魅力的なプログラムが並ぶ「 SHARE SUMMIT 2019 」の中で、もっとも話題と反響を呼んだセッションがこちらではなかったでしょうか。
登壇者はビジョンアーキテクト VISIONING COMPANY「NEWPEACE」代表の高木新平さん、ジャーナリスト 評論家の佐々木俊尚といったシェアエコ界で有名な個性派スピーカーに加え、今回、多拠点co-livingサービスを提供するADDressとの提携で話題のANAホールディングス株式会社からデジタル・デザイン・ラボ チーフ・ディレクターの津田佳明さんが登場。一般社団法人シェアリングエコノミー協会 事務局長の石山アンジュさんをモデレーターとして迎え、「シェアという思想 ~令和時代を切り拓くスピリット」をテーマに白熱、かつ“完全予定不調和”な議論が展開。こちらの記事で再現してみます。
モデレーターの石山さんの「平成ってどういう時代?」という問いかけに対し佐々木さんが「新しいテクノロジー、仕組み、システムがどんどん生まれた一方で、昭和の感覚が捨てられなかった時代」と説明。「昭和の時代から引きずっているステレオタイプの古い神話を捨て去り、新しいコモンセンスを作らないといけない」との私見を述べました。
高木さんも、その話に激しく同意。「一億総中流、“みんな一緒がいい”という時代の成功体験から抜け出せない。その発想を根本的に変えていくのが令和のテーマ」と述べます。佐々木さんはさらに、「AIの時代には旧来の“機械化すれば雇用が増えて経済成長が起こる”という経済学が成立しない。もはや経済学そのものが20世紀的成長の時代をベースに作られたものだから」と提起し、「だからゼロベースで作り直す必要がある」と説明。さらに「GDPに換算されないシェア経済も同様。GDP的に経済成長していないのに、人々がシェアサービスを活用して少しずつ豊かになっている。この矛盾した状況をどのように既存の経済学や統計で語るのか。ひっくり返す必要がある」と述べました。
津田さんは、それに対し「企業人にとってはGDPは大きなひとつの指標。いまだに過去の統計が信じられている。GDPありきで人口、雇用に連動していると捉えている」と説明。「GDPを見ている以上、新しい発想は生まれない」と私見を述べました。そこで佐々木さんは、津田さんに対して「シェアに片足を突っ込んだら、売り上げが立たなくなりませんか?」と質問。津田さんはすかさず「世界人口の6%しか航空機を利用していない。残りの94%の方々に対し、いかにして移動の機会を提供するかがエアラインの指名」と切り返しました。
佐々木さんは、トヨタが開始したカーシェアサービスを例にとって「車庫に眠り、実際に稼働していない車が圧倒的な数を占めている。カーシェアによってそれが有効活用されて駆動時間は増える一方で販売量が減っていく。そこをどのように判断するかが求められている」と問題提起。高木さんは「アパレル業界でも同様の問題が起きている」としたうえで、「作り続けるゲームからいかにチェンジしていくか?日本はその解を見いだせずに後れを取っている」と指摘します。
津田さんも「トヨタのサブスクには衝撃を受けた。これまで5年で新しい車に買い替えるモデルを根本的に覆した」と発言。佐々木さんは「いやがおうにもサブスクが中心になる。所有する考えはなくなる。消費は減っていって、定常化経済に回帰していく。経済成長しない時代にどうやって新しい経済モデル、社会モデル、ライフスタイルを確立するか考え直す段階にきている」と述べました。
さらに佐々木さんは「では、どういった未来をイメージしていくか?科学の進歩によって素晴らしい未来がやってくるという話すら、もはや20世紀的。そうではない新しい未来とはどういうものか?より地に足の着いた未来とは?」と疑問を投げかけます。
高木さんは「予測はできない。中世への回帰という話にもヒントはあるとは思うが、社会性、価値観は戦後に作られていて、その域から出られていない」と指摘。「難しいから大きいことを考えるのをやめるしかない。小さく考えるのが良いが、シェアもすぐに大きくなる。もう少し手触り感があったものが、いつの間にか、資源が有効活用できるものなら何でもシェアになって、WeWorkの問題に行き着く」と言います。「これからは小さなコミュニティ×サブスクみたいなビジネスモデルが生まれてくる」と述べ、自身が運営する会員制カレーショップのビジネスを説明します。
