民泊 文化はコロナ禍によって終焉を迎えるのか? 民泊の現状と3つの法制度の概観(前編)

1 そもそも 民泊 とは?

既存の「遊休資産」を活かして経済を回す、「シェアリングエコノミー」。
国内では、モノのシェアであるメルカリや、お金のシェアであるクラウドファンディング、スキルのシェアであるクラウドソーシングなどが有名ですが、「民泊」は、「空間のシェア」の1つに分類されます。

シェアリングエコノミー領域Map
https://sharing-economy.jp/ja/news/map202003/


「民泊」について法的に明確な定義はありませんが、観光庁のウェブサイトでは、「住宅の全部又は一部を活用して、旅行者等に宿泊サービスを提供すること」とされています。そして、一般に「民泊」というと、住宅宿泊事業法(平成29年法律第65号。いわゆる「 民泊新法 」)上の届出物件だけでなく、既存の建物を改築するなどして旅館業法(昭和23年法律第138号)上の簡易宿所許可を得ている施設を包含する概念を前提に報道されることがありますが、本稿では、原則として住宅宿泊事業法に基づく住宅宿泊事業を意味するものとします。なお、住宅宿泊事業法において「住宅宿泊事業」とは、「旅館業法第三条の二第一項に規定する営業者以外の者が宿泊料を受けて住宅に人を宿泊させる事業であって、人を宿泊させる日数として国土交通省令・厚生労働省令で定めるところにより算定した日数が一年間で百八十日を超えないものをいう」(同法第2条3項)と定義されています。

民泊を語るうえで避けて通れないのが民泊仲介サイトの存在です。いわゆるOTA(Online Travel Agency)のような役割を担っており、事業者側の広告・集客機能はもちろん、いわゆるエスクロー決済機能(当事者同士で直接金銭のやり取りをしなくて済む仕組み)や相互レビュー機能など民泊を安全・安心に世の中に広げるために重要な機能を果たしています。具体的なものとしては、アメリカ発祥の「 Airbnb 」や「HomeAway」が有名ですが、国内でも、「Vacation Stay」や「スペースマーケット」等、様々な民泊仲介サービスが生まれています。

これにより、ホテルや旅館ではなく、「他人の家」に泊まる(暮らすように旅をする)という新しいスタイルが定着しつつあります。

民泊の普及により、ホストは、使っていない空間を提供して収入を得ることができ、ゲストは、ホテルや旅館よりも安い価格で、一軒家を貸し切ったり、広いマンションの一室に宿泊することが可能になりました。

SPACEMARKET
https://www.spacemarket.com/

 

2 日本における 民泊 の現状-民泊件数の増加とコロナ禍の影響

新法施行後の民泊件数の増加

民泊は、国内において、

①訪日外国人数が急増した一方で宿泊施設が不足していたこと、
②活用されていない空き家・空き部屋が多く存在していたこと、
③不動産投資の一環として民泊事業を始める個人が増えたこと

などの事情を背景として、住宅宿泊事業法が施行された2018年6月まで、民泊物件は急増している状態(一部報道によれば5万件を超える物件が国内に存在していたと言われています)でした。

しかし、住宅宿泊事業法における日数制限(上限180日。さらに条例によって制限される可能性があります)や、届出手続の煩雑さ等もあってか、官公庁の情報サイトによれば2018年6月に住宅宿泊事業法( 民泊新法 )が施行された直後の届出件数は約2千件に止まりました。ただ、それ以降も順調に訪日外国人観光客数は伸びていたこと、法整備がなされたことにより大手の事業者が参入しやすくなったこと等を受けて、民泊の届出件数は、1年後の2019年6月には早くも1万6千件を超え、2020年3月には2万1千件に達するなど、順調に増加していました。

住宅宿泊事業届出件数等推移

出典:観光庁HP:https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/business/host/content/001348528.pdf

2020年4月~5月の2か月間を対象とした観光庁の調査では、全国における民泊の宿泊日数の合計は、6万4,352日でした。都道府県別にみれば、東京都が2万9,043日と最も多く、次いで北海道(6,261日)、大阪(5,020日)という順番です。
前年4-5月分と比較して、日本国内に住所を有する者の数(前年同期比27.5%)、海外からの宿泊者数(前年同期比2.0%)はともに大幅に減っている状況です。

また、上記の調査によれば、民泊利用者のうち16.2%が訪日外国人でした。
国籍別にみると、アメリカが第1位(17.2%)で、第2位が中国(14.1%)、第3位がフランス(5.6%)と続きます。

