東京・蔵前にあるゲストハウス「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」(以下、Nui.)に一歩足を踏み入れると、その洗練された空間に圧倒されるだろう。

それもそのはず。Nui.は、国籍、年齢、性別、宗教、などの境界線をすべて取り払い、飾らない姿での交流を大切にしたゲストハウスだからだ。その実現のためにとつくり上げられた空間、BGM、インテリア、飲食、バランス、一つ一つへのこだわりも強い。

今回は、そのNui.を運営する株式会社Backpackers’ Japanの桐村琢也(きりむらたくや)さんにお話しを聞いてみた。

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「あらゆる境界線を越えて、人々が集える場所」をつくる魔法

—はじめに、なぜゲストハウスをつくりたいと思ったのですか?

桐村:会社創業前、僕たち創業メンバー4人の中に「旅の価値観」という大きなキーワードがありました。価値観と言うと大袈裟に聞こえるかもしれませんが、ようは普段背負ってるものから解き放たれて自立している状態や、そういったときに他人と出会い、話をする心地良さのこと。じゃあどのようにその環境をつくるのか、と考えたとき、ゲストハウスが最適なのではないかと思いはじめました。

—どこを見ても素敵な空間ですが、こだわっている点を教えてください。

桐村:細かい点は幾つもあります。例えばライティングですと、少し暗い方が話しかけやすいけど、食事中は明るいほうがいい。BGMに関しても、雰囲気によって好ましい選曲や音量があって、それを判断していかねばなりません。僕たちは「あらゆる境界線を越えて、人々が集える場所を」という理念を掲げていて、様々な背景を持つ人たちが気軽にやってきて心地よく過ごせ、語らえる場所になるよう心がけています。改装中も「きっとここには自然に人が集まるね」とか「この家具の配置なら自由に移動しやすいね」とか、そういった話を大工さんや空間デザイナーさんを交えよく話していました。

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—なるほど。なかでも一番注力しているのはどの点ですか?

桐村:注力という意味合いとは少し違って来るのかもしれませんが、今まで挙げたような点は全てスタッフがいなければ成り立たないものだと思っています。心地よい場所になるよう考えていって欲しいという気持ちもありますし、まずは来る人を笑顔で迎えて欲しい。

極端な話をするとスタッフが気持ちよく人を迎えられればきっとそれだけで訪れる人は喜んでくれます。そうやってよく足を運んでくれる方たちが更にこの場所をいい空間にしてくれていると感じることもあります。なので、スタッフがまず理念に共感してくれることはとても大事だと考えています。

—―2016年現在、Nui.がオープンして3年ほど経ちますが、やりがいはどんなときに感じますか?

桐村:理念に近いところで言うと、お互い知らなかった人同士が昔からの友達のように乾杯をしているのを見ると嬉しいです。あとはゲストが再来してくれたときとか、お客さん同士が仲良くなったりするときとか。

先日、前回カップルで来ていた2人が今度は夫婦になって宿泊に来てくれたんです。しかもハネムーンで!もう嬉しくなっちゃって。もう一生会えないと思いながら別れているゲストがサプライズで来てくれると、本当にやっていてよかったな、って幸せを感じます。

そんなふうに、この空間にはまだまだ可能性があると思う。だからやめられないんです。

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見せかけにとらわれない、人間らしく語り合える人を増やしたい

—―桐村さんはNui.を通して、世の中がどうあればいいなと思っていますか?

桐村:これは会社というより僕個人の考え方ですが、いろいろな人が集まり「僕はこういう風に生きてるよ、君はどういう風に生きているの?」なんて話をして、様々な価値観に触れてほしいと思います。いろいろな生き方があっていいし、自分で選択していい、けど、それはたくさんの生き方に触れたうえで選択してほしい。

もちろん1人で飲みたい人、カップルや親友と過ごしたい人も大歓迎で、多様性なくして良い空間は生まれないと思います。それぞれ思い思いの時間を過ごしながらも、ふとした瞬間に色んな繋がりができて、世界や自分の価値観が一瞬にして変わる。そんな静と動のようなメリハリって素敵だと思います。

—―なるほど。でもやっぱり、知らない人と話すのは労力が必要で、みんながみんな話し合うっていうのは難しいように思うのですが、どうすれば話し合いは生まれますか?

桐村:無理に話す必要なもちろんないと思います。アンテナを立てたり、スタッフと仲良くなったりすれば、それを介して色んな人と話せるようになると思いますよ。そのような出会いが、その人の人生にちょっとでも影響を与えられたら嬉しいですね。

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—―今後のNui.はどこを目指していきますか?

桐村:空間は様々な要素が絡み合って出来ていると思っています。内装や家具などのインテリア、提供している飲み物や食ベ物、掛かっている音楽、働くスタッフ、そして訪れるゲスト。Nui.はそのどれが欠けてもいけないと思っています。

例えば美味しいお酒が飲める内装のかっこいい店が作りたいわけじゃないし、もっと言うと僕たちの目指す場所は飲食店でも宿でもないのかもしれません。具体的に何を目指すということではなく、今すでにあるものを土台に、自分たちに相応しいやり方で理念を達成する空間を目指していこうと思っています。

—―ありがとうございます。では最後に、読者さんに向けてのメッセージをお願いします。

桐村:いまは情報過多の時代です。どこにいても情報が受け取れるし、発信もできる。働く場所も働き方も自分次第だから、昔よりも自分の意思次第で生きやすい世の中になっています。だから、口に出したらぜひ行動してみてください。自分の気持ち次第で、いくらでも人生は変えられると僕は思っています。