Cift 藤代健介さん(左) 石山アンジュさん(右)

2017年4月に誕生した複合施設「渋谷キャスト」を拠点とする、新たな共同コミュニティ『Cift』。気鋭のクリエイターが共同生活を送りながら、新しい価値を生み出すという、先進的な試みに注目が集まっています。発起人である藤代健介さんと、この企画に参加する“住人”の一人である内閣官房シェアリングエコノミー伝道師・石山アンジュさんにコミュニティの様子や未来について話を聞きました。

――まずは、渋谷キャストって、いったいどういう場所なのか?というところからご説明ください。
藤代 : もともと、ここは東京都が所有する土地だったのですが、都営住宅としての歴史を残しつつ、クリエイティブなビルにしようというコンセプトのもとでプロジェクトがスタートしました。今年の4月に、オフィスやカフェ、レストラン、イベントスペース、スーパーマーケット、コーワキングスペース、そしてレジデンスなどが集まる複合ビルとして竣工しました。その中で13階の住居フロアのみ一般公募しない形で入居者を決めました。その入居者で構成されたコミュニティを「Cift」と呼んでいます。

石山 : この13階のフロアには19部屋の住居スペースがあって、現在、約40名のクリエイターが共同生活を送りながら、この実験的ともいえる“新たな取り組み”“新たな生活のあり方”を発信していこうとしています。各々が多拠点で活躍するクリエイターで、しかも複数の肩書を持っている。合計すると実に100拠点、100職種以上の量になるのですね。そういった意味で、ここから様々な化学反応が生まれるのではないかと期待しているところです。

Cift 藤代健介さん

――どのような基準でメンバーを集められたのですか。
藤代 : 「Cift」は拡張家族なんですよね。生活の場所であり、働く場所である。だから、“どういう風に暮らしたいか?”“どんな風に働きたいか?”ということがとても重要になってきます。そこをじっくり対話しながら、僕らが目指す世界観や価値観を共有して、繋がることができそうなメンバーを直感的に集めていきました。400人弱くらいの人に“「Cift」というところに一緒に住まない?”って声をかけさせてもらって、しかも“来月から住まない?”っていう話に乗っかってくれたのが、今の40人というわけで(笑)。

石山 : 私もその一人なんですけれど(笑)。家賃だって1.5倍くらい上がるし、図面しか見ていなくて、一切、内見もせずに決めるという、無茶苦茶な意思決定だったとは思うのですが(笑)。でも、“自分が何を実現したいのか?”とか、“どういう思想を持っているのか?”というところをすごく深掘りし、会話したうえで共感が生まれたので、すごくフェアというか、納得できた感覚はありました。

内閣官房シェアリングエコノミー伝道師・石山アンジュさん

――とても先進的なコミュニティですね。シェアハウスでもなく、コワーキングでもない。あるいは、その両方の要素を兼ね備えているとも言えるような気もしますし…。
藤代 : 僕たちがやろうとしているのは、シェアハウスやコワーキングスペースとは違っていて、“コーファミリー”、という概念で共に暮らし、共に働いて、社会と繋がっていくということ。コンセプトも「Cift」のメンバー全員で作り、そしてみんなで実践しているんですよね。すごく村っぽいコミュニティなんですよ。でも閉ざされていない、あくまでも開かれた村。都会の中で村的に、血は繋がっていないけれど、“価値観”で繋がっている村という感覚ですね。こういったコミュニティが増えていくことって、かなり“Peace”だと思うんです。こういった「コーファミリー」が「Cift」だけではなく、日本中に1000個くらい生まれていったら、それは一つの市場になりますよね。この“村的”な暮らしの中に必要な商品やサービスが、ひとつの価値を生む可能性だってあります。そういった観点で大手企業と手を組むことができるし、あるいは地方行政の人たちと一緒に、これからの移住対策やIターンの話だってできるかもしれない。“価値観”で繋がっている“村”という概念は、これからも様々な領域で応用ができるのでは?と考えているのです。

