いきなりだが、改めてシェアリングエコノミーという言葉の意味は実に深い。

住空間シェアの「Airbnb」やライドシェアの「Uber」、さらにはお手伝いシェアの「TaskRabbit」など、あらゆるものをシェアできる手段が、インターネットを介して広がっている。

上記サービスは仲介しているウェブサービスの信用によって成り立っており、シェアリングエコノミーに”アイデンティティの認証”や”取引の信用性担保”が不可欠だということは、前回(* 「インターネットを最強の信用担保ツールに変える。「ブロックチェーン」とは一体何なのか。」 )の記事でも書いた通りだ。

その信用が担保されたサービスの上で、誰もが提供者&収受者として参加でき、シェアすることが出来る。これもまた「信用」と同様に、シェアリングエコノミーの裏に流れる重要な信念である。一人ひとりはいわゆる”専門家”でなくとも、うまく協力し合ってネットワークを形成することで、十分な価値を共有し合うことができるというものである。

一方で、ひとりがどんなによいスキルを持っていても周囲の助けがなければ力を発揮できない、という見方もできる。そんな中、シリコンバレーを中心に、シェアリングエコノミーやブロックチェーンに携わる人間たちの間では、結束して事業を起こす「ある動き」が散見される。

今回は、『ブロックチェーンが引き起こす「巻き込み型」イノベーションの猛威』と題して、前後編にわたってその「動き」をご紹介したい。

合言葉は”ブロックチェーン”。国を超えてネットワークを形成する起業家群

なんだよく聞く話だ、と思われるかもしれないが、この思想が今、ブロックチェーン技術周辺の起業家群の中に改めて根付いている。欧米を中心に、国や産業の枠を超えた「巻き込み型」イノベーションが生まれようとしている。

2015年12月18日に開催する「ブロックチェーンサミット」に登壇する「ブロックチェーンユニバーシティ(Blockchain University)」や「R3CEV」、そして「スキューチェイン(Skuchain)」といったスタートアップを紹介しながら、「巻き込み型イノベーション」の実体をできるかぎり噛み砕いていってみたい。

教育という名のイノベーションハブ、”ブロックチェーンユニバーシティ”

ブロックチェーンユニバーシティは、シリコンバレーで作られたブロックチェーン技術習得のコミュニティである。

参加者は8週間にわたり、毎週末マウンテンビューにひっそりとたたずむインキュベーションスペースに通う。そこでブロックチェーンに関する技術を学び、きちんとやれば、最終的にはある程度のプロトタイプが作れるようにまではなる。

これはこれで日本にはなくすごい場所なのだが、ブロックチェーンユニバーシティのすごいところはそこではない。
最も優れている点は、”彼らがイノベーションのハブになっている”ということだ。

技術教育とネットワーキングを提供。わずか8週間で起業してゆく参加者たち

内容は非常に技術的で、正直デベロッパーでないと途中からまったくついていけなくなる。しかし、プレジデントのロバート・シュベンカー氏はデベロッパーでない人の参加も積極的に歓迎している。なぜなら、途中でチームを組ませてプロトタイプを作らせるからだ。

毎回コーヒー&ドーナッツブレイクがあり、ざっくばらんに生徒同士が会話ができる場を作る配慮も欠かせない。最終回にはデモナイトと呼ばれるイベントが開催され、参加チームによるプロトタイプの発表会が開催される。FacebookやIDEO Futuresといった企業や、EBAY創業者が組成しているOmydiarファンドなど、そうそうたる面々の企業&ベンチャーキャピタルによるパネルの後、一般参加者の前でプロトタイプを発表することになる。

このように、技術的な成長機会を提供しつつ、きちんとしたネットワーキングや発表の場を提供することで、”イノベーションのハブ”として成立しているのである。すでにブロックチェーンユニバーシティからはいくつかの起業家が生まれており、その活動と今後のブロックチェーンユニバーシティには注目である。

Blockchain Universityのデモナイト@Orange SVに登壇した筆者

主義主張の異なる講師陣(=起業家)が集い、議論し、そして成長する

新しい技術が広がる時というのは、とかく混迷を極めているものだ。定義も曖昧で、そこには未来しかないからだ。
そのため、ブロックチェーンスタートアップの最先端を行く講師陣同士ですら、「あいつのあの考え方は間違ってる」、などという話をしょっちゅうしている。

しかし、そういった相容れないビジョンを描いている起業家があつまり、このブロックチェーンユニバーシティをハブにすることで、議論を重ねながらお互いの弱点を指摘し、またサポートし合いながら一緒に成長していくのである。

次回の後編では、日本の可能性にも迫る

今回は、教育の枠にとらわれないハブ機能を持った「巻き込み型」イノベーションの例として、ブロックチェーンユニバーシティを挙げた。

次回は後編として、もうひとつの、そしてより大きな「巻き込み型」イノベーションに注目したい。
「R3CEV」や「Skuchain」が作り上げようとしている”コンソーシアム”の話や、ヨーロッパで起こる「巻き込み型」イノベーションについて書いていく。さらに、日本で実現可能な「巻き込み型」イノベーションの可能性も模索していってみたい。

(後編につづく)

後編:対立から共創へ。ブロックチェーンで変わる「スタートアップと大企業の関係性」 – ブロックチェーンが引き起こす「巻き込み型」イノベーションの猛威