内閣官房シェアリングエコノミー伝道師 佐別当 隆志(左)
民泊、ライドシェア以外の分野においても、シェアリングエコノミーの基本思想が浸透。新しいサービスが生まれ、拡大の一途をたどっている。現在注目するサービスについて、一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長の佐別当隆志氏にご紹介いただいた。
シェアリングエコノミー伝道師 佐別当隆志インタビュー [注目のシェアリングサービス編]
――今年注目するサービスをご紹介いただく前に、まずはシェアリングサービスの定義について教えていただけるでしょうか。
シェアリングエコノミー協会では、ネットのプラットフォームを介して、個人間で貸し借りや売買を行うCtoC、もしくはBtoBサービスを、“シェアリングエコノミーサービス”と呼び、それを提供する企業を“シェアリングエコノミー企業”と定義。「スペース」「移動手段」「モノ」「お金」「スキル」の5つに分類して掌握しています。例えば、民泊は「スペース」のシェアに該当しますし、ライドシェアは、まさに「移動手段」のシェア。フリーマーケットは「モノ」、クラウドファンディングは「お金」、クラウドソーシングや子育てなどは、「スキル」のシェアに分類されるわけですよね。そういった前提をご理解いただきつつ、現在、私たちが注目するシェアリングエコノミーサービスと、その理由についてご紹介します。
[注目サービス1] ecbo cloak(エクボクローク)
ecbo cloakは、街中のあらゆる場所をコインロッカーにしてしまおうという発想から生まれたスペースシェアサービスです。現在、外国人観光客は増加の一途をたどっていますが、彼らの目的地の1つである渋谷や新宿では大きな荷物が収納できるコインロッカーが枯渇。宿泊地が離れていたり、チェックイン前では民泊では預けることができず、大きな荷物を持ったまま歩き回らなくてはならないという問題がありました。そんな課題を、登録する飲食店が店内の空きスペースを活用して荷物を預かるという方法で解決。お店も集客を図ることもできるし、おまけに荷物を預かるフィーも入るという一石二鳥のメリットを提供します。UberJAPANを立ち上げたメンバーの一人が創業していることもあって、シェアリングエコノミーに対する理解が深く、今後の展開にも期待が集中。チェックイン前に荷物を預かるだけでなく、チェックアウトした後に預けそのままカフェから空港まで運送したり、航空機に乗せるまでを代行するなど、様々な付随サービスを仕掛けていく可能性を示唆しています。
[注目サービス2] SCOUTER(スカウター)
SCOUTERは、一言でいえば、“人材紹介のシェアリングサービス”ですね。例えば、カフェに勤める友人が、将来的にITを活用したカフェを経営したいと考えていて、ノウハウを得るためにIT企業への転職を希望していたとします。クライアント側にたつ一般的なエージェントでは、この手のマッチングは正直、難しいとは思いますが、このスカウターを通じ、友人である私が、それに見合った会社を紹介することが可能に。あくまで、友人である求職者の立場で企業を紹介するという、個人と個人のつながりを重視したソーシャルヘッドハンティングサービスといえます。求職者の特性や性格を正しく把握しているため、ミスマッチが起こりづらく、求職者にとっても、採用する企業にとっても満足度の高いサービスとなりうると注目しています。通常、個人が人材紹介の免許もなくそんなことはできないですが、ここのサービスはスマートフォンから簡単にスカウター(キャリアアドバイザー)登録することができ、その際に副業としてスカウター社と雇用契約を結び契約社員として時給が発生するというモデルを採用されています。サービス開始1年で5500名の登録申請があり、2000名のスカウター登録つまり2000名ものスタッフを抱えている状況にすでになっています。私も登録しているので、シェア系に人材紹介ならお任せください(笑
[注目サービス3] Crowd Realty(クラウドリアルティ)
