渋谷駅周辺の大規模な再開発や、スクランブル交差点の大型ビジョンにZeebra氏のメッセージが映し出されて始まった風営法の規制緩和を追い風に、渋谷の街が今、大きく変わりつつあります。そのキーマンのひとりと言えるのが、今年の4月から渋谷区観光協会の理事長に就任した金山淳吾さん。

「PLAY! DIVERSITY SHIBUYA」をスローガンに様々な施策を展開する金山さんが語るのは、ビジターとローカルが垣根を越えることで生まれる新たな観光の可能性。そもそも、渋谷は観光地なのか?という疑問や、「シェアリングエコノミーのセレクトショップ」というアイディア、東京オリンピックでは新たな観光資源として「土管」が登場!?などなど、金山さんならではのユニークな発想と視点でみる、「渋谷の観光におけるシェアリングエコノミーの可能性」や、「シェアサービスが変える未来」についてお話しいただきました。

“人”と“体験”が生む新しい渋谷の遊びかた「PLAY! DIVERSITY SHIBUYA」とは? 渋谷区観光協会理事長・金山淳吾さんにインタビュー

160902_YK_00013

――金山さんは今年4月の理事長就任後、「PLAY! DIVERSITY SHIBUYA」をスローガンに様々な試みをされています。観光面から見ると、渋谷はどんな特徴のある街だと感じていますか?

4月に渋谷区観光協会に入った際に、僕自身改めて渋谷を知ることから始めたのですが、まずは「そもそも渋谷は観光地なのか?」ということを考えましたね。一般的な観光地は「気持ちのいい温泉がある」「山、川、海の観光資源がある」というイメージですが、渋谷にそれらがあるわけではないですから。でも一方で、渋谷区は新しいカルチャーの発信地です。渋谷駅前や原宿、表参道、代官山とそれぞれに特色があり、人が沢山いて、独自のポップ・カルチャーやファッションが生まれ、カラオケボックスや雑貨屋、クラブ、ライヴハウス、そして深夜まで営業している飲食店も沢山あります。そう考えた時、「渋谷の観光資源は場所や歴史だけでなく、この街にいる人と、人々が作り出す遊び方やトレンドなんじゃないか」と思い当たったんです。そこから「PLAY! DIVERSITY SHIBUYA」(=渋谷の多様性を遊ぼう!)が生まれました。近年では、渋谷や日本発のアイディアが海外に受け入れられることも増えていますよね。たとえばリオオリンピックでもよく見られた、写真を撮る際に手でハートを作ったり、顔を小さく見せたりするようなポーズも、恐らくは日本のティーンエイジャーが生み出した文化です。「100万通りの遊びが生み出せる、今でも多様な遊び方を生み出している街」だからこそ、“体験”“人”に焦点を当てようと思ったんですよ。

playdiversity2

▲「PLAY! DIVERSITY SHIBUYA」の公式ホームページ

――渋谷区観光協会のHPでは、スクランブル交差点の様子がリアルタイム配信されていますね。これも“人”というキーワードに繋がっていそうです。

スクランブル交差点は世界的にも有名な場所ですが、24時間ずっと人が往来していて、そこには渋谷に帰ってきた人と、来た人が混在しています。そこで、その人たちが「何をして帰ってきたんだろう?」「何をしに来たんだろう?」という、“映っている風景の外側にあるもの”までを感じてもらいたいと思って用意しました。これからハロウィンシーズンなどには、面白い景色が見られるかもしれません。4月のイベント用にスタートさせた「PLAY! DIVERSITY SHIBUYA」のスマホアプリでも、通常の検索や参照では得られない情報と、いかに出会えるかを大切にしています。街中にパブリックビーコンを置いて、街に来た人にプッシュ通知で情報が送信される仕組みを使うことで、「○メートル先でお祭りをやっているよ」「○メートル先に新しいクレープ屋さんが出来たよ」という情報に出会えたら、もともとは目指していなかったものにも興味を広げてもらえると思ったんですよ。

160902_YK_00057

▲9月にリニューアルされたばかりの、渋谷マークシティにある『クリエーションスクエア しぶや』

160902_YK_00161

▲10分から利用できる時間貸しスペース『coin space』も併設

シェアリングエコノミーのセレクトショップ? 「シェア」の視点から見る渋谷区の未来と可能性

――前述のように多岐にわたる渋谷区の観光事業の中にあって、「シェア」の重要性についてはどのように考えていらっしゃいますか?

観光では街を「新しい人に知ってもらう」「外の人に知ってもらう」ということが大切です。その際、駅前のフランチャイズだけではなく、路地を少し入ったところにも、その街の魅力があるわけです。でも、6席ある店で3席埋まっていたりすると、残りの3席はビジターにはとても座りにくい。本当はそこで流れている会話や人も観光資源であるにも関わらず、簡単に出会うことが出来なくなってしまいます。そういう意味で、シェアサービスをローカルとビジターの出会いを増やすことに活用できるかもしれませんね。たとえばシェアリングエコノミーを使って空席をビジターのために取っておき、地元の方がフルアテンドするという流れになったなら、「コーヒー1杯○円」ではない“会話や体験”が生まれます。もしくは、お客さん同士が出会える機会になるかもしれない。そうしてローカルとビジターの体験が互いに豊かなものになると面白いと思うんですよ。チャンスのシェアという意味で、シェアリングエコノミーを上手く取り入られる可能性があるとは考えています。

――「シェアリングサービス」はAirbnbなどの民泊を筆頭に様々な種類のサービスが増えているところです。現在の渋谷での状況についてはどう感じていらっしゃいますか。

