Airbnbを実際に使いこなす人の、「本音」が知りたい。

世界各地でローカルな体験をしたい旅行者と、ユニークな空間を提供するホストを繋ぐサービスAirbnb(エアビーアンドビー)――。 191カ国、34,000都市に広がり、その波は日本にも広がっています。それでも、使ったことがないと、なかなかその魅力や苦労に気付くことができません。

今回Share!Share!Share!編集部では、三人の「エアビーホスト」にフォーカスを当てました。根津で「東京キチ」を運営する中村俊之(なかむらとしゆき)さん、Airbnb運営代行事業を展開する町田龍馬(まちだりょうま)さん、シェア時代の家族とゲストの一軒家「Miraie」を運営する佐別当隆志(さべっとうたかし)さんの鼎談をお送りします。前編はAirbnbを知りホストになったきっかけ、ホストをするなかでの工夫やエピソードについて。

1度使うと抵抗はなくなる? 衝撃的だったゲスト体験

――トップユーザーのみなさんはいつAirbnbを知ることになったんですか?

佐別当:このなかで一番早くホストをはじめたのはぼくですが、それが2013年10月です。ゲストを経験したのは2010年か2011年、アメリカにサウス・バイ・サウスウエストで行ったとき、ご一緒した日本企業のメンバーがAirbnbを使って宿泊するというので、ぼくも一緒に宿泊したんです。そこが庭付きでブランコもあるような素敵な物件で、ぼくもいつかはじめたいなと思うようになりました。

町田:ぼくはニュージーランドの大学に行っていたんですが、海外のITニュースをチェックしているなかでAirbnbのことを知りました。ホストになった理由は、もともと日本をよくしていくためには、海外経験者や起業家精神をもった人を増やさないといけないと考えていたからです。ホストになれば、日本に来る外国人のニーズや考えを知ることができるので、何気ない気持ちではじめました。

たまたま知り合いでホストをやっている人がいたので話を聞いたところ、思いのほかいい価格で貸していたので、ビジネスとしても魅力的だと考えました。最初のゲストはフランス人女性一人で、一週間くらい宿泊しました。実は当初、奥さんには反対されていたんです。でも一度やってみたところ、学びがあって、お金ももらえるので、本格的にホストをやっていくことになりました。

DSC_7761

左から、町田さん、中村さん、佐別当さん

中村:奥さんはもともと海外カルチャーに柔軟なの?

町田:ニューヨークの大学を出ているので、外国人がいることやシェア文化については問題ありません。それでも、これまで1年半くらいホストをしていると、疲れてきた部分もあるみたいで、いまは少しブレイクを入れているところです。ぼくも仕事でバタバタしていて、ホストのための時間を割けなくなりつつあるので、敢えて価格を上げて予約で毎日埋まらないようにしています。

中村:最初は自分たちのプライベートスペースに知らない人が泊まることに抵抗あるけど、一度やってみれば大丈夫なんだよね。

町田:そうですね。海外留学や海外で英語を使うことも同じだと思っていて、実際にやってみればどんなものか分かるし、自信にもなります。

中村:そうそう。だから、Airbnbってゲストでもホストでも、やったことない人にそのすばらしさを伝えるのがむずかしいんだよね。

佐別当:中村さんはどういうきっかけでAirbnbを知ったんですか?

DSC_7846

中村:日本と海外をつなぐビジネスを検討しているときにAirbnbを使ってみようと思って、2年半前にゲストとして体験したんです。まずは福岡で探して――当時は5軒くらいしかなくて――そのうちの2軒に泊まりました。最初のホストは国際結婚していた人でシェアにも慣れていました。

ただ場所が福岡の繁華街から電車で15分、そこから住宅街に入っていくようなところだったので、行き方がわからず苦労しました。事前のやりとりで「出かけているから勝手にチェックインしていい」と言われていて、住宅街で他人の家に入るのは相当ドキドキしました。家に入ってからもどこを開けていいのかもわからなくて、衝撃的な体験でしたね。

ホストがいつ帰ってくるんだろうと思いながらシャワーを浴びていたら、そのときに帰ってきて。そのまま自分の部屋に入っていったので、ホストに朝まで挨拶できずに1日を過ごしました。次の日にはホストの子どもと遊んでいると、次のゲストが早めに来るというので、どんな人だったかというとヨーロッパから来た60代のカップルでした。「これがAirbnbなのか!」と思いましたね。

そのあとも国内以外にアジア旅行でも使っていて、観光地を訪れるよりも「ここのホストのもとに行きたい」という感じで旅行の目的地を決めるようになりました。Airbnbの魅力を知ってしまったので、仲間とシェアオフィスをやるタイミングでAirbnbができる大きな一軒家を借りました。今年1月から「東京キチ」と名づけて運営しています。

tokyokichi

料理会から映画撮影まで、幅広い物件の用途

町田:シェアオフィス兼Airbnb用の部屋がある?

中村:そう。全体で160平米、5LDK、駐車場が2台分。でも家賃が高いので、いまは一人でマネージしながら、Airbnbでは1泊1万円で出しています。ほかにスペースマーケットも利用するようになり、そちらもかなり問い合わせがありますね。

町田:どれくらいの金額が入りますか?

中村:スペースマーケットは1日1コマ、週2回で月10万円くらい入ります。うちではプランが2つあって、リビングを含まない場合は1時間2,000円、含むと1時間4,000円です。スペースマーケットに出したのは今年6月、予約が入りだしたのは7月、ペースをつかめるようになってきたのが8月。3ヵ月で大まかな流れや感触がわかってきました。

町田:どういう使い方がメインですか?

