株式会社サイバーエージェント・クラウドファンディング 代表取締役社長 中山亮太郎氏

株式会社サイバーエージェント・クラウドファンディング 代表取締役社長 中山亮太郎氏

クリエイターや起業家が資金調達をする手法のひとつとして認識されているクラウドファンディング。中山亮太郎社長が率いる「Makuake(マクアケ)」は、日本のクラウドファンディングとしては、かなりの後発サービスでありながら、その圧倒的な資金調達力を武器に、国内No.1サービスの地位を確立しています。これだけ多くの利用者から支持を集める理由は一体どこにあるのでしょうか。Makuake誕生秘話やサービス設計を構築するうえでのこだわり、そして今後のビジョンについてお話を伺いました。

――他のクラウドファンディングにはないMakuake“ならでは”の特徴があったら教えてください。
とにかく世の中にはない新製品や新店舗、新コンテンツといったアイデアが、毎日絶え間なく登場しています。見ている人が“面白い”と思える、そんな体験が味わえる場であると自負しています。
従来のクラウドファンディングといえば、どうしても“お金を集める側”の文脈でしか語られなかったことが多く“お金の出し手”の楽しさや体験がないがしろにされていたように感じていました。なのでどうしても人脈が多い人のみしか十分な資金を集めることができない、そんな仕組みになってしまっていて、でもそれって民主的ではないなって思ってまして、人脈がある無いにかかわらず、優れたアイデアをカタチにできる人、面白いものをつくることができる人たちの思いや“やる気”、エネルギーをしっかりカタチにする、そんなサービス設計となっています。
しっかりアイデアで勝負できる場にするためには、“誰がやっているから”ではなく、“どんな面白いものが登場しているのか”ということにきちんとクローズアップする必要があります。
アイデアで勝負できる場を支えるのはやはり、圧倒的に質の高いアクセス数です。ファンであるリピーターの数が業界では群を抜いていますし、多くのファンが集まれば、それに惹かれて面白いアイデアを持ちこんでくる人や企業がどんどん集まってきて、さらに面白い新商品やサービスなどが提案できるようになる。そして、またここから生まれる魅力的なアイデアに惹かれて多くのファンが集まってくるという、良い循環が生まれています。

――Makuakeがここまで受け入れられた理由をどのように自己分析されますか。
Makuakeが登場する以前は、ものづくりに携わる人たちがクラウドファンディングを活用するという例がほとんどありませんでした。本当に一部の情報感度の高い人やITリテラシーの高い人だけが活用しているという状況が続いて、でもそれも当然のことで、ものづくりに関わる人の多くが得意とするのは、あくまでモノづくりや、面白いプロダクトを考えていくことなので、顧客をダイレクトに捕まえるということは得意ではないことが多いです。一方で個人の趣味嗜好が多様化している今の時代においてそういった面白いプロダクトを求めている潜在ニーズが市場に大きく存在することも感じていましたので、そんな面白いプロダクトやアイデアを世に送り出したい人たちと、その誕生を待ち望んで応援する人たちの架け橋になれればと考えました。また、Makuakeを多くの方にご利用いただくためには、ひとつひとつ丁寧に取り組む。その姿勢はもちろん、今でも変わらないのですが、Makuakeをご利用された方を確実に成功に導いていく、そんな取り組みの繰り返しがプラスのスパイラルを生んでいったのだと思っています。

――利用者の方に対して、Makuakeさんはどの程度関与されていくのですか。
製品やサービスそのものに関与はしていかないのですが、実行者に対して専任のキュレーターを配備して、一緒になってターゲットを整理したり、その魅力をしっかり発信できるようなPR手法を考えていきます。実行者にとっては、資金をたくさん集めるサポートだけでなく、自身のチャレンジを応援してくれる伴走者としてのキュレーターの存在は非常に心強いと思います。私たちの社内でも“応援魂を持ち続けよう”というマインドを共有していて、チャレンジャーに対するリスペクトが文化として定着しています。

