”スキル”をシェアする、クラウドソーシング

クラウドソーシングという言葉が初めて出来たのが、2006年のこと。群衆(クラウド)と従来あったアウトソーシング(ソーシング)を組み合わせたとして提唱されました。それがいまでは当然のように使われるようになった。そこから約10年の間で、日本国内でもクラウドソーシングを巡る様々な議論が起き、ウェブサービスも多く立ち上がった。

「個の時間をシェアする」「個人のリソースをシェアする」というシェアリングエコノミーの精神を源流とするクラウドソーシング。その中でも日本最大級の会員数と規模を誇るのが、クラウドワークスというサービスだ。全国76万人以上の会員が登録をしており、クラウドワークス内には翻訳、デザイン、システム開発など合計約188種類もの仕事募集が出されている。そんなクラウドワークス上で、2014年クラウドワークス デザイナー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど精力的に仕事に励んでいるのが、フリーランスデザイナーの加藤若菜(かとう・わかな)さんである。加藤さんはデザイナーとして2012年からクラウドワークスに登録、以後リピーターも含めると350件以上の案件をクラウドワークス上で行っているという。

単なるフリーランスではなく、クラウドソーシングサービスを活用しフリーランスとして活躍する加藤さん。クラウドソーシングで仕事をする魅力とは一体何なのだろうか。

クラウドソーシングで実現した、「デザインの仕事をする」という夢

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――クラウドソーシングのサービス自体は既に日本にたくさんあると思うのですが、クラウドワークスを知った経緯と始めたきっかけってなんでしたか?

加藤:4年前に勤めていた会社でクラウドソーシングサービスを使用する機会があったんです。当時はライターさんに記事執筆を発注する側にいたので、そのサービスを使って外部のライターさんにお仕事をお願いしていたんです。その頃はSOHO(ソーホー)というアウトソーシングの前身となる言葉が流行っていた時期で、クラウドソーシングという言葉はまだ日本にはあまり浸透していなかったんですよ。

テキストの在宅ワークはその頃から流行っていたのですが、それだけで独立するのはかなりリスキーだなと… ライターさんってすごいなと思う同時に、大変だなと思っていましたからね。在宅で働くのは厳しそうだなと思いながらその時は見逃していたのですが、2012年の冬頃にクラウドワークスを見つけたんです。クラウドワークスには、制作会社でしか受けられないようなデザインのお仕事もあったので、試しにデザインをしてみようと。

――デザインでならできそうと思ったのですか?

加藤:私自身、元々ずっとデザインをやりたかったんですよ。趣味で中学生の頃からホームページ作りをしていて、中学生の時点ではホームページのデザインなどを仕事に活かしたいと思っていたのですが、デザイン会社に入るためには実務経験が最低2年必要だということを後から知り、あえなく断念したんです。前職の会社は実務経験が無くてもデザインができるということだったのでわくわくしながら入社したのですが、ネットショップの運営に回されてしまい、そこでもデザイン経験を積むことが出来ませんでした。

クラウドワークスではデザインの実務経験が不要で登録出来るということを知ったので、いろんなお仕事のジャンルがあるクラウドワークスに興味を持ち、登録してみようと始めたのがきっかけです。

スキルアップと安心感。クラウドソーシングを通じて仕事をするメリット

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――会社員を辞めてフリーランスの仕事一本に絞ると、それまで会社から定期的に貰っていたお金や保証などが一気に無くなるじゃないですか。僕はまだフリーライターの仕事一本ではないんですけど、もし自分がそう決断したら、前向きな判断とはいえ誰も守ってくれない状態で大海に投げ出されるような気分になると思うんです。その時に、フリーでも食っていけると思う自信ってどのタイミングで芽生えましたか?

加藤:実は仕事を始める前、19歳くらいの時からずっと25歳で独立すると決めていたんです。そのために必要なことはなんだろうと考えて、高校卒業後はシステムエンジニアやディレクション、広告代理店でのマーケティングなどを経験してきました。実質プロのデザインスキルを身につけることは出来なかったのですが、どうしても25歳で独立という目的を果たしたくて。その時偶然にもクラウドワークスを見つけて、「これならデザインで独立できそう!」と感じ、ギリギリで独立し目標を達成したんです。とにかく25歳までに何らかの形で独立したいとずっと考えていたので偶然の要素も強かったですし、お金の不安に関しては、親が自営業だったのを見て育ってきたので特に不安を感じたことはなかったです。”なるようになる”という気持ちで始めましたね。

――”なるようになる”と考えながらお仕事を始めたわけですが、もちろん楽しいお仕事ばかりではないですよね…?

