一般社団法人シェアリングエコノミー協会は、2022年11月30日よりビジョンである「Co-Socoiety-持続可能な共生社会-の実現」に向けて新たに6名にアドバイザーとして就任いただきました

本企画では、アドバイザーと理事幹事との対談を通じて、当協会が目指すビジョン「Co-Society-持続可能な共生社会」をどのようにステークホルダーとともに設計・実践しながら実現してくべきなのかをひも解き、発信していくダイアログになります。

第3弾となる今回は、社会変革推進財団(SIIF:Social Innovation and Investment Foundation) 工藤七子(くどうななこ)氏に、シェアリングエコノミー協会の代表理事の石山と、当協会理事の株式会社AsMama甲田代表がお話を伺いました。

 



工藤 七子

社会変革推進財団 常務理事

大学卒業後、日系大手総合商社勤務を経てアメリカの大学院で国際開発学の修士号を取得。大学院在学中、インパクト投資ファンドのパキスタン事務所でのインターンに参加。帰国した 2011 年より、日本財団へ入会し、日本ベンチャーフィランソロピー基金、ソーシャルインパクトボンド事業、GSG国内諮問委員会など様々なプロジェクトに携わる。2017年4月に日本財団からスピンアウトする形でSIIFを設立し常務理事に就任、インパクト投資や社会起業家支援など事業全般の企画・推進を統括。


 

__(石山)まずはじめに、今回協会のアドバイザーをお受けいただいたきっかけや思いを聞かせていただけますか。

 

__(工藤)

SIIF(社会変革推進財団)は2018年の設立以来、日本で社会課題解決のための投資資金を作るインパクト投資を行ってきましたが、人々の幸せと地球と社会の持続可能性を中心に置くと、投資だけが変わればいいわけではないという議論が2022年くらいから出てきたのです。これがきっかけで、経済活動全体を捉えてインパクト化していく「インパクトエコノミー」というのを社内で言い始めたのです。

所有の形態や経済の担い手同士を「さりげなくつなぐ」といったシェアリングエコノミーの要素がインパクトエコノミーのコンセプトに近いこともあり、シェアリングエコノミーという側面から見たインパクトはどのようなものか興味がありました。甲田さんとの関係性や、我々の投資先である株式会社アドレスの佐別当さんも関わられていたので、ご一緒できるといいなと思い、このたびお受けさせていただきました。

 

__(石山)

ありがとうございます。

甲田さん、工藤さんをご紹介していただいた背景などをお聞かせいただけますか。

 

__(甲田)

日本のソーシャルセクターには、株式会社やNPOだけでなく法人格を持たないようなところもあるのに、それぞれに合わせた経済的・社会的インパクトを出すための支援や助言ができる、アドバイザーになれる人は本当に少ないのです。

工藤さんは海外で学ばれてきたアカデミックな知見と、実践の両方を持ち合わせておられる希少な方なので、多様性を重視するシェアリングエコノミー協会に参画していただけると非常に心強いと思い、推薦いたしました。

 

__(石山)今回の対談ではCo-Socoietyというビジョンの中で、ソーシャルセクターとシェアリングエコノミーというのがどうひもづいていくのかという大きなテーマの中でお話をいただけたらなと思っています。2023年を踏まえて今の社会と経済の変化について、どう捉えていらっしゃいますか?

 

__(工藤)

「インパクト」という言葉もそうですが、社会や地球のことをもっと考えようという話が特に注目された年ですよね。特にインパクト投資やインパクトエコノミーなど、自分たちが立ち上げた頃に想像していたスピード感を凌駕して受け入れられてきています。

それは、裏を返せば営利側が課題を生み出している原因であり、その構造を変えられる非常に強力な担い手でもあるということです。大きな潮流として「社会課題解決」が本当に自分事になってきたという感覚ですね。