中村:料理会が半分、あとはハウススタジオのような撮影の利用が多いね。キッチンが付いた一軒家で撮影ができる物件があまりないらしくて。これまで一番大掛かりだったのは、「映画撮影で丸2日」というものでした。

町田:オーナーからは許可もらっているんですか?

中村:シェアハウスとして使うことや外国人もゲストで来ること、オフィスも兼ねていることなどはオーナーと不動産屋に伝えています。町田くんのところはどんな物件なの?

町田:まずは自宅の個室からはじめて、いまではAirbnb用の物件を借り、リノベーションして、アートギャラリーに泊まれるというコンセプトの「Tokyo Art Room」という部屋をつくりました。

Tokyo-Art-Room-identity-by-enhanced

Airbnb創業者とすきやばし次郎に!ガイドもAirbnbの魅力

中村:これはマンションの一室?

町田:ワンルームを借りています。ダブルベッドひとつと布団を敷けるくらいの大きさで、1泊1万円強で貸し出しています。ゲストの外国人はこの部屋のミニマルかつモダン、黒とグレーの色使いが日本っぽいと感じているようで、そういう発見もあります。昨年8月からはAirbnbをやりたい人に向けて物件の代行と内装をするサービスを展開していて、50件くらいの規模になっています。

中村:(物件のページを見て)返答が1時間以内というのはチームがなせる技だね。値段は日によって変えてるんだね?

町田:そうですね。「Beyond Pricing」という、ホテルとAirbnbの稼働率をもとに価格を変えてくれるツールを使っています。

中村:こういうオシャレな部屋だと、デザイナーのようなゲストが多いの?

町田:デザイナーや建築士が多いです。ゲストは「デザインがいいから」と言ってくれますね。

佐別当: Miraieもデザイナーのゲストが来ますね。

中村:やっぱりコンセプトが決まっていると、そういう人が来るんだなあ。うちはバラバラですね。

DSC_7878

佐別当:龍馬くんのところには、Airbnbの共同創業者やタイの有名人も泊まりに来たんだよね。

町田:タイの有名な俳優兼起業家で、自分のトラベルチャンネルを持っている人でした。そのときは、シンガポールのAirbnbからスポンサー資金を得て、日本にAirbnbで泊まりに来ていたみたいです。Airbnbの共同創業者のジョー・ゲビアも泊まりに来たときは、一緒にすきやばし次郎に行きました。Airbnb社の人はすきやばし次郎好きがけっこう多いみたいです。

佐別当:ガイドもひとつの価値だからね。中村さんは根津でやっていますが、どうですか?

中村:根津には家族で営んでいるローカルなお店がたくさんあって、根津神社のような広くて子どもも遊べるような場所もあるし、谷中銀座も近い。だから根津はファミリーにも対応できるし、日本文化を理解する外国人が好きなスポットも多いと思います。

30年以上前から外国人受け入れをしてきた澤の屋旅館があることも大きいかな。根津は古い街で、地元コミュニティが強いけれど、先駆者としての澤の屋旅館があることで、街に外国人がいることは日常風景になり、祭りにも多くの外国人が参加している。そんな協力的な街になってきていると思います。

おっちゃん一人でやっているそば屋さんにも英語のメニューがあったので、「どうしたの?」と聞いたら、常連さんが作ってくれたと言っていて。根津のお店は外国人が来るという前提でいろんな準備をしているので、Airbnbなどもやりやすいよね。いまも新しいAirbnb物件が増えています。

消防団? ワークショップ? ご近所といい関係を築くには

佐別当:龍馬くんは代行含めて50件くらいマネージしているけれど、近隣トラブルはあった?

町田:神保町のオフィス街にある物件で一度トラブルがありました。一棟ビルの4~5階をAirbnb(11人対応)で貸出していたのです、グループで来ることもあって。2階はシェアオフィス、3階はオフィスだったので、多少騒いでも注意すれば問題なかったんですが、向かいのビルに住んでいたおばあちゃんが自治会でクレーム――うるさいことと夜遅くまで明かりが点いていること――を入れたらしくて。

そこで千代田区の建築指導課と保健所と消防署が一緒にチェックに来ました。旅館業法や建築基準法、消防法に違反しているので正式に通知を出します、ということでした。一応、安倍政権は旅館業法を緩和して民泊を一部認めることを公言しているので、行政側は積極的に取り締まるというよりは、住民に言われたら現行法のもと対処するようなスタンスでした。

中村:分譲マンションだと管理組合が最初からNGというところがあるよね。そういうことはあった?

町田:最初にはじめた「Tokyo Art Room」はまさにそうでした。オーナーから許可もらっていたけれど、管理組合の許可がなくて。交渉のために管理組合の話し合いに出たこともあったんですが、取り合ってもらえず7ヵ月ほどで終わりました。

ただ、相手の気持ちはとても理解できます。分譲マンションでまさか隣の部屋が宿泊施設になるなんて思わないじゃないですか。管理組合のルールを守る前提でオーナーも買っているので、そこはしょうがないです。

DSC_7848

佐別当:ぼくはこの家をつくるときにまず、近所に挨拶まわりに行きました。すると、自治会の副会長さんをはじめ数人からおもしろいと言ってもらえて。夫婦だけでなく子どもがいることやワークショップにも参加してもらったことで、安心感をもって応援してくれています。

中村:ぼくはもっと地元に馴染もうと思って、消防団に入ってます。お祭りにも顔出したり、消防団の人が主宰するランニングクラブに参加したり……そういうのにどんどん参加することで、ぼくの活動が少しずつ浸透している感じがしますね。

後編につづく

(構成・佐藤慶一/写真・林直幸/編集・長嶋太陽/場所・miraie)