加藤:そうですね。やはり会社での仕事と同じように、やっていて楽しい仕事と大変な仕事があります。私は車や旅行が好きなので、自分の好きな事に関するお仕事をするときはすごく楽しいです。あと、あまりカチッとしすぎていない自由度の高いデザインのサイトを作るときは新しい技術も使えるので面白いです。

――では、大変なお仕事というのは?

加藤:大変な仕事とは、クライアントさんとのイメージのセンスの違いとかでスレ違いが起きてしまうこと。綿密な打ち合わせが必要ですが、細かすぎる指定をされる方もいるのでかなり面倒な工程のお仕事もありますね。1cmのズレを指摘されるなどものすごく細かい指示をされる時もあるので、逐一指示に従わなければいけないのが結構大変です。そういう仕事ばかりではさすがに嫌になってしまうので「こういう人とはやらないようにしよう」というルールを自分で決めて、ある程度慎重になりつつお仕事を進めていきました。

――そういう点が、クラウドソーシングサービスを通じてリモートでお仕事をすることの難しさなのでしょうか。

加藤:そうだと思いますね。クラウドソーシングって基本的に仕事は全てテキストのみで応募して契約するので、その案件がどんな内容でどんな人がお仕事依頼をしてくださっているのかなどということを文面で判断しなければいけません。そのため、初めてクラウドソーシングでお仕事をする人にとってはすごく見極めが難しいですね。

ただ支払いの面ではすごく安心できます。クライアントさんが振り込んだ報酬はクラウドワークスに一度ストックされ、振込確認後にワーカーは作成開始することが出来る仮払いという仕組みがあって、もし振り込まれていない場合はクラウドワークスさんに相談をするので、私は一度も未払いの経験はないです。個人が直接会社と契約するよりもクラウドワークスのような第三者がいた方が煽りになるし、安心感もありますよね。私は直接会社と契約することはほとんど無く、お仕事はほぼ全てクラウドワークスさんを経由して頂いていますね。あとはメッセージが全てクラウドワークス上のログに残るので、もしやり取りの中で何かあった場合は、クラウドワークスさんにお願いをして事実確認などをしてもらうこともあります。

これらは、クラウドソーシングを通じてお仕事をすることのメリットだと思います。やはりフリーランスでお仕事をしているとトラブルに巻き込まれてしまうケースはとても多いんです。特に企業相手だと企業の方が上のようなイメージが強いので、どうしても個人はおなざりにされがち。その立場を対等になるように接していかなければいけないというのは、なかなか難しいところですね。

――企業が上から目線になりがちというのは、かなりあるあるだと思います。いつもお仕事をされている中で、企業相手にどのようなことを気をつけていますか?

加藤:上から対応をされないように、こちらも強気でいることですね。”Webの技術は実際目に見えにくいもので、どのくらいの相場でどこまでのクオリティが出せるかという部分がわからない人が多いんです。それに対して「そのスケジュールでは無理です」ということをはっきりと伝えることや、無理なことはきちんとした理由を付けて説明するようにしていますね。

お金に対する価値観の変化とモチベーション管理

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――クラウドワークスを通じてフリーとしてお仕事をする前と後とで、心境にはどんな変化がありましたか?

加藤:お金に関しては焦るようになりました。その日暮らしではないですけど、決して安定しているとはいえないので不安になることは多少ありますね。ただ1~2ヶ月先までの売上を確定しておくことで、お金への不安はある程度解消されるようになってきます。あとフリーになる前はお給料に上限があったんですけど、フリーになった後は自分がやればやっただけお金がもらえるので、自分の実力が測れるようにもなりましたね。

あ、でも一番変わったのは「これが欲しいから1件仕事取ろう」というように仕事がお金の換算に変わったことかな(笑) モチベーション管理を含めた価格換算をするようになったかもしれません。「今日食べたご飯代は1つのキャンペーンページで何とかする!」みたいなことは結構考えるようになってきましたね!