佐々木さんは「シェアエコの巨大プラットフォーム化は重要な議論。巨大化することでシェアが持っていたコミュニティが失われ、ビジネス化していってしまうことの矛盾をどのように解決していくか。高木さんが言うように、小さなコミュニティをそれぞれの世界で生んでいって横断的に世界を覆うのもあり」と述べ、「企業がプラットフォーム的に水平展開していく一方でパーティカルに深くある特定の層に刺さっていくビジネスに分かれる可能性がある」と指摘します。
それに対して高木さんも「バーティカルなものはよりローカルになっていく。ある種の壁を作ってコミュニティになっていって、その中で異常なシェアが行われる、そういうものがたくさんでてくるのではないか。地域の中で心理的にも安全性が高く、同質性の中でおすそ分けをする世界に戻っていくのでは」と話します。
石山さんが「先日、ヨーロッパに行ってきたが、巨大化、効率性を拒むプラットフォームコーポラティズムという運動が出てきている。組合型で特定した地域で非営利の民泊を運営している」と説明すると、佐々木さんが「話としては美しいが広がらない」との突っ込みを。石山さんはそれに対し「確かに広がらない、ケイパブリティはまったくない。でも実際に様々なファウンダーと話をして思ったのは、これが幸せのスタンダードなんだという強烈な確信を持っている人が多かった」と返します。
佐々木さんが「閉じたコミュニティは理念としてすばらしいが、一方で抑圧に転ずる可能性がある。コミュニタリズムは排外やヘイトを生む。中にいる人が苦しき感じることもある。小さなコミュニティの連続体として大きな社会が滑らかにつながる仕組みを考える必要がある」と述べると、高木さんは「小さくてもパブリックでないといけない。そこはテクノロジーの介在が必要。今、巨大プラットフォームが個人単位のアカウントになっているから、コミュニティが育ちづらい。もう少し中間的なプラットフォームが出てきて、そこからどこかに紐づいて新しいディティールになっていくのでは」と締めくくった。
ここで次の話題「ミクロな視点、個人の視点から見たこれからの価値観、豊かさ、幸せの定義、スタンダードはどう変わっていくのか?どうとらえるべきか?」に移行。石山さんの問いに対して高木さんは「GDPに変わる指標を作る必要がある」と発言。「日本はGDPという指標において衰退する一方なので、これから勝っていける指標を掲げたほうが国民の幸福度があがる。その一つにつながりの数がある。社会関係資本は今の日本は低いが、これから幸せになっていくという文脈を作っていけばよいのでは?」と述べた。
佐々木さんの「幸せに指標がはっきりしない。幸福の意味が揺らいでいる。豊かさとは何か?というところはもう一回考えないと」という問いかけに、石山さんは「これまでは年収やステイタス、相対的に測るものはなかった。別の指標で測れるといい」と発言。高木さんが「豊かさとか幸せの形は色々とあるが、その逆にある孤独や寂しさはけっこうシンプル」と述べると、佐々木さんは「孤独であることの指標も難しい」と返します。
高木さんは「物理的に一人だから孤独というものでもない。精神的なもの」と補足すると、津田さんが「社会との関係性やコミュニティにどれだけ求められているか、自分の存在、持っているスキルとか、そういうものが指標になるのでは」と意見しました。さらに津田さんは、「資産回転率という指標も重要」と述べ、「GDPが伸びないと企業の業績が上がらないので、一生懸命にモノを作っても人口が減るので需要は見込めない。どんどん回転率が落ちていくが、シェアリングエコノミー は資産回転率を確実にあげていく仕組み。経済効率性が高い。有形だけでなく無形資産も回転率を上げていけばよい」と述べました。
佐々木さんは、さらに「与える人が幸せになる時代になっていくのは間違いない。良い人が損をしていた昔と違って、今はSNSでその人の評判が即座に伝わりやすい。いい人でいるほうが戦略として正しいという話になっている」と述べ、さらに高木さんは「僕らは良く“優しい革命”といっている。これまでの奪う革命でなく与える革命。与える人が良くなっていく時代」と同意しました。
