<2016ユーキャン新語・流行語大賞>に「民泊」がノミネートされ、日本で民泊が初めて認可されたことで知られる大田区を舞台にしたテレビドラマ『拝啓、民泊様。』がスタート。また、急成長するフリマアプリのトップを走る『メルカリ』は、経済産業省が2月に発表した<日本ベンチャー大賞>を受賞するなど、2016年はまさに「シェアリングエコノミー元年」と言えるでしょう。

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▲写真左から、須賀大介氏、兼松佳宏氏、木下斉氏

そんな中、9月に開催された「シェア」を起点に私たちの暮らしを考えるイベント<SHARING CITY FUKUOKA 2016>では、『福岡移住計画』代表の須賀大介氏、勉強家/京都精華大学人文学部特任講師の兼松佳宏氏、『一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス』代表理事の木下斉氏による「シェアリングシティが描く未来」をテーマにしたトークセッションが行われました。日本でのシェアリングエコノミーは、今後どのように広がっていくのでしょうか? 3名それぞれの立場での発言を紐解きながら、前編・後編に分けて考えてみたいと思います。

都市におけるシェアリングエコノミーの本質的な役割とは?

前編では、「都市」にフィーチャーしたシェアリングエコノミーについて。そもそも、シェアリングエコノミーの発展には、世界的な都市部への人口の集中が関係しています。国連の調査によると、2014年の時点で世界人口の54%が都市部に住んでおり、2050年には、その比率は66%にまで上昇すると言われています。そして人口集中が進む都市が抱える環境・経済の問題、もしくは都市間の移住の問題を解決するための方法として、シェアリングエコノミーは台頭してきたのです。ではその「問題」とは、具体的にどういったものが挙げられるのでしょうか。トークセッションでも、シェアリングエコノミーの“本質的な役割”について様々な意見が語られました。

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兼松氏: 僕は『持続可能性』ではなく『未来可能性』と言っているんですが、シェアリングエコノミーは未来の可能性を最大化するための方法のひとつだと思っています。インターネットが当たり前になり始めたのが20数年前ですが、今では個人がメディアになれる時代が訪れました。そんな時代において、シェアサービスはより大きな自分に出会える機会だと思います。同時に、たとえば毎日大量のゴミが生まれていますが、ペットボトルをリサイクルするよりも、一回東京~ロサンゼルス間の飛行機に乗らないことの方が大量のプラスチックを減らすことになる。(各地の人々が仕事をシェアすることで)『移動しない』ことも豊かな選択肢になるということです。それは逆に、『移動する楽しさ』が増すことにもなりますよね

須賀氏: 実際、僕は4年前に福岡に移住して来て『福岡移住計画』をはじめましたが、そこで感じたのは、その都市ならではのよさを生かせるということです。たとえば、東京で仕事をするには家や土地の賃貸料だけで出費がかさんでしまいますが、その点は福岡など地方都市の方が有利な部分です。また、様々なシェアサービスを組み合わせて上手く利用することで、仕事の効率を上げて、自分や家族との時間が持てるようになる可能性もあると思います。

木下氏: そうですね。特に日本はこれから、近代国家化した明治以降初めてと言っていい急激な人口減を迎えるため、従来のまま進んでしまうと今と同じ労働力を発揮するためには低賃金で働かざるをえなくなってしまいます。これは戦後の政策の成果でもあって、日本では厚生労働省なども避妊などを推奨して“いかに子供を産まないか”を考えてきました。ただ、それが達成されると、今度は逆に人口減が問題になってしまった――。それが今という時代です。シェアリングエコノミーは、こうした人口減で生まれる問題を解決してくれる可能性があると思いますね。

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木下氏によると、今後日本で減少が見込まれている4500万人という数字は、北海道、東北、北陸、中国、四国、九州地方の現在の人口すべての合算=4579万人とほぼ同程度。近い将来、地方都市では労働力の確保ができない状態になる可能性が高いと言います。つまり、人が減っても生産性の高い経済の在り方、公共サービスの在り方を実現することが、シェアリングエコノミーに期待されていることのひとつでもあるのでしょう。

シェアリングシティはどう生まれる? 都市の未来と可能性

では、これからシェアリングエコノミーはどのように変化し普及していくのでしょうか? 都市のシステムにおいてはまだ生まれて間もない仕組みであるため、その可能性は多岐に亘っています。登壇した3名の方々が考える未来図どのようなものなのでしょうか?

