民泊文化 はコロナ禍によって終焉を迎えるのか? 民泊の現状と3つの法制度の概観(下編)

1 前回までのおさらい

これまでは、民泊の現状と、民泊を行う場合には3つの法制度の利用が考えられることについて、簡単にご紹介しました。本稿では、「 旅館業法 」、「 国家戦略特区法 」、「 住宅宿泊事業法 ( 民泊新法 )」、それぞれの法制度について、詳しく解説していきたいと思います。

 

2 3つの法制度の条件比較-条件の厳しい旅館業法と、緩やかな民泊新法

まず、3つの法制度に基づいて民泊を行う場合の条件を簡単にみてみたいと思います。
以下の表のとおり、3つの法制度は、条件が大きく異なります。

3つの法制度の条件比較-条件の厳しい旅館業法と、緩やかな民泊新法

* 各自治体の条例により、さらに期間が制限されている可能性があります。

3つの法制度は、それぞれ条件が異なり、行える営業態様も異なるため、民泊事業を行う者は、そのメリットやデメリットを比較して制度選択することになります。

 

3 住宅宿泊事業法 ( 民泊新法 )に係る法規制

まずは、3つの制度の中で最も簡単に民泊をはじめることができる(条件が緩い)、住宅宿泊事業法( 民泊新法 )に基づく民泊から解説します。

住宅宿泊事業法って?

住宅宿泊事業法 ( 民泊新法 )ができる前まで、民泊には、安全面・衛生面が確保されていない、騒音やゴミ出しの近隣トラブル等、様々な問題がありました。旅館業法上の許可が必要であるにもかかわらず、それを取得しない、いわゆる違法民泊も多数存在しました。

そこで、一定のルールを定め、健全な民泊サービスを普及させようとして作られた法律が、住宅宿泊事業法 ( 民泊新法 )です。

 

住宅宿泊事業法上の3つの事業(3つのプレーヤー)

住宅宿泊事業法上は、上記の①住宅宿泊事業以外にも、②住宅宿泊管理業③住宅宿泊仲介業という、合計3つのプレーヤーが位置付けられています。

< 住宅宿泊事業法 > 住宅宿泊事業法上の3つの事業(3つのプレーヤー)

出典:観光庁HP:https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/overview/minpaku/law1.html


3つのプレーヤーは、それぞれに役割や義務が異なり、それぞれ主管官庁が異なるため、各監督庁は、情報共有を行って民泊事業に関する監督を行っています。

必要な届出等

以下、3つのプレーヤーについて、個別に解説をしていきたいと思います。

 

① 住宅宿泊事業を行う場合の法規制

「住宅宿泊事業」とは、宿泊料を受けて住宅に人を宿泊させる事業で、年間宿泊日数が180日を超えないものです。

 

「住宅」とは?(設備要件と居住要件)

「住宅」は、設備要件と居住要件を満たしている必要があります。

 

a.設備要件

住宅に該当するためには、「台所」、「浴室」、「便所」、「洗面設備」が必要です。近隣の銭湯を浴室として代替することはできません。この点は、旅館業とは異なります。

 

b.居住要件

住宅は、「人の居住の用に供されていると認められる家屋」である必要もあります。具体的には、以下の3つの類型があります。

 

ⅰ)生活の本拠として使用する家屋

現にその家屋において特定の者の生活が営まれている家屋
当該家屋の所在地を住民票の所在地にしている場合にはこれに該当します。

 

ⅱ)入居者の募集が行われている家屋

分譲又は賃貸のいずれかの状態で、空き室の状態を解消し、人の居住の用に供するための入居者の募集が行われている家屋

   

ⅲ)随時居住の用に供されるもの

別荘、セカンドハウス、古民家等、生活の本拠ではないが、居住のために随時利用する家屋
少なくとも年1回の使用実績がある家屋(別荘など)である

 

人を宿泊させる日数の上限(180日制限)

住宅宿泊事業の大きな特徴としては、年間の宿泊上限日数が180日に制限されているという点があります。条例で、さらに短い日数が上限となる場合もあります。

年間180日を超えて人を宿泊させないように、住宅宿泊事業者は毎年2月、4月、6月、8月、10月及び12月の15日までに届出住宅ごとに、それぞれの月の前2月における下記4つの項目について報告する必要があります。

