世界に広がるAirbnbの、「本当の魅力」が知りたい。

世界各地でローカルな体験をしたい旅行者と、ユニークな空間を提供するホストを繋ぐサービスAirbnb(エアビーアンドビー)――。 191カ国、34,000都市に広がり、日本でも利用者が増え注目が集まっています。いったいどんな魅力があるのでしょうか?

今回Share!Share!Share!編集部では、三人の「エアビーホスト」にフォーカスを当てました。根津で「東京キチ」を運営する中村俊之(なかむらとしゆき)さん、Airbnb運営代行事業を展開する町田龍馬(まちだりょうま)さん、シェア時代の家族とゲストの一軒家「Miraie」を運営する佐別当隆志(さべっとうたかし)さんの鼎談をお送りします。ホストになったきっかけを語った前編に続き、後編では実際のホスト受け入れのエピソードやAirbnbが掲げるミッションについてディープなお話を伺いました。

前編:創業者が宿泊。消防団に参加。「シェア」は日常を拡張する。 – Airbnbホスト3人が語る「人生を変える”民泊”」(前編)

ホストとしてどんな人を受け入れるのか?Airbnbのホストカルチャー

――ホスト登録したあとは、どのように運用していくんですか?

佐別当:うちは登録したらすぐに予約がくるような感じでした。ただ、生活スペースが同じなので、だんだん疲れることもあり、いまでは最低3泊からの利用に切り替えました。そのほうが掃除の回数も減って楽になるんです。どのように効率的に運用していくのかは大きなテーマですね。

中村:うちはいま1つの物件にある4部屋をリスティングしています。一人で運営していて掃除が大変なので、週に一回、掃除代行サービスを利用しています。やっぱり効率的に受け入れられる体制をつくるのはとても大事です。

でも、「こういう人がいい」という人以外が泊まりに来るとどちらにとっても不幸です。プロフィールの写真や文章がない人を泊めても、いいレビューにつながらない。Airbnbのカルチャーを理解せずにホテルの代わりのような認識で利用している人もいるので、そういう人を断るのは大切です。町田くんはどう?

町田:50件以上やっていると、そういう人もいます。プロフィールの記述がない人、英語があまりわからない人、メッセージが淡白な人などを受け入れるとトラブルになりがちなので、ちゃんと選ぶようにしています。それでも90%くらいは受け入れています。

佐別当:ぼくも断るのは数%なので、ほとんど受け入れていますね。

「どんな人が泊まりにくるのか?」も、Airbnbカルチャーの魅力。

中村:ウソ!うちで受け入れるのは60%くらい。自分の住まいも兼ねているので、淡白なメッセージの人とか泊められないです。住んでない物件ならある程度許容できるかもしれないけれど。だからコミュニケーションしてくれる人が来るようにリストを明記しています。あと、うちの場合、個室が4部屋なのでマネジメントが大変なんです。全部泊めると10人くらいになってしまうので……。

町田: 2部屋セットでまとめるのがいいんじゃないですか? Airbnbのニーズは2人が多いことはもちろん、4人以上で利用したい人も多いと思います。でも、掲載されている物件は2人用が多く、4人用は少ない。だから供給は足りていない4人対応にするのはありかもしれません。

中村:実は一時期やってみたんだけど、ホストとのコミュニケーションではなく、グループになると自分たちだけ楽しめればいいやという雰囲気になることがあって。もうちょっと価格を上げるべきだったのかなあ。

佐別当:うちも値段を上げたので、30~40代のゲストがほとんどですね。昔、1泊でも宿泊できたときには20代も多くいました。

中村:うちは2泊以上なんだけれど、グループだと大変だし、運営のチューニングがまだむずかしいところかな。うちの目的は「海外との接点をつくる」「海外の人とコミュニケーションする」ことなので、それに合った運営を模索しています。ただ、Airbnbをはじめて最初の査定でスーパーホストになってしまったので、この地位を維持したいと思うようになって、ゲストを選ぶようにもなりました。

商店街を歩き、正月を共に過ごす。偏見が覆される、ホストのやりがい

――スーパーホストはどうやって選ばれるんですか?

町田:まず査定が年に4回あります。その期間中、24時間以内の返答、一度もキャンセルしていない、レビューの8割が4.5以上(5点満点中)という3つの項目をクリアすれば選ばれます。普通キャンセルはしないし、返答時間も気をつければ大丈夫なので、レビューの獲得がけっこうむずかしいですね。

中村:4.5以上、むずかしいよね。物件を検索してみると、スーパーホストの割合はだいたい6~7%。それだけにスーパーホストになれば、信用力がぐっと高まるよね。

佐別当:うちも2年かけてようやくスーパーホストになりました。Airbnbではスーパーホストだけで検索することもできるので、はじめてゲストとして利用する人はスーパーホストを選ぶのが無難だと思います。

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――実際、たくさんの外国人を迎え入れていると、どんなコミュニケーションや思い出が生まれていますか?

