渋谷駅からほど近いビルで、60人のクリエイターが共同生活を送っている。個室と共有キッチン・スペースがあるそこは、一見シェアハウスと似ているが、彼らは「拡張家族」というコンセプトで、新しい家族のかたちを追求している。ミュージシャン、作家、料理人、お坊さん、LGBT活動家、政治家、美容師、画家、VC、弁護士…。立ち上げ当初38人だったが1年で2倍の人数に、拠点も渋谷を含め3つに増えたという。今回は、ここ Cift で暮らして約2年経つメンバーの方々にお話しを伺った。

__自立した個人が、共に暮らし、共に働く。2017年5月にスタートした、「拡張家族 Cift(シフト)」で実際暮らしてみてどうですか?

コミュニティマネージャー あいりさん:私は2018年の6月からCiftに住み始めました。入る前は「自分の能力を社会に生かすことができている、すごい人たちのコミュニティ」なんだろうなと。そこに入るのは私にとってチャレンジだろうなと思っていました。Cift内での人事的な役割として働くことの不安もありました。でも、暮らしてみると、考えていたよりもずっと自然に人とつながることができました。

コミュニティマネージャー あいりさん(中央)

出張料理人 ルアさん:ここに入るにあたっては、拡張家族とか難しい言葉もたくさん飛び交う説明会があるんです。そこを自分なりに理解して面白がれる人が来るコミュニティなんだなと感じました。あと思ったことは、大人になると居心地のいい場所を自分で選べるじゃないですか、仕事も住まいも人間関係も。だから、久しぶりによくわからない環境に来たなと。まあ自分で好んでわざわざ来たんですけどね。そういう人たちが40人以上も集まるCiftって改めてすごいところですよね。

出張料理人 ルアさん

まやさん:私は2017年9月に、当時の会社のプロジェクトの一環で、クライアントとして新しいプロダクトを考えるためにCiftに住み始めました。住む前はワクワクと同時にドキドキ、怖い気持ちもありました。Ciftのコンセプトは面白いけど、まったく想像がつかなくて。自分にとって人生をかけた実験だなと。この経験を経たらきっと自分がすごく変わるだろうなと思いました。
1年経って思うのは、自分の心が開きやすくなったということ。以前はあまり弱い面を出せないタイプだったんですけど、話を聞いてくれる人がいる、話さなくても大丈夫というここは私にとって安心していられる場所です。

まやさん

__Ciftに住んでみて拡張家族のイメージは変わりましたか?

出張料理人 ルアさん:Ciftの拡張家族と実家族の概念は違うものだとは感じています。Ciftには「絶対に何かしなきゃいけない」というルールはなくて、ケアしたりシェアしたり、自分として立った上で支え合う仲間。実家族だとそうはいかないですよね。
僕の中で現時点のCiftは“出入り自由の家族というイメージです。だから今はまだCiftとしての家族という感覚を身に着けている最中です。実際の親や兄弟など自分の実家族も含めて考えられたら本当の拡張家族になるのかなと思っています。

るいさん

るいさん:僕は会社員なんですけど、Ciftのメンバーとは会社の同僚よりずっと深い話をしています。家族を意識してつながるコミュニティだからこそ、親切にしたりときに親身になったりできる。ちょっとした問題や課題が出た際にCiftが家族だなと感じることはありますね。

まやさん:ここに住む人が増えていくことはやさしいこと。家族が増えてもCiftのメンバーなら安心できると今は思えるようになりました。

石山さん:去年の夏に、メンバー同士でCiftについて考える機会があって。全員一同に集まることは難しいので、それぞれが時間を作って対話をしたんです。対話を通じて私が感じたのは、「家族という内側に入って向き合うこと」、「向き合うことで出会う新たな感情や価値観を外に発信して作っていくこと」。家族といっても形があるわけではない。だからこそここで暮らすメンバーそれぞれが向き合い、考え、対話を通じてつくっていくものなのなのかなと思っています。

石山さん

__そんなCiftでの生活が本になったんですよね?

石山さん:はい、そうなんです!私は、シェアすること、人と人がつながることで、孤独感や不安感、暮らしや働き方における制約といった生活のほとんどの問題は解決できると思っています。
血縁じゃなくて“意識でつながる家族”があってもいいんじゃないかと。人と人のつながりがあれば、子育てや家族さえもシェアできる。それを体現したのがCiftです。
髪を切ってもらって、料理を作ってもらって、ものもシェアして…ここでの生活では、毎日の生活で必要なことはほぼCift内で循環して成り立っています。

今の日本では単身世代が最も多く、次いで核家族が多い構造です。そんな中、女性が働き社会進出をしながら子育ても介護をするのは無理があります。
さらに、孤独死は年間3万人いると言われています。孤独やつながりがないことは不幸せを招きます。だから、家庭や既存の常識を超えて、新しいコミュニティをもつことは、これからの時代すごく重要なことなのではないかと私は思います。

血縁家族と半分半分の生活でもいい、多拠点生活でもいい。これからの不確かな世の中を生きる上で、Ciftのような拡張家族は、安心して暮らせるライフスタイルのひとつだと思っています。そんなことを『SHARE LIFE~新しい社会の生き方』(クロスメディア・パブリッシング)という1冊の本にまとめました。よかったら読んでみてください。

Cift 藤代健介さん(左) 石山アンジュさん(右)