まだ“コワーキングスペース”という言葉が誕生する以前から、開かれた働く場を提供してきたみどり荘。様々なコミュニティを生みながら進化を続けてきた“吸引力”の正体はどのようなものなのか。そして、日本進出が決定した「WeWork」をどのように思っているのか。みどり荘を運営する二人のキーマンにお話を伺いました。

みどり荘オーガナイザー小柴美保さん

――みどり荘とは、いったいどのような場所なのでしょうか。

小柴 : 一言でいえば“働く場所”です。“WE WORK HERE”というコンセプトのもと、国籍も立場も職種も関係なく、様々な人がここで働いていて、時には新しいアイデアが生まれることもあります。スローガンは“上質なカオス”。昔のトキワ荘みたいなイメージで、ワイワイガヤガヤやっているうちに、すごいことが始まっちゃったという感じですね。

木下 : ただのカオスでは混乱で終わるんですけれども、そこからアウトプットが生まれるという意味で、“上質”という言葉を加えています。ただ、それだけに固執するとストイックになってしまうので、ある種の緩やかさは必要。無理やり“アイデアを出し合おう”というのではなく、例えばランチ会の中で、みんなで話していて、「最近、これ面白かったよね」「何、それ?」みたいなところから始まって。「うちらでもできないのかな?」「じゃあ、やろうよ」という形で自然にプロジェクトが立ち上がっていきますね。

会社を経営しながら、みどり荘の運営にも携わる木下明さん

――どのようなメンバーがいるんですか。
木下 : 平均年齢のボリュームゾーンは32歳から35、6歳。ある程度、自分ひとりで仕事をしてきた方が、“もっと新しい人と出会いたい”とか、“もっと面白い接点を持ちたい”と思うようになってここに来るんですね。現在は、6:4の割合で女性が多くなっています。家族をお持ちの方もいるので、子どもがうろうろしていたり(笑)。

小柴 : 海外の方もいますよ。多い時には、3割ぐらいを占めることもあります。

木下 : 世界的に活躍しているフォントデザイナーの方が、日本にはお客さんはいないけど、日本が好きだからと言って。ふらっとやってきては、ふらっと母国に帰ってまた戻ってきて…なんていうのを繰り返されていたり。その方にとって、ここは東京における“戻れる場所”みたいな感覚なのでしょうね。

小柴 : クリエーターだけではなくて、スタートアップの方も多いですね。6割がフリーランスで、残り4割がスタートアップという割合。

木下 : 先日、永田町のNagatachoGRIDの屋上で映画を上映したんですが、あの作品のプロデューサーもみどり荘のメンバーです。ずっとテレビや映画業界に身を置いていた方で、今はオールマイティに活躍されていますね。

小柴 : そうそう。あの映画のプロローグとエピローグは、みどり荘のメンバーが作ったんですよ。

――なるほど。そんな感じで、ここから新しいものが生まれていくのですね。メンバーになる人は、はじめから“何かを生み出したい”というところまで意識しているものなのですか。

小柴 : うーんそうではないんです。そんな感じでギラギラしている人は、あまりいませんね(笑)

木下 : その狙いは、私たちの“裏ミッション”のようなものです。皆さんが何を気に入ってここに興味を持ってくれたのかというと、多くの人がこの雰囲気、まるで時間が止まっているような空間なんですね。ビンテージというかアンティークというか…。他にも色々なコワーキングスペースがあるとは思うんですが、新しいオフィスだと、そこにあるすべてが新品で、なんだか違和感があるじゃないですか。まったく生活感がない。私たちは、“オンとオフという概念”が古いと思っていて、仕事とプライベートを切り分けることに、何の価値も見出していないんです。お金を貰うために働いているんじゃなくて、自分たちの人生をより豊かに生きていくために働いていて、そのエッセンスとしての仕事が重要だよねと考えているんです。だから、オンとオフを切らないような流れを作るには、どういう環境が良いんだろう?と考え、まるで自宅にいるような、こういった空間づくりにたどり着いたんです。

