アクセサリー、ファッション、家具、器、雑貨、革製品などなど全国1万8000人以上の作り手が登録する、手仕事のマーケットプレイス「iichi(いいち)」。

“手仕事”をシェアするこのサービスは、日本のさまざまな作り手の仕事を知り、さらには作品の販売・購入ができる「手仕事のギャラリー&マーケット」だ。

《ものを“作る人”と“使う人”の出会いは、人の生活を楽しく充実したものにする》というコンセプトのもと、作り手側は制作した作品の紹介や販売を行い、使い手側はそれぞれの作品を作り手から直接購入することが可能となる。

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https://www.iichi.com/

では、このiichiを利用している「作り手」には実際にどんなメリットがあるのか? 創作生活を楽しく充実したものにしているのだろうか?

iichiを利用する染織家・西川はるえ(にしかわ・はるえ)さん、ガラス工芸作家・吉田晶乃(よしだ・あきの)さんのふたりに、iichiを使って変わったこと、気づいたこと、実際に使っているユーザーだから分かる「ECのリアル」を聞きました。

プロの作り手が多い、”手仕事”シェアの「iichi」

――まず、おふたりが「iichi」を使うようになったキッカケを教えてください。

西川:私は、今は神奈川県横須賀市で染織工房を構え、創作活動をしていますが、2002年に独立したときは沖縄県で活動していました。といっても、沖縄だけでは「マーケット」に限りがあります。本土ともつながらないと作品が売れない!ということで、自分で「はじめてのHTML」みたいな本を購入して(笑)、ECサイトを立ち上げていました。

――それはもう、切実な問題ですね。

西川:切実でした! とにかく、地方で創作していると「どうやって知ってもらうか」というのが大きなハードルとしてあります。そして、個人で創作活動をしている限り、「宣伝をどうするか」「どうやって売るか」というのは常に大きな課題です。そんなとき、iichiの存在を知り、2011年秋頃にはじめて登録をしました。

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染織家・西川はるえ(にしかわ・はるえ)さん

――他のECサイトではなく、iichiを選んだ理由は?

西川:使い勝手や登録料などの部分も大きいですが、他のサイトとiichiとの一番の違いは、趣味の人ではなく、プロの作り手が多い、という点ですね。プロフェッショナルの集まりかどうか、というのは、自分の作品の見え方にも大きく違いが出てきますので、その点はiichiを利用する大きな決め手になっています。

西山さん作・手織布の名刺入れ 琉球藍

――吉田さんの場合は?

吉田:私の場合、2013年に企画された博報堂とiichiによる商品開発プロジェクト「カップ酒リデザインプロジェクト」に、制作作家のひとりとして声をかけていただいたのがiichiの存在を知ったきっかけです。当時は私自身、ネットショップやECサイトといったものに対する知識がまったくなかったのでとても新鮮でしたね。

――新鮮というのは、たとえばどんなところで?

吉田:単純に「こんな売り方、紹介の仕方があるのか」と。今もそうですが、私の場合はギャラリーや百貨店に卸しての販売がほとんど。ガラス工芸ですので、手にとって重さを感じたり、実際に見てもらったりして購入いただくのが当然と思っていましたので、「写真だけを見て買ってもらえるんだ!」ということにまず驚きました。

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ガラス工芸作家・吉田晶乃(よしだ・あきの)さん

見てくれる人の数は圧倒的に増えました

――実際にiichiを利用してみて、どんな感想を抱きましたか?

吉田:地方にお住まいの方からの問い合わせが多い、ということですね。ギャラリーや百貨店にお越しになるお客様は、どうしても都市部の人が中心です。でも、iichiで地方の方からの注文やお問い合わせをいただくことで、「日本全国に見ている方、欲しいと思ってくださる方はいるんだ」ということに気づきました。

吉田さん作・金箍児(悟空の頭に着いている輪っか)をモチーフにしたグラス「 koji」

吉田さん作・金箍児(悟空の頭に着いている輪っか)をモチーフにしたグラス「 koji」

西川:その点は私も一緒です。以前であれば、商品を置いているお店のエリアだけが対象だったものが日本全国に広がり、見てくれる人の数は圧倒的に増えました。

――お客様とのやり取りや運営的な部分では?

