多くのマスコミに取り上げられ、政府の成長戦略の中にもラインナップされてから、日本の国民の間に「 シェアリングエコノミー 」という言葉が浸透。次々に新たなサービスが生まれ、進化の一途をたどっている。2018年、注目すべきサービスについて、一般社団法人シェアリングエコノミー協会事務局長の佐別当隆志氏にご紹介いただいた。
―― シェアリングエコノミー のトレンド、全体の潮流についてご解説いただけますか。
ここ2年の間、メディアへの露出も増え、徐々に「シェアリングエコノミー」という単語も浸透。政府の成長戦略のひとつとなり、世間的にも注目を集めるようになりました。一方で、今年の民泊新法改正の争点にもなった“安心・安全をどう確保するのか?”であったり、“既存業界とどのように調整していくか?”という新たな課題も浮き彫りになっています。
そんな中、2018年に入り、象徴的ともいえる出来事がありました。Uberと第一交通というタクシー会社の提携は、これまで反目しあっていた既存業界とシェアリングサービスが協調路線へと大きな転換を果たした大変大きなトピックであったと感じています。以降、ANAとAirbnbであったり、丸井とLaxusなど、大手企業との連携が相次ぎ、日本独自ともいえる新たなシェアサービスの可能性が生まれつつあります。
これは、世界的な観点からすると、たいへん特異な流れといえなくもありません。諸外国で主流となっているシェアリングサービスは、完全にCtoCビジネスであり、彼らは既存業界を淘汰してイノベーションを起こしながら急成長を果たしてきました。一方の日本では、法規制や既存業界との軋轢の問題もあって、世界的な潮流から乗り遅れていたのも事実としてあります。
このように既存業界と手を組んで、安心・安全を確保したうえで、ある意味、“BtoC的”なシェアリングサービスの拡大は、“前に進んでいる”という意味では、決して悪い話ではありませんが、同時に本来のシェアサービスの魅力として認識されていた、“個人と個人のマッチングによる、マニュアルにないかたちのホスピタリティ”が薄れているようにも思えます。どうしても間にBが入ってしまうと、安心安全が担保される代わりに、ガチガチのレギュレーションが生まれ、その魅力が半減してしまうような気がします。
私は、この日本型“BtoC的”シェアサービスと、本来の“原理主義的”なシェアリングのサービスの両方を明確に切り分けて捉え、それぞれの発展に必要な施策を推し進めていくことが必要なのではないかと考えています。
――なるほど。色々な意味で過渡期にあるのかもしれませんね。そんな状況の中、佐別当さんが、今年、注目するシェアリングエコノミーサービスと、その理由についてご紹介してください。
昨年の傾向として、子育てや家事代行、ファッション分野など、女性向けのシェアリングサービスが広がりを見せてきました。今年も、その流れは留まることなく、さらに進化を遂げているように感じています。
[注目サービス1] dot.school(ドットスクール)
まずご紹介したいのが、そんな女性向けサービスの進化系ともいえるものです。私たち夫婦も時々利用しているサービスに「お迎えシスター」というものがあります。
こちらは、その名称通り、父母に代わって子どもの送迎を代行するサービスなのですが、単純にそれだけにはとどまらず、日本に住む優秀な留学生や帰国子女が対応し、送り迎えの間に英語のレッスンをしてくれるという、教育要素にも価値を感じています。
さらに、今年、そこから発展したかたちで、「dot.school」というアフタースクール・サービスがスタート。「お迎えシスター」に登録している質の高い留学生たちが実際に、グローバルトレンドに準じた教育機会を提供してくれるというサービスを展開しています。
これは、単純に語学の勉強だけでなく、マネーフォワードの監修による、お金に関して学べる授業も行っているのですね。例えば、銀行の仕組みについて学べるゲームをやったり、実際に子どもだけでカフェを経営し、その収益を自らが選んだ機関へと寄付をしたり、先日はWWF動物愛護基金に10万円を寄付していましたね。
そのように、実際に生きていくために必要な力であったり、アートやコミュニケーションなど、日本の教育システムではなかなか学ぶことのできない分野について、しかもグローバルな観点で学ぶことができるのが最大のメリットであると実感しています。
[注目サービス2]PicGo(ピックゴー)
近年、社会問題化しつつある物流の課題を解決するシェアサービスが登場し、注目を集めています。ご存知の通り、EC市場やフリマアプリの急成長に伴い、圧倒的なドライバー不足による物流停滞が問題になっていますよね。大手企業が一斉に値上げを実施して、物流コストの上昇に悩む企業やEC運営者も増えています。
その一方で、「赤帽」と呼ばれる軽トラによる配送業を営む個人事業主の方々は、存在を認知されずに仕事の確保が難しい状況にあります。そういった背景から、個人事業主の配送業者と、小さな荷物を安価に運んでもらいたいという個人のお客様をマッチングする「PicGo」というサービスが急激に伸びています。
個人事業主とはいえ、配送業者として業法に則り、しっかり届け出をしている方と個人客のマッチングなので、BtoC寄りではあるものの、CtoCに限りなく近いサービスといえます。ドライバーにとっては一定量の仕事が確保できるし、即日現金払いという経済的メリットが生じています。もちろん、利用者にとっては、安価に物流を確保できるというメリットがあります。
業法に則って届け出がなされているドライバーが対応するので、既存の業界との軋轢が生じることなく、むしろ大手運送会社が敬遠していた個人の小さな荷物を引き受けてくれるので歓迎。共存が可能だという点にも優位点があると感じています。
[注目サービス3]エメラダ・エクイティ
クラウドファンディングの分野においても、新しいサービスが登場し、話題になっています。昨年はクラウドリアルティという不動産投資型のサービスを紹介しましたが、今年はさらに色々な分野で広がりを見せています。
中でも私が注目するのが、株式投資型のクラウドファンディング。「エメラダ・エクイティ」は、将来性のあるベンチャー企業に個人が投資できるサービスで、1社49万円までという制限はありますが、VCや銀行で資金調達ができづらかったスタートアップ企業にとって、非常にありがたい存在となっています。
ユーザーとしては、その会社が提供するサービスのファンでありながら、出資者としても応援できるという二つのメリットがあります。シェアリングサービスを提供する企業の中にも、いくつかこのサービスを利用して資金を調達している企業もあり、先日、ランナー用サービスを提供する企業株式会社ラントリップがここで数千万を調達して話題になりました。
[注目サービス4]クラフトバンク
サービスが始まったばかりなので、今後、どのように発展していくかは未知数でありますが、もうひとつ私が面白いと注目しているのが、「クラフトバンク」というマッチングサービスです。
大工や建設業界で働く職人に直接、オファーを入れることができるサービスで、工務店や建設会社が現場の欠員補充のために依頼できるほか、一般ユーザーでも店舗やオフィス、住宅のメンテナンスや、ちょっとした大工仕事を依頼できるというものです。これまで、一般的にはICT化が遅れていた分野で、なかなかマッチングができなかった領域でありながら、大量に需要が見込めるという点において、今後の発展が期待できるサービスとして注目しています。
以上のように、シェアリングサービスは今後、領域を広げながら便利に進化していくことが予想されます。ますます、“知っておいたほうがお得”なサービスが増えていくでしょう。
一方で、サービス終了を余儀なくされている企業も出てきており、競争は激しいのですが、健全にこのマーケットを広げていきたいという人たちが増えてきているという実感があります。
シェアリングエコノミー協会 としても、そういった意欲の高い企業さんへのサポートを実施しながら、品質の高いサービスを利用者にお届けし、文化として根付かせていければと思っています。
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