目黒区青葉台にある「みどり荘」の外観

――現在は、この青葉台のほかに南青山、永田町と3つのコワーキングスペースを運営されていますが、それぞれの違いを教えてください。

小柴 : ここ青葉台は、私たちが最初に開設した拠点です。あまり資金もなかったので、創立メンバーがDIYで作りあげていきました。最寄りのどの駅からも15分ぐらいの距離にあって、決してアクセスが良いわけではないのですが、わざわざ「ここがいい」と言って外に行くよりは、座ってじっくり仕事をする人が多いですね。逆に表参道は、駅から3分ぐらいという好立地にあるので、もっとアクティブに活動するような方であったり。また青山という場所柄、クリエーターの方のご利用が多くなっています。永田町は、もう少しビジネスライクな雰囲気を持つワークスペースになっていますね。

木下 : 私たちも、新しい拠点を開設するごとに進化しているんです。青葉台がうまくいってコミュニティもできたので、新しいチャレンジをしようと考えたんです。食を通じたコミュニケーションを取り入れてみたり、自由大学とのコラボレーションを通じて教育という要素を取り入れてみました。食事が用意されているから人が来て、そこで出会った人たちが「一緒に働こう」といってチームを作って、新しい生態系ができあがっていく…。南青山ではそういう仮説を元に実証実験を行ったんです。永田町になって、さらに多様な働き方に合わせた形で、プライバシーやクライアント情報の保護を目的とした個室を作ろうと考えました。共有スペースや大きなキッチンも用意。300平米のオフィスの1/3以上を共有スペースにしてしまっているわけですが、利益率を考えたら、こんな割合には普通しませんよね。でも、私たちが大切にしているのは、あくまでコミュニティですから。単なる不動産業ではないという自負があります。

――環境を用意すると、新しい生態系ができるのですね。

木下 : 言ってみれば、環境とは酸素と水があるかどうかの話で、そこにはさらに“奇跡”が必要なんです。環境だけではダメ。その“奇跡”って何かというと、原子同士が結合するのと同様、人と人が結びついてコミュニティを形成するきっかけです。意図してできるものではないから“奇跡”なんですよね。ただ、それを盛り上げるためのお膳立ては、私たちが行わなければなりません。ですから、人と人とを結びつける役割を持つコミュニティ・マネージャーの選定に気を付けています。日本のコワーキングの中で、“奇跡”を起こすために必要な要素一番を理解しているのは、みどり荘であるという自負はあります。それは、6年間やってきて、メンバーひとり一人が培ってきた知見が財産になっていますから。

――コミュニティ・マネージャーの選定が重要だということですね。

木下 : そうですね。現時点では、紹介であったり、元々このコミュニティに関わった経験のある方がお手伝いをしてくださっています。でも、まったく足りていないので、ただいま絶賛募集中といったところです。

――ちなみにコミュニティ・マネージャーは、どういう風に人と人とを結びつけるんですか。

小柴 :  「最近、どういう仕事をしているんですか?」とか、普通にコミュニケーションを取って。そこから、あの人はそういえば同じ様な事やっていたなーとか、最近あの人はあまり忙しそうじゃないからとか思い出して、“良いかも!”って引き合わせる。お母さん業みたいですよね(笑)。メンバーはお客様ではなく仲間のような感覚でもあります。

木下 : もちろん、めちゃめちゃストーカーチックなアプローチはしないですよ(笑)。介入しすぎてもウザいと思われるし、バランスは大切です。コミュニティ・マネージャーのための多少のガイドラインは用意していますが、結局その人の資質がものを言うっていう話になってしまう。だから大量に採用はできないし、人それぞれの色があるから面白いんですよね。

――様々なプロジェクトがありますが、それらはどのように生まれるのですか?

小柴 : タブロイドなんか、まさにみどり荘らしいプロジェクトです。最初は、ここを紹介するパンフレットを作ろうとデザイナーに声を掛けたら、“それだけじゃ面白くない”からと、タブロイドを作るという話になったんです。それで、その話を聞きつけた外国人のイラストレーターとか編集者も協力してくれるという話になって、出来上がりました。

木下 : プロジェクトのパターンは二つ。一つは、ここに面白いメンバーがいるから、どなたかをプロジェクトメンバーに指名してくださいという依頼が入ってくるパターン。もう一つは、プロジェクトとメンバー同士で自然発生的に生まれるパターンです。

――外部からは、どのような依頼があるのですか。

小柴 : 最近は、プロモーション関係が多いですね。この間は、BMWミニが新しいコンセプトカーを作るから、みどり荘のメンバーだったらどういう風に車を活用するのか提案してという、企業様からのご依頼であったり。

木下 : 地方自治体からのご依頼も多いです。要するに地域活性型の一環として、“みどり荘みたいな施設って、どうやったらできるんだろう?”と視察に来てくださって、意見交換をしたり。広報活動はほとんど行っていないのですが、口コミで広がっている状況ですね。利用者応募もそう。結局、利用しているメンバーからの紹介が多い。

小柴 : ここでミーティングをしていると、みんなが紹介してくれるんですよ。そこが、他のコワーキングスペースとは、かなり違う点だと思うんです。

――ほかのコワーキングといえば、WeWorkが日本に進出してくるようですが、すばりどう思いますか?