さらに石山さんが「小さな単位で、彼氏彼女、家族という近い距離で与える幸せは実感できていると思うが、もう少し広い範囲で与える幸せという経験値を広げていくにはどうしたらいいか?」と問いかけると、佐々木さんは「与えたほうが得だよねという空気が広がればいい」と、高木さんは「ステージの側に立つ経験を小さくたくさん作っていくと、与える側の良さが実感できる。SNSは以外のステージ側に立てる人間を少ししか生まない」と返答します。
それに対して石山さんは「そういう意味では、シェアのプラットフォームもそう。提供者というスタンスで与える経験ができる」と述べます。すると佐々木さんは「いきなりパブリックスペースの広場に投げ込まれるのではなく、小さな広場がいくつもつながっているようなプラットフォームに期待したい。大きなSNSだけど小さなコミュニティがちゃんと構築されているような仕組みが必要では」と述べます。
それに対して高木さんは「仕組みは変えられないが、うまくやりくりする。建てられたマンションしかないが、そのなかでシェアハウスというコミュニティをつくっていくみたいな。皆が自治的に頑張っているけれど、そういうアーキテクチャが生まれると、もっと加速するのかと思います」と述べます。津田さんも「リアルな場があるといいですね。高木さんのカレー屋もそうだが、スナックホッピングみたいな仕掛けも面白い」と発言。佐々木さんが「スナックが良いのは、いやだったら行かなくていいという点。村みたいなメンバーシップが閉ざされているところとは違う」と述べます。
高木さんは「ADDressが良いのは、そういった一種の軽さ」と説明。「これまでの地方創生のKPIだった移住では重すぎる。仕事あるからと言われても若い人はいかない。だからああいった短期移住で関係人口を増やしていく、そのくらいの軽さが魅了。ひとつに所属を決めるのって、終身雇用と一緒でそれこそ昭和的な概念」と述べます。
実際に多拠点生活をしている佐々木さんは「なるべく面で付き合いたい。伝統的共同体は重要な存在だが、そこに入るのは難しい。“たまにしかこないけれどいい人”というポジションが良い」と返答。高木さんは「そういう分散的にコミュニティに所属する佐々木さん自身が何かしら与えるから良い関係が築けている」と指摘しました。
津田さんは「普通のサラリーマンが多拠点生活を送るのは難しい。ADDressが良いのは家守の人がイケている点。そういったコミュニケーターがいるのが良い」と発言。佐々木さんは「中継する人、ハブ的な人はすごく重要。村の共通言語、都会の言語もわかる、さらに自治体の言語も操れると良い」と加えた。さらに高木さんは「そういったコミュニティマネージャーは不足している。これからは中間コミュニティ、サードコミュニティがたくさん生まれてくる中で、色々なところから来た人をつなげてあげる存在が重要」と語ります。
議論が白熱しすぎて、すでに大幅に予定時間をオーバーしていましたが、ここでついにタイムアウト。最後に登壇者それぞれが“令和を生きていく私たちがこれから持つべき精神性のよりどころとすべきキーワード”を記入。その理輔を説明して終了となりました。
「キーワードは『Beyond All』。私たちがこれからの時代を生き抜くためには、サラリーマン、会社、業界といった枠を超えていく必要があるし、自分たちのコミュニティや住み慣れた場所からあえて飛び出す必要がある。周りの賛同を得ながらルールをうまく変えていくべき」(津田さん)
「キーワードは『新しいコモンセンスを創ろう』。古い神話は終わり、古い常識も崩壊したので、ちゃんと新しい時代に適合した、良識・標準を作らないといけない」(佐々木さん)
「キーワードは『PtoP』。人と人をつなぐという意味だけではない。パーソナルとパブリック、すなわち仕事と家庭、働くことと消費が分断していたのは20世紀的。それが解けていくのがシェア。自分のプライベートな場所で与えるものが増えていくと人間関係が広がっていく。PtoPの意義が変わって、そういうコミュニティ、アーキテクチャを創っていくのが、こらからの日本にとって重要」(高木さん)