9月19日(月)に福岡SOLARIA PLAZA 1F 広場&警固公園にて、「シェア」を起点に市民/企業/行政、それぞれの視点から「これからの都市」について考えるイベント<SHARING CITY FUKUOKA 2016>が開催されました! 当日はシルバーウィーク最終日の天神、あいにくの空模様ながら午前中から多くの市民が集いました。
近年、日常の様々なシーンで耳にする「シェア」。今や国内はもとより、東アジアと日本のゲートウェイとして機能する都市・福岡においても、他地域からの流入者増加を背景に、シェアを通じて暮らしを創造する取組みが活発化しています。特に福岡市は、2011年からの環境配慮型都市「スマートシティ」実現への取り組みから、昨年には米ライドシェアサービス「Uber」が日本で初めて実験的に導入されるなど、新しい街づくりを積極的に取り入れているモデルシティでもあります。
“シェアリングシティ元年”として国内初の開催となった当イベントには、移動手段や仕事場、はたまた宿泊や子育てなど多岐の分野・業種から話題のシェアリングサービスを担う企業が集結。「シェア」で広がる福岡という街の可能性や個人のライフスタイルについて、様々なトークセッションが繰り広げられました。
イベントの最初を飾る『福岡市はシェアでこう変わる』のオープニングトークでは、国内でいち早くシェアリングシティに名乗りをあげた福岡市の魅力や課題について、有識者3名がパネルディスカッションを行いました。ソーシャルメディアが普及して久しい昨今、従来の情報共有の流れをくみ、急速に機運が高まるあらゆる物事の「シェア化」。壇上では、シェアリングシティのモデル都市として国内で唯一、国際地域ベンチマーク協議会(IRBC)に加盟する他、観光やスポーツMICEを誘致するなど具体的な取組みを実施する福岡だからこそ、今後ますます世界的にシェアされるべき街の魅力が様々あるという意見が交わされました。
▲福岡地域戦略推進協議会(Fukuoka D.C.) 事務局長 石丸 修平氏
たとえば歴史や文化をはじめとする遊休資産もその一つ。また昨年、市がおこなった統計で市民の95.8%が福岡市のことが好きという結果や、「地元にとどまる人、転入者が多い半面、転出者も多いという福岡らしい特殊性にもシェアという視点を大いに活かすことが期待できる」(福岡地域戦略推進協議会(Fukuoka D.C.) 事務局長 石丸 修平氏)という声も。とりわけ仕事や住環境という生活の根源的な部分において、福岡は都市規模における交通の便や安定した物価に加え、自然環境が身近にあることなども他地域にない魅力を有しています。今後増加が見込まれる県外からの流入者に、その利点をいかにシェアしてもらうかという点も、都市発展に大きく関わるところです。
▲経済産業省 商務情報政策局情報経済課課長 佐野 究一郎氏
しかし一方で、「一時的な(流入者の)ピークという部分において福岡市には課題がある」(経済産業省 商務情報政策局情報経済課課長 佐野 究一郎氏)という指摘も。顕著な例でいえば、スポーツやコンサートなど大規模なイベントが同時に開催される際のキャパシティの問題。宿を確保しにくいとか大きな交通渋滞は、県外客のみならず福岡市民でさえ実感する問題です。とはいえ、ピークに合わせて設備投資をしていては費用対効果が見込めないばかりか、かえって非効率な事態を招くのは明白。そこで、解決の糸口となるのが「民泊」や「乗り合い」というシェアリングエコノミーです。言い方を変えれば、福岡市に住む人がシェアを日常的に取り組むということ。朝のラッシュ時に車を通勤者同士で乗り合わせることで渋滞を緩和したり、個人の家の空きスペースに宿泊者を招き入れるなどの仕組みによって、市民と県外者双方にメリットを生み出すという考え方です。
▲一般社団法人シェアリングエコノミー協会 代表理事 上田 祐司氏
しかし、それらには現行法との兼ね合いにより、爆発的な普及に至っていないという現状もあります。「国が率先して規制を緩和できれば、最終的に市民自身がシェアリングエコノミーのホスト役になれる」(一般社団法人シェアリングエコノミー協会 代表理事 上田 祐司氏)という側面は福岡が他のどこよりも強みにしたい(できる)点である半面、市民一人ひとりがシェアに対する理解を深めていなければ元も子もありません。シェアに対するある種の“抵抗感”を払拭するには、市民自ら誰かの(身近な)シェアリングサービスを体験することも必要かもしれません。