木下 : 大きな市場で見たら競合にはなるのでしょうけれども、恐らく属性が違いますから。感覚としては、新築マンションが好きか?リノベーション系が好きか?みたいな。あるいは、どのお洋服屋さんを選ぶかといった嗜好性の違いがあるだけで、皆さんが好きなところを選べばいいのではないかなぁとは思っています。彼らにできないことの中に私たちができることもあれば、彼らほど規模を拡大できるかどうかというのも私たちの命題ですし。うまく棲み分けができると思っています。むしろ“BIG WAVEが来た”くらいな勢いで、このまま日本のフリーランス市場全体が盛り上がるんじゃないかと期待していて。基本、ポジティブな受け止め方をしています。

小柴 : 私たちは、自分たちが不動産業だとは思っていないんです。だから、空室率は?と聞かれても困るんですよ(笑)。もちろん、私たちもこの先、規模を拡大していくと、不動産業にならざるを得ない可能性もあります。けれど、そこはうまくコミュニティを形成しながら、仕事を作っていけるような体制を作っていきたいと思います。

――ずばり、みどり荘の最大の魅力って、何ですか?

小柴 : うーん。なんだろう(笑)。いつも、“来てみて”って言っちゃうんですよね。なんかね、“面白い人に出会えますよ”って。

木下 : 私も、複数の肩書を持って様々な場所で様々な仕事をしているので、自分の中に多様なキャラクターができてきちゃうんですよね。そうなると、“私って、どういう人間だったっけ?”とか、結構、都会のジャングルの中で迷子になることがあったんです。でも、ここに戻ってくるとリセットされる。私にとっては、そういう場所でもあります。帰ってくる場所というのは必要で、面白いことに、みどり荘から出て行った人が、またここに遊びに来るんです。離れられないコミュニティになっている。ここに、刺激があったり安心があったりといった要素がなければ、戻ってきたいとは思いませんよね。でも、ここは一方的に刺激やインスピレーションを得るだけでなく、逆にインスピレーションを与えることができる人ばっかりですから。お互いにインスパイアされる構造になっている。そこがユニークなところでもあると思っているんです。

――最後に、今後の展開について教えてください。

木下 : さっき小柴が言ったように、この大きな波に乗って、どんどん不動産拡大は進めていくつもりです。東京だけでなく、日本全国の主要都市には拠点を広げていきたいです。そして、ただ闇雲に拡大するだけではなく、新しいコミュニティの作り方というものは研究を続けます。メンバーを増やしながら、コミュニティは引き続き大事にしていくつもりです。ご利用者だけでなく、スタッフもどんどん募集していきますよ。

Photo by Niko Lanzuisi

この記事の登場人物
  • 小柴美保さん
    インデペンデントシンクタンクMirai Instituteを主宰。その一環として未来の働く場としてのワークスペース「みどり荘」をオーガナイズ。イギリスや京都で学生時代を謳歌し、投資銀行での勤務経験や視点を生かしながら、自由大学では、ライフイベントと働くを考える「生き方デザイン学」や、日本の美意識*技術である金継ぎの実践講義「器を継ぐ」、これからの社会はクリエイティブクラスが牽引するという仮説のもとでクリエイティブの要因を探る「クリエイティブ都市学」のキュレーションを行っている。好奇心が抑えられない日々。旅好き。
  • 木下明さん
    リクルート在籍11年に営業、0→1(新規事業開発)、1→100(事業開発)を経験。合わせて社外でベンチャー事業戦略サポート、プロダクト開発を行っていたある日「あ、サラリーマン向いてないかも」と思い立ち退社。現在は株式会社MONOLITHを立ち上げ、ファッション事業と複数の事業サポートを行いながら枠にとらわれず会社拡大中。みどり荘の運営にも携わっている。
NEW POST