都会の喧騒を忘れて、のんびりしたい。子どもたちを自然の中でのびのびと育てたい。静かな環境で、じっくりと腰を据えて仕事に集中したい。そんなことができる場所を作りたいという思いを、自分たちの手で実現させた都内の現役大学生がいる。

現在、慶應義塾大学に通う小笠原光将さんは、群馬県の東吾妻の魅力を伝えるための体験型宿泊施設「MAYUDAMA HOUSE」の運営を行っている。地元の方たちの協力や、136万円のクラウドファンディング(https://readyfor.jp/)による資金調達で、築132年の古民家を自分たちの手で改修し、オープンさせた経緯について、お話を伺いました。

__MAYUDAMA HOUSEの活動をはじめたきかっけを教えてください。

僕は大学に通いながら、フリーランスでアプリ開発やシステムエンジニアの仕事をしています。そんな中で、群馬の東吾妻出身で地元のよさを広めたいという活動をしている方と知り合って、以前から空き屋や地方の再生に興味があったので、一緒に手伝うことになったのがきっかけです。東吾妻は、それまで一度も行ったこともない土地でした。
大学在学中は、他にもさまざまな活動をしましたが、このプロジェクトが僕にとって一番学びが多かったです。東京のIT企業さんや、地元の方、家族など、たくさんの方に支援いただいたのですが、異なる世代や職種の方たちと触れ合う中で、接し方や考え方がそれぞれ違うということを学びました。

__大変だったことはどんなことですか?

東吾妻は、今まで観光地でもなんでもない場所で、外部から人が来るということがあまりない土地。そこで暮らす人たちの中に入っていくのは大変でしたね。メンバーが地元の子どもたちと一緒に遊んだり、道路整備のボランティアに継続的に参加するなどして、徐々に認知してもらうことを心がけていきました。
また、スマホがあれば「ちょっと遅れます」などと簡単に連絡できますが、地元の年輩の方たちは携帯も持っておらず、10分遅れると怒られてしまったことも…。加えて、僕らは普段は東京にいて物理的に離れているので、遠隔操作でのコミュニケーションは苦労しました。情報伝達の頻度や、質にも気を使い、最初はすれ違いもありましたが、徐々に東京と群馬それぞれのメンバー全員が、同じ方向を向けるよう、意識しながら進めていきました。

__印象に残っていることはどんなことですか?

最初は地元の人たちに「いつまで続くんだろう…」と思われていたと思うんですが、僕らも1年半の間、毎週末に東京から栃木に通って、道路整備や土砂の掃除、イノシシ除けの設置といった活動を地元の方と一緒にしたていくうちに、次第に地元の方が心を開いてくれて、協力してくれるようになり、受け入れてくれたのは嬉しかったですね。改修をする際も、地元の方が朝の5時から23時まで泊まり込みで協力してもらったこともありました。

中でも、改装した古民家の持ち主である70代の文子さんの存在がすごく大きいですね。文子さんは、元看護士でずっと地元に住んでいる方なのですが、泊まる場所もない僕らを自宅に招いてお世話してくれたり、このプロジェクトを“自分ゴト”として考えてくれて、いつしかメンバーの一人になっていました。地元の方からの人望も厚くて、協力者を自発的に動いて見つけてくれたことも多々あります。人が大好きで、お客さんとの写真をFaceBookにアップしたり、海外からのお客さんのために英語や中国語を独学で勉強したりと、本当に元気でアクティブ。僕らも文子さんにパワーをもらっています。初めは“ド田舎のおばちゃん”と思っていましたが(笑)、その順応性の高さには驚かされっぱなしで、今ではリスペクトする存在。世代を超えて対等な関係で一緒に仕事ができることに、とても感謝しています。

__やりがいを感じるのはどんなときですか?

MAYUDAMA HOUSEは、ご家族で週末に自然の中でゆっくり過ごすため、在日外国人の方が日本の文化に触れるため、学校の授業や企業の研修のために使っていただくことが多いです。そういったお客さんが喜んでくれたり、リピートしてくださることはもちろん嬉しいですが、協力してくださる地元の方たちがとても楽しそうに活動してくれて。メンバーである文子さんやその他の方たちにも「自分たちの生きがいだよ」と言ってくれたのは、とっても嬉しかったですね。

__今後、挑戦してみたいことはありますか?

現在は、Web開発の別事業の立ち上げ準備中なので、その事業をしっかりと軌道に乗せていきたいです。MAYUDAMA HOUSEを始めるときも、フリーランスとして仕事を始めるときも最初はかなり覚悟が必要でしたが、まずは行動してみることが大事だと思っています。自分もまだ走り出したばかりですが、興味のあることにどんどんチャレンジしていき少しずつ形を変えながら自分のライフスタイルを確立していきたいです。
今後は、僕の地元の広島でも、MAYUDAMA HOUSEと同じことができたらいいなと思っています。再現性を持って、地方再生の第二弾にも挑戦したいですね。

__これから地方再生をしてみたいという人にアドバイスを!

恐らく、都会の人が地方再生を始めてぶつかる壁は、現地で動く人の問題。最初の立ち上がりでいかに地元の人に協力してもらい、“外部の協力者”ではなく、自分のプロジェクトとして認識して積極的に動いてくれる地元の人を作れるかどうかが大事なのかなと。うまくいくかなんて誰にも分からないけれど、自分がおもしろいと思うことをまずは現地でやってみる。次第に集まってくる人を大切にして、そういう人たちに「俺がやりたいのはこれだ!」ということを伝えていってメンバーに引き込んでいけると、プロジェクトはうまく回っていくのかなと思っています。