前編の記事では、千葉恵介さんが“感謝経済”を提唱し始めた背景についてじっくりインタビュー。既成の資本主義社会の矛盾について説明がありました。連載第二回となる本記事では、さらに数値化されない感謝経済の利点について言及。これからの時代を生きるためのヒントを熱いメッセージとともにいただきました。

――単純な質問で恐縮ですが、千葉さんが考える感謝経済って、今の貨幣経済に置き換わるものなのですか?

最近は、OKWAVEさんやツクルバさん、PEACE COINさん、キングコング西野さんも“感謝経済”に関連する取り組みを始めていますが、実は僕たちが提唱する感謝経済とは大きく根本的な思想が違っています。その差異を一言で説明するとしたら、僕らは数値化しない感謝経済の在り方を模索しているということです。

数値化すると、どうしてもそこに客観的な評価が入ってしまいますよね。でも、感謝って内側にあるもので、それはあくまで主観的なものです。客観的に数値化されて評価されるものではありません。

たとえば幸せな国ランキングで上位の国に住む人は全員が幸せなのでしょうか?日本はランキング下位の国ですけれど、僕は幸せに暮らしている。数値化すると主観と客観のずれが生まれてしまいます。ランキングならまだよいのですが、感謝をやりとりして数値化されたポイントを交換するのは、基本的には既存の資本主義の仕組みから脱せていないような気がします。また、感謝を数値化してしまうと、感謝に優劣がでてしまう。本来、優劣のない感謝に格付けが行われることに違和感を感じます。

僕らは今、僕らの感謝経済に共感する人たちが自発的につながっていくコミュニティを形成しています。感謝経済圏の中でプロジェクトを起こしたり、オフ会や交流も生まれています。イベントを企画すると、フリマをやりたいとかごはんを振る舞いたいとかワークショップをやりたい人が集まって、感謝経済の具現化を進めています。

私たちのコミュニティではサンクスレターを贈りあっているのですが、感謝の気持ちを数値化せず、感謝指数を図ろうとはしていません。なぜなら、ランキングや点数ではなく、その人を主観的に評価すべきだからです。この人に会いたいと思ったら、ポイントやランキングに関係なく会えばよいのです。

――これも愚問なのですが、感謝経済だけで実体経済って成り立つのでしょうか?ぶっちゃけ、感謝だけで生活ができると?

家族間で金銭取引は行いません。もし、世界中の人々が地球人として全人類を家族だと認識できれば、貨幣の介在がなくても、必要なモノを交換したり共有すれば良い。そういう価値観が浸透すれば、みんな生活できますよね。

それがいつ来るかはわかりませんが、少なくともシンギュラリティが起こる可能性がある2045~2050年に向けてその準備はしておいたほうが良いかと思っています。そこで生まれる新たなテクノロジーの助けを借りながらにはなるとは思いますが、究極的にはみんな家族、兄弟だから、お金がなくっても贈与だけで生活できる世界がくればよい。

それを実践しているのがフィジーですね。お互いのものを共有する“ケレケレ”という文化があります。感謝経済だけで生活できる社会が実現できれば、所有という概念がなくなって、世の中の諸問題がなくなるような気がします。地球はみんなのものだし、資源もそう。国という概念も宇宙から見たらちっぽけなもので、国境なんて見えないわけですから。

――そこにたどり着くまでには相当な時間というか、既成概念を大きく覆す必要があって、そのためにはいくつもの困難はありそうですが。

いえいえ。僕はそんなに時間はかからないと思っていますよ。これだけ地球の環境問題に起因する自然災害が起こっているし、世界のあちこちで経済破綻も起きつつあるので、もう変わらざるを得ないのですよ。

その時にあたふたしないよう、セーフティネットとして、それに気が付いた人たちをうまく導いていく必要があると思っています。今、45人の仲間たちがいますから、その人たちが主体となって自分の家族や友人を巻き込んでいけばいい。それが一億人になるとはまったく思っていなくて、せいぜい100から200人のコミュニティでよいと思うのです。そのくらいの規模のほうが信頼のバトンをつなげられます。

さらに僕らの考えに共感する企業、行政と手をつないで、その地域住民の中で感謝経済を動かしてもらえばいい。感謝経済に共感する人たちは、お互いに小さな自分たちのコミュニティで感謝経済を実践してほしいのです。むしろサイズが小さいほうが実践しやすいですよね。要するに、今の世の中ってサイズが大きすぎるのですよ。

これって地方創生にも転用できる考え方ですよね。何も東京に一極集中する必要はない。お金を使わなくても生活できる経済圏が点在していけばいいし、何も東京みたいなモデルを地方に作る必要なんてないのです。

――なるほど。千葉さんは今のシェアリングエコノミーってどう思っています?