  1. 届出住宅に人を宿泊させた日数
  2. 宿泊者数
  3. 延べ宿泊者数
  4. 国籍別の宿泊者数の内訳

万が一制限日数を超えて宿泊させてしまった場合には、旅館業法に違反し、6か月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金またはその両方が科されるので注意が必要です。

180日を超えて運営したい場合には、旅館業または特区民泊としての運営を検討する必要があります。

 

住宅宿泊事業を行う上で求められる措置(事業の適正な遂行のための措置)

実際に住宅宿泊事業を行うにあたっては、届出を行ったうえでの一定のルールが課されており、住宅宿泊事業者は、以下のようなルールを守る必要があります。

⑴ 宿泊者の衛生確保の措置(広さの確保、清掃・換気)

⑵ 宿泊者の安全確保の措置(非常用照明器具、避難経路表示)

⑶ 外国語による施設利用方法の説明(書面の備え付けやタブレット端末への表示)

⑷ 宿泊者名簿の備付け(本人確認や3年間の保管)

⑸ 必要事項の宿泊者への説明(騒音の防止、ごみの処理、火災防止の配慮事項等)

⑹ 苦情などの処理(深夜早朝を問わず、常時)

⑺ 家主不在型の場合や、居室が5つを超える場合、住宅宿泊管理業者への委託

⑻    契約の仲介を委託する場合、登録を受けた旅行業者又は住宅宿泊仲介業者への委託

⑼ 標識の掲示/年間提供日数の定期報告

 

家主居住型と家主不在型

住宅宿泊事業には、「家主居住型」と「家主不在型」の2つのパターンがあります。

家主居住型は、住宅宿泊事業者自らが管理業務を行うことが可能ですが、上記(8)のとおり家主不在型の場合には、「住宅宿泊管理業者」に管理業務を委託しなければなりません

 

② 住宅宿泊管理業を行う場合の法規制

「住宅宿泊管理業」とは、住宅宿泊事業の適切な実施のために必要な、届出住宅の維持保全を行う業務です。
「住宅宿泊管理業者」は、住宅宿泊事業者から委託を受け、報酬を得て、業務を行います。

無償で行う場合は、住宅宿泊管理業にはあたりません。

一方で、反復継続性を問わず、1回でも委託を受けた場合には事業性が認められるため、国土交通大臣の登録を受ける必要があります。

住宅宿泊管理業者は、誇大広告の禁止義務、再委託の禁止義務等、様々な義務を負います。

 

③ 住宅宿泊仲介業を行う場合の法規制

「住宅宿泊仲介業」とは、旅行業者以外の者が、報酬を得て、住宅宿泊事業の仲介を行う業務です。いわゆるプラットフォーマーといわれるウェブサイト運営会社がこれに当たります。

住宅宿泊事業法 は、旅行業法の特例として、住宅宿泊事業法 の届出住宅を利用した宿泊サービスの代理、媒介等については、旅行業の登録を受けずとも、住宅宿泊仲介業の登録を受ければ業務が可能としました。

住宅宿泊仲介業を行う場合には、観光庁長官から登録を受ける必要があり、登録を受けた事業者は、適正な遂行のための措置を義務づけられます。

“Takeshita Dori” by Mikael Leppä, color modified

“Takeshita Dori” by Mikael Leppä, color modified

4 旅館業法に係る法規制

年間180日を超えて営業したい場合には、旅館業または特区民泊として営業する必要があります。ただし、その場合、住宅専用地域での営業は不可能なので、その点は特に注意が必要です。

 

「旅館業」ってなに? 民泊なのに旅館?

旅館業法上、「旅館業」とは、旅館やホテルの営業を指し「旅館・ホテル営業」とは、施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業と定義されます(同法第2条第1項・第2項)。既存の住宅を利用したものでも、有償で繰り返し人を宿泊させていれば、旅館業にあたると考えられています。

もっとも、営業とは、「社会性をもって継続反復されるもの」です(旅館業法Q&A Q5)。

そのため、日頃から交流のある親戚や友人を泊める場合には社会性がないですし、年に1回イベント開催時に自治体の要請により自宅を提供するような場合には継続性がないため、旅館業にはあたらないとされています。

 

旅館業法上の許可の取得

許可の取得のためには、保健所や建築指導課に事前相談し、建築計画の説明会を開催する等、多くの手続が必要です。また、旅館業法に基づく営業許可申請以外にも、建築確認申請や消防法令適合通知書交付申請等、様々な申請を行わなければなりません。

