2018年12月12日、21世紀型の参勤交代プロジェクト事務局が、新しいライフスタイルを提案するイベントを開催。多拠点的な働き方を実践する有識者を招いて実施されたトーク&ディスカッションで、そのリアルな実情を浮き彫りにしました。

株式会社mazel代表 佐別当隆志氏

まずはモデレーターを務める株式会社mazel代表・佐別当隆志氏が登壇し、「江戸に来てもらうのではなく、東京の人が地方に行くのが21世紀型の参勤交代」とプロジェクトの趣旨を説明。「人口の減少によって地方の空き家が増えている中、一人で複数の拠点をもつことができるチャンスが到来した」と述べたうえで、「所有からシェアへと意識のパラダイムシフトが起こっている」と述べました。

佐々木俊尚氏

続いて、すでに7年前から多拠点生活を実践しているというITジャーナリストの佐々木俊尚氏が登壇。そのきっかけになったのは2011年に発生した東日本大震災だと説明しました。
「避難できる場所を複数確保しようという気持ちがあった。それまで所有していた沖縄の、少し大きめの物件を処分して、複数の小さな拠点を持つべきでは?という発想で、東京のほかに軽井沢に一軒家を借りた」(佐々木氏)。
さらに2014年から福井県にも拠点を構えるようになり、2016年には福井県美浜町の「クリエイター イン レジデンス」制度を活用。リノベーションされた古民家を無料で借り始め、現在は東京に2週間、軽井沢に一週間、福井に一週間という多拠点生活を送っているといいます。
「この移動生活は20世紀には実現できなかった。携帯電話が登場し、メールが使えるようになって、どこにいても連絡が取れるようになった。さらに資料がデジタル化され、パソコン一つあればどこでも働けるようになったことで、それが可能になった」(佐々木氏)
この三拠点生活の中で佐々木氏が得たものは大きく三つあると説明します。
「まずは人間関係の多層化。都会では会えないような、農家や漁師、猟師、郵便局員などとの交流が楽しい。ふたつめはメリハリある生活ができること。三つ目に移動することに対するハードルが低くなる。そして、どんどん無駄なものは買わなくなってミニマリストになっていく」(佐々木氏)
最近は、地方に優秀な人材が集まってきつつあると述べ、「都心と地方都市を行き来する文化ができ上がりつつある」ことを実感していると語りました。
“地方の魅力をどう生み出すのか?”という命題に対して、佐々木氏は「結局、面白い街には求心力のある人が必ずいる。頼りになるキーパーソンが必要だ」と説明。求心力のある人間を中心に据えながら、外部との連携を図っていけばコミュニティが維持できると述べました。そして「外部との連携を取りつつ、ミニマムな生活をして地方を転々と拠点間移動をするライフスタイルが、やがて当たり前になっていくのではないか」と締めくくりました。

NEWPEACE Inc.代表 高木新平氏

続いて、NEWPEACE Inc.代表の高木新平氏が登壇。これまでの経歴を説明しつつ、高木氏が生きてきた平成という時代を“失われた30年”と言われていることに触れながら持論を展開しました。
「平成という時代は、20世紀的な一億総中流という成功体験に引きずられ続けた時代だった。均一的な教育と終身雇用、国民皆保険、皆年金で作られ、マイホームを持つことが幸せのゴールだと植え付けられていた」(高木氏)
結局、社会は変わらないけれども、個人の働き方の課題が浮き彫りになったのは、“日本に新しいビジョンがなかったから”と説明。「多くの企業と一緒にビジョンを描きながら、“20世紀をぶち壊したい”と考えてNEWPEACE Inc.を設立したと述べました。
さらにNEWPEACE Inc.が手掛けてきたプロジェクトを紹介し、今回、新しく、“住所不定”というコンセプトで立ち上げたモビリティブランド『ONFAdd』について詳細を説明。「移動が人類を進化させてきたのは間違いない。これだけ拠点移動が容易になり、定着しつつある時代において、道具の在り方であったり、ライフスタイルというものを、モビリティの観点から見つめ直すともっと面白いことができるのでは?と実験的に始めた」と述べました。今後は様々なクリエイターやサービサーと手を携えながら、『“住所不定”のスタイルがカッコいいという価値観を世の中に示していきたい』と締めくくりました。

第三部は、モデレーターの佐別当氏と、佐々木氏、高木氏の両登壇者によるトークセッションを実施。佐々木氏が“ノマド”という言葉を広めた2009年から10年が経過したことに触れた佐別当氏が、“次のトレンドは?”と問いかけると、佐々木氏は「従来のヒエラルキー型組織ではなく、プロジェクトごとにチームを作る、フラットな“ティール組織”という概念がアメリカで生まれている。会社の役割は“全体をマネジメントする”ものへと変わっていく」と述べました。

高木氏は、佐々木氏の話に同意したうえで、「私たちがブランドを作る際にも、ひとつのテーマに対して、色々な人たちが集まって一緒に協力しながら進めている。昔のように、個人のデザイナーの世界観を体現するブランドではない」と述べました。
佐々木氏は、「垂直型統合のヒエラルキーが生まれたのは、二つの世界大戦を乗り切るために組織が力をつけるために大きくならざるをえなかったから。現在は、ビッグなものに頼るのではなく、小さなものが相互作用する生計を立てていく時代に戻ったような感覚。プラットフォーマーが垂直統合の社会をフラットにした」と持論を展開。それに対して高木氏は、「住宅や地域は世襲されるためヒエラルキー的な縦の発想に近い。それがairbnbなどのプラットフォームによってフラットになった」と述べ、「どうして、日本では縦社会から離脱した多拠点生活というライフスタイルが定着しないのか?」と疑問を投げかけました。
それに対して佐々木氏は、現在は過渡期にあると説明。「働き方の多様性が高まれば、公務員人気が高まる。自由になると不安になる。多様性を高めながら安心できる社会とは何か?それはコミュニティ。慰めてくれる人がいると良い」と述べました。

ADDress

日本・世界中の空き家や遊休別荘と、泊まりたい人をマッチングする、Co-Living(コリビング)サービスADDress

ここで佐別当氏が「多拠点生活をするためのプラットフォーム」ADDressをローンチすることを発表。月額4万円の価格で全国の登録物件に住み放題となる多拠点コリビング(Co-Living)、サブスクリプションモデルのサービスを展開すると説明しました。「日本全国に現在、800万の空家があるといわれているが、2030年代には2000万件になる。この社会問題を解決したい」(佐別当氏)

佐々木氏は、「そういうサービスが出てきて、より多拠点生活のハードルが下がる。メルカリなどの台頭で、新しいものを買う意味が分からなくなってきている時代、この先10年で、一気に価値観がひっくり返り、普通に中古住宅に住むようになるかもしれない。所有するほうが損だという認識が広がっていく可能性もある」と述べました。そして、「あらゆるものの“空き”をアセット化して、サブスクリプションモデルで開放していくのは、これからのひとつのトレンドとなりうる」と評価。佐別当氏が新たに仕掛ける遊休資産の活用法に期待が持てると述べて、トークセッションを締めくくりました。

トークセッション後の懇親会では、新しい多拠点生活を送るためのプラットフォームについての議論が沸き起こり、新たなムーブメントのけん引役となることへの期待が集まっていました。多拠点生活の価値が世の中に浸透していくのも、そう遠くはなさそうです。