出典:観光庁HP:https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/business/host/content/001348528.pdf

 

3 コロナ禍の 民泊 への影響

ところが、昨今のコロナ禍(新型コロナウィルス感染症:COVID-19)によって訪日外国人や国内の旅行者が激減したことが影響し、2020年5月になって、初めて届出住宅数が減少に転じました。

東京オリンピックなどによる需要増加を見込んで民泊事業に参入したものの、コロナ禍による外国人の出入国停止措置等を受けて予約キャンセルが相次ぎ、撤退する事業者が出たためだと推察されます。一部の住宅宿泊事業者においては前年比売上90%以上の減少という情報もあり、今、まさに、民泊拡大のエンジンとなっていた個人や事業者の撤退が相次ぎ、民泊という新たな文化が消失してしまうか否かの瀬戸際に立たされている状況です。

もっとも、大都市近郊の一軒家やマンションを貸し切れるタイプの民泊は、3密の状態が避けられる点が人気を集め、予約が回復傾向にあると言われています。報道によれば、Airbnbでは、6月7日~13日の間、同社サイトで予約された国内民泊の予約数は前年同期比で78%増加し、予約全体の8割が、大都市近郊の貸し切れるタイプの民泊でした。また、Airbnbの米国における5月17日〜6月3日の予約は前年同時期を上回る結果となり、欧州のドイツやポルトガル、アジア・オセアニアでは韓国やニュージーランドで需要が回復しつつあるとの情報もあります。

さらに、テレワークを導入する企業も増えてきたことを受けて、民泊施設を利用して田舎の一軒家でテレワークをしたり、住宅宿泊事業を一時的に廃業し、時間貸し施設にコンバージョンしたうえで再度需要が回復したタイミングで民泊事業を開始することを検討する等、コロナ禍を機に新たな遊休施設の使い方が生まれてきそうです。

民泊 文化はコロナ禍によって終焉を迎えるのか? 古民家

4 シェアリングエコノミーと住宅宿泊事業法

住宅宿泊事業法上の民泊は、前述のとおり宿泊日数の年間上限が180日以下(自治体の条例によってはさらに短い期間)に制限されてしまってはいますが、住宅専用地域でも営業できる等、要件が大幅に緩和されているのが特徴です。他方で、届出制を採用しながらも、実際の判断は各自治体の保健所によって行われるため、実態としては行政指導が繰り返され許可制に近いような厳格な運用がなされる例もあると言われています。

しかし、シェアリングエコノミーの根幹に流れる「共助」という発想から、住宅宿泊事業法に基づく民泊は、個人や小規模な事業者でも民泊事業に参入できるように設計され、運用されるべきであり、その点が旅館業法や特区民泊とは大きく異なります。極度に営業日数を制限したり営業できる曜日を制限する条例の制定はすべきでなく、最悪の場合条例無効の訴えを起こされるリスクもあると思われるところであり、各自治体及び各保健所においては、法の趣旨に再度立ち返って適切な法執行がなされるべきだと考えます。

直近ではこの民泊施設を災害時の避難所に活用するための防災の仕組み(いわゆる「シームレス民泊」 )なども国や各自治体との連携の中で生まれ始めてきているところです。南海トラフ巨大地震や首都直下型大地震に限らず、大型台風や局地的な豪雨による水害などの天災は、「想定の範囲外」と言われるレベルで毎年のように発生しており、もはや、いつ我々自身の近くで発生してもおかしくない状況で、災害に備えるインフラの整備は喫緊かつ重要な課題です。このような観点からも、民泊文化をコロナ禍によって途絶えさせては絶対にいけないでしょう。

足元の議論では、現在コロナ禍における事業継続のための各種助成金や給付金制度において、住宅宿泊事業者が副業として営業しており雑所得などとして確定申告していた場合、その受給対象に含まれるか否かが微妙な状況(事業所得等への修正申告等が少なくとも必要)だと指摘されています。旅館業界などは非常に強い業界団体を組織しており、国や自治体への働きかけを行う力が大きい一方で、個人が営む住宅宿泊事業者の要望や意見を救い上げ、政府に届ける仕組みもないことから、この点が今後の課題になるでしょう。前述の防災民泊の仕組みを通じて、自治体と住宅宿泊事業者の連携が深まり、自治体側が彼らをステークホルダーとして認識することを期待したいところです。

 

次回は、具体的にどのような手続を踏めば宿泊を伴う空間シェア事業を行うことができるのか、まずは宿泊を伴う空間シェアに関わる日本の法制度の概要をざっくり解説していきたいと思います。