佐別当:たくさんありますね。普段のコミュニケーションでいえば、場所の行き方やおすすめスポットを聞かれたり、近くの商店街を案内したり……うちは3泊すると1回の食事をサービスしているので、食事を通したコミュニケーションも生まれています。

一番印象的なのは、お正月のこと。ゲストのスウェーデン人に正月料理をもてなしたり、ふくわらいをやったりして日本のお正月を楽しんだあと、スウェーデン人の正月料理や占いのようなものを教えてもらったりして、文化交流が楽しかったです。

町田:まだホストをはじめて半年後くらいのとき、共同創業者のジョーが自分のアカウントで予約してくれて、彼を出迎えたときがこれまでで一番嬉しかったですね。飾っていたアートを買ってくれたり、デザイン書を置いてくれたりしてとても印象的でした。

中村:日本のこと、街のこと、興味のあることに対して応えて、ゲストに感動してもらえる。フィーリングが合う人たちに旅行をしなくても出会うことができる。そういうことが嬉しいです。実際に目に見えて喜んでくれて、最初の査定でスーパーホストになるほど評価もされて。あとはいろんな国の人とコミュニケーションすると、偏見が覆されることもあるし、お互いに得られるものも与えられるものもある。そういう実感を持てたのがいちばんよかったです。

世界中に居場所を作る。「Belong Anywhere」というミッションに込められた思い

町田:「偏見が覆される」ということに関連して、Airbnb創業者の思いを伝えたいです。Airbnb Open*でCEOが語っていたのが、「Belong Anywhere」というミッションでした。要するに、どこにでも居場所があるということ。世界中の人々がAirbnbを通じて自分と異なる背景や文化を持つ人と交流し、新しい価値観を学び、人として成長することで、多様性を理解し合える人を増やし、平和な世界を創る。

そうすることで、世界中から知らない人(他人)をなくしていこうとしているんです。一度ホストとゲストの関係で会えば他人ではなくなり、偏見が消える。すると、世界中で起きている偏見が原因となった争いがなくなっていくわけです。世界平和を求めて、ポジティブな世界を求めて、「Belong Anywhere」というミッションを達成しようとしています。

Airbnbのようなサービスはほかにもあったけれど、世界中には広がったのはAirbnbだけ。やっぱりみんなが共感できるミッションがあって、その実現に向かっていることが大きかったんだと思います。

だから、Airbnbへの転職者も優秀で、たとえばぼくの部屋に泊まりに来たデザイン部門のトップに転職理由を聞いたら、「Airbnbは世の中にインパクトを出している。多くの会社が世の中にいいことをすると言っていても、本当にできているところは少ない。だから、自分は実際に世界をよくしているAirbnbに関わりたいと思った」と言いました。Airbnbに関わることは、世界をよくすること――。そのことをホストにもゲストにも伝えたいです。

(*Airbnb Open:全世界からAirbnbの利用者が集まるイベント。プレゼンやワークショップ、アワードなどが催される)

佐別当:ぼくも創業者の話を聞いて共感しましたね。もともと嫁は「自分たちの手が届くところでじっくりやるべき。人が増えると質が落ちるから」とホスピタリティの重要性を強調していた一方で、ぼくはもっと物件を増やそうというスタンスでした。でも、Airbnbにはホスピタリティ部門があるくらいホスピタリティを大事に考えているので、嫁のほうが正しかったんだなと(笑)。

うちはイベントもやっていますが、まず泊まってもらうことで関係性が生まれ、イベントでしか提供できない体験を提供する。そんなベースとなる関係性ができると、泊まる以外の衣食住の体験がさらに広がっていくのかなと思います。商業的な価値観ではなく、みんながフラットな関係で楽しむ――。Airbnbを通じて大きな家族のような関係性が生まれていってもおかしくないと思います。

町田:去年、Airbnbは約1億円を投じて、「#OneLessStranger」というキャンペーンをおこないました。一人でも他人を減らすべく、世界中のクリエイターにGoProを配布して動画制作をお願いしていたんです。ぼくはすきやばし次郎に並んだとき、目の前の外国人にコーヒーを渡した様子を動画にして、キャンペーンに参加しました。

このキャンペーンをみても、Airbnbがやりたいのは、他人を減らして偏見をなくすこと。シェアリングエコノミーの価値は経済的なシェアだけでなく、交流を通じて、考え方を変えることになると思います。この思いをブラさずに世界規模でやっているのはすごいですよね。

中村:やっぱりAirbnbがあったおかげで、これまで会うことが叶わなかった人たちに日常的に会える状況がある。自分の生活場所で国際交流が日常的に起きるのは画期的です。旅行で一度会うだけではない、世界的なつながりが当たり前になっていて、みんなが理解し合える世界に近づいていると思います。

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(鼎談おわり)

「Airbnb」「シェアリングエコノミー」――。いま、どこかそういう言葉だけが一人歩きし、何度か見聞きしてもよくわからないと感じることもあると思います。しかし、そこにあったミッションは、どこにでも居場所があるということ。さらにその先には、知らない人がいない世界を目指しているのです。

そう聞くと、なんだか普遍的で、共感する人も多いのではないでしょうか。Airbnbをはじめ、すでに多様なシェアリングエコノミーが生まれ、世界中で利用者が増えています。まずはゲストとして利用し、交流・コミュニケーションを実体験として携えることで、少しずつシェアリングエコノミーの世界に惹かれていくのかもしれません。

(構成・佐藤慶一/写真・林直幸/編集・長嶋太陽/場所・miraie)