2017年7月25日、シェアリングエコノミー協会は、日本国内におけるシェアリングエコノミー業界の標準となる「シェアリングエコノミー認証制度」の認証付与を開始。その第一弾として、UberJapan株式会社、株式会社スペースマーケットをはじめとする6社を認定しました。今回は、認定する側にあるシェアリングエコノミー協会事務局の石原遥平さんと、認定された側の株式会社AsMama代表・甲田恵子さんに、それぞれの立場から見る、本制度の意義と期待についてお聞きしました。
シェアリングエコノミー協会事務局の石原遥平氏
――まずは、今回の「シェアリングエコノミー認証制度」が誕生した背景から教えてください。
石原氏: 諸外国に比べて、日本の消費者の方々は、まだまだシェアリングエコノミーサービスを積極的に活用しきれてはいません。もっとも多い理由が“トラブル発生時の不安”であることが調査によって明らかになっています。諸外国の方々はむしろ、“サービスの品質に対する不安”を理由にあげるのですが、日本ではまったく認識が違います。日本が抱える行政課題を解決する有効な手段となりうるシェアリングエコノミーを推進したいと考える内閣官房が昨年度、消費者保護の観点から、安心・安全の担保できるシェアリングサービスのガイドラインを設定。シェアリングエコノミー協会がその基準に則り、具体化させたものが今回の認定制度となります。評価項目は、トラブル時の対応や本人確認の有無など、具体的施策を中心にチェック。この認定マークを取得しているサービスは、非常にしっかりした体制で、安心安全対策に取り組んでいるということが消費者にお伝えできます。
甲田氏: この制度の必要性はこれまでずっと感じていました。私たちのサービスは、“身近なお困りごとを顔見知り同士で頼りあう”というところかはじまり、子育てを身近な人たち同士で助け合うことで、女性が就労を続けられるとか、こどもが地域の中で多様性を学びながら育っていく、そんな環境を整えようと、まだシェアリングエコノミーという言葉がない時代から活動を続けてきました。“単なるデータマッチングではなく、顔見知り同士だから安心ですよ”とか、“業界に先駆けて。保険に加入できる体制を整えていますよ”と、自分たちで説明すればするほど保身に聞こえてしまう。やはりきちんとした第三者のお墨付きが重要です。また、2016年1月にシェアリングエコノミー協会が立ち上がった時にもそうですが、今回の認証制度ができたことで、シェアリングエコノミー産業が一時的な隆起ではなく、新しい産業として存続していくために有効な手段ではないかと、非常に期待を寄せています。
石原氏: 甲田さんをはじめ、たくさんのサービス会社の方々のご協力をいただきながら作りあげた制度です。各社にお伺いしてヒアリングを行い、そこで出てきた課題を持ち帰って、委員会内で議論を繰り返しながらプロトタイプを作っていきました。もちろん、今回、こうしてひとつの認証制度ができあがりましたが、けっしてこれがゴールではなく、今後も常にブラッシュアップしながら更新を続けていくイメージです。
株式会社AsMama代表・甲田恵子氏
甲田氏: 私たちも随分ストレートに意見を述べさせていただきましたね。安心安全対策はどうやっても万全というものはありません。どんなにしっかり対策をしていても、事故が起こる可能性は残念ながらゼロではないのです。だからこそ事故が起こった時に、私たちプラットフォーマーとしては、“しっかり対策をしていたのだ”ということを、客観的に証明できるという点でも、非常にありがたい制度であると思っています。内閣官房で議論されたときは、インターネットを介したニーズマッチングサービスが土台になっていたようですが、弊社のように、人間関係ありきという取り組みもあることはしっかり伝えさせていただきました。今後は、私たちのように“リアルなマッチング”を主としたスタイルのシェアリングサービスが登場するかもしれません。そういった可能性も含め、網羅できる制度にすべきだとお話をしました。
――この制度が登場すると、プラットフォーマーだけでなく、ホストも安心ですよね?
甲田氏: そうですね。実際に支援を提供される方が、「AsMamaというプラットフォームを使って預かります」といっても、“AsMamaって何?”とか、“何かあったらどうするの?”と返されてしまうことも、正直、これまではありました。そんなときに、きちんとしたお墨付きがあるプラットフォームを使っているのだと説明できるようになりますから、提供者の方々としても、非常にご協力いただきやすくなるのではないでしょうか。
石原氏: 現在のシェアリングエコノミーサービスを提供する皆さんは、かなりユーザーファーストの意識を持ってサービス設計をされています。しかし、それを突き詰めていっても、甲田さんのおっしゃるとおり、人に伝える時点で、自己保身に聞こえなくもありません。そこで第三者がバックアップするために、政府が制定したガイドラインに沿って、業界団体が制度を作っていく。いわゆる“共同規制”と呼ばれる仕組みは、世の中に安心安全を広めていくという点でかなり新しい取り組みではあります。今後は、シェアリングエコノミーのみならず、AIをはじめとする、およそ新ジャンルといわれるビジネスにおいては、おそらくすべてに影響を及ぼす可能性があると考えられるので、今回の認証制度がモデルケースとなるべく、しっかり取り組んでいきたい。責任重大だと思っています。
――今回は何社、認定されたのですか?
