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ブロックチェーンによって、「信用」に革命が起きる。

「ブロックチェーン(BLOCKCHAIN)」という技術をご存知だろうか。一言で言うなら、「インターネット上で行われる取引の透明性や信用を究極的に担保するセキュリティ技術」であり、控えめに言っても、社会構造を大きく変える可能性を持つ、画期的な仕組みである。このコラムシリーズでは更なる未来に想いを馳せて、「究極の分散と共有の社会」とも言えるその変化の兆しを、シリコンバレースタートアップの事例も紹介しながら紐解いていってみたい。

シェアリングエコノミーがもたらす新たなライフスタイル

まず前提として、「シェアリングエコノミー」について触れたい。「Uber」や「Airbnb」の普及により、「シェアリングエコノミー」という言葉が世間でよく知られるようになった。平たく言えば自分たちの持っている余分な時間や資産、あるいは能力や情報といったものを少しずつ共有し合いましょうという社会のことだ。インターネット、とりわけスマートフォンのおかげで、まったく見ず知らずのドライバーが自分の行きたいところに連れて行ってくれたり、旅行先で見知らぬ人の家に泊まるなど、新しいライフスタイルが世の中に浸透し始めている。

UberやAirbnbがどこまで世界で受け入れられていくのかという議論ももちろん興味深い話ではあるが、実はそうしたムーブメントを後押しするような大きな社会の変化がシリコンバレーを中心に起ころうとしている。

インターネットは本当にシェアリングエコノミーを実現しているか

今のインターネットでは本当の意味でのシェアリングエコノミーは実現できない。例えば、UberやAirbnbはシェアリングエコノミーの代表的サービスであるが、そこには「信用」に関する本質的な課題が存在する。

よく知った仲の者同士であれば、部屋を貸してあげることも家に送り届けてあげることも通常は問題ない。しかし、見知らぬ人から突然家まで送り届けてくれると言われて、手放しで付いていく人は恐らく少ないだろう。

そのため、知らない人の家に泊まる「Airbnb」や見知らぬ運転手が運転する車に乗る「Uber」の両者とも、一見不安になる要素がありつつも、スマートフォンのアプリの提供によってこれらの問題を解決している。つまり、「Airbnb」や「Uber」が身元確認のプロセスや紛争仲裁、決済を双方の間に入って行うことで、信頼の担保をしているのである。このように現在の「シェアリングエコノミー」においては、仲介者がいる前提で双方間の信頼が成り立っているということを想像に難くないだろう。

異なる視点で言えば、それらの信頼はそのサービスを利用している時にのみ適用されるもので、運転をしてくれたドライバーや部屋を貸してくれたホスト自体の信頼を本質的に担保するものではない。したがって、そういった信頼は、これらの会社の経営方針ひとつでどうとも変化する上、それらの会社から無為に自分たちの情報が流出する危険性まで孕んでいる。何よりAirbnbやUberという企業が利益を維持して存在し続けない限り存続し得ないという、閉じられた共有社会なのである。

つまり、本当のシェアリングエコノミーの実現のためには、何かのサービスに依存することなく、その個人の信頼が担保される必要があるということだ。

音楽ビジネスを誰が守るのか。

今度は話を音楽に切り替えてみよう。

さて、シェアリングエコノミーとして考えた時にYouTubeやSpotifyは何を解決しただろうか。確かに高いCDを買わなくても数多くの音楽が聴けるようになった。しかし、それらの普及により著作権闘争が発生し、多くのレーベルは徐々に弱まっていった結果、ミュージシャン自身はますます生計を立てていくのが難しくなってきているのも確かなようである。とはいえ、ミュージシャンが個人の力で音楽の権利をある程度守りながらインターネットの中で自らの音楽を共有していくのは至難の業だろう。

そのような意味で、世界中の様々なミュージシャンが音楽を共有し合う理想のシェアリングエコノミーはいまだ成り立っているとはなかなか言い難い。本当のシェアリングエコノミーの実現には、絶対的な信頼が成り立つだけでなく、お互いが平等に幸せになれる経済的な仕組みが不可欠である。

インターネットの変化が社会を変える

先の2つの事例に共通することは、信用できる顔見知り同士が対面でシェアし合うような世界は、インターネット上でいまだまったく確立していないということである。語弊を恐れずにいうなれば、インターネットは情報を飛躍的に拡散する手段に過ぎず、信用の確保は企業が古くからそうしてきた通り、集中的な管理をすることで何とか成り立たせてきた。

しかし、これからのインターネットは、まさにこの信用確保の手段へとその役割を変えていく。

ブロックチェーンが作る透明社会

ブロックチェーン(Blockchain)という技術が、シリコンバレーを中心に注目され始めている。あまり技術的な話に立ち入ることは避けたいが、冒頭でも触れたとおり、ブロックチェーンは、「インターネット上で行われる取引の透明性や信用を究極的に担保するセキュリティ技術」である。あえてセンセーショナルに言えば、ブロックチェーンによって初めて、インターネット上の取引における信用がリアルな取引を超えるという「取引のシンギュラリティ」を実現できるのだ。

例えばこんな場面を想像してみよう。友人に本を貸してあげたとする。もう絶版になっておりなかなか手に入らない貴重な本だ。その友人はあまりにその本を気に入ってしまったため、こともあろうにその本は自分の本だと主張する。古い本なので当然領収書は持っていないし、毎回毎回書面で契約を交わすわけでもない。たしかEメールに会話の履歴があったかもしれないと思ったが、友人がハッカーに頼んで履歴を消してしまったようだ。しかしハッカーでも書き換えられない取引履歴が、簡単で、かつ自動的にインターネット上に保存されるとしたらどうだろうか。インターネットでの取引履歴が他の何よりも信用できる世界が実現し、インターネットの信頼が本人同士の信頼を超えるのならば、そもそもこの友人も本を自分のものにしてしまおうということは思わなくなるだろう。

ブロックチェーンはインターネットを最強の信用担保ツールに変える技術である。もちろん技術だけで社会は変わらない。しかし、この技術を使ってインターネットの在り方や社会の在り方を変え、特に一人ひとりの個人が安心してシェアし合える分散型社会をデザインしようと、志を持つ若き起業家がシリコンバレーを中心に現れ始めている。

まだまだ未完全で従来の常識とはかけ離れていることも多いが、実際に何が起ころうとしているのか、そして、それがわたしたちのライフスタイルにどのような影響をおよぼすのか。是非大きな視点で、このコラムシリーズを読んでいってもらえれば幸いである。