Crowd Realtyは、不動産に特化したクラウドファンディングです。投下した金額に対しあまりリターンが期待できない他のクラウンドファンディングと大きく違い、不動産投資と同様、運用収益をしっかりリターンが期待できるという特徴があります。古民家や空き家、古いマンションなどをゲストハウスやコワーキングスペースにリノベーションするといった、高齢の個人オーナーではなかなか生まれない新たな発想で提案を行うという特徴があります。年利5~7%の高金利で設定されたいわゆる“ハイリスク・ハイリターン”の案件と、年利1~2%の低金利でありながら、リスクの低いものまで用意。ユーザはそのどちらも自由に選択できるし、一口5万円から、500~1000万円などの大口までそろっており、最近ではMUFGのアクセラレータープログラムにも選抜され、注目を集めています。創業者の鬼頭さんは東京大学で建築を学び、その後のキャリアもメリルリンチやボストンコンサルティング出身と、プロ中のプロが目利きをしているので信頼性も充分。本格的には今年が事業開始となりますが、1件1件の規模も大きく成長余力があり、他のクラウドファンディングとは一線を画しています。[注目サービス4] お寺ステイ(OTERA STAY)
お寺ステイは、これまでのサービスとはちょっと視点が違いますが、日本にコンビニの数より多い全国に16万件以上あるという社寺を活用したシェアサービスです。日本の社寺仏閣の文化を知りたいと考えるのは、何も外国人だけではありません。寺バー、寺ヨガであったり、あるいは昔で言う宿坊のように民泊でお寺に宿泊したいという若者もたくさんいます。一方のお寺を運営する方々は、若者や外国人のニーズやITがわからない。そこで、お寺ステイが両者をつなぐ目的で宿泊やヨガ、座禅などを盛り込んだツアーを作り、情報を発信するお寺のエージェントとして機能しています。お寺にとっては遊休施設を活用してお布施を集めたり、利用者は文化体験ができるというユニークなサービス。近年では、残念ながらお寺の倒産も多くなっていますし、歴史ある寺社仏閣がこのまま廃れていって良いのかという問題解決につながります。また単純に遊休施設をシェアしてお金に換えるだけでなく、日本文化や精神の拠り所の社寺をマンションなどに変えるのではなく、ITを活用して後世に残していく社会的なサービスとして注目をしています。――現在の日本において、こういったシェアリングサービスが拡大を続けている背景をどのように分析されていますか。
世の中の機運として、女性や若者であったり、感度の高い人であったりするほど、お寺ステイやairbnbを活用しています。左脳ではなく右脳を刺激するような体験を求める傾向が見られます。特に若い世代の人たちが本能的にシェアリングサービスを選択していますよね。それはなぜか? 結局、いくら所有したところで満たされない、幸せになれないと直感的にわかっているからなのでしょう。大企業で働いて偉くなることに価値を置いていない。それよりも価値観が近くて信頼できる人たちと一緒に貴重な体験をしながら時間を過ごすことにお金を使いたいと思っている人が増えています。これまでの資本主義というか、マーケットの論理であった1人1台車の購入や結婚してローンを組んでマイホームを購入しましょうと無理やり価値観を押し付けるような社会に限界が来ていることの表れだと思います。オフィスだって、無理に持つ必要はない。そんな既成概念など捨てて、シェアオフィスで働けば楽しいし、新しいアイデアも生まれます。人と繋がることで広がっていくのは、何も仕事だけではなく、文化体験やライスタイルにも言えるということなのです。
――シェアリングエコノミーを推進しながら、協会、もしくは佐別当さん個人は、どのような社会を作っていきたいとお考えですか。
一人ひとりが当事者視点で自分たちの人生や仕事、ひいては社会を作っていくことができるような世界にしていかなくてはならないと考えています。医療や保険制度も崩壊しつつあり、行政が私たちを守ってくれるような時代ではないのです。覚悟をきめて、自分たちの人生は自分たちで切り拓いていくしかありません。安心・安全対策にしても、従来通り旅館業法やタクシー業法にゆだねてると地方では交通機関がなくなり、保育園はおろか学校や病院すらなくなっていきます。自分の目で見て、この人に依頼したいと選択ができるような、個人個人が自立した社会になっていくことを望んでいるのですね。結局、そういった個人の力が社会を変えていくと確信しています。
Photo by Niko Lanzuisi