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須賀氏: 僕自身、シェアサービスがない時代に福岡に移住してきて思うのは、最初は居場所がないということでした。移住した当初は、地元の人とどう接していいかも分からない。そうした状況においてシェアリングエコノミーを活用すれば、スムーズに地域支援に繋げることが出来ると思いますし、外モノのスキルが地域の方々のスキルと融合して、その地域をよりよくする可能性もある。農村に若者の移住を促すように“人を取り合う”のではなくて、もっと流動的な形で“場が繋がっていく”ことが重要です。『福岡移住計画』のようなサービスを運営している観点からすると、そうすることで、自分に本当に合った土地に出会える可能性も高まりますよね。

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木下氏: とはいえ、構造上は、僕はシェアリングサービスは役所のサービスとほとんど同じだと思っています。たとえば水道は、みんなでひいてみんなで利用料を払うから新鮮な水が毎日飲めるわけですよね。個人でやらなければいけないものが集合化して、コストが下がっていくわけです。シェアリングエコノミーでは、(インターネットを介したマッチング機能の進化によって)水道のように爆発的に利用されるものだけでなく、適応される領域が広がります。様々なコストがより少なく済んで、今より便利な生活を送れる可能性が高まるということです。そして、“人間が(過度に)労働しないとそれを支えられない”という状態ではなくなった時に、本当の意味で社会の成長が始まると思いますね。

兼松氏: その際に、『こう使ってほしい』というニーズがあったとして、そのままの使い方ではない方法で広がっていくこともあると思います。その時に、やっている側が許せるかどうかが大事だと思いますね。ルールを決めて、『そういう使い方をしないでください』と言った瞬間に、終わってしまうものがあると思うので。セレンディピティじゃないですが、シェアリングエコノミーにも予期せぬ変化が起こっていくんだと思います。それに、無理してシェアする必要はなくて、自分がいらないものをシェアすることが大切ですよね。

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実際に、アメリカのライドシェアサービス『Uber』ではクルマの中にジュエリーを置き、利用者に販売することで、年間25万ドルを稼いだドライバーも存在します。各ドライバーには利用者の評価がつけられるため、強引なセールスをすることは出来ません。これはC to Cならではの仕組みが上手く機能した事例です。このように、何かひとつのサービスを起点に本来は想定されていなかった新たな需要やサービスが誕生し、その微細な変化がバタフライエフェクトのように重なって、新しい都市の形が生まれていくはずです。

レイチェル・ボッツマンとルー・ロジャーズによる2010年の著書『シェア〈共有〉からビジネスを生み出す新戦略』には「協働型消費(シェア)とは、個人の欲求がコミュニティや地球のニーズと調和するような経済・社会のメカニズム」と書かれています。つまり、シェアリングエコノミーにとって重要なのは、それ自体が既存のライフスタイルを淘汰して完全に取って変わることではなく、人々のニーズに合わせて、既存の産業と組み合わさっていくということです。知識を図書館にプールして、それを多くの人とシェアすることでより豊かな知識が得られるのと同じように、人々がそれぞれの特技やスキルを“都市にプールする”ことで、日々の生活がより豊かなものに変わっていく。シェアリングエコノミーが実現する都市の未来図とは、そういったものなのかもしれません。

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後編では、シェアリングエコノミーが浸透する際に考えられる「課題」について、登壇後に須賀氏、兼松氏、木下氏にうかがったコメントとともに考えていきます。