また、最近のSIIFでの頻出キーワードが「ソーシャルキャピタル」です。ヘルスケア・機会格差・地域活性化という3つのテーマからこれからの投資戦略の課題の探索をし始めたら、全部の領域で「ソーシャルキャピタル」がキーファクターとして出てきました。

例えば経済格差の是正を考えた時に、お金や仕事のあるなしやスキルなども大事ですが、それよりも人と人との関係性みたいなところでその後の人生が決まったり、大変な状況がひっくり返ったりします。この「他者との関係性=ソーシャルキャピタル」があらゆる社会課題の大元にあると思います。

 

__(甲田)

2023年はやっとコロナ禍が明けて、自分だけでなく、世界と日本、地方と都会など、さまざまな対比と連携を考える年になっているのではないでしょうか。

日本は過去最低の出生率になり、人口も経済も減少・低下の一途をたどる中、Co-Societyでなければ次の2030年代が生きていけないぐらいの感覚を私は持っています。

2030年までに予算を倍増して社会全体で子育てを支えなければいけないみたいなことが言われていますが、そうじゃないのです。

子育てだけでなく、2030年を迎えるまでの間に自治体と住民、企業と消費者、生活者同士が「Co-Society」という社会基盤を築けなければ、本当に取り返しのつかないところまでいってしまうのではないかと思っています。

ソーシャルセクターに関しても、コロナ以前は「非営利」という認識がすごく強かったですが、今はむしろ大企業ほどソーシャルインパクトを意識しながら経営しなければならなくなりました。ソーシャルセクターも、上場レベルのインパクトを目指すものから、完全ローカルで地域限定のインパクトを目指すものまで幅広くなるでしょう。今後は、いわゆる利益追求型ではない形のソーシャルインパクトというものが求められていくようになるのではないかと思っています。

 

__(石山)

本当は必要な他者との関係性の土壌が急速になくなってしまうような危機感を私は漠然と抱いているのですが、お二人はそのあたりどう感じておられますか。

 

__(甲田)

ソーシャルセクターの人は、生活や時間に余裕がある人と勘違いされている部分を感じることがあります。また、まして世界情勢が不安定な今みたいなときは、一般の人や企業でさえ「利己」が先に出てしまうこともある意味で仕方がない側面も感じます。

だからこそ一人ひとりが多様な社会参画の仕方によって、それぞれにとって適正なインセンティブが得られる「循環」のロールモデルを社会全体に見せていくことが大事だと思います。

プロフィット事業というとわかりやすい「利益」というリターンがありますが、ソーシャルセクターの事業においては提供者が得られるリターンは可視化できないものも多く、例えばその一つが社会関係資本等です。ソーシャルセクターに関わる人や事業者が、社会自体からリスペクトが得られたり、何らかの優遇制度などが整っていかないと、ソーシャルセクターで頑張る人たちが孤軍奮闘する一方で、社会からは「ソーシャルセクターの人が視座高く頑張っているね」と見られるようになってしまうんじゃないでしょうか。

また、ソーシャルセクターで一層求められていくのがコレクティブインパクトですよね。イベントや新サービスをリリースしたとき、誰かがファーストペンギンになってシェアを呼びかければ、相互作用によって経済的インパクトも社会的インパクトも大きくなっていくはずです。協会の価値や役割が今後こういうところでもっと増してきてほしいと思っています。

 

__(工藤)

前述の3つの領域でソーシャルキャピタルが出てきたのは、他者との関係性の希薄さやつながりの劣化というところに課題の大元があるということだと思います。

人付き合いより一人が気楽だと思う方もいるかもしれませんが、孤独や孤立が健康や寿命に悪影響を与えるというエビデンスがあり、人間は一人では生きていけないことは生物としての人間の根幹にあるんだと思います。

だからといって政策としての孤独孤立対策だけではなかなか変化は起こりにくいと思っていて「気づいたら繋がっていた」「関わってみたら何か楽しかった」というようなさりげなくソーシャルキャピタルを形成していくアプローチがすごく大事だと感じます。

