――「PEACE COIN」の具体的な仕組みを教えてください。

端的に言うと、「増減するお金」という表現になります。既存の通貨は、使うと相手に移動して手元から減っていきます。PEACE COINは、使うとポイントが増えていくような仕組みを作っています。厳密には割合として多く使ったほうがよりたくさん増えていく仕組みですね。

ところがお金である以上、どこかに貯まっていく可能性があります。人からどれだけの感謝をされたのか、人にどれだけの価値を提供したのかというスコアとしては重要ですが、ただ滞留させて評価される世界にはしたくないので、使わないお金は徐々に減っていき、その分がみんなに共有される、すなわち“誰かが減るから、誰かが増える”という通貨設計をしています。ちゃんと使ってくれる人が経済をうまく回していく仕組みですね。そうなると、お金が経済圏の隅々にまでめぐっていくので、まさに自律分散的な社会に必要な貨幣システムとなるのではないかと考えています。

――この「PEACE COIN」の仕組みを浸透していくためには、どのような要素が必要でしょうか?

現在は、貨幣とウォレットというベースを作り、これを利用する人を増やしている段階です。貨幣を使うためにはサービスが必要で、そのサービスを生み出す人、使う人で構成されたコミュニティを形成する必要があります。サービスがあれば、自然と利用が促されると思っています。

ですから、この理念に共感してくれたら、まずはコミュニティを作ってサービスを生み出す人になってほしいですね。“自分にはサービスなんて作れない”と思っている方もいるかと思いますが、私たちは、人の役にたっていることはすべて仕事としてサービスになりうると考えています。

荷物を運んだり、困っている人に声をかけてあげたり、気前よく愛情をどんどん外に出していくことが必要で、同時に親切にされたら、その対価として「PEACE COIN」を支払っていただいて、経済圏を作っていってほしいと思っています。

――この「PEACE COIN」だけで、生活が成り立つようになるのでしょうか?

きわめて現実的に考えると、生活に必要なすべてを「PEACE COIN」で賄うのではなく、法定通貨と併用するのがベターではないかと考えます。例えば、自動車産業などが「PEACE COIN」経済圏の中に入ってくる可能性はないとは言い切れませんが、かなり先の話になるとは思っています。

――法定通貨と併用することの価値は?

そこは非常に重要な部分です。最初はおそらくコンセプトに共感してコミュニティが出来上がってきますが、生活を支えるサービスとして成立させるためには、経済圏を拡大する必要があります。そのためには、法定通貨と同じような貨幣が必要になりますが、すべてが入れ替わるまでに時間がかかります。当面は不足分だけ法定通貨でカバーすることで失速することなく、経済圏の拡大が可能になると考えています。

――今後の動きについて教えてください。

現在、ウォレットの実証実験を進めている段階です。貨幣設計として特徴的なのは、増減率が変動することです。例えば、人口一万人の地域と三千人の地域、コミュニティ、会社によってそれぞれ経済規模は異なるため、増減率も同一ではないほうが良いと思っています。それをどのように成立させるかという貨幣間での交換ロジックなどの検証を地域に入って進めている段階です。早ければ2020年には構築できる見込みです。

これは地域経済にもインパクトを与えるものと考えています。現在、日本の経済、特に地方経済は循環していないことが問題になっています。「PEACE COIN」は単純に、循環させたほうが得な仕組みになっているので、仕組みを理解せずとも、“使ったら得をするらしい”という雰囲気だけ作れれば、皆さんが使っていくはずだと踏んでいます。そういったカタチで地方経済活性化のお役に立てるはずです。

とにかく今は、ひとつでも多くの成功事例を作ることが重要だと思っています。「PEACE COIN」は難しいと言わることもありますが、PEACE COIN だけが難しいのではなく、貨幣設計そのものが難しいのです。「信用経済」の仕組みを正しく理解していなくても、みんなが使えているのが貨幣として重要なので、まずは説明不要にしてしまえば良いと、そのためには段階に応じた成功例を作っていく必要があります。

最終的には、既存の貨幣と「PEACE COIN」の間の行き来が自由になることが理想で、「PEACE COIN」を使っていても法定通貨の方が便利だと判断したら、そこに戻ればいい。そうすれば無理なく共存できると思います。

何度もご説明していますが、貯めることが重要なのではなく、楽しく生きることが重要だという価値観が「PEACE COIN」のベースにあります。効率化には絶対的価値があるかもしれませんが、効率化だけでは解決できない文脈もあります。

現在、価格がつけられて評価されているものがすべてではないのです。例えば、家事労働はその典型です。家で食事を家族に提供してもお金はもらえませんが、お店で同じ仕事をすれば給料がもらえます。子育ても介護もそうです。身内のお世話をすると損をするという社会デザインって、極めてねじれていますよね。そういう文脈はたくさんあって、効率化の世界観と循環させていく世界観を可視化していくことが重要ですね。

――シェアリングエコノミーについては、どのように感じていますか。

きわめて相性が良いと思っています。例えば、行政が地域貢献活動の従事者に奉仕活動代として200円を支払うとします。行政としては頑張って支払ったという話になるのかもしれませんが、もらったほうはお茶をもらえば十分というか、決してお金が欲しくて活動したわけではないという思いのギャップが生じています。

ここに「PEACE COIN」を活用して、行政が保有している遊休資産を使えるようにする。使って増える貨幣を媒介すれば、活用が促進できます。そういったサービスをどんどん作っている状況なので、シェアリングサービスのプラットフォーマーの方々と意見交換をしている段階です。

どんどん使って循環させることで得をする「PEACE COIN」を使うと、みんなで遊休資産を共有しようという流れが生まれやすいという点では、円より「PEACE COIN」のほうが向いているはずです。規定通貨と遊休資産が結びつくと、結局、価値あるものを貯めていくことがモチベーションになるので、使うと得をする「PEACE COIN」を媒介したほうが、シェアリングが加速すると考えられます。独占所有ではなく、みんなでどんどん回していった方がハッピーだよねという価値観とマッチしますから。

究極的には、「PEACE COIN」がなくても共有できる世界観が理想です。貨幣で媒介する必要がないのが本質だとは思いますが、いきなり世の中を変えるのではなく、現実的、かつ具体的なアプローチで社会を一歩前に進めていくのが、私たちのやり方です。そして、使うほどに得をするという貨幣があれば、人々のお金にまつわる不安が軽減されると思っています。

――ありがとうございました。最後に読者へのメッセージをお願いいたします。

私たちはプラットフォームに載せるプラットフォームといいますか、いわゆる“BtoBtoC”のような企業であると自覚しています。この「PEACE COIN」はコミュニティ経済の活性化を促進するものです。少し時間はかかりますが、間違いなくトランザクションが活発になるので、まずプラットフォーマーの方々が利用者とのつながりを強くしたいということがあれば、ぜひお問い合わせいただければと思います。また、“想い”はあるけれども資金力がないために社会課題が解決できないというソーシャルセクターの方々のお力にもなれるかと思います。