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「単なるムーブメントか、生き方の新常識か」——スキルや物、空間や移動のシェアを通じて人々のライフスタイルはどのように変わり、新しいビジネスを生んでいるのか。11月25日(金)に開催された、シェアリングエコノミーのすべてが分かる国内外初カンファレンス<シェア経済サミット>では、情報通信技術(IT)政策担当大臣の鶴保氏の挨拶に始まり、世界中の権威者や第一人者たちによるスピーチやディスカッションが行われました。その中で、様々な角度からシェアリングエコノミーを考える上で“キー”となる登壇者のスピーチを通して、日本におけるシェアリングエコノミーの現在地と本質を紹介していきます。

まずはニューヨーク大学経営大学院教授で、世界に認められたシェアリングエコノミーの権威、研究者、コメンテーターのアルン・スンドララジャン氏のスピーチから興味深いエピソードを抜粋していきましょう。アメリカやヨーロッパで成長するシェアリングエコノミーの具体例は、日本ではどのように移植可能なのでしょうか?

個人間で成立する「クラウドサービス資本主義」の台頭

シェアリングエコノミーの基調講演とも言えるスンドララジャン氏のスピーチは、このムーブメントの必然を歴史や経済活動の観点を導入にスタート。そして氏の著作『シェアリングエコノミー』のサブタイトルにもなっている「クラウドベース資本主義の台頭」の必然について例を挙げて語ってくれました。

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「基本をわかりやすく言えば、私たちの世代は友達とテレビを囲んで見ていましたよね? 番組は放送局が作っていました。でも今、私の12歳の娘が見ているのはYouTubeです。彼女たちはテレビを見るようにYouTubeを見ているんです。その多くは個人がアップしていたり、視聴する時間も個人の都合で見られます。つまりコンテンツはお互いに個人と個人で成り立っている。それから、例えば何かに投資したい、新しいプロダクトをローンチしたい、音楽をリリースしたいなど、今、世界中でそれらは個人から投資を受けられる(=クラウドファンディング)。例えば500万円の事業やスモールビジネスを開始するのに、銀行ではなく、200万人ほどからなるクラウドから投資を受けるのです」

メディアのあり方や情報の伝播の仕方、そして経済のあり方が、企業ベースのみで動いていた時代に比べ、現代ではインターネットをプラットフォームにした個人間のやりとりが増加していることは私たち自身の日常でも感じられます。つまり自然と私たちはシェアリングエコノミー的な視聴をし、経済活動をしているというわけです。

曖昧になるパーソナルとプロフェッショナルの境界線

続いて、シェアリングエコノミーを確かなビジネスにしていく上で把握しておきたい、シェアリングエコノミーの誕生から、成長プロセスについてのスピーチが続きます。

「経済学の授業を受けたことがある人ならわかると思いますが、18世紀の市場ベースの時代から、20世紀には企業ベースに変わり、随分、経済システムも変わりました。そして現在は様々な個人が20世紀の資本主義をクラウドベースネットワーク資本主義に置き換えることで、より経済に大きなインパクトを与えます。具体的な例で言えば、持っているけど使わない物をシェアする、これは20世紀にはパーソナルに行われていた。それが現在は、例えばAirbnbでは余った部屋をプラットフォームとして世界で約11億の部屋が活用されていますし、エネルギー業界でも個人がsolar powerを貯める技術を持ったことで、個人が電力を得ることができる、そうしたビジネスに発展してきました」

このように、これまでパーソナルに行われてきた物の貸借りやシェアが、ビジネスでも適用されてきているのです。つまりサービスや物に対する信頼は、時代によって基盤が変化してきたとも言えます。

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「全てのコミュニティが信頼し合っていた何百年前、そしてそれが不可能になってからは、法律が生まれ政府ベースに変化し、20世紀は契約をベースとして問題があった場合は裁判を行うというルール。もしくはブランドの価値で人は物を買ってきました。でも現在台頭してきているのは個人の信頼関係に基づくビジネスです」

そうなってくると当然「シェアリングエコノミー活動での人材の信用度は何によって担保されるのか?」という、参加者からの質問にもあった誰もが抱く不安も浮上しました。それに対し、アルン氏は「シェアリングエコノミーに関する信頼は個人のアイデンティティである」と認めます。具体例としてあるヨーロッパのライドシェアサービスでの調査を基にこう話しました。