Ciftのリビング

――参加している立場であるアンジュさんはいかがですか。どういった部分に共感を覚えて「Cift」に参加しようと思ったのでしょうか。
石山 : 今の藤代さんのお話は、あくまで土台であって、特定の考え方に共感して入居を決めたというよりは、むしろこの考え方を創造する土台に共感したという部分が大きいです。私という人間が持つ“色”が、その土台の上で、他の参加者の持つ“色”と混じりあった時に、どのような新しい概念が生まれるのかということに期待を込めているというのが正直なところです。いわゆるコミュニティやワーキングスペースでは、だいたい似たような属性の人が多く集まる傾向がありますよね。例えばITとか。でも、ここには、クリエイターというくくりはあるものの、一般的に認識されているクリエイターではなく、あくまで創造的な人が集まっているのですね。例えば、弁護士みたいにビジネスビジネスしている職種の方もいれば、映画監督やメキシコに住んでいたソーシャルヒッピーみたいな肩書きのクリエイターもいたり、ほんとに全く違うバックグラウンドの方が集まっている。同じ属性の人たちとは違った化学反応が生まれてくると思うのです。

――藤代さんはいかがですか。数か月間にわたって、皆さんと共同生活を送ってみての、率直な感想というのは?
藤代 : すごく幸せですよ。自分の考えを押し付けるでもなく、同じ考え方を持った人がこんなにいたのだと、単純にありがたいなとは思います。たしかに、“新たな取り組み”や“新たな生活のあり方”を発信する実験的な場ではありますが、明確なゴールに向かって、それを達成していこうという集団ではない。結局、今の社会って、あまりにも結果を求めすぎていますよね。仕事は結果が重要ですけれど、生活はプロセスですよね。仕事にはゴールはあるけど、子育てにゴールはない。だから僕たちは、今この瞬間の生活を噛みしめたいって思うんです。

――周囲の方々、例えばこの場所を提供している企業や渋谷区は、「Cift」にどのようなことを期待していると思われますか。
藤代 : 僕たちは、企業や行政から一切の援助を受けていない、独立した存在です。ですからしっかり家賃も払っているし、同時にこの渋谷キャストを活性化させるというミッションを引き受けているパートナーでもあるのです。経済的に自立するということは、こういったコミュニティ運営にとっては重要な要素なのではないかと思います。バックアップしてくれる企業や行政のためにという文脈ではあまり意味がなくて、そうではなく、大手企業と僕らのような市民のコラボレーションによって、こういった新しい価値を提供できることは、社会に対して意味があると思っています。行政もそう。渋谷区のためにではなくて、渋谷区と市民が繋がることで、こんなに街が良くなったという形を発信するのだと、そういう意識がなければ意味がないと思うのです。

――今後、「Cift」はどうなっていくのでしょうか。
藤代 : まだ、スタートしてから2ヶ月経っていないくらいですから、まだまだ概念先行といった状態。メンバー同士もまだまだ混ざり合っていない。お互いのポジションを尊重しながらも、入り込んで混ざり合って、例えばアンジュよりも僕のほうがアンジュのことを知っているみたいな状態になって、はじめて化学反応が生まれると思うのです。これは経済活動じゃなくて運動論なんですね。経済活動はある種の目標や外的要因から予想ができるのですが、運動論は内的な部分に意識を集めないといけないし予想ができないものです。ということは、今の状態よりもっと混ざり合っていって、より“共にある”という意識が強くなっていく先に、結果的に色々なアウトプットが生まれてくるのではないでしょうか。まだまだ全然混ざり合ってないよね?

石山 : そうですね (笑)