トークセッション後、スピーカーの方たちに独自インタビューを敢行。
福岡の魅力や今後の可能性に加え、2016年にして初開催となった当イベントに登壇してみての感想を、みなさんに伺いました。
▲写真左から、石丸 修平氏、佐野 究一郎氏、上田 祐司氏
|福岡地域戦略推進協議会(Fukuoka D.C.) 事務局長 石丸 修平
「日本で有数の経済圏を誇る福岡都市圏(約250万人)は、世界10都市で構成される国際地域ベンチマーク協議会を通じて、似通った経済圏同士でベンチマークし合うことでベストプラクティスを学んでいます。メンバーである世界各都市の経済規模は福岡のそれとは比較にならないほどのリソース(資産・財源)を有しており、福岡市はそれを“同じ地域”としてシェアしていくためにワンストップのプラットフォームを構築中です。都市間連携を強化し、東アジアのビジネスハブをつくる。その前提として経済や人材の移動が鍵を握っています。向こう10年で取り組む『天神ビッグバン』も都心がある街づくりを産官学で推進しています。今日は、シェアリングシティである福岡の取組みについて市民のみなさんに直接お話できるいい機会になりました。」
|経済産業省 商務情報政策局情報経済課課長 佐野 究一郎
「シェアリングエコノミーは世界的に波及していますが、まだ完全ではありません。我が国ではGDP600兆円という目標に向けて、日本の再興戦略のなかでも『シェアリングエコノミーの推進』が大きく掲げられています。また、今日のようなイベント自体も東京だと図体が大きすぎて身動きとれないですが、福岡のようなコンパクトな都市であることによって実現しやすいと思っています。国という立場で私たちは、利用者あるいは第三者からみて安心できるシェアリングエコノミーの自主ルールづくりや、福岡市のような先進的な地方自治体の尖った事例を全国に広めるための振興策として積極的に公開、実施しています。地道な取組みですが、市民間で知恵や資産を共有できる仕組みをつくることも我々に課せられたひとつの使命だと思います。」
|一般社団法人シェアリングエコノミー協会 代表理事 上田 祐司
「日ごろの取組みを通じて、シェアリングエコノミー、ひいては『シェア』というものに対して既成の産業にマイナスなんじゃないかと思う人がいまだに多い気がしています。しかし、少なくとも私たち普通の人たちにとってシェアすることはプラスが多いのです。また、“所有する”というこれまでの資本主義社会を冷静に見つめ直す機会にもなります。人が移動する、泊まる、食べる、働く…。国内の人口構造の変化(減少)とともに、私たちのライフスタイルは合理的でなくてはなりません。福岡は新しいものを受容できる数少ない街です。世界的なシェアリングエコノミーを市民感覚までもっていくために、みなさん一人ひとりが今日のようなイベントや『シェア』というものにもっと関心をもってもらいたいと願います。」
自分にとって関心が高い情報をSNS上で共有するという行為は、今に始まったことではありませんが、「情報を共有できるようになった」事実が、生活上のあらゆる仕組みを見直す動きにつながっていることを当イベントで確信しました。登壇者の上田さんが指摘されていたように、所有とか独占とかいう概念は、資本主義社会のなかで成熟を迎え、いつしかそれが至極当然の(美しい)経済と見なされてきたのでしょう。
みんなが物をシェアして、消費する物の数が減れば、経済は停滞するなど懸念もあるかもしれませんが、お金があっても循環しなければ経済は停滞します。つまり、お金が少なくても循環せしめる手段が「シェアリング」にあったわけです。
取材を終え、福岡でシェアビジネスを展開する多くの企業や個人、また福岡市の積極的にシェアリングエコノミーと向き合う姿勢を感じました。そんな福岡市だからこそ、シェアによって創造されるコミュニケーションやコミュニティへの理解、街を良くしようというポジティブな関心が市民のなかに育まれやすく、いつしか「シェア」が経済の中心テーマに、もっといえば、私たちの暮らしの“普通”になる日も近いのかもしれません。
photo by 関征士(McQUEEN)