現状の問題点と、規制緩和の動き(前編のおさらい)

前編のとおり、現在の日本の法制度の下では、ホームシェアで物件を貸し出した場合、旅館業法や、賃貸借契約・マンション管理規約の違反とされるリスクがあるといえます。

もっとも、2020年の東京オリンピック開催に向け、外国人観光客の増加が予想され、宿泊施設の不足が深刻な問題となると考えられています。ホームシェアの解禁によりかかる問題を解決しようと、旅館業法の規制緩和の動きが進められています。

“TOKYO OLYMPICS, 1964” by Michael, color modified ( https://www.flickr.com/sagamiono/ )

旅館業法の具体的な規制緩和とは? ー 「国家戦略特別区域法」

まず、既に法制化されている規制緩和施策として、2015年7月15日に施行された「国家戦略特別区域法」があげられます。同法により、「国家戦略特区」において、「外国人滞在施設経営事業」の認定を受けた場合には、旅館業法の許可は不要となります。

「外国人滞在施設経営事業」とは?

「外国人滞在施設経営事業」といえるためには、以下の①〜④を含む要件を満たすことが必要とされています。

① 「国家戦略特別区域」のうち、区域計画において旅館業法の規制緩和が定められている地域内であること

具体的には、以下の地域が対象となります。

■ 東京圏(東京都、神奈川県、千葉県成田市)
なお、東京都については、当初一定の区のみが指定されていましたが、平成27年8月28日に東京都全域に拡大されています。
■ 関西圏(大阪府、兵庫県及び京都府)

② 外国人旅客の滞在に適した施設であること

具体的には、施設の各部屋は以下を含む要件を満たすことが必要とされています。

・床面積は、原則25㎡以上であること。
・出入口・窓は、鍵をかけることができること。
・適当な換気、採光、照明、防湿、排水、暖房及び冷房の設備を有すること。
・台所、浴室、トイレ・洗面設備があること。
・寝具、テーブル、椅子、収納家具、調理のために必要な器具又は設備、清掃のために必要な器具があること。

③ 7〜10日までの範囲内、かつ、都道府県の条例で定める期間以上の滞在の賃貸借契約であること

④ 施設の使用方法に関する外国語を用いた案内、緊急時における外国語を用いた情報提供その他の外国人旅客の滞在に必要なサービスを提供すること

"Takeshita Dori" by Mikael Leppä, color modified ( https://www.flickr.com/54544400@N00/ )

“Takeshita Dori” by Mikael Leppä, color modified ( https://www.flickr.com/54544400@N00/ )

上記要件を一般的なホームシェアの事例に照らしてみると? ー ハードルが高いのが現状

一般的なホームシェアの事例で、上記の要件を全て満たすのは難しいと思われた方も多いかもしれません。
最も厳しいのは、③の宿泊期間の制限です。7日以上同じ家に長期滞在する事例は、あまり一般的ではないといえるのではないでしょうか。

また、自分のマンションの部屋のうちの寝室のみを提供しているようなケースでは、②の要件を満たさない場合も多いかもしれません。更に、④英語でのハウスルール等の提供も、ハードルが高いと感じる方もいらっしゃるかと思います。

更なる課題 ー 都道府県の条例が必要

更に、上記③のとおり、滞在期間について、具体的に定めた都道府県の条例が制定されることが必要となっています。本稿執筆時点において、かかる条例が実際に可決されたのは、大阪府及び東京都大田区のみとなっています。

既に制定された条例(大阪府、東京都大田区) ー 具体的な内容は?

大阪府では、2015年10月27日に条例が可決され、2016年4月の施行が予定されています。府内の政令指定都市(大阪市・堺市)等を除く37市町村が対象とされています。滞在期間は7日以上、大阪府が立入り検査権を有すること、ホストによる滞在者名簿の作成・パスポートの確認義務等が定められています。

東京都大田区では、2015年12月7日に条例が可決され、2016年1月末の施行が予定されています。建築基準法上ホテル・ 旅館の建築が可能な用途地域のみが対象とされています。滞在期間は7日以上、大田区が立入り調査権を有すること、ホストは近隣住民へ事前に周知する義務があること等が定められています。

さらなる規制緩和に向けた検討

上記のとおり、「国家戦略特別区域法」の要件のハードルは高く、規制緩和に必要な条例も、一部の自治体でしか制定されていないのが現状です。

もっとも、規制緩和の動きは、同法によるものだけではありません。自由民主党、厚生労働省、IT総合戦略本部等において、更なる規制緩和に向けた議論が進められています。

かかる議論を受けて、2015年12月21日の政府の規制改革会議では、ホームシェア(民泊)の規制緩和に関する意見書が提出されたと報道されています。ホームシェアについて、現在の旅館業法上必要とされる「許可」から簡易な「届出制」とすること、民泊仲介業者(Airbnb等のプラットフォーム)も許可制にし、オーナーや宿泊者の情報把握等の義務を課し、近隣トラブルの防止や消防・安全対策を講じさせること等の内容が盛り込まれているとのことです。

賃貸借契約・マンション管理規約の問題

上記のような旅館業法の規制緩和が進められていますが、賃借物件やマンションをホームシェアで提供する場合には、前編にも記載したとおり、旅館業法に加えて、賃貸借契約・マンション管理規約の問題も検討する必要があります。たとえ規制緩和が進められ旅館業法の問題がなくなったとしても、賃貸借契約やマンション管理規約でホームシェアが禁止されている場合には、無断転貸により契約が解除され追い出されてしまう等のリスクがあるからです。

基本的には各物件のオーナー(大家さん)やマンション管理組合の方針次第となりますが、規制緩和によりホームシェアが解禁された場合には、その流れを受けて賃貸借契約・マンション管理規約においてもホームシェアを認める方向に変更していく事例が出てくることも考えられます。

"Apartments in Japan" by Richard, color modified ( https://www.flickr.com/richard777/ )

“Apartments in Japan” by Richard, color modified ( https://www.flickr.com/richard777/ )

例えば、賃貸借契約で転貸を認め、そのかわりにホームシェアで得た収入の一部の分配を受けるという仕組みを取り入れる物件オーナーも出てくるかもしれません。また、マンション管理規約でホームシェアを認め、フレキシブルにホームシェアで貸し出して収入を得られることが住民にとってのアピールポイントとなるというようなケースも考えられるかもしれません。

今後の課題・展望 ー まとめ

Airbnb等を利用したホームシェアにより、ホストにとっては空き物件の有効活用・ゲストにとってはより安い宿泊手段の選択が可能となるといえます。

しかし、いいことばかりで何も問題がないというわけではありません。例えば、周辺住民への迷惑や近隣トラブル、テロ対策等の治安上の問題、感染症予防等の公衆衛生上の問題等が考えられます。現行の旅館業法の規制や、ホームシェアを禁止する賃貸借契約・マンション管理規約は、これらの問題点を重視しているものだといえます。

もっとも、東京オリンピックに向けた宿泊施設不足の解消という観点からも、ホームシェアに対する期待は高まっており、規制緩和の動きが進められています。

上記のような問題点を解決しつつ、ホスト・ゲストの双方にとってメリットとなるホームシェアをどう実現していけるか、今後の動きが注目されるところです。