ライドシェアや駐車場シェアなどを筆頭に、様々なシェアサービスが認知を拡大しつつあるクルマ業界。その中にあって、中古車買取販売で知られる『ガリバー』ブランドの株式会社IDOM(旧社名:株式会社ガリバーインターナショナル)が、新たなサービス『NOREL』を立ち上げました。
『NOREL』はクルマ業界では初となる月額49800円(税抜)のサブスクリプションサービスで、100種類以上の在庫の中から、最短90日間から自由にクルマの乗り換えが可能。現在は関東の1都3県に限定したサービスながら、クルマの「所有」を「利用」へと変化させる新たなサービスモデルとして話題を集めています。
このサービスの最大の肝は、これまで大きな買い物だったクルマの購入のハードルが、月額定額制によって劇的に下がること。それに加えて、クルマをまるで衣服のように着替えていくことで、シーンや目的に応じたより豊かなライフスタイルが生まれること。今回は『NOREL』のサービスを「レンタカーでもカーシェアでもない」と語るIDOMの執行役員/新規事業開発室室長の北島昇さんに、サービス誕生の経緯や乗り越えた課題、「シェア」を通じて広がる新しいカーライフについてうかがいました。
“クルマを衣服のようにしたい” IDOMが手がける新サービス『NOREL』とは? 執行役員・北島昇さんにインタビュー
――まずは『ガリバー』ブランドで中古車買取販売をしていたIDOMさんが、『NOREL』を立ち上げることになった経緯を教えていただけますか?
我々は創業当時から「クルマを衣服のようにする」ということを目指してきたんです。買い取りビジネスにしても、ディーラーさんの言い値ではなく市場価値で買い取ることで、下取りの値段を上げて、乗り換えられるクルマの幅を広げたいという思いで始まったものです。小売ビジネスも思想は一緒で、同じ予算で買うのであれば、「中古車でこんなにいいクルマがありますよ」と知っていただき、自分に本当に合うクルマを見つけてもらいたい。そもそもそういう思想があるということが前提ですね。それに加えて、「所有」から「利用」へという市場の流れや、シェアリングエコノミーの台頭で、お客様がそうしたサービスに馴れてきたという背景があります。「シェアリングエコノミーは売買や貸し借りを含めた、CとCの受給のマッチングです。こうした時代の流れの中で、もともとの「クルマを衣服のようにしたい」という思いが重なって、サブスクリプションのビジネスをはじめることになったんです。
――なるほど。
ただ、理由としてはもう一点あります。自動車産業は今、メーカーサイドや流通プレイヤーだけでなく、GoogleやAmazon、Uber、DeNAなどITウェブ業界のプレイヤーが続々と参入していて、脅威と機会が同時に降り注ぐような面白い状況になっています。そういう意味で、我々も新しい事業領域に投資しないと先はないと考えているんです。
▲NOREL サイトトップページ
――これまで「クルマは所有するもの」という前提があった中で、『NOREL』のサービスはとても斬新ですね。北島さんは、この新しい形にどんな魅力を感じていますか?
所有から利用への市場が起きている中で、B to CもC to Cも今のカーシェアは基本的に「スポット利用」が中心です。つまり、所有をしなければいけない人や、所有をしたい人のサービスは存在しません。NORELが捉えたかったのは、そういった方々です。シェアリングエコノミーを背景に持ちつつ、そこにサブスクリプションというパッケージをつけることで、今現在クルマを所有している方にも、そうしたサービスを提供していくことが出来たら、と考えました。
――とはいえクルマの場合、保険や税金といった様々な手続きの問題をクリアする必要がありますね。これは大変なことだと思いますが、実際いかがでしょう?
そもそものコンセプトとして、「高額商品が故の、意思決定や、クルマにまつわる諸手続きの煩雑さをなんとかしたい」という気持ちがありました。今は様々なサービスが、ユーザー自身が好きなように取捨選択していく、または、加工していくという意味で、「カジュアル化」が進んでいます。たとえば、iPhoneのアプリもそうですね。みんな同じようなものを持っているというのは昔は個性がないイメージもありましたが、今はスターバックスでMac bookが10台並んでいても、別に違和感はない。それはなぜかというと、中身がカスタマイズされていることをみんなが知っているからだと思うんです。UNIQLOの洋服も「俺UNIQLO着てるんだ」ということは記号になっていなくて、それぞれのライフスタイルにどう取り入れるかが大切になっている。つまり、「カジュアル」というのは、主導権をユーザーに移すことだと思います。でも、自動車産業はまだそういう状況にはなっていません。金額が大きい買い物なので、重い意思決定が必要です。そうすると、多くの人が売却の際に値がつくような車種を選ぶようになる。でも、それでは面白くないじゃないですか。また、購入までの手続きが多いために、20代の女性がトコトコとクルマを見に来て、「このクルマいいな。買おう」となる場面もあまりありません。「クルマを衣服のようにしたい」と考えている私たちは、国産輸入車問わず、素晴らしいクルマがあるのに、それではもったいないと感じてしまうのです。
――では、その整備をどのようにされていったのでしょう?