――もはや、単なるクラウドファンディングの範疇には収まらないサービスですね。
一般的なクラウドファンディングとは軸足が逆になっているからだと思います。あくまで、新しい価値を生む手段としてクラウドファンディングがあると考えています。だから、私たちは、その新しい価値が生まれるハードルをどれだけ下げていけるのかを考えています。資金調達も一つの手段ではありますが、ハードルを下げるという観点からすれば、もっと色々な人やアイデアをマッチングさせることも有効だと思っています。そういう意味では“シェアの概念”みたいものがあってもいいと思うのです。例えばスキルシェアであったり、もっと単純に“手伝ってあげたい”と思う人でもいい。様々なマッチングの中で、チャレンジに対するハードルを限りなくゼロにすることで、もっと面白いことができるはずなのにお蔵入りしてしまうような、そんな世の中にとって負を取り除いて行きたいと思っています。新しい価値が絶え間なく生まれる環境をつくり、世の中が加速度的によくなっていって欲しいという思いです。

――そもそも中山さんは、どのような思いからMakuake事業を始められたのですか。
2010年から2年半ほどベトナムでベンチャーキャピタルをしていたのですが、あたりを見渡しても家電製品、スマートフォン、パソコン、映画や音楽というコンテンツでさえ、日本製のものが使われていないと肌で感じていました。数年前には、もっと普及していたのに…。確実に日本がトレンドリーダーだった時代もあったのですが、そんな片鱗すら感じられないような状況になっていました。ところが、日本から聞こえてくるのは「ものづくりJapan」「クールJapan」というスローガンであったり、“日本のコンテンツやモノづくりが世界を席巻している”みたいなニュースばかり。現地に暮らすものとしては、そのギャップの大きさに疑問を感じました。
その一方で、ベトナムでは当時、iPhoneが年間200万台も購入されていたんですよ。Appleは正規代理店をベトナムに置いていませんでしたから、一切プロモートなんかしていないし、しかも平均給与や物価から考えると、ものすごく高額な商品なのに大ヒット商品になっている。そのときに当たり前ですがシンプルに“人々が欲しいものをつくることが重要だ”と思いました。“じゃあ、日本ではたくさん人々が欲しいと思うような思い切った製品が次々に誕生しているかといったら、まったく逆だ”とも思いました。売れ筋の商品を、いかにコストを下げて似たようなものを出していくかという文脈のものが多くなっていたと思います。その時々の流れを掴んだ新しい市場を創出していけるような新製品をもっと生み出しやすくする必要性を感じていました。
もっとアイデアを生みやすい空気感やサービスがあれば、日本が持っているポテンシャルが発揮できるのではと考えいたちょうどその頃、サイバーエージェント本社からクラウドファンディングのグループ会社を設立するから社長をやらないかという連絡がきて、ピンときたんですよね。このビジネススタイルであれば、私がやりたいことが実現できそうだと。それがMakuakeをはじめるきっかけになりました。

――アイデアをカタチにしたいと考える利用者は、どのように応募すればよいのですか。審査はあるのでしょうか。
様々な経路があります。ひとつはWEBサイトを見てお問い合わせをいただいたのちに登録、応募してくださるというパターン。個人はもちろん、企業であったり、プロジェクトチーム単位でお申込みいただくケースもあります。あとは、私たちには日本の津々浦々を活性化したうえで、日本全体を活性化させたいという思いがあるため、全国の地方銀行、信用金庫さんと連携し、新しいビジネスを仕掛けていきたいと考えている地方拠点の企業様をご紹介いただいています。
もちろん、審査はありますが、その製品やサービス自体が“面白いか面白くないか”は、ネットの向こうのユーザーさんに決めてもらうものなので、私たちはそこを審査基準にはしておらず、それが“実現可能かどうか”だけチェックさせていただきます。皆さんから集めた大切なお金をお渡ししたはいいけれど、作れない…という話になったら、大変なことになってしまいますからね。