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「フランス発祥の『BlaBlaCar(ブラブラカー)』はすでに22カ国、3千万人以上がユーザーで、しかも毎日使われています。これはアムトラック(アメリカ全土を走る列車)の2倍、ユーロスター(イギリスと大陸ヨーロッパとを結ぶ国際列車)の5倍の人間を輸送している数字です。例えば東京〜新大阪なら新幹線で移動できるけど、移動する人は必ずしも新大阪に着きたいわけじゃない。それにしたって知らない人の車に乗って長時間移動するなんてクレイジーだと思いますよね? 『BlaBlaCar』は世界11カ国でどのような人なら信頼するのか、調査をしました。家族、同僚、近所の人、SNS上の知人や、知らない人をどれだけ信頼するか? については、他人でもデジタルデータのプロフィールを提示すれば非常に信頼度が高いことが分かった。もちろん、デジタルデータには政府が介入しないというわけではなく、ドライバーのIDや、その車がちゃんと整備されているか? については法の裏付けが存在します。そうした総合的な要素で信頼を構築したのです。そのフィードバックベースの内容は、ある人はサービス提供者が同じクラブに所属しているから、他の国では献血をしているから、とか。あとは認証されたIDと、数字の評価に必ずテキストのレビューを加えると、そのサービスを使った人がただ『よかった』ということだけでなく、どういう経験をしたのかが分かる。だからレビュワーも詳しく経験を書くことが大切なんです」

シェアリングエコノミー元年の日本は、単一民族であるがゆえに、信頼度はある程度担保されているが、むしろ情報が必要なのは増え続けるインバウンドへの知見や経験の蓄積と活用かもしれません。

シェアリングエコノミーは人間の基本的な需要を満たしている

スンドララジャン氏はスピーチの途中で印象的な写真を私たちに見せました。1枚は一人で車を運転する男性の写真、もう1枚は男性と二人の女性が楽しそうにドライブをしている写真。それは、シェアの概念が必ずしも利便性や経済的であるということではないというメッセージでした。

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「シェアのモチベーションとは何だろう? ということです。デジタルインタラクションは個人間の距離を遠ざけているという記事は日々見かけますよね。テクノロジーの進化は人々の距離をどんどん広げていると。市場規模は過去最大なのに、人は家で一人で食事をとる。でもシェアリングエコノミーの何が面白いかって、個人の距離がむしろ近くなること。他人と食事をとるとか、他人を運ぶとかで、個人間の距離を縮めるということです」

すでに『Uber』や民泊のサービスがスタートしている日本ですが、海外の事例のように日本はフランクにシェアリングエコノミーを活用できるのだろうか? という懸念に対して、氏の見解は「例えばロシアとフランスでは何を持って人を信頼するかの尺度が違う。でも日本はすでに“信頼の基盤”というアドバンテージがあると思う。ただ、成功させるには信頼のベースに何が必要なのかを明確にすることだ」と言います。それは他国で言えば前述の『同じクラブに所属している』とか『あの人は献血しているから』といった信頼のベースを日本人なりに作ること。そして『そのデジタルレイヤーを集約すること』が、日本でのシェアリングエコノミー成功の鍵になるはずだということです。『日本人は簡単には他人を信用しない』からこそ、信用を裏付ける客観的事実と主観的な好意のバランスを取るべきでしょう。日本人らしくカスタマイズされたクラウドサービス資本主義の実現のヒントでもあります。

スンドララジャン氏のスピーチを受け、上記のような具体的な信頼のベースを築くことが急務だと感じたのと同時に、シェアリングエコノミーとは、実は人間的なムーブメントでもあると感じました。というのも、とかく必要以上に物を持たない、時間や空間を無駄にしないーーそれも未来型のエコシステムとしてのシェアリングエコノミーの特徴ではあるけれど、他人と何かをシェアし合うということは、そこに新たなコミュニケーションが発生するということでもある。とかく合理性や経済性が優先されてきた中、その先にあった「本当はそんな生き方は寂しいのでは?」という本音が一つ。

もう一点は今後のワークスタイルの方向性もシェアリングエコノミーと密接に関係しているということ。スンドララジャン氏がスピーチの中で提示した、『今、アメリカの労働力の20%はフリーランスかパートタイムでの働き方で、さらにそれは増えるだろう』という事実がそれを示唆しているのではないでしょうか。起業家の増加、あるいは兼業をしたり、育児のためにパートタイムで働く人は増加するでしょう。フルタイムで働く人へのベネフィット=保険や福祉にはまだ及ばないものの、その20%の働き方が今後増える際に、『個人のベネフィットへの対応がこの先10年、必要になってくるでしょう』と氏も語っていました。つまり、会社に合わせるのではなく、自分らしい働き方をしたい、という需要を満たしてくれるものとして、シェアリングエコノミーは今後有望なエコシステムなのではないでしょうか。

Photo by Kayo Sekiguchi