました。しかし一体、どれだけの人が7泊泊まるというのでしょう?東京の民泊利用者は平均で7泊以上泊まる方の比率は高いのですが、そこを中心におくと、1~2泊利用したいという方が利用できなくなってしまいます。これまで家主居住型の民泊を2~3泊利用して、家族と文化交流を楽しんでいた人が、法的に黒になってしまうという規制が生まれたのです。特区で許したはずなのに、ちゃんと努力して頑張っている人たちに規制がかかってしまった…。結果的には大田区が日本の民泊において後退したという言われ方も一方ではされてしまってます。

――何か対策はあるのでしょうか?

まずは家主居住型と不在型とで明確にルールをわけるべきで旅館業の中で家主居住型を管理すべきではないでしょうね。家主居住型は制限なしで、一日から利用可能、住宅地でもOK、ただその制限は条例で地域に委ねる。ただし届け出だけはしてくださいと。実態は把握すべきですし、トラブルが発生したときに行政も指導ができる体制づくりは必要ですから。一方で家主不在型に関しては、、今回提出された法案に則って規制・管理することに異論はありません。何が問題なのかというと、結局、まったく毛色の違うものを“民泊”という言葉でひとくくりにして、それを一つの法律で規制している点です。家主居住型に関しては適用除外というかたちで業法の管理からはずしますよ。そのかわり、自己責任で自主ルールで運営してくださいとすればよかったです。

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――今後、シェアリングエコノミー協会としては、関係各所に対してどのようにアプローチをすべきと考えているのでしょう?

“民泊新法”が閣議決定されてしまった今としては、もはやそれを変えていくのは難しく、1年半とか2年後といったオーダーになってしまいますから、新法で規定された枠の中で考えていくしかありません。例えば、法律は制定されましたが、具体的な政省令はこれから明文化されていきます。その文章の表現次第でどこまで規制が厳しくなるかどうか明確化されていきます。その段階において、できるだけ家主居住型に関しては規制のない状態を作っていただけるよう働きかけていきます。また法律は制定されても、そこに付帯事項として、内容を見直すべきと先行してリストアップしてもらえると、次回の法改正時に優先的に適用してもらえる可能性がある。例えば、政省令のポイントの1つには“誰が家主(管理者)なのかがわかるように看板立てなさい”という項目がありますが、そうなると女性一人で民泊をしている人は困ってしまいますよね。不動産業者と同様の扱いになって、電話番号も看板に書きなさいなんて規制を個人に課したら、とても怖くて民泊なんてやらなくなってしまいます。同じく、図面の提出や消防法に則った退出経路の確保が義務付けられていますが、例えば田舎に住む高齢者が昔の古民家を活用して民泊をやろうと思っても、図面などありませんし、消防法に適用している物件も少ないので断念せざるを得ない人が続出します。だからといって、その家は危険かと言ったらそんなことはありませんよね。だって、その高齢者が実際に住んでいるのですから。ホテルや旅館、賃貸マンションと同じ規制で管理しようとするから、このような矛盾が生じるのです。家主居住型に関してはできるだけ、政省令から除外するという一文を追記してもらうことが重要だと思っています。

――そもそも民泊のメリットはどのようなもので、民泊が普及していくと、どのような社会が実現できるとお考えですか。

リーズナブルであったり、日本人との交流を通じて日本文化を味わいたいと考える外国人の民泊利用者にとっては、様々なメリットがあることは自明のことと思いますが、同様に貸す側にとっても多くのメリットがあります。もちろん、遊休スペースを活用して宿泊料という経済的メリットを獲得するというのもありますが、それだけではなく日本にいながらにして国際交流ができるというメリットがあります。また英語の勉強をしたいとか、日本のことをもっと知ってもらいたい、地域の魅力を伝えたいなど、それぞれに様々な期待がありそれが満たされます。全員が一律、営利目的であれば規制の設定しやすいのですが、そうではない。それが良さでもあり難しさでもあると思っています。だからこそ、個別に規制を設けていくのが理想といえます。民泊をはじめとするシェアリングエコノミーが活性化されると、昔の日本に存在した互助の精神が復活することが期待できます。地域の人々が助け合い、一緒になって子供の面倒を見たり叱ったりするような社会。ITの活用によって、知らない人同士でも親近感を持てるような社会になってきているので、シェリングエコノミーにより、もっと皆が助け合える共助社会を作っていきたいという想いがあります。民泊の本質は文化交流にあると思っていますし、互いが助け合える、思いやりのある社会を作っていく礎になると思っています。ところが様々な立場の、様々な思惑を持つ人が参入してきたことで複雑化している。もちろん新たに参入する勢力を止めることはできません。海外でも、特に家主不在型において同じような問題が発生して規制ができましたし、規制をむしろ強化している動きもあります。日本は最初に法整備を進めて強化された規制の中からスタートすること自体、悪いことではないのですが、何度も言うように、家主居住型まで同様に規制したため問題が生じてしまったのです。

――毛色の違う施設を同じ法律で管理することに無理があるというのは、普通に考えればわかるような気がしますが。

声が届かなかったのでしょう。文化交流を楽しんでいたという人たちの数が少ないとみられていたのでしょうね。そういった個人は企業でもないですし、業界団体もありません。最終的に個人が声を上げないと、永田町・霞ヶ関まで声が届かない。マスメディアでは近隣住人とのトラブルなどの社会問題がクローズアップされ、そちらの方が世論的には大きな問題になっていたので、そういった規制が中心の法律となってしまったのです。なおかつ賃貸を管理する不動産業界が安全安心対策にしっかり取り組みますよと、経済の活性化にもつながるに空き家対策になると進言したことが、そのまま反映されてしまったのです。それはわからなくはないですし、悪いことではありません。今、日本で家主居住型のホームシェアリングを推進している任意団体が三つあって、そこが連名でオンライン署名を集めている段階です。10万人の署名が集まると世論が動いたとみなされて、流れも変わってくると思うのです。とにかくこれからも私たちが、様々な立場の人たちの声を集めて、しかるべき立場の方々に頑張って働きかけていくしかないでしょう。先ほども述べたように民泊がもたらすものは非常に大きいと思っています。経済だけでなく、国際理解であったり、精神的なものを含めて生活が豊かになります。かけがえのない体験だと思うのです。子供の情操教育はもちろん、出会いのチャンスだって生まれます。中には世界中の人々と繋がって、世界中にファンを作ってきた、そんな民泊運営者だっているのです。彼らが作ってきた大切なものが規制によってフイになってしまうのは非常に残念なことだと思っていますし、何としても解決しなくてはならないと考えています。

Interview by 伊藤秋廣(いとうあきひろ)

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Photo by Niko Lanzuisi

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