9月に開催された<SHARING CITY FUKUOKA 2016>では、多くの識者やサービス事業者が集まり、シェアリングエコノミーの現状と課題についてトークが行なわれました。『福岡移住計画』代表の須賀大介氏、勉強家/京都精華大学人文学部特任講師の兼松佳宏氏、『一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス』代表理事の木下斉氏の発言を基に「シェアリングエコノミーが実現する未来」をまとめた前編に続き、後編ではディスカッション終了後の3名へのインタビューも交えて、シェアリングエコノミー普及への課題を考えてみたいと思います。

_DSC9442

サービスが世の中に広がるのは“切実なニーズ”があってこそ

ビッグデータを使ったマッチングを利用し、モノやサービスを共有するシェアリングエコノミー。日本でも2016年は「シェアリングエコノミー元年」として大きな話題となり、総務省によるとPwC「The sharing economy – sizing the revenue opportunity」では、シェアリングエコノミーの市場規模が2025年までに約3,350億ドルに成長する、と言われています。

前編では、このサービスが世界的な都市部への人口の集中や、日本の少子高齢化に対応するために普及しつつあることや、マッチング機能の進化によって、水道を筆頭にした公事業のように爆発的に利用されるものだけでなく、「より小規模なものにまで範囲が適応されることがシェアの本質」という見解が語られました。では、これからシェアリングエコノミーが普及していくためには、どんな壁を乗り越えなければならないのでしょうか。3名の間でも、シェアリングエコノミーの特徴に則した様々な普及の方法が議論されました。

_DSC9358

木下氏: たとえば、ラブホテルを再利用した物件を売り出したとしますね。その場合、一般的な家を求める人にとっては風通しが悪く、決して快適な環境とは言えません。けれど、防音効果のある部屋は趣味や仕事で大きな音を出す人にとっては理想の物件になりえます。分かりやすく言えば、これがシェアリングエコノミーの本質です。つまり、必要なモノが必要な人に高確率で届く社会を実現することで、都市生活をより豊かにし、同時に少子高齢化を迎えた現代社会が抱える問題を解決出来るということです。

兼松氏: その際、大きな問題となるのは、スマートフォンを持っている人は享受できるけれど、それ以外の人々には届かない、ということですね。それが特に年配の方へのシェアリングエコノミーの普及を妨げている部分もあると思います。たとえばうちの父親が最近Facebookで趣味のゴルフについての投稿をはじめたのは、親が子供とコミュニケーションを取りたいという社会の一般的なニーズに基づいているはずです。同じように、(SNSなどを通して)孫と頻繁にコミュニケーションが取れると知ってスマホを持った人も多いはずですから、社会のニーズに沿う形で普及を進めるのが大事だと思います。

須賀氏: そうですね。また、「地方」という観点で言えば、田舎に行けば行くほど「シェア」と横文字になるだけで、お年寄りの方には、よく分からないと言われることもあります。『福岡移住計画』で運営しているシェアスペースでイベントを行なう際にも、クルマがたくさん止まっているだけで、宗教でもやっているんじゃないか? と警戒する地域の方がいるんですよ。そういう方達にも理解しやすい普及方法を考える必要があるはずです。

_DSC9391

木下氏: 本来、より小さい都市の方が(行政の規模が小さいため)新しいサービスを実現するまでの意思決定のハードルは低いはずなんですけどね。とはいえ、地方都市において、うちは夜になるとタクシーは一台も来ないです、と自分から宣伝する人間はそういない。ですから、地方が抱えている小さな問題を見つけて、自治体と一緒に仕組みを作ることが大切だと思います。従来あったインフラが不足しているところに目を向けるといいかもしれません。

木下氏: そもそも、世の中には変化を好まない人もいるわけですから、急激に変化を起こすのではなく、少しずつ規制を解除するのが一番です。中長期的に考えると地方は過疎化が進みさらに人手が不足するため、みんなで時間を効率的に活用してトータルの収入を上げるシェアリングエコノミーの重要性は増してきます。しかし、民泊でもそうですが、いきなり全面解禁すると既存サービスから反対意見が出るのは当然のことです。ですから、段階的に地元の店舗と手を組んで、試験的に進めていく方がいいかもしれませんね。

須賀氏: 実際、シェアリングエコノミーは新しいサービスではあるものの、元を辿ればこれまでの地域活動や近所づきあいにもシェアの要素は含まれていたと思います。そういう意味では、古くからの地域の人脈やコミュニケーションをもとにそうした方との溝を埋められれば、サービスがより隅々まで広がる可能性もありそうです。

兼松氏: また、サービスが世の中に広がるのは“切実なニーズ”があってこそです。そのため、人々の習慣からサービスを掘り起こす必要がある。たとえば、カーシェアが広まったのは、レンタカーの手続きが面倒臭いからでもあります。それと同じで、サービスありきではなく、先に習慣があって、それを補足する形で可能性を考えることが重要です。

木下氏: とはいえ、現状ではどの会社のどのサービスが残るかも未知数です。そうした状況において何よりも大切なのは、出来るだけ多くのサービスをあらゆる分野で「小さく試せる」構造を作り、「最初から全体の話にしない」ことだと思いますね。

代表的なシェアサービスとして知られる『Airbnb』が2008年に誕生し、日本では今年が「シェアリングエコノミー元年」と言われている通り、シェアリングエコノミーの歴史はまだ浅く、社会の一般的なインフラとしての役目を果たすためには時間がかかります。その際、「イエスかノーか」の二択で選択を迫るのではなく、既存のサービスと共存しながら普及を進めていくことが、これからの大きな課題と言えるでしょう。実際、2013年にカリフォルニア州で合法化されたライドシェアサービスも当初は業務停止命令を受け、その後従来の産業や条例と折り合いを付けることで、現在では広く活用されるサービスに至っています。また、既存の産業と手を取ることで、シェアリングエコノミー自体に、新しい可能性が生まれることもあるはずです。大切なのは、シェアサービスの枠内を越えて、都市における様々な課題・可能性をトータルに考えながら進めていくことなのかもしれません。

>>前編の記事を読む【未来都市=シェアリングシティの本質と可能性を紐解く!(前編) “無理のないシェア”で社会のニーズと課題を解決】