一般社団法人シェアリングエコノミー協会は、2022年11月30日よりビジョンであるCo-Socoiety-持続可能な共生社会-の実現に向けて新たに6名にアドバイザーとして就任いただきました。
本企画では、アドバイザーと理事幹事との対談を通じて、当協会が目指すビジョン「Co-Society-持続可能な共生社会」をどのようにステークホルダーとともに設計・実践しながら実現してくべきなのかを紐解き、発信していくダイアログになります。
第一弾となる今回は、株式会社丸井グループの代表取締役社長である青井浩(あおいひろし)氏に、代表理事の石山と、同じく代表理事で株式会社ガイアックス 上田代表がお話を伺いました。
青井 浩
株式会社丸井グループ 代表取締役社長 代表執行役員 CEO
1986年当社入社、 2005年4月より代表取締役社長に就任。 創業以来の小売・金融一体の独自のビジネスモデルをベースに、ターゲット戦略の見直しや、 ハウスカードから汎用カードへの転換、SC・定借化の推進など、さまざまな革新をすすめる。 ステークホルダーとの共創を通じ、すべての人が「しあわせ」を感じられるインクルーシブで豊かな社会の実現をめざす。 著書に「丸井グループ社長 青井浩が賢人と解く サステナビリティ経営の真髄」(日経BP)
__(石山)まずはじめに、なぜシェアリングエコノミーに興味をお持ちいただいたのか、聞かせていただけますか。
__(青井)
きっかけは、eコマースやオンラインショッピングが世界中で伸びてきたときに「小売の役割は変わってきているし、店舗の役割も変えていった方がいいんじゃないのか?」と感じたことでした。店舗は昔から物を売る場所であり、我々は何の疑問もなく商売を行ってきていたんですよね。でもオンラインでなんでも買えるようになったときに、「店舗って本当に必要なのか?」と考え始めたんです。
店舗がいらない場合に提供できる価値を考えたとき、「物を買うことに代わって共有、シェアしていくこと」を思いついたんです。この機会を提供したり、店舗を出会いの場所として提供したりすることも可能なんじゃないかと――。そこでシェアリングエコノミーに興味を持ったんです。
__(上田)
当時はまだシェアリングエコノミーって単語が出てきてなかったから、変わった人だなって思いましたよ(笑)。
__(青井)
トライアスロンがきっかけで、上田さんに教えていただいたんですよね。その節はありがとうございました。
__(石山)2022年の経済をどう見られていますか?
__(青井)
一番大きかったのはコロナですね。これまで当たり前だったことや働き方も変わりました。
それまでは時間軸が短くなってスピードが速くなっていって、心の中で立ち止まることが難しくなったんですよ。自分の人生や、世の中のこと、将来のことを考えるのって必要なんですけど、なかなか忙しくてそれが出来ていなかった。コロナで否応なく立ち止まったことで、考え始めた人も多いんじゃないかな――。
その中で「このままじゃいけないよね」「何か大きく変えていかなきゃね」と感じた人がおそらく多くなりました。コロナ禍でリモートワークが始まったことで「毎日出社してたのは何だったのかな?」「ハイブリッドワークでも十分できる」と気がつき、立ち止まって考えることで社会を変えるチャンス、転機が生まれたのではないでしょうか。
__(上田)
僕は葉山に引越して、多種多様な人が遊びに来る中で、ゆっくりと流れる時間を共有する価値の再発見をしました。世の中が早くなる一方で、原点的なところにも意識が向き始めている気もします。
__(石山)なぜサステナビリティが必要だと考え、現在のようにコミットしていらっしゃるのでしょうか?
__(青井)
大きなきっかけは、2007年から7年間続いた経営危機ですね。バブルのときは30期連続、増収増益でした。一方、バブルの崩壊とともに1991年から低迷が続きました。30年続いた成功体験にこだわり過ぎてしまっていたんですね。そこから数十年経って、2007年の上場以来、初めての赤字を出してしまったんです。そこでリーマンショックもありました。このときに立ち止まって「そもそも何で潰れそうになったのか?」と根本的に考え直したんです。
そのときに、企業は社会の中で生かされている、広く言えば自然と地球といった環境で生かされていることに気づきました。本来企業とは、人と環境に対してプラスの価値を提供し、その見返りに収益をいただけるものです。
赤字の原因は、「今、どれだけ貢献できてるの?」「去年よりも今年がどれくらい貢献できているか」という観点が失われ、業績至上主義になっていたことが、一番の根本的な原因かと自分でも思いました。「じゃあ、どうすればいいか?」「我々の個性とは?」と考えたときに、ステークホルダーやお客様や、人間のためになることをしようという風に思ったんです。従業員に対しても同じでして、それぞれの創造性が発揮できるような働き方をしようと言ったものも含まれますね。