あとは社会の価値観みたいなところでしょうか。たくさんお金を稼いだ人よりも他者と助け合える人が尊敬されるという価値観を、子どもたちの中にどう取り戻していけるかですよね。

 

__(石山)

気づいたらつながってるみたいなライトなつながりとしてあるのが、まさにCtoC(対面型シェアリング)、AsMama(アズママ)もそうですよね。

 

__(甲田)

AsMamaは「素敵なおせっかい」として、子育てや暮らしの支援がしたい方と、サポートして欲しい方たちが会う機会を各地で年間何百回もやりながら自社で開発するアプリ「子育てシェア」や自治体や企業と連携した共助特区を実現するアプリ「マイコミュ」を実装させていきました。

ただ日本の「孤独」は、子育て世帯は9割、子供たちは3人に1人、男性シニアは世界一であり、今後ますます増えていきます。だからこそ子育て世帯だけでなく、自治体と住民、企業と消費者といった、マルチのステークホルダーをどうつないでいくかということを全国でやっています。

また、同じ趣味やコミュニティの人達との関係性を深めていただきたくて、使っていない私物を手渡しベースで貸し借りするアプリとして2022年11月に「LocaPi(ロキャピ)」をリリースしました。今の時点でアプリががそれほど活発化していないのは、「まだつながらなくていい」「安く買って捨てればいい」といった旧来型の思考やカルチャーがひもづいているからだと感じています。

 

__(石山)ソーシャルセクターの可能性やこれからの役割についてはどう思われますか。

 

__(工藤)

物の貸し借りをきっかけに実はつながりを作っていくというビジネスは、ユーザーにとっての便利さや最終的なビジネスの規模とか成長スピードを犠牲にする面もあるかもしれない。それでもやるのが甲田さんが選ぶ獣道ですよね(笑)。

でもこれはユーザーのウォンツに応えるだけではなく、時間をかけて新しいインフラにしていくとかメンタルモデルを変えにいくみたいな事業者のあり方だと思うので、選択肢としてもっと広がるといいですよね。そういった事業に対してもう少し小さくてゆっくりなお金も流していきたいですね。

それから、インパクト投資とインパクトスタートアップでは全部の課題解決は絶対にできません。どう考えても非営利でないとやれないことがあるのは明言していいと思います。

例えば、すでに貧困状態の子どもたちにそこからどう脱却してもらうかといった、顕在化した課題で苦しんでいる人たちへの緊急的な対応を企業で行うことは難しいです。とても小規模な地域密着型NPOが、全国津々浦々でものすごく頑張っていると思うんですよ。

 

__(甲田)

資金や人材をうまく調達できる団体もありますが、ノウハウがないところやスタートアップのベンチャー企業は放置されたら資金がいつショートになるかわかりません。小さくても頑張っているセクターの人たちを孤軍奮闘させないように、法律も含めて企業や行政が連携していく制度や仕組みを整えていく必要が絶対ありますよね。

 

__(石山)

子ども食堂のような地域・市民型の共助コミュニティや任意団体などが活動していくためには、今後どういった支援のあり方が必要だと思われますか。

 

__(工藤)

同じ視点を持った人がつながって学び合って、仲間になれるか次第な気がします。

今、私は島根県雲南市に住んでいるのですが、島根県を拠点にしているCommunity Nurse Company(以下、コミュニティナース)代表の矢田さんと家が近いのです。コミュニティナースの威力はすごいんですよ。雲南の住民が集まって「あそこの○○さんがちょっとこうだわ~」「じゃちょっと行ってみるわ~」みたいな感じでおせっかい会議っていうのをやっているのです。

コミュニティナースのネットワークは全国に何千人といて、それぞれが生業を回しながら頑張っています。そこにはさまざまな学びの共有があり、共助やシェアの試みみたいなことが同じ視点を持つ人に伝播しているのです。