私たちの場合は全国に拠点を持っているので、例えばどこの地域でも名義変更や諸手続きが可能ですし、保険料を月額料金の中に含んだりと、そこで吸収できる要素があります。ですから、現状はこちらでリスクを背負って、まとめられるものは、まとめています。とはいえ、現状、クルマの保険については「購入」か「スポット利用」しか想定されていない部分があります。『NOREL』のサービスはクルマは変わるもののずっと所有はし続けるので、金融機関と保険会社と新しいスキーム作りにむけて議論しているところです。自動車取得税についても、『NOREL』は自社リースなので、所有者が我々で使用者がお客様。乗り換えるたびに名義変更をする必要があるので、取得税がかかる場合があります。そこも、今まさに国と相談をしているところです。あとは、手続きですね。これは行政も含めた慣行の話で、車庫証明や名義変更といった手続きの多くが、オンラインではなくいまだ紙ベースなんですよ。ですが、こうした様々な問題をできるだけ早くクリアできるよう、交渉していきます。最終的に目指すのは、スマホで好きなクルマを選んだら、1週間で勝手に登録してある駐車場でクルマが入れ替わっているような状態です。
▲NORELサイトより。様々なシーンに沿った選択が可能。
――それが可能になれば、たとえばデートの約束をして、当日までにその日に合うクルマを選ぶこともできるかもしれません。まさに、クルマが衣服のようになりますね。
そうですね。また、嬉しい誤算だったのが、サービスをアナウンスしてから一番多かった問い合わせが、「駐車場はどうなるんですか?」ということだったんですよ。「乗り換えられる」「いつでもサービスをやめられる」という敷居の低さがあったとき、今クルマに乗っていない方が、「駐車場の問題さえ解決できれば乗りたい」と言っているように見えたんです。つまり、もしかしたらクルマに乗る方の裾野を広げることができるかもしれないということですね。サブスクリプション型の音楽サービスが始まったことでCDを買っていなかった人々が音楽を聴くようになったのと同じようなことを、クルマでも起こせたらいいですね。
――これまでクルマを手に入れるためには、「ドン!」とまとまった資金を用意する必要がありました。その結果、二の足を踏んでいた人もいたのではないかと思います。
今は「所有」と「レンタカー」を比べて実際何キロ走る場合にどちらが得なのかと、計算をしはじめている利用者の方も多くいます。また、若い人の間では「ローンなんて組みたくありません」という変化も起きていますよね。その中で、「サービスなのでいつでも止められる」「何もリスクや負債を負わない」というカジュアルさは、想定以上に喜んでいただいているのを感じています。
▲NORELサイトより。毎日新着車両が更新される。(写真は11月1日現在の予約状況)
――サービスを提供する方の視点で考えても、『NOREL』のように頻繁にクルマを乗り換えるサービスはユーザーの趣味趣向をよりオンタイムで把握できるとあって、利用者のリアルな要望をより把握できることにも繋がりそうです。
マーケティング・データとして上手く外部連携することは考えています。あるユーザーの車両の使用履歴や、移動情報、運転に関する情報などに魅力を感じる外部パートナーさんと、意見交換している最中です。また、我々は所有をリプレイスしようとしているので、これから法人や個人の遊休車両も『NOREL』のラインアップに加えていこうと思っています。
――法人や個人の遊休車両というと、具体的にはどんなものを想定しているのでしょう?
世の中には車両を保有し、まずそれを持ってリースやレンタルといった商売をされている方がいますよね。たとえばキャンピングカーなどもそうで、在庫を持っていて稼働率を上げたい方とはすでに交渉を進めています。そうではないにしても、世の中には稼働率自体は高くないものが沢山あります。個人の遊休車両については、まだまだ色々な課題があります。シェアリングエコノミーの一番難しい部分に繋がる話で、何か問題が起こったときの対処法や責任範疇など考えなくてはならないことが沢山あります。とはいえ、今すでにこうした課題を解決しているサービスも外部には存在するので、ゆくゆくスポット利用も内包する為に、具現化を進めています。
“ドライバーの方々の人生をアップリフトしたい”
――北島さんの考えることにおいて、どんな可能性が広がると考えていますか?
