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ポートランドの自転車通勤はなぜ多いのか?

ある日実家に帰ると、ショッピングセンターや高層マンションが建ち並び、駐車場が増えていたということはありませんか?経済成長を優先すると、商店街や自然が減っていき大規模で効率的な開発が進みます。ただ、同じ先進国であるはずのアメリカのポートランド市は違います。市内を歩いているといたる所に個性的でクリエイティブな路面店が並んでいます。それもそのはず、ポートランドでは新築または50%以上の改装をする場合、一階の歩道に面した部分は店舗を誘致しないといけない「ストアフロント」という義務があるのです。

さらにポートランドは、自然を愛して環境に配慮する自転車乗りが多い、世界有数の「自転車社会」でもあります。その傾向は近年進んでおり、通勤に自転車を利用する人は2000年に1.8%だったのが、2014年には6.1%まで増加しています。自転車だけでなく、路面電車やMAXと呼ばれる軽鉄道など公共交通機関も発展し、自転車を乗せられる電車も珍しくありません。2015年9月には、「人々の橋」と呼ばれる徒歩・公共バス・自転車だけが利用できる全長約520米の「自家用車禁止」の橋までオープンしました。

 

立体駐車場の計画が中止。年間300回のイベントが開催される広場へ。

ポートランドのダウンタウンには「パイオニア・コートハウス・スクウェア」という市民に親しまれている広場があります。ウェブサイトには”Portland’s Living Room”と記載があり、ファーマーズマーケットから枕投げまで年間300回以上ものイベントが開催されています。ここが以前、高速道路で分断され立体駐車場の計画が進められいたとは想像もつきません。半世紀前、ポートランドは他の経済発展が進む地域と同様、自動車社会で環境汚染が酷い状況だったのです。ただ、この時ポートランドの行政と市民は増え続ける自動車や効率よりも、まちの人々との交流を選び、その象徴がこの広場なのです。

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レンガを販売して資金調達!?

ただ、広場の計画も順調に進んだわけではありません。立体駐車場の計画を中止した後も、広場計画の反対派から資金難を指摘され潰されそうになりました。その時もポートランダーたちは「フレンズ・オブ・パイオニア・スクウェア」という団体を有志で結成し、資金難を解決しました。今でいうクラウドファンディングのように、5万個のレンガを販売し購入者の名前をレンガに刻んで広場に使い、75万ドル集めたのです。ポートランドのリビングルームと呼ばれるのは、官民一体となって計画を実現させた広場だからなのです。前回の記事で紹介したポートランドの公園や道路をシェアして交流する文化は、こうした過程を乗り越えてきているのです。

職・住・遊が近接。

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ポートランドの再開発で最も成功した例に、使われなくなった倉庫街を人気エリアに見事に変えたパール地区があります。北西部に位置するパール地区には、レンガ造りを活かしたアートギャラリーやカフェ、おしゃれなレストランだけでなく、住宅やオフィスもバランスよく存在しています。一般的に都市における再開発は、効率を重視して商業エリア・住宅エリア・オフィスエリアと機能を分けるものです。ところがポートランドは一階に店舗、その上に住居やスタジオなど、職・住・遊が近接する、遊びも仕事も徒歩圏内で生活しやすいように設計されています。さらに市内中心部からは路面電車やバスも延伸し、自動車がなくても移動も問題ありません。

こうした機能性を重視した開発や経済合理性よりも自分たちのライフスタイルや市民の交流を大切にし、行政と住民参加の議論をするだけでなく、時には税金以外にお金まで出しあって今の環境に優しく住みやすいポートランドがあるのです。クリエイティブで全米で最も住みたい街にポートランドがなったのは結果でしかありません。日本にも素晴らしい自然や文化、歴史があります。経済偏重ではなく、私たちがどんな街で暮らし、仕事をし、豊かな生活をしたいのか?それを行政も企業も住民も一体となって考えて取り組むことで、もっと住みやすいまちに変えていけるのではないでしょうか。