2015年を振り返ると、「表現」と「権利」の問題がこれまで以上に話題になった1年だった。TPP交渉では「著作権」を中心に知的財産分野の扱いが議題のひとつとなり、人気漫画『ハイスコアガール』の著作権侵害問題では和解が成立。そして、象徴的な出来事としての「オリンピックエンブレム問題」……。

もはや、クリエイターは「作って終わり」では済まされない時代になったと考えるべきだろう。

といっても、多くのクリエイターにとっては創作時間を確保することだけで手一杯。権利のこと、契約のことなどを考える余裕はなかなかないかもしれない。だからこそ、ひとりではなく、クリエイターが協力しあって学びの場をつくり、補完しあうことが必要なのではないだろうか。

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その足がかりになりそうなイベント「作り手のための著作権講座 by iichi」が11月13日、東京・目黒にあるMakers’ Baseで開催された。アーティストやクリエイターからの法律相談を専門としたNPO「Arts and Law」の弁護士をゲスト講師に迎えた、権利にまつわる勉強・相談会だ。

このイベントを主催した「iichi」、場所を提供した「Makers’ Base」、そして「Arts and Law」それぞれの取り組みを紹介しつつ、シェアリングエコノミーと著作権について考えてみたい。

作り手と使い手の出会いを創出するiichi

「作り手の方たちからのお問い合わせの中で、『著作権』に関するご質問が最近増えてきています。きちんとお答えしたいと思いつつも、個々の事情によって内容も異なりますし、専門の知識も必要になります。そこで、今回、Arts and Lawさんをお招きして、こうした勉強会の場を設けさせていただきました」

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会の冒頭、こう挨拶したのはiichiディレクターの重松泰斗氏だ。

「iichi」とは、日本のさまざまな作り手の仕事を知り、作品の販売・購入がオンライン上でできる“手仕事のギャラリー&マーケット”だ。

Iichiに登録している個人作家は約18,000名超。彼ら“作り手”と、国内外のユーザー(使い手)との出会いの場をIichiは創出していることになる。

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また、シェア工房スペース「Makers’ Base」と業務提携し、日本の手仕事文化を担う個人作家の創作活動支援にも積極的に取り組んでいる。

個人や小さな組織によるモノづくりを支援する「Makers’ Base」

Makers’ Baseは、2013年に東京目黒区でスタートした日本最大の会員制シェア工房。元工場を改装した空間には、陶芸、木工、彫金、染織はじめ多くのジャンルの創作活動を可能にする機材設備が用意され、述べ1,400名以上の利用者に創作活動のための場所とツールを提供。「個人や小さな組織がもっと、自分の好きなモノ作りを仕事としていける世の中」の実現を目指して活動している。

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Makers’ Base の運営母体・Makers’は、iichiとともに個人での創作活動をより円滑に行うためのサポートプログラムを用意。著名人を講師に招いた講座や、個人事業主としてビジネス機会を創出・成長させていくための運営ノウハウの情報発信などを継続的に実施している。

今回の「作り手のための著作権講座」もその一環の活動、というわけだ。

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クリエイターをサポートする「Arts and Law」

「作り手のための著作権講座」。記念すべき1回目の講師は、クリエイターやアーティストに対する法的な視点からのサポートを標榜するNPO「Arts and Law」の藤森純弁護士と倉崎伸一朗弁護士だ。

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「皆さん、『著作権、著作権』と気にされていますが、実は著作権以外の問題も多いんです。今回の講座の目的として、いろんな権利があるということをまず知っていただきたい。そして、モノづくりで何か障害にぶつかったときに誰に相談すればいいのか? これからのモノづくりにおいての参考になればいいな、と思っています」(藤森弁護士)

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今回のイベントではさまざまな事例を元に、作り手が遭遇しそうな法律問題について紹介。その端々でArts and Lawの両弁護士が言及したのは、「作家も日頃から権利にまつわる問題意識を持って欲しい」というテーマだった。

契約書を交わす、というのは『自分を守ること』

イベントでの象徴的なエピソードをひとつ。

参加者のひとりから、「契約書の確認のしかた」についての話題が提示された。ジュエリー加工を手がけるその作家は、あるクライアントから「加工屋さんにはみんなこれにサインしてもらっているので、よろしければ今、サインをもらえますか?」と話を振られたという。

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「でも私は、『知り合いの弁護士に読んでもらってからサインします』と返答し、その場でのサインを断りました。実際、その書類にサインをすることで、他の会社との仕事ができなくなる危険性がありました」(ジュエリー作家)

作り手にとって、創作活動以外での煩わしい体験ほど、創作意欲と創作時間をそがれ、無為なものはない。だからこそ、専門家の助け舟が必要になるときがある。

「大事なことは、著作権についてわかっている弁護士さんに相談できること。私は知り合いに弁護士がいたからよかった。でも、いないとどうしていいかわからない。弁護士事務所によっては、相談だけで1時間何万円も取られることがあります。でも、専門外の方の場合、ろくなアドバイスがもらえないことも。こちらも質問のポイントがわかっていないと、無駄な相談をしてしまう恐れがあります」(ジュエリー作家)

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参加者の体験談を受け、「だからこそ、まず契約書で予防をする。契約書を交わす、というのは『自分を守ること』という意識を持っていたほうがいいと思います」と提言したのは藤森弁護士だ。

「企業側は、『これでも通るかな?』という上から目線の契約書を最初に作ってくることがよくあります。仮に相手が大きな企業だからといっても鵜呑みにせず、毅然とした態度で『ここは守りたい』ということを伝えれば、先方も受け入れてくれることは十分にありえます。問題なのは、何も気にかけないことです」(藤森弁護士)

そして、「ぜひ、『Arts and Law』が行う無料相談を活用してください」と続けた。

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「具体的に契約書を書き直す、という部分では料金が発生してしまいますが、契約書のどの部分が疑問なのか、こうした方がいいかもしれませんね、というアドバイスに関しては、無料相談でもご対応できる部分はあると思います」(藤森弁護士)

これから先、シェアリングエコノミーの世界が広がれば広がるほど、作家にとっては創作活動がしやすい環境がより整っていくはずだ。ただそれは、「表現」と表裏一体の関係性でもある、さまざまな「権利問題」が身に降りかかる可能性もまた増えていく、という意味でもある。

クリエイター、作り手、作家、表現者……肩書きは違えども、未来に広がる可能性と課題はきっと同じはずだ。

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