__(石山)今、多く企業がSDGsやESGに取り入れようとしている中で、貴社は10年以上前から取り組んでいらっしゃいます。今後の企業がサステナビリティ経営にシフトするには、何が重要なファクターになると思いますか?
__(青井)
情報構造といった基盤の上に立つ部分をただ変えるだけではダメであり、企業カルチャー全般を変えることですね。20世紀から21世紀にかけて人類の活動が地球環境に甚大な影響を与えています。ビジネスモデルを変えるより、「この会社って何で存在してるの?」をはじめとした価値観や働き方、意識などの企業文化の根本を変えていくべきです。そうすると、自然とサステナビリティにつながってくるんですよね。それが次世代のためにもつながります。
年齢やキャリアはあまり重視されなくなり、スキルや個性が誰でも発揮できるようになります。住んでいる場所もデジタルで何とかできますし、年齢を越えた優秀な人材と「どれだけ一緒に働けるか?」ということも大事になってきます。
年齢については、もう一つエピソードがあります。以前、グレタ・トゥーンベリさんが、国連でスピーチしたときのことです。彼女が真剣に、勇気を持って発言しているのに「君はちゃんと、大学で経済学を学んだ方がいい」と、いい歳の大人たちが上から目線で提言していたんですよ。私は、その様子を見て、ちょっと違和感を覚えました。他人事とは思えなくなりました。僕にも子どもが二人いるんですけど、その時発言していたグレタさんは、私の下の子と同い歳でした。
だから思ったんです。「絶対、子どもたちと一緒に未来を創っていきたい」って―。
__(石山)シェアリングエコノミーへの期待や可能性について教えていただけますか?
__(青井)
サステナビリティな観点として消費の代替と暮らしの革新に貢献できればと思っています。環境と人は変わっていきますよね。「必ずしも所有しなくてもいいんだよ」という考えが、今後広がってくるんじゃないのかと思っています。安いことは良いことだけど、次の段階として「良いものを長く、大事に」となり、最終的には「所有しなくてもいいよね」となってくるのではないでしょうか。
そもそも大量生産・大量消費では、持続可能な社会のことを考えると幸せになれません。あらゆるものを個人で所有すると、周りとつながる必要がないので分断されます。孤立感とか孤独感とかが出てくるのです。「つながり」を回復していきたいという気持ちがあるので、考え方や消費の仕方を変えて、人と「共有」するような未来を創っていきたいです。シェアリングエコノミーによって、お客さんの「幸せ」を一緒に創っていけるのではないかと思います。
__(石山)スタートアップに対する課題感やポイントがあれば教えて下さい。
__(青井)
1980年代まで「Japan as Number One(ジャパン・アズ・ナンバーワン)」と言われたように、当時の社会をけん引していたのは大企業でした。バブル崩壊以降、大企業の元気がすっかりなくなりました。首位はGAFAに奪われ、日本は「失われた30年」があり、打開できていないんです。日本が元気がなくなった理由は、新しい価値が長期的に生み出せなくなったからなんです。
少し前まで起業家精神に溢れる「過去をぶっ壊せ」みたいな鼻息が荒い起業家たちが時代を塗り替えてきたんです。でも、それが新しい世代に変わってくると「力を合わせて一緒に成長していく」という協調型、コラボレーション型の起業家も増えてきています。大企業は歴史の中で培った社会的信用度やアセットなど、スタートアップがすぐには手に入らないものを持っています。スタートアップにイノベーションを起こしてもらい、大企業は社会的信用やアセットを補完するというような成功事例を一つひとつ創っていきたいです。「共創」によって社会や経済を活性化し、元気を取り戻せたらいいと思います。
__(石山)最後にシェアリングエコノミーを通じて何を実現したいですか?
生産者と生活者をアクティブにつなげていきたいです。例えば、クレジットカードって生産者と販売者をつないでいるじゃないですか。そんなクレジットカードみたいなビジネスが増えてくるといいですよね。お金じゃなくてプレゼントで「感謝」を示すのもいいですね。誰かからプレゼントをもらったから誰かにも渡すといったかたちで、分野を問わず積極的にシェアリングサービスを広げていきたいです。
__(上田)
社会が変わっていく中で、まだまだ多くの企業経営者が「シェア? いやいや……」ってなってしまう。そこがまだ払拭できないでいるんですよ。今回お話いただいた青井社長の内容を、しっかり発信していこうと思います!
ライター:登 彩さん