ひとつの可能性として、古い旧車のようなものと、それを求めている方とのマッチングが上手くいくということはあると思います。また、例えば、売却の際に値がつきやすい、白、黒、グレーのクルマを買うことが一般的ですが、それを変えられる可能性もあると思います。それは本来「白、黒、グレーの方が、統計学上“売れやすい」というだけの話ですから。NORELなどのサービスを通してロングテールのマッチングの効率が上がれば、おのずと人気色以外のクルマを買うリスクも減りますよね。また、IDOMは、「売る/買う/貸す/借りる」のすべてをメニューとして揃えることになるので、たとえば2週間沖縄に行くとなった際に、その間クルマを『NOREL』で貸し出して、旅行先でその人が乗るクルマもこうしたサービスで手に入れた別のクルマだという、そういうシーンを実現していきたいと思っています。メルカリなどを見ていても顕著ですが、これから「売る/買う/貸す/借りる」はどんどん抽象化していくと思います。売りなれている人は買いやすいですし、売ったものを現金化する前にポイントを使って新しいものを買うことも促進されています。そういう変化が、これからどんどん起こると思います。ですから、『NOREL』ではまず所有をリプレイスしますが、IDOMとしては「売る/買う/貸す/借りる」のすべてをもたらしたプラットフォームを作りたいと思っています。
――なるほど。クルマをめぐるユーザー体験をより豊かなものにしてくれる可能性があるだけに、実現すればとても意味のある変化のように思えます。
私たちはそうだと嬉しいと思って事業を進めていますが、どうなんでしょうね(笑)。ただ、おかげさまで先行の予定人数は、1日の間にすべて埋まってしまいました。10月上旬から、1都3県という限定的なエリアでの実施はそのままですが、会員様の数を増やして、よりサービスを外に開いていこうと考えています。
――サービス開始以降、どんな感想をいただいていますか。
色々な感想をいただいていますが、先ほども話した「軽い/カジュアル」ということはよく言っていただきますね。意思決定のハードルが低いということは、日頃乗らない車種や、日頃乗らない色に触れられる機会が圧倒的に増えるということですから。あとはやっぱり、選んでいる瞬間が楽しいと言っていただきます。ただ難しいのは、現在はNORELのラインアップには、日々出入りがあります。ですから、「このクルマに乗りたい!」というものがあれば早めに予約できるような仕組みを作ることも考えはじめています。僕らは『NOREL』をエッジの利いたサービスにするつもりは一切なくて、多くの方々に分かりやすいことを大切に考えているんです。もちろん、まだまだこれからではあるのですが。
――『NOREL』のようなサービスによってドライバーの人生の中に何台ものクルマが関わることが一般化すれば、クルマだけでなく、人々のライフスタイルにも変化が訪れるかもしれません。北島さんは、どんなことが起こると考えているのでしょうか。
色々なことが考えられますし、予想もつかなかった使い方が生まれることもあるはずです。ただ、『NOREL』に限らず、我々が「クルマを衣服のようにしたい」と言っているのは、(移動のための)「足」の部分しか用意することが出来ないとしても、それによって新しい「人」や「コト」「モノ」に出会うことをサポートしたい、つまり「ドライバーの人生をより良くしたい」ということなんです。ですから、本来は生涯キャンピングカーに乗ることがなかったかもしれない人が、NORELの棚の中にキャンピングカーがあることによって、家族で行かなかったかもしれない場所に行って時間を過ごしてくれたら、それは僕らにとって最も嬉しい瞬間です。乗れなかったクルマに乗ることも大事ですが、その結果、行くことのなかった場所や、過ごすことがなかったかもしれない時間を見つけてくれることに、コミットしていきたいのです。現在、クルマ同士がぶつからないようにするシステムや自動運転など、クルマでのドライビング体験を変えようとするメーカーさんの努力によって、クルマと人との付き合い方はすでに変わりつつあります。一方で、小売流通業としては、パッケージングを変えることで人生のクオリティを変えることにコミットしたい。極端に言うと、体感的には、クルマが現代におけるスマホのような存在になってもらえると嬉しいですね。クルマとの関係をいちいち気にしなくてもいいように、したいことや過ごしたい時間を作ることの一助になることができればいいなと思っているので。
――クルマとの付き合い方が変化することによって、趣味そのものが変わる可能性もあります。
そうですね。本当にそういう可能性があると思います。でも、一方で我々はただのプラットフォームであり、インフラです。だから、これから法人向けのパッケージが出来たり、介護をされている方向けのパッケージが出来たりと、『NOREL』の上にモジュール的にサービスが出来ていくべきだと思っています。『NOREL』自体は、ライフスタイルを何も変えないと思っています。たとえばレンタルビデオ店でも、それ自体がライフスタイルを変えるのではなくて、新作ばかり借りる人もいれば、アニメや洋画ばかり借りる人がいるのと同様です。
――最後に、『NOREL』さんやIDOMさんとして、今後に向けてどんな構想を抱いているのか教えてください。
これはまだ僕個人のスローガンなのですが、「モビリテインメント(Mobility+Entertainment)カンパニーになろう」と思っているんです。「モビリティ」と「エンタテインメント」によって、移動そのものや、その先にあるものを彩りたい。そこからの逆算でないと、何も作れないと思うのです。
目的に応じて靴を履き替えるのと同じように、人々の移動を助ける「足」としてその先に広がる豊かなライフスタイルを提案する『NOREL』。このサービスが一般化すれば、その日利用できるクルマによって、ドライブやデートの目的地が変わることになるかもしれません。それはつまり、「ユーザーが自分の所有物に合わせて行動を決めるのではなく、所有物の方がユーザーの行動にフィットしていく」ということ。そうして広がる新たな機会や体験は、利用者にとって貴重な財産になっていくはずです。