去年は自分の余ったお金でクラウドワークスでイラストレーターを募って、ラインスタンプを企画してみたんですけど、その頃クリエイターズスタンプの第一弾が盛り上がってきているころで、私は第二弾に食い込めたのでかなりの恩恵を受けました(笑)

――そういう働き方も夢があって楽しそうですね!会社で仲間と何かを作っていくのが好きという人もいれば、フリーランスや個人でマイペースに自分の好きなことを着々とするのが好きという人もいます。それは個人の適性や嗜好の違いだと思うのですが、加藤さんはどちらかと言うと後者ですよね?

加藤:後者ですね!ただ、フリーランスでもチームを組んで何かを作り上げていくということもあるんですよ。コワーキングスペースとかに集まって、会社に所属しなくてもそれぞれの専門分野を活かしたプロジェクトを回していたりする人も増えているので、まさにスキルのシェアが自然に起こっている。いい時代になっているなと思いますね。

スキルがなくても大丈夫。”スキルで働く”ことの強さ

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――現在、クラウドソーシングを通じたお仕事のみで生計を立てているフリーランスの方はまだあまり多くないという事実がある一方で、生活するには十分なお金を稼ぐことができている人もいるという2パターンに分かれてきていると感じています。実際に使っているユーザーとして、クラウドソーシングの可能性はどのように感じていますか?

加藤:スキルを持っていても会社に所属しないと認めてもらえないスキル、例えばデザインや開発ですが、それらをクラウドソーシングなら実績のない個人でも受けることができるので、スキルのある人にとってはものすごくおいしいお仕事がたくさん転がっています。未経験でライティングしか出来ないひとにとっても”コンペ形式”という形があってデザインなどの練習はできるので、どんどん練習していけばそのうちデザインのお仕事ができるようになりますし、絵を描くのが好きであれば絵を描くお仕事もたくさんあります。自分の得意分野を活かして仕事を取ることができればスキルも付いていくので、単価も上がりやすくなりますし。いままでは記事作成のライティング案件がたくさんあったのですが、それ以外の仕事でもどんどん取れるのがクラウドソーシングのいいところだと思っています。

プライベートでもいい影響は出ていますね。休みたい時には休んだり、遊びたい時には遊びに行ったりもします。習い事も増えました!習い事も、普通やるとなると週末でどんな教室もだいたい混んでいるんですけど、私はいつも平日の昼間に行くのでほとんどマンツーマンで受けられたりするのはすごい大きなメリットですよ。

――スキルがあってもなくても、クラウドソーシングには個人が好きなことで活躍できる可能性がたくさんあるということですね。加藤さんご自身の今後の展望や、これからしていきたいことなどをお聞かせ下さい。

加藤:今って、誰でも簡単かつすぐにホームページなどのデザインが出来るサービスがどんどん増えているんですよね。その中でいかにして自分のオリジナルを出していくか、差別化していくかということを見せていかなければいけないですね。Webデザインの依頼を受けるのはもちろんですが、最近ではクラウドソーシングを使った仕事方法についてのセミナーをお願いされることも多いです。ただ、これからはデザイン業、セミナー業に加えて新しい事業もしてみたいと思っています。

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クラウドワークスをきっかけにフリーランスとして働きはじめて約3年。会社で働いている時よりもいきいきと、かつ楽しそうにお仕事をしているようだった。加藤さんがフリーランスになって最も変わったことは「時間に対する意識」だそう。一般の会社員であれば出社と退社時間が決められており基本的にはその中で働くことが求められるが、フリーランスとして働く上で重要な「時間で働くよりもスキルで働く」という圧倒的な意識の違いを強く感じた。

当然全ての人にフリーランスという働き方をすすめるわけではないが、これから先の将来、集団よりも個が尊重されナレッジやスキルのシェアが企業間でも加速してくるとしたら、生き残るのはきっと自分のスキルを磨きながら働いている人物だろう。”スキルで働く”生き方は、スキルのシェアが進んだ先にあるスタンダードなのかもしれない。