石原氏: まずは6社6サービスからスタートしましたが、すでに申請をいただいている企業は20社以上にのぼります。今後、順次審査を進め、約2ヶ月に一度、5~6社ずつ認証していく予定です。
――認定のための審査は厳しかったのですか?
甲田氏: そうですね。正直、ここまで突っ込んだ話を聞いてくるとは思いませんでした(笑)。
石原氏: 会社というより、まずはサービスを見させていただきます。そのうえで、どのようにPDCAを回しているのか?など、管理・運営体制をチェックさせていただきました。一番の懸念材料はセキュリティ体制です。個人情報が漏洩してしまっては業界全体のイメージが大きくダウンしてしまうので、そこはかなり厳しく見させていただきます。チェック項目は他にたくさんあるので、ひとつひとつを確認していくのですが、決して厳しく見るというのではなく、改善を促しながら、取得に向けて共に進めていくというイメージですね。
甲田氏: そうですね。評議員の皆さんにはアドバイスをたくさんいただきました。認証を受けることによって自社サービスを見直すことができる、とても良い機会になったと感じています。自分たちは、これで万全だと思っていても、認証を受けるにはここまでしっかりやらなくてはいけないのかと気がついたり、これまで後回しになりがちだった取り組みにも本腰入れるきっかけになりました。襟を正して、もう一度、自分たちの業務を見直す、そんな感覚です。
石原氏: そういった“きっかけ”になることがとても重要だと思っていて、たとえばランサーズさんなどは企業規模も大きく、すでに10年ほどサービスを提供していらっしゃいます。利用者の安心安全を担保する取り組みや仕組みをたくさん持っていらっしゃって、それを惜しみなく、他社さんにも共有してくださるとおっしゃってくださるんですね。参加されている企業のノウハウを共有することで、業界全体がボトムアップできるものと思っています。
甲田氏: 私たちは、お子さんというかけがえのない存在をお預かりするサービスを提供するものとして、安心安全対策の最前線を走らなくてはならないという自負があります。今回、第一号の認証企業として認めていただいたことは、従業員にとっても、利用者にとっても、そして私たちを応援してくださるすべてのステークスホルダーにとっても喜ばしいことだと思っています。同時に、認証企業として恥じないよう、さらに厳密に安全安心を意識したサービス開発を続けていければと思います。
石原氏: 利用者の背中を押すことができればと思っています。シェアリングエコノミーサービスって、一度利用していただければ、その良さがわかるのですが、第一歩を踏み出すのが難しいですよね。特に甲田さんのように、お子さんを預かるサービスになると、お金の問題でも、利便性の問題でもなく、信頼がすべてになります。まさに甲田さんがチャレンジしている分野って、ものすごく難しい。しかし、最近は、IT上のマッチングからリアルでどうつなぐかを考えているプラットフォーマーが増えています。リアルとITをうまく繋ぎながらどう広げていくか、それが目下のシェアリングエコノミーの課題だという人もいます。そういう意味で、まさにAsMamaは、日本の最先端をいく企業といえます。リアルで繋いでいくサービスが増えていけば、さらに認証制度の重要性が高まっていくものと予想されます。
甲田氏: これまではシェアリングエコノミーサービスの利用を躊躇して、我慢する人がすごく多かったように思います。既存のサービスと同じくらいの安心であったり、既存のサービスと変わらない利便性があるということを、きちんと文化として、知識として当たり前のように浸透していって、既存サービスの中のひとつにシェアが入れば、人々の生活利便性はもっと変わってくると思います。現時点でシェア産業は、まだまだ少ないけれども、それに関わるベンチャー企業が一丸となって、安心安全、利便性を高め、その体験者情報をシェアする。そういったことに一生懸命取り組むべき時期がきていると思います。どのサービスを選ぶかは自己責任だからこそ、シェアリングサービスを選ぶ時には認証があるところにより安心感を一般消費者が持てるよう、広くお伝えしていきたいですね。
石原氏: シェアリングエコノミーは、利用者と提供者の両方がいなければ、マッチングが成立しません。提供者が集まらなければ、利用者も増えていかないですし、そこを苦心しているプラットフォーマーが多いのも事実です。認証制度によって、“このプラットフォームなら安心して働ける”“このプラットフォームなら安心して提供できる”と思ってくれる人が一人でも多く増えていくことを期待しています。
Photo by Niko Lanzuisi
撮影場所 : Midori.so 永田町