――石山さん個人としては、今後、「Cift」の中でどうしていきたいのか。現時点では、どのようにお考えですか。
石山 : 私が普及を推し進めているシェアリングエコノミーの本質は、共有することで豊かさを享受するというものですが、この「Cift」という生活共同体で、メンバーと一緒に暮らしながら働くことで、どのような豊かさを実感できるか、この実験的な試みの中で筋道を見つけることができれば、それはたぶん、多くの人にとっても“新しい生活あり方”として伝えられるのではないかと思っています。また、もうひとつ観点があって、これからの時代は「頼れる人、拠り所になるコミュニティや繋がり」が生活における「安心」になっていくと考えています。コワーキングスペースが増えることで働ける拠り所が増えていくように、暮らしにおいても、そういう拠り所となるような場所が増えていくと思います。そういう意味で「Cift」が目指す拡張家族のあり方は、まさにど真ん中なんですよね。例えば、明日地震が起きて、何もなくなってしまっても、頼りあえたり、一緒に仕事を創ったりしながら生活していけると思える繋がりを持っていることが、心理的な安心を招き、一つの企業に縛られ不自由さを感じるとか、上手くいっていないのに我慢し続けなければいけない家庭の枠組みなどに依存するという状況から解放される。それって、この先、どのように変化するか分からない社会においても、常に平和に暮らせる一つのあり方だと思うのです。それを自分は「Cift」で体現していきたいと思っています。

藤代 : 生活単価を上げるために人は一生懸命働くのですが、一生懸命に働いていることが自分の不自由さを招いているのもたしか。だから知らない間に“仕事が大変だな”“嫌だな”って、どんどんストレスになっていくのだと思うんです。これからは仕事とプライベートというものが、二元で話されることがなくなっていくと思っていて、その先進的事例が多分ここになるのだろうなとは思っています。

石山 : そうですね。仕事とプライベートは垣根がなくなっていくと私も感じています。Ciftのメンバーはいい意味で公私混同の人が多いですよね(笑)。シェアリングエコノミーが普及していく上でも、メルカリや民泊のような“生活の中で収入を得る”形態やAsmamaやAnytimesのような “助け合いの中で稼ぐ”というような働き方がどんどん一般化していくと思っています。“仕事に行ってきます”ではなくて、普通に暮らしている中で収入が得られたり、普通に暮らしている中で自分の生活のPDCAが回っているという状態が、これからの一番豊かな暮らしなのではないかな、と思います。

――メンバーの人たちが集まってこういう話をたくさんするわけですね。そういう時間は幸せですよね、しっかり向き合って真剣に話をしたりするのはすごく大事だなと思います。
藤代 : 幸せを感じるのはめちゃめちゃ楽しい時というよりは、むしろ悲しみを共有できた時かなと思うんです。さっきの地震の話もそうですけれど、リスクが起きた時こそ価値観で繋がっている人同士でなければ、本当の気持ちを話しても伝わらないことってあると思うのですよね。自分が直面している価値観における悩みを共有できる時に、悲しいけれども繋がることができて、お腹の中から温かくなるような。それは価値観で繋がっている家族みたいな関係だからこそ共有できると思うのです。結局、本当の安全とか安心って法律や従来の価値観の中で確保することは難しくて、自分の意思で、しっかりそういった環境を選んで、そこに属し続けるということが大切なんじゃないかなと。僕たちがやろうとしていることって、もしかしたら、ところどころほころび始めた“近代”に変わって、新しい社会の価値が生まれていく、そんな準備体操なのかもしれませんね。

Photo by Niko Lanzuisi

この記事の登場人物
  • 藤代健介さん
    東京理科大学理工学部で建築学を学び、慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科でサービスデザイン学を学ぶ。大学の設計活動では数々のコンペティションで入賞。大学院在学中には国内外で様々な活動をしながら、株式会社 prsm を設立。現在、株式会社 prsm 代表取締役。世界経済フォーラムが主催する33歳以下で構成されたコミュニティである Global Shapers Community 東京ハブ 2016年代表。
  • 石山アンジュさん
    シェアガール(内閣官房シェアリングエコノミー伝道師) 1989年生まれ。一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局渉外部長、クラウドワークス経営企画室の傍ら、世界各国のシェアサービスを体験し「シェアガール」の肩書で海外・日本でメディア連載を持ちながら、シェアリングエコノミーを通じた新しいライフスタイルを提案するシェアリングエコノミー伝道師。 2017年3月15日内閣官房シェアリングエコノミー伝道師任命。 ほか総務省地域情報化アドバイザー、厚生労働省委員も務める。 都内シェアハウス在住、実家もシェアハウスを経営。社会活動として渋谷区「EBISUTOWNMEETING」を主宰。
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