7月3日にシェアリングエコノミー協会主催で開催された「シェアワーカーサミット2021」。
ここでは、「旅と人材のシェア」をキーワードに、ANAホールディングスの津田佳明さんとおてつたびの永岡里菜さんによるトークセッションの模様をお届けします。コロナで副業が加速する中、企業ではどのような取り組みや課題があるのでしょうか。ファシリテーターはシェアリングエコノミー協会常任理事の石山アンジュさんです。
津田佳明さん(ANAホールディングス グループ経営戦略室経営企画部長)
コロナ禍の大打撃を受けている航空業界で、仕事がなくなってしまったANAのCAやグランドスタッフらの出向や副業サポートの他、アフターコロナの旅と移動に関するさまざまな取り組みを進めている。
永岡里菜さん(「おてつたび」代表取締役CEO)
「お手伝いしながら知らない町へ旅に出よう!」がコンセプトの人材シェアサービス。日本各地の困りごとを手伝うと報酬が得られる仕組みで、地方の関係人口の創出を目指している。https://otetsutabi.com
__コロナ禍のANAでは、社員を出向するなど従業員のシェアリングを行っているそうですが、詳しく教えていただけますでしょうか。
津田さん:コロナで飛行機が飛ばせなくなり、一万人を超えるCAやパイロットを含めた多くの社員の仕事がなくなってしまった。人件費もかかるし、社員のモチベーションも上がらない。そこで、ANAでは受け入れを表明してくださった出向先企業を社員に提示し、社内公募を経て320社へ1030名が現在出向しています。
これらの出向をネガティブなものではなく、「日頃できない業務を経験し、新しいネットワークを築いて、会社に新しい風を吹かせるチャンス」とポジティブにとらえています。
他にも、副業や兼業は事前申請の上対応可能になので、たとえばストアカなどのシェアサービスで、海外拠点の国際線CAによる外国語や料理、メイクなどを教えるオンライン講座などをしている人もいます。
__航空会社「ANA」とシェアサービス「おてつたび」がコラボレーションした取り組みがあるとお聞きしましたが、具体的にはどのような内容なのでしょうか?
永岡さん:私たちの「おてつたび」は、日本各地のおてつだいをすることで、地域とのご縁を繋げるサービスです。お手伝いの報酬を得ることで、結果的に旅費を抑えつつ、第二第三の田舎が作れるというイメージです。実際に現地に訪れることを大事にしているので、交通手段は必須。そこで、ANAさんと何かできるのではないかというお話になったんです。
津田さん:コロナ前からANAでは、「移動コストの負担感なく日本各地に人が訪れる仕組み」、もっというと「1円も払わないフリートラベルのような仕組み」が作れないかと考えていました。そんなときに、ある交流会で偶然永岡さんが目の前の席に座っていたのです。おてつたびの体験価値がすごく魅力的で、まさに私たちの考えにマッチするサービスだったので、ぜひ一緒にやりましょうという話になりました。
__まさに、旅の概念が変わる事業ですよね。今、二拠点生活者は増えていますが、その地域で東京の仕事をするのがメイン。2回目以降もその土地に行くには、どうやって関係人口を増やすかが課題と言われていますよね。
津田さん:テレワークが進み地方でも仕事はできるようになり拠点を複数持つ人が増えていますが、やはりカギとなるのは地域の人々と関わる関係人口の拡大だと思っています。ANAとしては、おてつたびとのコラボレーションで地域間往来のサポートを行ったり、将来的には航空券のサブスクを提供したりするのも面白いかなと考えています。
