2018年11月に韓国・ソウルで開催された国際カンファレンス『Sharing Economy Forum 2018』。このカンファレンスで、日本シェアリングエコノミー協会事務局 公共政策渉外部長の石山アンジュさんが、日本のスピーカーとして参加しました。今回は、石山さんがカンファレンスを通して感じた課題と、2019年に注目したい新潮流のシェアリングエコノミープラットフォームについて話を聞きました。

シェアリングエコノミー先進国・韓国

—石山さんのセッションテーマは、『シェアリングエコノミー時代の規制改革』でした。世界中から約750人のスピーカー・参加者が集まったと聞いていますが、反応はどうでしたか?

アメリカやスペインなど欧米諸国のほか、韓国の行政・自治体・シンクタンク・『Airbnb Korea』や『カーシェアSoCar』などのプラットフォーマーが登壇した国際カンファレンスでした。
私は、日本初の官民共同ルールとなる「シェアリングエコノミー認証制度」について話をしてきました。世界的に見ても、シェアリングエコノミーにおける法整備は国がプラットフォームを規制するか、民間のプラットフォーマーや業界団体が自主規制を設け働き掛けるかのどちらかが見受けられますが、日本では世界で初となる政府が策定したガイドライン指針をもとに民間が認証制度をつくるというルールメイキング手法を行いました。この日本のモデルは世界でも注目されており、現在国際標準化に向けた動きが進んでいます。この制度の取り組みと、日本のシェアリングエコノミーの現状と課題についてセッションをしてきました。
私が登壇したセッションでは、シェアリングエコノミーが社会インフラになるための課題と解決策、シェアリングエコノミーの規制に関する問題と規制改革、現代のシェアリングエコノミーの限界点の見極めと解決方法といった議論が多く交わされました。

——世界的に見て、開催国である韓国はシェアリングエコノミー先進国と言われています。

ソウル市は、2012年から政策としてシェアリングエコノミーを推進していくことを決めました。韓国ソンナム市長が、カンファレンスの冒頭で「資本主義は危機に面している」と語ったのですが、これを市長が発言したのは印象的でした。日本では、ITテクノロジーとしての新たな成長産業として注目されていますが、韓国では、また違った側面でシェアリングエコノミーが取り扱われている印象を受けました。経済成長を前提とした議論としてのアジェンダというよりも、限られた資源、経済成長の限界といった文脈の中で、持続可能な社会にするために何が必要かといった意見が、経済成長の議論と同等の大きな勢力を持っています。また、失業率が高い韓国では新たな就業機会としてシェアリングエコノミーが期待されており、働き手の環境整備も含めて真剣な議論がされていました。

『プラットフォームコーポラティズム』プラットフォーマーと個人は対等であるべき、という考え方

——日本よりもシェアリングエコノミーが進んでいる海外での議論は、今後の日本で起こりうるものです。私たちがいま知っておいたほうがいい事象はありますか?

韓国・欧州・アメリカでは、『Uber』『Airbnb』以外にも様々な分野のプラットフォームが生活基盤に入り込んでいます。その状況下で『プラットフォームコーポラティズム』という考え方が出てきています。

近年、シェアリングエコノミープラットフォーム企業に対してシェアワーカー(シェアリングエコノミー企業のプラットフォームを活用して働く個人)が訴訟を起こすなどの例が出てきています。本来シェエアリングエコノミーは企業は主体に立たず、サービスを提供する個人となるシェアワーカーと利用するユーザーの双方で成り立つCtoCモデルがメインですが、例えばAirbnbやUberに対して個人側がプラットフォームの手数料の適正値はいくらか? 個人情報はどこまで提供するべきなのか?などを議論する動きが大きくなってきています。本当の個人のためのシェアリングエコノミーとは何か? シェアリングエコノミーをもっとフェアに考えようというのが『プラットフォームコーポラティズム』という考え方です。

——具体的に、『プラットフォームコーポラティズム』に関する取り組みはされているのですか?

最近では、企業不在型のシェアリングプラットフォームが誕生してきました。『Uber』や『Airbnb』は、人と人をマッチングすることで課金して利益を出すビジネスモデルですが、企業不在型は基本的に非営利で個人組合型のモデルを指します。個人組合型とは、個人同士が組合費を払って運営費やコストを賄う仕組みです。

この組合型にブロックチェーンを活用したプラットフォームもここ数年で登場しています。カナダで始まったブロックチェーン型ライドシェアサービス『Eva』は、個人同士が元支払額を設定して、支払いは“EVAトークン”という独自のお金で支払うことができます。


https://eva.coop/

ブロックチェーンを活用した韓国の組合型民泊サービス『wehome』もあります。このように、ブロックチェーンを使ったシェアリングエコノミーのプラットフォームが新たな潮流として誕生しはじめています。日本では、『GOJYO』が近いサービスでしょうか。日本は生協や共済といった組合というシステムに昔から馴染みがある国なので、“組合モデル×テクノロジー”がどう進んでいくか注視しています。


http://wehome.foundation/


https://lp.gojo.life/

シェアリングエコノミーが根付いた社会で、個人はどう社会に向き合うべきか?

——シェアリングエコノミーが社会に根付いていくと、個人としてどのようにプラットフォームと向き合っていくべきか考える必要がありそうです。

特に働き方の分野では、シェアリングエコノミープラットフォームでの副業やフリーランスが増えていますが、企業勤めと比較すると、労働法に守られていないし社会保障も整っていません。そんな現状で、個人がプラットフォームに何を求めていくのか、個人から声を上げる必要があると思っています。

シェアリングエコノミー協会では、2018年9月に、シェアワーカーのためのスキルアップ機会や、保険や福利厚生などをカバーする個人会員制度を新設しました。こういった取り組みから、個人のシェアワーカーたちがプラットフォームに対して求めるものや課題を汲み上げていきます。シェアリングエコノミーに関する制度改正やルールメイキングに対しても、プラットフォーマーだけでなく個人が意見を上げられる仕組みが必要です。

——まだまだ日本でのフリーランスの立場は弱いように感じていますが、そこを超えて、社会に声を上げていく必要があるのですね。

日本でもフリーランスという働き方は増えていますが、個人の社会的責任への自覚が低いように感じます。もしも日本全体がフリーランスになったら、これまで企業に頼っていた社会保障など私たち個人ひとりひとりが、社会インフラをどうしていくか考えないといけませんよね?だれもがシェアワーカーになれる時代にきているからこそ、プラットフォームを利用する上での自由と責任への自覚を高めていかなくてはいけないと考えています。
『プラットフォームコーポラティブ』の話にもつながりますが、欧州を中心に海外ではFacebookやgoogleが個人情報を取ることに対して、どこまで自分の情報を明かすべきか責任とリスクを制度として本格的に検討する動きが始まっています。日本でも政府内で少しずつ、検討の動きが始まっていますが、国、企業、個人とトライセクターでどこまでルールメイキングができるかが今後の課題です。
シェアリングエコノミー協会としても、2019年はプラットフォーマーのための業界団体としてだけでなく、個人やNPOを巻き込んで、個人のシェアワーカーに注力していきます。シェアリングエコノミーをより良い社会インフラとして根付かせられるかどうかのカギは、“個人”にあるのではないでしょうか。