自分のやりたいことは見つかった。ところが、夢を追いかけていると、生活するためのお金をつくることが難しい…。ケータリング作家・細川芙美さんのそんなジレンマを解決に導いてくれたのが、“ご近所お手伝い”というコンセプトを掲げるシェアサービス「ANYTIMES」でした。細川さんの飛躍のストーリー(後半)をご紹介します。

――当初は「ANYTIMES」を、どのように活用しようと考えていたのですか?

当初は、正直言って、自分のスキルを活かそうとか、そういった感覚はなく、「日払い」「即決」「在宅ワーク」といったキーワードで検索して、とにかく空き時間を活かしてお金を作りたいという一心でした。最初に決まった仕事は誰かの家に行って、夕飯を一食分つくり置きするというもので、結果的には料理という自分のスキルを活かすことができましたが、最初のころはそれこそ、お掃除とか、家事全般のお仕事をどんどん引き受けていましたよ。ANYTIMESを始めてから、ようやく生活も安定していきました。それこそ、それまでは紅茶のティーパックを三回使うみたいな、つつましやかな生活をしていましたから。そのうち、少しずつ余裕が出てきて、掃除とか家事代行ではなく、自分が得意な料理の仕事ばかりを請け負うようになりました。同時に、料理教室の講師のアルバイトもしていました。

――すごいバイタリティ!料理教室のバイトは単に“生活のため”ということではなさそうですね。
そのころには、何となくではありますが、自分一人の力をもってして、料理の世界で生きていけるかなという感覚があったので、料理教室に勤務することで、働きながらいわゆる家庭料理を学んで、自分の引き出しを広げておきたかったのですね。それまでは店舗で働いていたので、例えばフレンチを食べたいと思っていらっしゃるお客様にフレンチを提供すればよかったのですが、私がこれからやろうとしているケータリングは、そういった限定された世界ではなく、野に放たれた感じというか、お客様が求めるものに柔軟に対応しなくてなりません。だから、働きながら学ぶしかないなという感覚でしたね。当時は、ANYTIMES経由でお料理作りを代行し、料理教室でも働き、さらに先生のアシスタントもやっているような状態。休みなく働いていましたけれど、基本的に自分の好きなことだったし、とにかく自分が納得するまでやりたかった。その情熱みたいなものが自分を突き動かしていました。

――そんなお忙しい中で、開業準備も進めていったのですか?

徐々に、開業準備というか、ケータリング作家として売り出していけるような準備も進めていました。漫画家を目指す人が、自分の作品をポートフォリオにまとめて出版社に売り込むという話をどこかから聞いてきて、これだ!と(笑)。自分の作品をたくさん撮影してストックしておけば、チャンスがあった時にすぐお見せすることができると考えて、イベントを仕掛けました。友人をキッチン付きのイベントスペースに集めて、私がごはんをつくって飲み会をする、みたいな。これがけっこう話題になって、友人の友人、そのまた友人と参加者が増えていきました。
とにかく、美味しくて見栄えのする料理を作って撮影してストックする。ポートフォリオをつくってイベント会場にもおいて、話題にしてもらったり。その料理写真がインスタグラムにマッチして、どんどん拡散されていきました。インスタグラムがポートフォリオになっていったのです。どんどんフォロワーも増えていったので、ホームページをつくって、料金体系をつくって掲載して、そのURLをインスタグラムにアップしたら、ある日突然、オファーが爆発。インターネットで料理家が利用できるシェアキッチンを見つけてきて、そこを拠点として本格的にケータリングの事業に乗り出したのです。

――すごい!ケータリング一本でイケる!と判断したのはどの時点だったのですか?
はっきり線引きするのは難しいですが、ケータリングの仕事で一週間のスケジュールが埋まって、売り上げが上がっていて、お金の余裕が見えてきた段階で料理教室の仕事をやめました。アシスタントの仕事は今でもたまにお手伝いしますが、基本的には自分のケータリング事業がメインになっています。今年に入って知人の紹介で西麻布にキッチンを持つことができましたし、ケータリング作家として認められて、ムック本に私の作品が紹介されるようになりました。今まであこがれていた作家さんと一緒に掲載されたのは非常に嬉しかったし、励みにもなります。自分も発信側の人間になって、もしかしたらブームをつくっていける?とか、最前線の方たちの感覚を味わうことができました。でも、ここは一つの通過点。ケータリング作家としての道を究めるために、これからもやれることはすべてやっていかなければ気が済まない、そんな性格ですからね。

――ANYTIMESの存在は、今の細川さんにとって、どのような意味がありましたか?
ANYTIMES経由の仕事も料理教室も、アシスタントの仕事もすべて、ちょっとずつ今の私になるために必要な要素だったと。どれひとつ欠けていても、今はないと思っています。特にANYTIMESは、ご家庭に入って料理を作るので、一番本音を聞くことができる場所でした。例えば、肉じゃがをつくった時に、「やっぱり家の肉じゃがといえば、真っ茶色がいいよね」といわれる。料理教室で教えるような彩りのよい料理じゃだめなんだと、さらにいえばインスタグラム経由でオファーが来るチャーミングな料理でもない。ですから、ANYTIMESも料理教室も、WEB経由の依頼もすべて料理の仕事ではあるのだけれども、それぞれが全然違う仕事だったのだと。そのどれもが自分にとって重要だったのだと思えるのです。
またANYTIMESは、レストランという限定された世界でしか働いたことのなかった私に様々なことを教えてくれました。例えば、料理という仕事の価格感というか、自分の役務に対する世間的な価値観を知ることができたし、名刺交換の仕方やメールの送り方といったビジネスマナーのすべても教わったような気がします。だって調理師学校を卒業してすぐに厨房に入って働いてきたわけですから、料理以外のことはまったく経験していません。仕事のなりたちがわかっていなかったのです。仕事をするうえで必要だったからそれらのビジネスの基本を体得できたし、ANYTIMESは体得した力を発揮できる場所でもありました。
そして、何よりも、やりたいことをすぐにはじめることができるという自信を与えてくれたのは大きいと思っています。私の場合、お金をためて5年後に始めるという感覚ではありませんでした、貯金がなくても準備期間がなくても、走りながら体制を整えていくことができる。自分という人間ひとりさえいれば、やりたいことが実行できるのだということを知ることができたのが何よりも大きかったですし、それが大きな原動力になったのは間違いありません。

Photo by Niko Lanzuisi

この記事の登場人物
  • 細川芙美さん
    ケータリング作家として活躍する細川芙美さん
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