__今、会社員が副業のシェアワーカーになるためには、どのような課題があるのでしょうか?
永岡さん:おてつたびの利用者も最近は社会人の方が増えているのですが、その方たちによると、企業側の副業に対する理解や制度がまだまだ浸透していない会社も多いと聞きますね。あとは休みや副業の申請が面倒だという声も。企業側もリスク管理上必要だとは思いますが、もう少しカジュアルに副業ができるといいですよね。
そもそも副業の定義も曖昧なのかなと。ボランティアはいいけれど、報酬があるのはダメとか。企業の総務の方もどうしていいかわからないという状況なので、今後はもっとやりやすくなるでしょうけど。
津田さん:今まさに働き方の変わり目なので仕方ない部分はありますよね。ANAでは従来から兼業は可能でしたが、自分の会社のことが好きな人が多いせいなのか、兼業者はあまりいない状態でした。
とはいえコロナで何かやらないといけないという状況になったのですが、現状でも「1ヵ月前までに申請を」という状態。これだと突発的に仕事が入るシェアリングサービスに対応するのは難しいですよね。
ただ企業としても、いい事例が増えてくると、兼業を応援する雰囲気に変わってくるので、どんどん成功事例を作っていくしかないなと感じています。
__「会社の業務以外に自分のスキルや得意がわからない」という悩みも多く聞くのですが、それを見つけるためにはどうしたらいいと思いますか?
永岡さん:やってみなきゃわからないことっていっぱいありますよね。たとえば、おてつだいだと、スキルがなくてもやる気と元気さえあれば、基本的には誰でも応募できるので、おてつたびを利用してみるのも手。まさに新しい可能性を見つけるために応募したという方も増えていますし、そのおてつだい後にそこに就職した人もいるんですよ。
津田さん:シェアワーカーにおてつだいをしてほしいと考えるような受け入れ側の人たちは、そもそも寛容度が高い気がします。提供する側が思うほど高いスキルは求められていないのではないでしょうか?
永岡さん:そうかもしれませんね。もちろん人手不足ではあるのですが、何より人間力を見ている気がします。「ありがとうとごめんなさい」が言えれば、おてつだいはできますから。
津田さん:手伝ってもらおうではなく「手伝ってくれてありがとう」という気持ちが根底にありますよね。それだと働く側としては、「とりあえずやってみよう」と気軽に参加できそうですよね。
永岡さん:やってみてその土地の人と出会って、いろんな大人がいると知る。何より
新しい自分に出会えたという声が圧倒的に多いです。副業を見つける一つのきっかけとして活用してもらえたら嬉しいですね。
津田さん:僕も入社当時は未経験で営業の仕事をしていました。誰だって最初は未経験ですからね。でも、たとえば営業職の人は人とコミュニケーションを取るのが得意なので新しいことにもチャレンジしやすいかもしれないですね。
__古い体制の企業では、「副業なんて勝手なことは許さない。社会保険もあるのだから」というところや、離職率が増えるのを懸念している会社もあるそうです。企業としてANAでは副業をどのように考えているのでしょうか?
津田さん:コロナ前はそんな風潮もありましたが、もはやそんなことを言っていられる状態ではなくなってしまいましたからね。やるしかないというのが正直なところです。ただ、
業界によってはコロナの影響も少なく、人材も流動せず、未だ終身雇用というところもあるでしょう。そういった場合は「うちが育てた」みたいな考えになるのかもしれません。
ANAは、どんどん出向や兼業で経験を積んでもらおう、出向先や兼業先で新しい仕事が見つかって転職することになったら「おめでとう」と言おう、とコロナを機に考えが変わりました。人材流動化の流れは止まらないので、新しい働き方に対する考え方を受け入れて対応できる企業が、これから先も生き残るのではないでしょうか。
永岡さん:新しい考えを受け入れて対応できる企業の生き残りはすごく実感しています。おてつたびでも、これまでの「季節労働や出稼ぎ」という古い言葉のリブランディングをはかっています。一次産業や観光業のほか、薪割り、イルカパーク、古民家改修など47都道府県の困りごとがあります。人手不足をチャンスに変え、ファン(関係人口)の創出を務めたいと思っています!
60代、70代の方も参加してくれています。人生100年時代ですから、自分には無理だと思わず、飛び込む勇気をもって副業にも挑戦してもらいたいですね。
▼グラレコ作成
シェアリングエコノミー協会公認アンバサダー兼グラフィックレコーダー とんぷさん