――“面白いかどうか”を審査基準にしていなくても、結果としてあれだけ面白いアイデアが並んでいるのはどうしてなのでしょうか。
どんなアイデアにもキラッと光る面白さがあります。まだ世の中に出ていないものが、あと一歩でカタチになろうとしている、そんな段階にあるアイデアには、発案者の情熱や魂みたいなものが必ず眠っていて、「お!」と思えるような特徴が大なり小なりあるものです。それをうちのキュレーターが見逃さずにキャッチして磨いて、際立たせてあげるという感覚でしょうか。ただ単純に購入するだけではなく、自分がいいなと思えて、応援したいというアイデアに対して関わっていけるという体験価値も併せて提供しています。いわば作り手と消費者の間に入っている“応援顧客”になってもらうみたいな、今までになかった立ち位置を生み出しました。

――最近のプロジェクトの傾向をお聞かせください。
最近は、地方の企業や個人から新たな製品が生まれるケースが増えています。面白いものが生まれるポテンシャルは実はこうして地方に眠っているにも関わらず、ここ10年20年は見逃されていたのではないかと思うのですよね。
リピートする実行者も増えています。リーンスタートアップのように、小さなところからものづくりを始めることができるところがあって、新製品や開発品のテストマーケティングとして使用される企業も多いですね。リスクを最小限に抑えながら小さく始めて、市場に受け入れられるかどうかまで確認できますから。また新しいモノ作りや店舗を作るという話だけではなく、京都の祇園祭の運営資金をMakuakeで集めるというようにトラディショナルなものを守っていく、そんな活用法もあります。

――そういった新たな活用法は、どのように切り開いていったのですか。問い合わせがあったわけではないのですよね?
こちらから門戸を開いていったというか、“こういう使い方ができる”と提案しながら、私たちが積極的に働きかけて新しい市場を開拓していきました。基本的には誰もが活用できるプラットフォームなのですが、それを気づかせて行く必要がありましたからね。まずはメーカーさんが活用できるというところからはじまり、飲食店も使える、商業アニメ制作の現場でも使えると、業界をひとつ一つ切り拓いていきました。「この世界の片隅に」という大ヒットアニメも、そういった提案過程の中から生まれた話です。資金が集まらずに中々制作が難しかった企画がMakuakeのサポートによってカタチになり、そして大ヒット作品になったという事例は、活用ジャンルを開拓するための成功事例となったのはもちろん、これまでお話してきたような、“優れたアイデアを埋もれさせることなく世に出すことができた”というMakuakeの思いを体現した好例だと思っています。
さらに、最近は大手企業の開発部門の新たなプロダクトへのチャレンジを後押しするような取り組みも進めています。例えば、シャープさんの液晶に使用されている温度保持の技術と酒造メーカーを結んで、氷点下での飲む美味しいお酒の共同開発を進めていただいたりしました。こういった新たな取り組みを前に進めるのは企業にとっては大きなリスクとなりますが、Makuakeを使えば小さく始められて、しかも世の中の反応を見ることができます。
現在、日本においては19兆円の研究開発費が費やされていますが、その中で実際に世の中にアウトプットされる技術は本当に一握りでしかありません。これって間違いなく国力の棄損というか、国宝がこんなにもたくさんあるのに、埋もれたままになっている状態で、非常にもったいない。これまで数千件のアイデアを目にしてきた中で培われてきた私たちのデータやノウハウを活かし、メーカーさんと一体となって、素晴らしい技術を活かした新たなプロダクトを生み出していきたいと思っています。

――将来的な運営ビジョンについてお聞かせいただけますか。
私たちが掲げるビジョンは「世界をつなぎ、アタラシイを創る」というもので、世界で一番、新しい事業プロジェクトが生まれてくる場所にしたいという思いがあります。それを実現するためのひとつの手段としてクラウドファンディングがある。新しいことを始められない理由はお金だけではないときもあったり、このアイデアは世の中に受け入れられるのかこれは売れるのだろうかという不安のほうが大きいときもある。今後も何かと何かをマッチングしていくことでバイアスやリスクを軽減し、チャレンジするうえで妨げになるハードルそのものを下げていけば新たなプロダクトやサービスがどんどん生まれていきます。そして最終的には“地方創生”に限ることなく、“日本創生”を後押ししていきたいと考えています。

Photo by Niko Lanzuisi