近年、盛り上がりを増してきた「民泊ブーム」。海外からの旅行者を招くことで、ホームステイと同じように、異文化交流を楽しめるだけでなく、副業としてお金を稼げる手段として注目を集めてきました。その一方で、法律やモラルの側面から、賛否両論が各方面でなされている背景もあります。

今回は、民泊を「人生を豊かにする」と定義し、正しい民泊の情報とエッセンスを紹介する民泊総合研究会の代表を務めている阿部さんに、受け入れで気をつけていること、ゲストとのエピソードについてお話を伺いました。

ーー まずは簡単な自己紹介をお願いします。

現在、民泊総合研究会という会の代表をしています。2014年、当時まだテレビに取り上げられることもなかった頃に、私は民泊を始めました。「民泊」とネットで検索しても、本で勉強しようと思っても参考になる情報はほとんどありませんでした。そこで、民泊の良いところも、悪いところもいち早く発信できる組織を発足し、「民泊とは一体何なのか」という問いを定義してきました。2冊ほど書籍も出版しています。

普段はサラリーマンをしていますが、業種は全く関係のない金融系です。学生時代から本業一本で行くことにリスクがあると感じていて、何か副業はやらなければならないと思っている最中に民泊と出会い、本業以外の時間を民泊に注いできました。

ーー 民泊を始めることになった経緯を教えてください。

小学校の頃まで遡るのえすが、テキサスに7年ほど住んでいた経験があります。向こうでは、家に「ゲストルーム」と呼ばれる家族ではない他の方が宿泊できる部屋を用意します。そういった定期的に自分の家族ではない人が泊まりに来るという環境で過ごしていて、そういう環境が好きでした。

それから何年かして日本に戻ってきて、学生、社会人を経て、不動産投資を始めました。これを続けている途中で、民泊に出会いました。

ーー 現在は何部屋ほど運営されていますか。

今、自分で動かしているのは10部屋くらいですかね。少し関わっていたりだとか、部分的に投資しているものを合わせると30近いと思います。

ーー 最初にゲストの受け入れを始めたお部屋について教えてください。

知り合いで既に民泊のホストをされている方がいて、まず彼のところで弟子入りする形で携わり始めました。自宅のリビングを間貸ししていたのですが、月に15万円ほど売上がありました。民泊のいろはを学びながら、何となくコツを掴み始めた頃に、自分でも部屋を借りて始めました。これが私にとって、一番最初の民泊で、一番苦労した部屋になりました。
吉祥寺の駅前、路地に入ったところのラーメン屋さんの2階が空いているので民泊で回せないかという相談から始まり、路地が狭い環境の中、設備や水回りのトラブル、WiFiが繋がらない、そもそも吉祥寺まで観光客が辿り着けないという数多くのトラブルを1年間対応してきました。

ーー ホストを受け入れるに当たって、「ここだけは譲れない」ポイントがあれば教えてください。

ゲストに一番負荷がかかるのは「空港に着いてから、部屋に着くまで」ということが続けていくうちに分かりました。日本まで何時間、何十時間かけて空港に到着して、そこから見慣れない街と交通網をくぐり抜けて部屋に入れるまでは、どんなに民泊を使い慣れている人でも「不安」なんですね。
なので、この不安をなるべく解消してあげられることを意識しています。

「AirPorter(エアポーター)」というサービスがあるのですが、空港から民泊先の部屋まで荷物を運んでくれるサービスなのですが、オプションで空港に到着したゲストに自分の代わりにレターを渡してくれるんですね。「長旅お疲れ様。」、「日本へようこそ。」など文面はその時によって考えるようにしているのですが、これで気持ち落ち着くゲストさんは多いみたいです。ゲストの方が帰る時も同じように、レターを渡してもらうようにしています。

日本に限らず旅行者にとって、到着した時、出発する時、一番良かった事と、悪かった事の印象にその旅の満足度は依存するみたいです。実際にお会いして、お迎えしたり、見送ったりすることができればいいんですけど、普段は働いている関係上、それが必ずしもできるわけではありません。こうした場合にサービスを使うようにしています。

それでも、「できるだけ会う」ようにはしていますね。よくAirbnbでどうやったら評価が上がるのかの相談を受けることもあるのですが、一番効果的なことは実際に会うことです。出会ってよくしてくれた人には、自然と感謝が生まれるものだと思います。

ーー 心に残っているエピソードを一つ教えてください。

ロシアの方を自宅にホストした時が、心に残っています。Airbnbのサイト上でやり取りをしていた時は問題なかったのですが、家に来てもらってから、なかなかコミュニケーションの疎通がうまくいかないことに気づき、「どうしたの?」と尋ねてみると、「実は英語も日本語もよく分からない」と告白されました。もちろん、自分もロシア語は分からなかったのですが、それでも日本に来てくれたことが嬉しくて、スマホの翻訳アプリを全力で駆使してお互いのコミュニケーションを取り合いました。最終的には、近くの居酒屋へ一緒に日本酒を飲みに行きました。

余談ではありますが、一緒にご飯へ行く時には敢えて、旅行客にとっても不親切なお店へ連れて行くようにしています。値段も全部漢字で、日本語の情報でしかインターネットにも掲載されていないようなお店です。旅行者が絶対に辿り着かないところへ連れて行き、日本独特の体験を味わってもらうようにしているんです。

ーー ゲストの方にしてもらって、嬉しかったことを教えてください。

ホストした時には楽しかったよと言ってもらえるんですけど、帰国してからも思い出したように写真を送ってくれたり、手紙をわざわざ送ってくれるとすごく嬉しいですね。

ーー 最後にこれからホストを始める方にメッセージをいただけませんか。

民泊を活用することで人生を豊かにできると私は信じています。民泊総合研究会でも、お金のためよりも民泊を知り、ゲストを迎えることで皆さんの人生が豊かになると信じて続けいます。最初は分からないこともあると思うのですが、ぜひトライしてみていただければなと思います。