Airbnbや民泊は渋谷にも相当数の部屋がありますね。もちろん、「きちんと法整備された上で」というのが大前提ですが、こうしたサービスで空き部屋を有効活用するのは、僕個人としては賛成です。ただ、そのためには越えなければいけない壁もまだ多くあります。ゴミ出しや宿泊税の問題もそうですし、ただ空いている部屋を貸すだけではない方法を考える必要もあります。たとえば、「渋谷にない部屋を作る」というのもそのひとつですよね。渋谷はリーズナブルな宿は多く揃っていますが、ハイエンドの人に向けた宿泊施設はあまりありません。多様性を謳っているのにすべてにリーチしないのはよくないですから、スーパーハイエンドからローカルまで、様々なニーズに合うような特異点を作っていきたいですね。

160902_YK_00016

――まさに「ダイバーシティ=多様性」を大切にするということですね。人が多いという意味では、ライドシェアや駐車場シェアへのニーズも高いかもしれません。

誰かが同じ自転車を大量に用意して「それをシェアしましょう」という均質的なものではなく、「これだったら乗りたい」と思えるものをシェアするのが大切だと思いますね。また、シェアサービスがそれだけで完結してしまうと広がりが生まれないので、シェアリングエコノミーのセレクトショップのようなステーションが渋谷にあれば面白いかもしれませんね。僕はこのままいくと、日本にシェアリングエコノミーが本格的に根付くには課題もあると感じていて、それは日本で衛星放送が根付かない理由と一緒だと思っているんです。プラットフォーマーとサプライヤーの整備は始まっているけれども、「実際に使う人々に何を届けるか=シェアリングエコノミーを使ってどうライフスタイルをデザインするか」をデザインする人が足りていない。そうなると、利用者不在のビジネスモデルが出来上がってしまいます。それでは「これが新しいライフスタイルだ」ということにはならないですよね。「コストが下げられるよ」「お得だよ」ということではなく、新しい生活モデルとして毎日の中で受け入れられることが重要だと思います。

――なるほど、おっしゃる通りだと思います。シェアリングエコノミーによって、「個人」「民間企業」「行政」が連帯していくという可能性については、どうお考えですか?

責任の境界線を引くことが正しいのか、曖昧なままの方がいいのかは答えが出ていませんが、そういった可能性もあるかもしれませんね。また、渋谷区が持ってない機能を他の地域とシェアして補うことも考えられます。たとえば、渋谷にない海感を異国情緒ある横浜にシェアしてもらったり、世田谷区の二子玉川などと連携を取ったりすると面白いことが出来るかもしれない。そもそも、観光に来た方はずっと渋谷にいるわけではないと思うんですよ。東京以外の場所にも行きたいでしょうし、仮に東京で2泊するとしても渋谷や銀座、浅草、新宿の歌舞伎町など様々な場所を訪れる可能性があります。その時に、ローカルとビジターが顔を合わせることで「(他の地域で遊んだ後に)晩御飯は戻って来いよ」という形になったら、それは“街を好きになってもらう”ことに繋がります。「あれを見た」「これを見た」が、「またあの人に会いたい」「次の店に連れていってもらいたい」に変わる。渋谷は夜も様々な文化がありますから、他の地域で遊んで、夜に渋谷に帰ってくるのもいいかもしれません。これから様々なシェアビジネスが出てくると思うので、使えるところは使いつつ、競争していくところは競争していけばいいと思うんですよ。

160902_YK_00147
160902_YK_00075

――渋谷区は13年に国際都市宣言をしていますが、2020年の東京オリンピックの開催に向けては、日本国内だけでなく世界各国からの注目もより集まることになりそうですね。

そうですね。リオ五輪の閉会式の「フラッグハンドオーバーセレモニー」の際、映像が渋谷のスクランブル交差点から始まりましたよね。スクランブル交差点にドラえもんが土管を出し、そこにマリオが入ると東京の真裏にあるリオデジャネイロの土管からマリオに扮した安倍総理が出てくる。とてもユーモアに富んだクリエイティヴでした。その舞台に渋谷のスクランブル交差点を選んでくれたのは、僕はすごく価値のあることだと思っているんです。「日本/東京/渋谷」という名前しか聞いたことのなかった海外の人々が、オリンピックの際には期待して渋谷を訪れるかもしれません。ですから、実現するかは分かりませんが、渋谷にあの土管を作ることも考えていますよ。また、その土管の価値をスクランブル交差点のものだけにするのではなくて、「次は広尾にあるよ」という形で様々な場所に広げていくことができれば、より面白くなりそうですね。そういう意味では、「スクランブル交差点」「ハチ公像」に続く第3の観光資源として「土管」というのもありなのかな、と(笑)。

――なるほど(笑)。面白いアイディアですね。

それは結局のところ、「訪れる方々の期待を裏切らないようにしたい」ということなんです。そのためには、自然景観は守りつつ、街として進化し続けていく必要があります。せっかく渋谷区を訪れていただくのなら、「すごかったね」と思って帰ってもらいたい。そのために色んな知恵や才能に出会うことも必要ですから、そういうシェアリングサービスを作ってくれるなら、僕も使いますよ(笑)。

160902_YK_00064

観光の観点から見たシェアリングエコノミーは、様々な可能性を持っている。では、都市づくりにおいてはどうだろうか? 次回は渋谷区長・長谷部健さんに、「渋谷区の都市づくりにおけるシェアの可能性」についてのインタビューをお届けします。

Photo by YosukeKAMIYAMA

NEW POST