雲南だとコミュニティナースが「エコシステム」になっています。

例えば、障がい者のデイケアをやってる方や福祉施設の理事長さんも出入りしているので、「このテーマだったらあの人!」みたいなネットワークが共有され、何かのときにはすぐつながるといったシステムが各地域でできてくるといいですね。

 

__(甲田)

私たちも全国でコミュニティ作りを手がけていますが、先日行った箱根町は人口約7,000人に対して観光客が4,000万人ぐらい、働いている人たちも外から来たりする町です。観光業で働くお父さんお母さんたちが多いのです。土日に子どもが家でお留守番状態になるのをどうにかしようと、地域の人が中心になって、自らシェア・コンシェルジュに応募し、元気なシニアの人たちをどう巻き込むか、預かり場所や移動はどうしようかと作戦会議をして「お預かり会」を定着させようとしています。

メディアに取り上げてほしいのは、こういう成功事例なんです。

さらに、私たちAsMamaは地元共助を推進していますが、事業自体を全国に広げていることによって得られた人間関係資本は、地元を超えた防犯や防災、有事の時にも非常に有効で、コロナ禍でマスクが不足しているときでさえ、AsMamaの地域支援をする人たちがマスクがなくて活動が出来ないといえば、日本中のあちこちからマスクが集まってきたことがあるぐらいで、本当に困ったときに助け合える「循環」が自社全体のコミュニティでも生まれていることを実感しました。

こういうエコシステムを持つ団体や事業者同士をつなげていきを「コレクティブインパクト」として出していくのが、協会が担う役割としてはとても適してるんじゃないかなと思います。

 

__(工藤)

協会が主催されているイベント「シェアサミット」のようなところに名もなきおじいちゃんとか登壇してほしいですよね。地元のヒーローみたいな人いるじゃないですか(笑)。

 

__(石山)

業界の発信の仕方や巻き込み方、市民の方々が参加できるものを作るにはどうするかといった、たくさんのヒントを得ました。

 

__(甲田)

余談ですが、ソーシャルセクターの人たちは、目の前の人たちをサポートする社会課題解決と、活動資金を獲得する経済的な側面を両立するのに必死なんです。だから協会に関わっていただくという「余白」を作ってもらうためには、協会側がそのソーシャルセクターに対して「何が提供できるか」を明確にしておくことが必要だと思います。

 

__(工藤)

企業の研修みたいな連携ができるといいかもと思う反面、現場で手いっぱいだから無理という場合もありますよね。

日本っていまだに「NPOだからボランティアでしょ」と言われることがあるので、最近こうした非営利セクターに押しつけられるイメージを変えて年収を上げようといった取り組みがされていると聞いています。

欧米だとNPOでもビジネスセクターと同等の年収を払うほど気合を入れて、インパクト拡大のために理事がみんなでコミットすることもあります。本当に大事な仕事だという社会的合意があるからだと思うんですが、日本にはそれがまだありません。「非営利=貧乏でもがんばる」みたいなところを変えていかないといけないですよね。

 

__(石山)最後にシェアリングエコノミーが果たす役割と期待として、メッセージをお願いします。

 

__(工藤)

他者に関心と意識を向けて、仲間だと思う感覚が社会を維持していく一番のベースにあると思いますが、基本的なところが崩れ落ちている感覚を持っています。そこを社会批判するのではなく、協会の強みである「しなやかにさりげなく、時には楽しくやる」みたいな点を活かしてくださることを期待していますし、私も何かご一緒できたらいいなと思っています。

__(甲田)

ぜひ工藤さんのような方の知見を借りながら、経済支援を得て社会的インパクトを出したり、安定した予算獲得のための手段を見出したりと、ソーシャルセクターの人たちが定着した事業として自治体と運営できるように協会がつないでいけるといいですね。

ソーシャルシェアリングを提唱している私たちから、他者に対するリスペクトやサポートなどを大事にしていくカルチャー作りをしていきたいと思っています。

 

 

ライター:南 咲良 さん