西川:自分でECサイトを運営していたときと比べると、入出金の処理、メールのやり取りなど事務的な作業が圧倒的に楽になりました。以前は、毎回銀行で入金確認をして、「入金がまだですが……」「入金確認できましたので発送します」といった確認メールを何度もやり取りしなければならず、そういった事務作業に時間が取られることがストレスでした。でも今は、iichiのサイトひとつでお客様とのやり取りを完結させることができます。入金確認も月に1回で大丈夫。計算間違いやお客様とのトラブルなども心配する必要がなく、本当に助かっています。

――仮にiichiがなかった場合、今の自分はどうなっていたか、想像できますか?

西川:いや、相当不便だったと思います。たとえば、システムを改良し、時代に即したものにしていく作業もすべてiichiサイドでやってくれるわけです。自分でやっていたら、スマホサイト対応なんて簡単にはできませんから。今、私がしなければならないのは、基本的には作品ができたらそれを撮影して、画像をiichiにアップロードすることだけ。煩雑な作業・準備・手続きが減った分、創作に時間を割くことができます。

吉田:私は、iichiをやっていなかったら他のECサイトを利用することもなかったと思います。つまり、お客様との広がり、つながりは今のようにはならなかったでしょうね。

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「iichi」を通じて世の中の流れを見渡し、創作に活かす

――iichiを使うことで、創作活動において何か変化はありますか?

吉田:普段の創作に影響はありませんが、iichi用として、あまり写真で誤解を受けないものを扱おう、という意識は芽生えてきました。今後は、iichi用に個別のシリーズ作品を作ろうかな、とも考えています。

西川:私の場合、個人でECサイトをやっていた頃は、作品だけじゃなく、糸や染料などの材料も販売していたんですね。でも、iichiへの移行を機に、作品だけに絞り込みました。材料を販売していると、どうしてもサイトに来るのが「作る人」になってしまい、本当に売りたい作品が動かないという弊害もあったんです。どこかで切り替えなければ、とずっと思っていたので、いいキッカケになりました。

吉田:お客様の変化、という部分では私も感じる部分があります。百貨店やギャラリーの場合、お客様の対象がどうしても50代以上。40歳でも若い、というケースがほとんどです。でも、私自身はその年代とはまだ離れていますし、私のまわりにもほとんどいません。だから、iichiを通じて、自分と近しい世代の人と交流ができるのはとても嬉しいですし、ありがたい場だと思っています。それと、iichiスタッフの皆さんも世代が近しいこともあって、とても頼りにしていますし、大切な存在です!

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西川:わかります! iichiって、すごく作り手側に立ってくれる存在なんですよね。私は40代ですが、私よりも上の世代のギャラリーの方には、ECサイトで作品を扱うことを嫌がる方もいらっしゃいます。でも、iichiの皆さんは新しいことに積極的。一緒にいることで、この世の中の流れについていける、という側面も生まれていると思います。

――これから、そのiichiとともに、どんな未来を見たいですか?

西川:今後は、もっと海外にも発信していきたいですね。以前も海外からの問い合わせをいただくことはがありましたが、自分の英語力だと、何か問題が起きた際の対応にどうしても不安がありました。でも、iichiは海外にも目を向けています。言葉やコミュニケーションの部分のストレスを感じることなく、世界を相手に作品を発表できるようになればいいなと思っています。

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吉田:先ほども少し触れましたが、今後は自分の中でもっと棲み分けをしていきたいと思っています。具体的には、iicihはずっと作品を展示・販売ができるので、普段使いや等身大の作品を。ギャラリーや百貨店は短期決戦でどれだけ売るかが勝負。そこでしか売れないもの、高価でも手に取ってこそ価値がわかるものを……といった感じです。

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西川:そうですね。私の場合、呉服屋さんに商品を置いたりもしていますが、安心感だったり、アフターケアといった「お店を通すことの良さ」も当然あります。その一方で、ECサイトならではの良さもありますので。

――どう使い分けていくか、ということでしょうか?

西川:それもありますし、たとえば、Facebookなどでつながった方が「近くでやっているなら」と展示会に来てくださったり、展示会に来てくれた方が今度はiichiに買いにきてくださったりと、リアルショップ、ECショップ、それぞれの良さを高めあうことで、もっともっと「顔の見える作家」になっていきたい。お店を通さず、直接お客様とやり取りができることが大きなアドバンテージなのは間違いないですから。