無許可で旅館業を営業した場合には、6月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金または両方を科されるおそれがあります。また、旅館業法に違反した場合には、50万円以下の罰金が予定されています。

 

5 特区民泊に係る法規制

国が定めた国家戦略特別区域においては、都道府県知事(保健所)の認定(特定認定)を受けることで、旅館業法の適用外となることができます。

2020年7月1日現在、東京都大田区、千葉市、新潟市、大阪府(府33市町村で実施)、大阪市、八尾市、寝屋川市、北九州市が内閣総理大臣の認定を受けており、その地域での特区民泊が可能となっています

特区民泊を行う事業者は、国家戦略特別区域法施行令に基づく規制や、建築基準法、消防法などの規制を遵守して民泊を運営することになります。

特区民泊のデメリットは、最低宿泊日数が2泊3日とされている点です。1泊2日の滞在が認められていないため、制度として使い勝手の良いとは言い難い状況です。

 

6 法規制だけではない、賃貸借契約・マンション管理規約上の問題

 上記の法律上の問題以外にも、自分が借りている物件やマンションを貸し出す場合には、賃貸借契約・マンション管理規約上の問題が生じる可能性もあります。

 

賃貸物件を貸し出す場合-賃貸借契約上の注意点

ほとんどの賃貸借契約では、賃貸人の承諾を得ないで物件を「転貸」する(誰かに又貸しする)ことは禁止されています。

第三者を物件に宿泊させた場合には、宿泊させる具体的な態様にもよりますが、鍵を渡して一定期間の占有を許可するような場合には宿泊日数や回数を問わず、「転貸」にあたり得ると考えるのが自然です。

無断で「転貸」した場合には、賃貸人は、賃貸借契約を直ちに解除できるとされているのが一般的です。

よって、賃貸人の許可を得ずに賃貸物件を民泊として貸し出した場合には、賃貸借契約を解除されてしまう(追い出されてしまう)リスクがあります。

 

マンションを貸し出す場合-マンション管理規約上の注意点

マンションを貸し出す場合には、契約上の注意点とは別に、所有・賃貸物件の両方において、マンション管理規約との関係が問題となります。

国土交通省は、2017年8月29日付で、マンション標準管理規約を改正しました。そこでは、民泊の実施にあたり管理組合への届出を求める場合や、民泊の禁止に加え広告掲載も禁止する場合等の規定例が提示されました。

したがって、マンションを民泊に利用したいと考える場合には、あらかじめマンション管理規約によく目を通しておく必要があります。

 

7 今後の課題・展望-まとめ

住宅宿泊事業法 の施行により、民泊件数は順調に増加してきました。

また、各自治体が取り締まりに力を入れたことにより、違法民泊の件数も減少し、公衆衛生上の問題や、近隣トラブルの問題も、解消されつつあります。

もっとも、今回までの記事で触れたように、コロナ禍の影響により、人々は新たな生活様式を模索するようになり、民泊サービスに関しても、新たな可能性を探る段階にあるように思われます。また、防災の分野で民泊がどのように貢献できるのかも、自治体と住宅宿泊事業者の緊密な連携と知恵が今問われていると考えます。

 

また、最近では、新型コロナウィルス感染症拡大の影響もあって、「開疎化」、「ワーケーション」、「デュアラー」という言葉が出てきているように、これまででは考えられなかったような住宅の利用方法や仕組みが多数生まれてきているなかで、旅館業の定義が広すぎるが故に新しいイノベーションの芽を摘んでしまっている状況です。

急激な人口減少が叫ばれ、空き家問題も待ったなしの状況であるなかで、賃貸事業と旅館業営業の境界線が溶けてしまっている現代においては、もはや旅館業法(及び数十年前の通達による法令解釈を維持するこれまで)の仕組みを維持して規制するのには限界があると考えます。

新しい生活様式が急激に広がるなかで、社会課題の解決のために次々と生まれる新しいサービスが、法の遅れと理由に阻害されることは許されるべきことではありません。ガイドラインなどを設けるなどして法規制ではないソフトローの形でルールメイキングを行い、実態に合わせてモニタリングをしていく必要があるのではないでしょうか。

国内において、民泊がどのように活用され、普及していくか、そして空き家問題を解決するための住宅の新たな活用方法がどのように広がっていくのか、今後の動きが注目されます。

 

以上