『自分の空き時間を売る』タイムチケットで180枚以上を売った、それだ!感のあるネーミング

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『自分の空き時間を売る』ウェブサービス、タイムチケット――。30分単位で自分の空いている時間を売り、購入者と共に時間を過ごすというシンプルなサービスだ。販売者は自分の得意なことや好きなことなど、購入者にとってメリットのあるタイトルを付けて時間を売りに出す。サイト上には『帰国子女のプロ翻訳者が英語周りよろず引き受けます!』『素敵な音楽をおすすめします』『SNSで良い出会いに恵まれるための写真を撮ります』など自分の得意分野を活かした内容もあれば、『ワンちゃんの散歩します!』『台東区浅草にあるどら焼き、亀十代わりに並びます。』など時間を有効活用するものまで様々。

2014年7月にサービスが開始されてから4000枚以上のチケットが売れている中で、サービス開始とほぼ同時期に話題になった人物がいる。それは、インターネット広告会社に勤務する加来幸樹(かく・こうき)さんだ。加来さんは『「それだ!」感のあるネーミングを考えます。』というチケットを販売し、2015年11月時点で合計180枚以上のチケットが売れている。2014年内で100枚以上が売れたということだから、サービス開始以降はほぼ毎日購入者のネーミングを考えていたことになる。

忙しい本業の傍ら、スキマ時間を使って購入者のネーミングを一緒に考えていたという加来さん。今回は、加来さんがタイムチケットをはじめたきっかけから相談を受けている間に感じたこと、さらにはタイムチケットのみならず『シェアリングエコノミー』の可能性までお聞きした。

ちょっとした興味から始まった、ネーミング考案のお手伝い

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――最初にタイムチケットを始めたきっかけを教えて下さい。

加来:去年の7月にサービスが開始されたんですが、facebookのフィードに「タイムチケット始めました」みたいな投稿が流れてきたんですね。それを見てタイムチケットの存在を知り、軽い気持ちで登録したのがきっかけでしたね。これまでもクラウドでアイディアを出しあうようなサービスを少しやっていたのでとっつきやすさも多少ありつつ、登録だけしていても使わなそうなので、どうせ買われるかは分からないけど一応チケット作っておくかと。

普段はインターネット広告の会社で働いているのですが、ここでネット広告に関することを出しても普通だなと思い、自分が素直に面白いと思えることをやってみたいなと思った時に、もともと言葉にこだわったことが好きで社内でもネーミングを考えるお手伝いとかもやったことがあったので、ネーミングを考えるということをもっと対象を広げてやってみたら面白いと思って出しました。

――最初に買った方はどんな方でしたか?

加来:まずは知り合いからくるかと思っていたら全然知らない人で、コーチング系のサービスを考案中という方でした。そのサービス名をキャッチーな感じで考えたいということで、最初はスカイプでお話しました。初めてだったのですごい緊張したんですけど、最初の10分でばばっと出したものをとても気に入ってもらえて、終わった後にその方が僕のページにレビューを書いてくれたんですね。そのレビューの文章がすごく魅力的で、それが嬉しくてSNSで発信していたんです。

そのレビューをきっかけに2枚目、3枚目と売れていき次第に依頼が増えていきました。6枚目くらいになると当時のタイムチケットの中ではまあ売れている方だったので、サイト内で「人気のチケット」として上位表示されるんですよね。そこからはしばらく安定して売れ続けていき、気付けば今(2015年11月11日時点)は185枚にもなりました。

――その後はどんな方々からの依頼がありましたか?

加来:想像以上にいろいろな人からの依頼が来るんだなというのが率直な感想です。ネーミングと題打ったものの、このご時世なのでウェブサービスやアプリ名が多いんだろうなと思っていたのですが、名刺に入れる肩書きを考えて欲しいという依頼が意外と多かったのが驚きでした。あとは「自分のキャッチコピーを付けたい」という依頼も多かったですね。印象に残っている肩書では「預言者」が一番ユニークでした(笑)

あとは、ワークショップを通じて皆で考える場を作ることが強みの人がいて、なかなか『クリエイティブディレクター』など既存の言葉では表現しきれないお仕事なので、良い肩書きはないかということで結構議論しましたね。

依頼者との共同作業によって生まれる「それだ!」感

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――一番楽しかった相談はなんですか?

加来:どの相談もすごく楽しいですよ。強いてあげるなら、価値観がしっかりしていて、好みや表現したいことが漠然としたものでもしっかり持っている方だと「ここは良いけどここはダメだよね」というようにお互い掘り下げていく作業を繰り返しできるので楽しいですね。正解を見つけていく共同作業ができると、お互いに「それだ!感」のあるものが出ます。たった30分で僕も依頼主もヘトヘトになっているような時はすごく楽しいし、良いアウトプットも出せますね。

逆に、相手に「こういうものにしたい」という決め手や想いがない状態だと、僕が何かを見せてもその良い悪いを判断するものがない状況になってしまうので大変でした。

――毎回しっかり結論は出るんですか?

加来:もちろん出るときもありますけど、ある程度広げた選択肢を出してあげて、「持ち帰ってから考えます」という場合もありますね。既に芽が出ているところに花を咲かせる時もあれば、種は埋まっているけど芽が出ていないところに水と肥料を上げるような作業の時もある、そんな感じでしょうか。

僕はこのネーミング付けを100回以上やってきて、気付いたことがあります。それは、僕が30分で売っている・提供しているものは決してネーミングではないということです。一緒に考えを整理することや、30分間考える時間を作ることの方が、僕の提供している価値なのかなと。もちろん最終的に花が咲くことも嬉しいですけど、結論に行き着かなかったとしても、「考えが整理されました」とか「今までいかに考えれていなかったかが分かりました」という意見をもらうととても嬉しいです。

最初のころは、結論を出さなきゃ出さなくてはいけないという焦りの気持ちが強かったですね。仕事ではフレームワークを使って考えることが好きなので、はやくネーミングを出すための方法論を確立しなければいけないという気持ちが強かったんです。しかし大体50回を越えてから、方法論やフレームワークなど無いんだなと気づくと同時に、様々なケースでもどうにかできると盲信するような職人気質っぽさが生まれてくる感覚がありました。ひたすら依頼者と壁打ちを繰り返すことによって、発想力よりは『引き出し力』や『質問力』の方が磨かれていると感じています。

――180件以上もの相談があるなかで評価が100%。これは本当にすごいと思います。相談を受けるときに、何か心がけていたことなどはありましたか?

加来:強いて言えば、僕の役割はサービスややりたいことが相手にあった上での魅せ方を考えることなので、基本的に相手がやろうとしているサービスやプロジェクトの否定することだけはしないようにしています。内容はもちろん人格そのものなど、基本イエスから入っていって、どうすればもっと良くなるんだろうかと考えていきます。

大切なのは、依頼主のサービスやその人自身のファンになることです。素直に勉強になるし、こういう考えの人もいるんだとかサービスも世の中にはあり得るんだとかが好奇心を刺激してくれるので、感心させられることのほうが圧倒的に多いです。形式としては僕は提供する側ですが、僕が貰うものもすごく多いなと思いますね。

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ふとした好奇心から始めた、タイムチケット。
ネーミングをしていく中で、自分の考え方だけではなく、職場でも大きな変化を感じた加来さん。
仕事と人間関係への予期せぬ好影響、さらに、その先に見えた未来予想図とは?

後編につづく

(取材 文・石原龍太郎/写真・林直幸/場所・ブルックリンパーラー新宿)