感謝経済と考え方は近いとは思いますが、今のAirbnbやUberをはじめとするシェアリングエコノミー は、思いっきり資本主義だなと思っていて、本来の”シェア”ではないような気がしています。遊休資産を活用するという副業のひとつとしか捉えられていないのが残念。もともとのシェアの概念って、別にお金が欲しいからではなく、友人になりたいとか、空いているものを活用して人の役に立ちたいとか、そういったものであったはず。その考えは感謝経済に近いのですが、そういった意味で今のシェアリングエコノミーは肯定できませんね。

――原点に返るべきということですね?

まさにそう思います。僕らも感謝経済を表現するときに“原点回帰の資本主義”という言い方をしています。今って何でも、アップデートではないですか。“ポスト資本主義”とか“お金2.0”とか“Society5.0”って言い方をしますが、あれはすべてアップデートで、終わりがありません。つまり、いつまで経ってもバージョンアップし続けるという意味で、既成のものの延長であって、持続可能ではないのです。

僕たちは0.0なんです。西洋医学の対処療法ではなく東洋医学のように生活習慣そのものから取り換えてしまいましょうと、元に戻すべき時期が来ていますよというメッセージを発信しているのです。“ポスト資本主義”とも“アンチ資本主義”ともいわず、あくまで原点回帰なんです。その原点が、恩贈りをする贈与であり、その根幹の価値観に感謝があります。

今の経済に対抗して社会を変えるつもりではなく、僕たちなりの新しい社会を創っていけばよいのだと考えています。いろいろなやり方があって良いと思うのですよ。新しいサービス作って社会を変えていくと思う人は、そうすればいいし、六本木のマンションに住みたい人は住めばいい。人によって幸せの在り方は違うので否定しません。感謝経済圏に入りたい人は入ればいいし、ちょっと嫌だという人は出ていけばいい。人の循環は血液と同じで、止めてはいけないと思っています。

お金を稼ぐことが社会のためになっているというのは、結局、お金という指標で物事を測っているからにすぎませんし、価格として表現できる価値しか評価できない感謝も数値化すると、その人をありのまま評価できないのと同じなんです。だから今の世の中、お金持ちがすごいという話になってしまう。

そして、その根幹には私的所有権から派生した”株主”という存在があり、彼らに利益配当があるように会社経営をしなければいけません。スタートアップ界隈にいた時によく数千万円の出資を受けたとか、数億円でバイアウトしたとかという投稿がSNSで回ってきたり、話を聞いたりしたことがありました。本来自分が信念を持って命を懸けてやっている事業であれば、いくら調達してようと関係ありませんし、ましてはバイアウトはしたくないものだと思います。しかし、上場によるキャピタルゲインやバイアウトによって株主である投資家にリターンを返す必要があり、理念を持った起業家さえもがお金第一主義の思考になってしまいます。そのため、トレンドを押さえた儲かる事業にはお金が集まります。最近では、社会起業家が注目されるようになってきましたが、まだまだ浸透しておらず、社会的意義のある事業に命を懸けて行なっているにも関わらず、あまり評価がされていないと感じます。僕は、そこに矛盾を感じています。

お金や定量で単純化してしまうのって、なんか生物的じゃないというか、有機的ではないですよね。数値化できないものが無視される世の中に疑問を覚えます。数値は結果でしかないから、お金を稼いでくる人が評価され、専業主婦は生産性が低いとか言われてしまう。でも、一番、生活を支えているのは主婦ですよね。それに疑問を感じる人が増えてきたから、逃げ恥が流行したのだと思います。

感謝経済という世界でもそうで、僕だけでは何もできないけど、仲間が支えてくれているから、こうして表に立ってインタビューを受けることができています。こうしてメディアに出ると、僕がすごい人だと思われがちですが、本当にすごいのは、感謝経済という無茶苦茶なビジョンに乗っかってくれてるメンバーの人たちです。コミュニティには、たくさんの人たちがいて、ともに感謝経済圏を醸しています。多くの人や生態系に支えられて生かされている。この気持ちは忘れてはいけないですよね。
300年前に近代資本主義が生まれ、300年経ってそれが成功し物質的に恵まれた時代が訪れました。先人たちが命をかけて築いてくれたことに感謝し、次の300年を見据えて、物質だけでなく精神的にも恵まれる時代を創っていきたいと思っています。僕たちは、まだこの世に生まれていない次世代のためにも感謝経済を醸していきます。